あれから・・アスランはカガリと目すら合わさなくなった。
気になんてしてないのに・・そう伝えたくて、カガリはアスランに声を掛けようとしているのだが、どういう訳か捕まらない。
恋されるキューピット
「あいつ・・自分がゲイだって事・・気にしてるのかな・・・?」
真剣に考えながら帰宅する途中・・この間の公園を見つけ、カガリは一人でベンチに座る。
「怒ってたし・・、何かよく分からないこともされたし・・。」
自分だってれっきとした女の子だ。ああいう事になったのをそりゃ少しは気にしていた。
「第一・・ああいうのは恋人にしろよな・・。」
そう、何よりそれ。
キラという最愛の人が居ながらなんで・・と、思う。
まぁ血迷ったにしろ、あの出来事の後では話しかけにくいのも分かる。
でも。
「・・逃げること無いじゃないか・・。」
なんだか泣きたい気分にさせられていた。
そんな事を考えながら目を瞑る。・・今日の部活もハードだった・・。
夕日の中、カガリはいつの間にか寝入っていた。
あの日から・・カガリに会いたくなくて、キラの家にも行っていない。
だが・・子供達がいなくなる夕暮れになるとアスランは必ず、公園に足を運んでいた。
単に・・臆病なだけなのだ。自分は。
仲の良い友達というポジションから堕ちたくない。
けれど、他の男がカガリを攫うなんて許せない。
「・・・・・・・何・・やってるんだろう。俺・・。」
なのに、あの日の感触を忘れたくなくて毎日この公園に来ている事実。
俺は・・間違いなく、正真正銘の馬鹿だと思う。
そう暗く暗く考えて辿り着いた場所には先着が居るようだった。
ホームレスか・・・?と思ったのだが、街灯に照らされた足が細くて・・女の子のだと分かる。
「・・・・、カガリ?」
数歩、歩けば・・疑問は確信に変わった。
そして・・空の暗さと、時間を見る。
「こんな暗がりに・・・っ!!」
そう声に出してアスランは急いでカガリに近付いた。
「・・カガリッ!」
寝ているカガリを揺すると、「ぅん・・・?」と口を動かし・・また気持ちよさそうに寝息を立てる。
その可愛らしさに面食らい、いっそいつまでも見ていたい気分にさせられた。
だが・・そう言うわけにも行かないので、綺麗な唇にキスを落としてから・・体を揺する。
「・・---------、ん・・・?あす・・」
「まったく・・何やってるんだよ・・、こんな所で・・!」
見つけたのだが俺だったから良かったモノの・・変な男だったらどうするんだ?と問いただしたい気分だ。
そう・・怒った顔をしているのに、カガリは眠たそうにだがふにゃりと笑う。
「大丈夫・・だぞ?・・私、気に何かしてないぞ・・。」
「・・・。」
そう言いながら目を擦るカガリをアスランはじっと見ていた。
気にしていないのは・・有り難いのか、男として認識されていないのか?どう取ればいいのか分からない。
取りあえず・・分かるのは、今のままでは・・今までの関係でしかないと言うことだ。
「そういえば・・キラとは喧嘩してたのか?」
「・・喧嘩?」
「うん。」
してないよ、と首を振ると「そっか、良かった。」とカガリはまた笑う。
その笑顔を見て口が弛みそうになる自分は、もう重傷だ。
今しかない、そう気持ちが焦る。
「あの・・さ、カガリ。」
ちょっと深く息を吸い、何度も何度も練習した言葉をやっとの思いで出す。
「・・俺と・・付き合って・・ほしいんだ。」
何とか・・出た言葉、カガリの返事が恐いのか嫌に心臓の音がしていた。
カガリは・・またもや唖然・・としてしまって、目をそらしてしまう。
駄目・・なのだろうか?
やっぱり、彼氏が居るのかも知れない・・そうじゃなくても・・俺のことが嫌いかもしれないのに・・。
随分と勝算のない告白だ。
でも・・・言わずにはいられなかった。
「・・・おま・・え、さ。・・・恋人・・いるんじゃないのか・・?」
そう・・気まずそうに言われた言葉に、アスランは「居るわけないだろ。」と言ってしまう。
でもカガリはちょっと泣きそうになってベンチから立ち上がった。
「嘘だ!私ちゃんと聞いたんだぞ?!」
「・・何のことだ・・・?」
しらばくれるな!とカガリは言って綺麗な瞳に涙を溜めていた。
アスランは訳が分からないが、涙を拭おうと手を伸ばす。
「わ・・私、お前達のこと応援してたんだぞ・・ッ!なのに・・」
「・・お前達って・・俺と、誰だよ・・?」
いつの間にかそんな噂でもたっていたのだろうか?とアスランは真剣に考え、カガリに聞くとカガリは口ごもりながら衝撃的な事を口にした。
「・・お前と・・キラだよ!!」
「はぁ?!」
驚きすぎて、ぐうの音もでない。
俺と・・・・・キラ?!!
