私は・・・、聞いてはならないものを・・・聞いてしまったのかもしれない・・・!!!
恋されるキューピット
それはある日の出来事。いつもと何ら変わらない・・秋の日の出来事だった。
「俺は・・君のこと、ずっと・・高校入ったときから好きで・・・・」
このセリフが、体育館の裏ならば・・私が聞くこともなかっただろうし、何て事ない学校風景の一部だったのだが・・。
ここはカガリの家・・もとい、ヒビキ家。しかも現場はキラの部屋。
「・・アスラン・・君・・。」
そう、相手は・・双子の弟キラである。
アスランからの衝撃告白を廊下で目の当たりにしたカガリは・・目が白黒して、結局・・キラからの返事を聞く前に自分の部屋に逃げ込んだ。
「あ、アスラン。そっちの趣味だったのか・・。」
確かに・・キラは化粧をすれば女の子に見えないこともない・・。
アスランも・・綺麗だけど。
絵になりすぎる二人に、カガリは「だからアスラン・・今まで女の子に告白されても興味なさそうだったのか・・。」と納得する。
そんな中でも自分とは仲が良くて、ちょっと気にしてたのが馬鹿みたいじゃないか。
そんな事を少し思いながらも、パチンと頬を叩く。
アスランとは高校からの仲だが・・、私はちゃんと応援するからな!と心で誓った。
「き・・キラ!おはよう!」
「ん〜おはよ、カガリ。」
妙に焦って見えるカガリに、キラは?を浮かべつつも・・いつものように朝食を取り学校へと向かう。
駅では・・毎日アスランと会い三人で学校へ行っていた。
「おはよう、カガリ、キラ。」
「おはよ、アスラン。」
「お・・おはよ!」
何だかアスランを直視できない・・・。くそ、いつも通りいつも通り!!そう自分に良い、いつものようにニッコリ笑う。
だが・・どこか不自然な笑顔に、キラとアスランは「どうかしたのか?」と聞いてくる。
「ど・どうもしてないぞ・・!私は・・っ・・えっと、その・・。」
も、もしも、だぞ?キラがOKしてたら・・・私、邪魔だよな?いや・・でも逆に駄目だったんなら・・いないと、二人微妙になっちゃうのか?
どうすれば良いんだ〜〜!とカガリは朝から頭をフル回転させるが、結局はキラとアスランの後ろにちょこんと付いていく。
「・・本当に・・どうしたんだ?カガリ・・」
「さぁ・・何かあったのかな・・?昨日までは普通だったよね・・?」
そう二人が考えている姿に気が付かないくらい、カガリの頭はオーバーヒートしていた。
「だ・・駄目だ・・ッ!私・・!」
二人の事が気になって気になって・・どうしよう!?誰にも相談できないじゃないか・・っ!
ぐるぐると考えていると、いつの間にか学校について・・アスランと同じクラスであるカガリはいつの間にか二人で歩いていた。
「・・・・、本当に・・どうした・・?」
「え?!え、あ・・、だから・・何でもないって!」
「・・・・・・・。」
あからさまに挙動不審なカガリに・・アスランは眉を顰める。
き、気に何かしてないぞ!だって・・私、アスランの友達だからな!!
そう心でまた思い、それを言えるはずもなく教室へ入り自分の席に着いた。
その日のカガリの午前中はボロボロだった。何の科目をやるにしても・・ボーっとして、大好きな体育さえらしくないミスをしそうになって、ハッとして走り出したのは良いものの、転んで内出血をおこしてしまった。
「・・・何やってるんだろう・・私・・・・。」
保健室で手当を受けていると、キラとアスラン・・それに仲良しのラクスが、保健室に来てくれる。
「・・らしくないじゃない?カガリ・・どうしたの?今日・・変だよ?」
「そんなこと・・ない。」
何も言いたくないように押し黙ったカガリに・・アスランの不快度指数は頂点に達していた。
俺達にも相談できないようなことなのか・・?!
