「へ?」
「ともかく・・おねがいな!!!」
唐突なカガリさんからのお願い。
私はただ目をパチパチとさせた。
入れ替え大作戦★
カガリさんの決死のお願いの翌日、ラクスは変わらぬ格好で屋外へと出る。
まさか、だ。初デートの相手が、カガリさんの気になって「いた」方とは。
気になっていた・・・というのにもまた訳があって。
私がこうやって行くのにも訳がある。
親友からのお願いでは、断るわけに行かないのだ。
「気になっていた方が・・お友達、でしたの?良かったではないですか。」
「違うんだ!違うんだ!!」
道に迷った子犬のように泣きそうなカガリさんに、ラクスは首を傾げる。
あるサイトで知り合って意気投合。メールまでするようになった相手が知り合いだったならば、そんないいことはないではないか。
「私が、小学校低学年・・こっちに転校するまでの間だ散々からかったり、喧嘩したり、泣かせたりしてた奴だったんだよ!」
「へ?」
カガリさんがやんちゃなのは高校に入ってからもだし、中学でさえ一部の男子から恐れられていたカガリさんを考えれば小学校の頃はもっとやんちゃだった事は容易に想像できた。
「絶対、絶対あいつ、私のこと恨んでる!私も、あいつに・・アスランに申し訳ないことしたって、思う・・だから・・。」
「ならば会って謝れれば・・・」
「無理だっ!だってあいつ私のこと好意持ってるみたいで・・私もだけど・・・!」
「・・・。」
「・・・・・・幻滅されたくないんだ。」
終いには涙まで流しだしたカガリさんに、ラクスは優しく頷く。
「ごめん、ラクスなら・・話すの巧いだろうから上手に"次はまたメールで"ってかわせると思って・・。会うのに顔知りたいって言われて・・相手から写真送られて・・それで知り合いだって分かって・・咄嗟にラクスの写真、送っちゃったんだ・・・・。」
白状したように言うカガリに、ラクスはクスリと笑う。
「わかりましたわ。カガリさんの為ですもの!」
「ラクスっ!!」
ガバリっと抱き付かれ、ラクスは微笑みながらカガリの髪を撫でた。
相手はカガリさんを「ルージュ」と呼び、
カガリさんは相手を「イージス」と読んでいたらしい。
待ち合わせ場所に着くと、既に写メでみた人物が立っていた。
写真で見るより遙かに整った顔をしていてラクスはビックリする。
「あなたが、イージスさんですの?」
「ええ・・、あなたがルージュさん?」
パタンと本を閉じる姿は正にジーニアス、と言ったところだ。
カガリさんから聞いていた通りの印象の人だと思った。
「あぁ、やっぱりアスランだ・・・。」
物陰に隠れながら、カガリは溜息を付く。
もしもの事があったとき、ラクスを助けられるようにとカガリは付いてきていた。(ラクスも承知している。)
なんで折角意気投合した相手がアスランなんだよ!!!
忌まわしい、というか恥ずかしい、自分の過去の所行が頭を過ぎる。
「あぁああああっ!!」
思わず発狂しかけるカガリだが、頑張って口を塞いでその場をやり過ごした。
「以外だな、言葉からは凄く活発そうな印象だったんだけど・・。」
「あら?こうみえて以外と活発ですのよ?」
クスクスと笑いやり過ごす。誰がどう考えても、ラクスとカガリが似てるなんて思わないだろう。
「そうなんだ?」
「ええ、人を外見で判断しては駄目ですわ。」
「そうですか・・、では、カガリさん。行きましょうか?」
「はい!アスランさん。」
そう言って歩き出す。
行く場所は動物園。
「あら、クマですわ!」
きゃっきゃと騒ぐラクスに、アスランは微笑みながら「今日は親友の話、しないんですね?」と言う。
「はい?」
「いつも楽しそうに親友の話、してくれるじゃないですか。」
「あ、ええ。」
そう言ってラクスはカガリとの話をする。
ラクスは自分の頭をフルに使い、どちらの視点でも捉えられる話し方をした。
「カガリさんはいつも、親友の話をするとき一際嬉しそうにしますよね。」
「ええ、大切な人ですもの。」
そう笑うと、相手も笑う。
だが洞察力に長けたラクスから見ると、それは一歩線を引いた笑顔。
当然あって間もない相手に気を許せないのは当然か、とラクスは思い直した。
ラクスが可憐に話をかわしていて、良かったとカガリは溜息を付く。
自分は自分で動物園を楽しもうと近くにいるレッサーパンダを眺める。
「くぅ〜・・可愛すぎるっ!!」
そう一人事を言っていると、「そうだね。」と誰かが返した。
「・・・??」
「カガリでしょ?」
柔らかく笑う顔。
「キラ!」