驚きすぎて固まっているとカガリは何を勘違いしたのか「大丈夫!誰にも他言しないぞ!」と自信満々に言ってくる。
ちょっと待ってくれ・・と、アスランはカガリの手を引いた。
「俺と・・キラ?あるわけないだろ!」
「隠すなよ!私、ちゃんと聞いたんだぞ?・・恥ずかしいのかもしれないけど・・私は気にしないから・・!」
「いつ?!何でそんな変な方向に・・・」
「私がお前達と一緒に行かなくなった前日だ!言ってただろ?"俺は君が好きだ"ってキラの部屋で・・・!」
「そんなの空耳に・・・・・っ・・!・・・あ・・・・・。」
そう言えば・・だ。
あの日は確か・・。
「ほらみろ!」
「違う、違うんだ!あれは・・」
「何だよ、上手く弁解してみろよな!」
腕を組んで挑むようなカガリに・・アスランは目をそらしながら、小さく溜息を付いて真実を言おうと決める。
「あれは・・その、練習で・・・。」
「練習?」
「ああ・・。」
キラが・・面白がって、金髪のカツラを買ってきたのが原因だった。
少し、遠くから見ればカガリに見えないこともない。
「ささ、練習してみて!」
「は?!」
「君のセリフがカガリに引かれないかチェックしてあげるんだって!」
そう言いながら明らかに笑うのを堪えているキラに、アスランは「しない!」とそっぽを向く。
「はは〜ん、僕遠目から見るとカガリに見えるから・・恥ずかしいんだ?どうするの〜僕なんかで恥ずかしがってちゃ一生付き合うなんて無理無理。」
馬鹿にされたように笑われ「からかうな!」と見るが、やっぱりカガリに似ていてアスランは恥ずかしくなってしまう。
だって・・もしも本当にカガリだったら・・部屋に二人きりという状況なんだ・・なんて考えてしまうから。
「ほーら。頑張って!」
「・・・っ。」
すぅっと息を吸い・・キラの目をじっと見て、セリフを考えるが・・・・・気の利いたようなのは浮かばず、取りあえず声に出す。
「・・・俺は・・君のこと、ずっと・・高校入ったときから好きで・・・・」
・・だから・・・・付き合って欲しい・・。
そこまで言うことが出来ずキラに「君・・。」と止められる。
「・・・顔、赤すぎだから。」
「え?」
ぱさりと外すとやっぱりキラで、アスランは体の熱が外に出ていくのを感じる。
「・・・もう、本番そんなに真っ赤になったらヘタレだって思われちゃうよ!」
そうくどくど説教をされたのをアスランは覚えていた。
「って訳で・・・キラと付き合うなんて事は・・。」
「・・・そうだったのか・・。」
誤解だったんだな。とカガリは少し申し訳なさそうに笑う。
変な誤解が解けて良かった・・と思いながらカガリを家まで送っていたのだが、最も大切なことを聞いていない。
俺の告白はどうなったんだ・・・?
家の前まで来て、「じゃあ!」と笑って行こうとするカガリの手首を掴んだ。
「・・・・?」
「・・返事・・は・・?」
そう言うとカガリは思いだしたように「・・あ。」と声に出す。
途端、顔がかぁっと赤くなったので、アスランまで釣られて赤くなった。
やば・・可愛い。
弛みそうになる口元を少し抑えてカガリを見ると、困っているのか恥ずかしがっているのか分からない彼女が居た。
キラとの事が勘違いだと発覚し、ホッとしていて・・大事なことを忘れていた。
あ、アスランが嫌だなんて事は全くない・・寧ろ何故自分を選んだのか聞きたいくらいなのだが・・・。
いや・・でも、付き合ったらこの前みたいなキスとか・・場合によってはそれ以上のこともしなきゃならないんだろ・・・?!
ちょっと気にしていたのは事実だが・・・・!
「・・・、駄目・・?」
「駄目じゃないッ!」
「じゃあ・・!」
「で・でも・・っ!」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
どっち?と、答えを待つアスランに、カガリは思いきって言う。
「アスランのことは・・好きだ・・けどな、ちょっと気になる程度で・・その、それでも・・みんなの中では一番なんだけど・・こんな中途半端な気持ちだから・・・。」
恋とか・・そういう目で見ていなかったわけでもない・・けれど、このまま付き合ったら失礼な気がする。
そう、素直に言うと・・アスランはクスリと笑う。
「いいよ、それで。」
「えぇ!」
あっさりと言い切ったアスランに、カガリはまた真っ赤になる。
え、え、と声を上げるカガリにアスランは近付いて言う。
「・・この間みたいなこと・・しないから。・・カガリが好きだって思ってくれるまで・・しない、から。」
アスランが・・・真っ赤になっていることに気が付き、カガリもその翡翠の瞳に吸い込まれるように魅入る。
「俺と・・付き合ってくれる・・・?」
自信が無さそうに・・言われた言葉に、頷く以外の選択肢は存在しなくて、
カガリは小さく首を縦に振った。