そう・・高校に入って半年しか経っていないが、カガリは困ったときは何でも相談してくれた。
「キラとアスランは昼食を頂いていて下さいな。・・私はいつも通りカガリさんと此処で食べますわ。」
パッパと門前払いするようにラクスが言い放ち、何か考えがありそうなラクスにアスランとキラは同意しその場を去る。
残ったラクスとカガリはいつものように昼食を食べていた。
「私にならお話できるでしょうか?・・カガリさんがあの二人に言いたくないのであれば、絶対に言いませんし・・他言もいたしませんわ。」
ね?と優しく笑うラクスに・・カガリはぼそりと・・呟いてしまう。
「・・告・・白・・・・。」
だが・・そこまで言って・・カガリは話すのを止める。ラクスがそういうのを偏見するかしないかは別としてアスランは知られたくないんじゃないかと思ったのだ。
「・・告白・・ですの?」
「あ・いや・・・・その。」
「言いたくなければ・・・無理なさらないで下さいな。」
半熟の卵焼きを食べながら、ラクスは優しく笑ってくれる。
カガリも・・その笑顔に安心し、いつも通りに振る舞えるようになった。
「キラ・・!ちょっと。」
ご飯を食べ終え・・アスランがキラの所から離れたのを確認してから、カガリはキラに近寄る。
「どうしたの?」と首を傾げたキラに、カガリは思いきって声を上げた。
「アスランのこと・・キラ、好きだよな?」
キラが愛情か・・友情かは知らないが、いつも通り接していると言うことは・・おそらく上手くいったのだろうとカガリは思った。
だけど・・一応確かめなければと、カガリは来たのだ。
「うん?好きだよ。」
そう答えたキラに、カガリは「そうか。」と答え、教室に戻る。
そうして・・その日から、カガリは行きも帰りもアスランとキラとは共にしなくなってしまった。
「・・・・どうしてだと思う・・?アスラン。」
「・・俺が知りたい・・・。」
突然・・カガリの様子が可笑しくなった。
そして・・その日を境に、カガリは自分たちと行動しなくなった。
キラはまだ良い・・姉弟だから。でも・・俺はどうなる?
もとから学校でも、少し喋る程度。行き帰りだけが・・唯一の大きな接点だったのに・・。
今は・・・まるで他人だ。
「キラ・・その日、何か言われたか・・・?」
「さぁ・・朝からちょっと変だったってだけで・・他は・・。」
そう言って・・また二人で考えてから、キラは「あ。」と声を出す。
「・・そういえば、"アスランのこと好きか?"って聞かれたかも。」
「・・・え?」
それは・・一体・・?
そう考えてから・・アスランは一つの納得できる理論を考えついてしまった。
だが・・本当にそうだとしたら・・きっと自分は立ち直れない。
「・・・・・カガリに・・俺、嫌われてるのか・・・?」
「え?そんな事全然ないとおもうけど・・?」
「でもそう考えると納得できるじゃないか・・?だって・・カガリはキラに"アスランのこと好きか?"って聞いたんだろ?カガリはいやだったんじゃないか?俺と一緒に学校に行ったりするのが・・。だから、やめにしたくて・・キラに聞いて・・でもキラは"嫌じゃないよ。"って答えたんだろ?」
「そ・・そうだけど・・。」
「・・だったら・・、カガリは俺と行動したくなくて・・次の日から一緒に来ない・・そう考えるのが・・一番しっくりくる。」
そう・・自分で言いながら凹む。
しっくりとくるから・・・尚更。
「でも・・カガリ、アスランのこと嫌がってるなんて・・一度も・・!」
「・・・・・・。」
そう完全に沈みきったアスランに、キラはあれこれ考え・・ラクスに電話を掛けた。
『あぁ・・あの日でしたら・・何やら"告白・・。"って一言仰ってくださいましたけど・・・。それ以上は知りませんわ。』
「こ、・・告白?!!!」
『ええ・・・。』
「嘘・・でしょ・・?」
そう・・キラはアスランをチラリと見る。"告白"だなんて・・まさか。
今の会話が聞こえたであろうアスランは、目を見開いてキラを見ていた。
そして・・アスランは黙って、キラの部屋から出て・・ヒビキ家を後にする。
告白・・・。
カガリが・・誰かに?
誰かが・・カガリに・・・・?
最悪のパターンがまだ存在していた・・。この頃一緒にいないのは・・男が出来たからなのか・・・?
だとしたら・・・。
そこにある電柱にもたれ掛かって蹲っていたい・・。
虚ろになるアスランの・・目の前に、今話題の人が目の前から歩いてくる。
カガリは何もなかったように笑い・・「アスラン!」と声を掛けていた。
「今帰りか?キラと一緒にいたんだな!仲良しだもんな!」
「・・・・・。」
何も反応しないアスランに・・カガリは首を傾げる。
もしかして・・喧嘩か!?別れちゃったとかだったら・・・・・・・私は随分無神経なことを言ったのかもしれない!!
あわあわとなるつつも・・真っ直ぐ見据えるアスランの目に捕らわれる。
そのまま・・手を引かれ、傍にある公園のベンチに腰掛けていた。
もう・・七時だ。外も暗いし・・街灯がポツリと光るだけ。
「・・・・。」
「・・・・・。」
一向に話し出そうとしないアスラン・・やっぱり・・喧嘩か・・別れか・・・?
そんな事に思いを馳せていると・・アスランの重い口がやっと開く。
「・・この・・頃、どうしたんだ?朝とか・・居ないだろ?」
「え?」
やっと開かれた口からはカガリが想像してない言葉で・・ちょっと焦ってから「部活の朝練があるだけだぞ?」と笑う。
「・・・・嘘だろ?」
「う・・嘘じゃない!」
「・・カガリも知ってると思うけど・・体育館はバスケ部とバレー部が毎朝交互に使う。・・毎日なんて有り得ない。」
「あ・・。」
失言だった。とカガリは口を押さえる。
見え見えすぎる嘘で、アスランは溜息を付いた。
「俺に何か・・言いたいことあるのか?・・それとも彼氏でも出来た?」
冷めたように聞いてくるアスランが、怒って居るんだと悟った。
もしかして・・、私、告白聞いたのばれてるのか?!
よくよく考えれば・・足音だって扉の閉まる音だって・・聞こえるか。
しかも次の日からのあの態度じゃ・・引かれてるとか、避けられてるとか・・・感じても仕方ない。
「あ・・アスランのこと、好きだぞ?全然・・お前のせいとかじゃない!」
「・・じゃあ・・彼氏出来たんだ。」
「・・・?」
"好き"を・・軽々しく使わないで欲しい。
カガリの"好き"は・・友情の好きなんだろ?
そんなの・・。
「そ・・そんな私のことよりさ、お前・・好きな奴居るんだろ?どうなんだよ?」
「・・・どうして、知ってるんだ?」
「・・え?いや・・風の噂で・・。誰とか知らないけど・・!」
何とか話をはぐらかすと、アスランは大きく息を吸った。
落ち着けようとして吸った息は、その意味を成さず体から抜けていく。
「よかったら・・手伝うぞ?大変だもんな、色々。そういうのって・・」
そして、その言葉を聞いて・・アスランが感じたのは虚しさと静かな怒りだった。
無神経すぎると、
思ったのだ。
「わぁっ!」
バタンとカガリの体がベンチの底へと倒れた。
カガリはビックリして目をパチパチさせ、急に暗くなった視界に驚くばかりで・・。
押し倒されているなんて気が付けないで。
そして・・それを悟ったのはフワリとした感触が唇に当たってからだった。
「?!」
そう声に出ない声で抵抗するが・・無理で、隙間から入ったヌルヌルした何かがカガリの口の中を撫でていた。
ディープキスぐらい知っているが、コレが何なのかカガリには理解できない。
大きな手が胸に触れていることも、カガリには一度に色々なことが起こって分からなかった。
「ふぁ・・ん・・。」
糸を引いて離れてから・・カガリは胸を上下させ、やっと自分の状況を理解する。
アスランに・・キスされた、しかも・・心なしか胸も揉まれた気が・・・。
思わず目が点になると、アスランの体がまた降りてくる。
その後抵抗することも出来ず・・二十分ほど、キスと・・体を触られる行為を続けられた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
家まで・・無言でアスランに手を引かれ・・着いて。
未だ唖然とするカガリを一度見据えてから、アスランは何も言わず出ていく。
そして・・カガリは玄関で崩れ落ちた。
突然、恐く感じたのだ。
「・・・・最低だ・・・俺。」
唇を押さえて、空いている手を握りしめた。
最低だ・・と、思っているのに・・こんなに嬉しい・・・・それが、更に自分のえげつなさを感じさせる。
唇や舌・・掌にもカガリの感触が生々と残っていて・・。
アスランのものも、膨張していた。
でも・・最後までは出来ないと思った。
してしまったら・・本当に、嫌われてしまうと思ったから。
「・・でも・・もう・・・・・・・・・嫌われちゃってるよな・・・・・。」
そう・・アスランは目を掌で押さえた。
何が起こったんだ・・・???
そう・・カガリは改めて自分の身の起きたことや、アスランの事を考える。
そういや・・アスラン・・凹んでたよな・・?・・キラと・・喧嘩した・・・?
「あぁ・・っ!!!」
ポンッと手を叩いた。
アスランとキラは喧嘩をしたのだ。そして・・キラと似ている私にあって・・動転してて・・あんな間違った行為を・・!!
そう考えれば辻褄が・・!
早く仲直りさせなければ・・とカガリはキラの部屋まで行き、ノックもせずに扉を開けた。
「キラ・・っ!お前、アスランと何かあったんだろ?!」
「え?・・何かあったのは・・カガリじゃないの・・?」
そう言われ・・先ほどの事を思い出したが、この際それは関係ない。
「何か有るわけあるか?!さっき・・アスランと会って・・様子がおかしかったんだぞ!!」
「・・・・、カガリのせいだと思うけど・・?」
そう至って冷静に切り返すキラに、カガリはバンッと机を叩く。
「私は関係ないだろ??」
「・・関係有るよ。っていうか原因だよ。」
はぁっと溜息を付いたキラに、カガリは不振な目を向ける。
私が何をしたって言うんだ?!
「誰かと付き合うなら・・せめて僕には言ってくれても・・」
「はぁ・・?居ないぞ、そんなの。」
「じゃあ何でこの頃僕等を避けるの?」
「避けてなんか・・!」
「避けてるよ!!」
優しいキラが珍しく大声を上げた。
カガリは少しビクッとし・・「何のことだよ・・?」と小さく聞き返す。
「何のこと?巫山戯ないでよ。」
そう・・意気消沈と言う程まで静まりかえった部屋で・・カガリは「それれは・・」と声に出す。
「・・キラとアスランの・・邪魔になりたくなくて・・。」
「?」
「ほ、ほら。お前等仲良しだから・・私が一緒にいると、したい話しも出来ないんじゃないかなぁって・・!」
そう言葉を濁しながら言うと、キラは「何訳分かんないこと言ってるの・・・?」と不思議そうに聞いてくる。
「僕たちはカガリと一緒に学校行きたいよ?アスランだって・・!」
「隠さなくて良いぞキラ。私、この間聞いちゃったんだ。」
「何を・・??」
「いや・・口に出しては言いにくいっていうか・・うん。」
そう言って去っていったカガリに、自分とアスランは何かカガリが傷つくようなことを言ったか必死で考える。
僕はカガリの悪口なんて言わないし・・・・・、アスランだって言うはずがない。
・・だって、アスランは・・・カガリのことがずっと好きなんだから。
僕とアスランは中学の頃塾が一緒だった。
その塾は大人数でやる塾で、カガリは個人塾が良いと言ったから・・たまたま違う塾に行ったんだけど・・。
そこでアスランと会って直ぐ仲良くなった。
「キラって・・シスコンだろ?」
「え?!」
「いっつも口開けば、カガリ・カガリって、姉のこと話してるぞ?」
大人びた表情で笑うアスランはまるで中学生には見えなかったけど、僕が言うカガリの話が好きみたいだった。
女の子とは言い難い、どこか強情で、でも優しくて。いっつも元気で、分け隔てない態度。なのに怒り出すと誰にも手が付けられない。
そして・・いつからか、アスランは「キラの姉に会いたい。」と言うようになっていた。
その念願が叶った・・高校入学式。
アスランがカガリを目の前にして真っ赤になって固まったのを、キラは今でも覚えていた。
あの日から、アスランの片思いは始まったのである。
「・・・あ、アスラン?君・・カガリに何か・・」
『・・・・・。』
電話越しのアスランは無言で、大きな溜息を付いてから・・乾いた声で『ごめん・・』と声に出した。
一体何がゴメンなのか分からないキラはアスランに問う。
「・・何・・か、思い当たるの・・?」
『・・・・カガリに・・キス・・した。』
「は?!」
『抵抗しなかったけど・・驚いてて・・・その・・。』
体に触ったとまでは言えず、口ごもる。
「な、何でそんな大事件今になって・・・」
『・・?今日の話しだが・・?』
今日・・・、じゃあ・・・・・・・違う・か。
そう冷静に考えてみるものの・・改めてキラは「キス?!」と驚く。
「な・な・な、何やってるのこのスケベアスラン!!」
『だ・・、仕方ないだろ?!好きな女の子が他の男に取られるのを・・指をくわえて見てられるような男じゃないんだ俺は!』
「よく言うよ、今までずぅっとへこたれて好きとも言えなかった癖に!!」
『それは・・!そうだが、でも・・もう終わったことだ!もう・・キスする前には戻れないんだ・・!』
そう・・アスランが気にしていたのはそこだった。
嫌われていないか・・、いや嫌われてはいるだろう。だが・・せめて、カガリが泣いていなければいいと思う。
いつも笑って太陽みたいなカガリに・・雲って欲しくない。
「・・やっぱり・・喧嘩だ!」
たまたま廊下を歩いていたカガリは、電話で言い争う声を聞いてそう感じていた。