「久しぶり!カガリ!」
「へぇ、キラも一人で?」
「うん!カガリも一人で動物園なんて凄く奇遇だねー。」
園内にあるカフェテラスで二人は飲む。ついでに離れた席にラクスとアスランもいる。
「いやぁ・・色々あって。」
そう言って苦笑しながらカガリはタピオカマンゴージュースを頬張る。
「んー美味しい!!」
「相変わらずだなぁカガリは。」
キラはクスクスと笑い、カガリの飲み物に負けずとも劣らずの甘さがあるミルクカフェモカを飲んでいた。
「楽しかったですね。」
「ええ、楽しかったですね。」
質素なブラックコーヒーとアールグレイのストレートティーを飲みながら、二人は笑う。
意味もなく笑っていると・・突然、相手から低い声が漏れた。
「さて、で。本当のカガリは今日は来てないんでしょうか?」
「・・・・。あら?」
引きつりかけた笑顔を元に戻した自分は流石だとして、ラクスはしらばくれるかどうか数秒考えていた。
「彼女、俺のことイージスと呼んでいましたし・・・、俺もカガリをルージュと呼んでいましたからね。」
しまった、最初が失言だったか!とラクスは思う。
「それに、カガリは甘党です。」
爽やかに笑いつつ、どこか冷ややかな雰囲気を出す相手。
しらばっくれるのは無理と踏み、ラクスも冷ややかに笑う。
「申し訳ありませんわ、ですがカガリが私の顔で送りましたでしょう?行きたくないと仰っていたので、親友として変わっただけですわ。」
「あなたを責めるつもりはありませんよ。ただ、彼女に会いたいなぁと・・。」
「嫌だと仰っている相手に無理強いするのは無粋ですわよ?」
ピシャッと二人の間に雷が落ちたようになる。
相手も微笑みながら怒っているのが良く分かった。
「親友のデートの邪魔?」
「そ、ずっとネットで知り合った相手とメールしてて。その子、あんまりにも性格がカガリにそっくりで。親友にカガリ取られると思うとしゃくでしゃくで・・。」
ずずずっと啜りながらキラは笑う。
「でも、今日付けてって顔見たら凄くお嬢様な子で・・僕の取り越し苦労だったみたい。」
何処か片耳が痛いカガリは「そっか・・はは。」と乾いて笑う。
「でもそれはそれでしゃくなんだよねぇ。あんな可愛い子があんなのの隣りに立つなんて・・!」
どうやらキラと親友の友情は友好的かつ攻撃的らしい。
「すぐそこにいるんだけどね。」
「え?!!」
キラは笑いながら「おーい」と声を掛ける。
キラの親友・・というか、藍色の髪で、緑の・・・・。
「・・・っカガリ!!!!!」
前よりずっと低くなった声で呼ばれ、胸が鳴ったのを無視してカガリは走り出す。
アスランも同時に走り出していた。
「来るなっ!来るなったらくるなぁぁぁぁぁああああ!!!!」
「君が逃げるから追うんだろ?!」
「お前が追うから逃げるんだろっ!!!」
「俺が止まったら止まるのか?!」
「止まるわけないだろ?!!逃げてるんだからっ!!」
「じゃあ駄目じゃないか!」
走っているカガリの腕に急に負荷と温もりが掛かった。
足を止めざる終えなくなり、アスランも息を切らせながらもカガリの腕を放さない。
「やっぱりカガリだったんだ・・。」
「・・・・・、」
「・・・、俺だって知って嫌だった?」
「・・・・っ・・。」
「カガリ・・?」
「・・・っだって!」
振り返ったカガリは、涙いっぱい瞳に溜めて堪えようとして零れていた。
「だって、私、お前に酷いことした記憶しかない・・・!」
「・・うん、」
「叩いたし、殴ったし、馬鹿にしたし・・眼鏡割ったし・・!」
「うん。」
「会って・・会って、"コイツか"って、思われたくなかったんだよ!!!!」
泣きながらすべて言い終えたカガリに、アスランは優しく笑う。
「・・まさか、俺はカガリに会いたかった。」
「・・・・?」
「カガリ、気が付いてなかったの?」
「・・・何にだよ。」
余裕すぎるアスランに、若干むかつきを感じながらカガリは答える。
「カガリの昔のあれは・・好きな女の子に、男の子がする冷やかしと一緒だったよ?」
「・・・?私は女だぞ?」
いまいち意味の分かっていないカガリは、そう答える。
アスランはもう一度フワリと笑った。
「とりあえず、俺達両想いってこと。」
「へ?」
その一言に、カガリは真っ赤になり、アスランを思いっきり突き飛ばしていた。
「結局カガリだったの?!」
「あら、あなたは・・・?」
「あ、はじめまして。カガリの従兄弟のキラです。」
「まぁ!カガリの親友のラクスですわ。あなたとは仲良くなれそうですわ!」
「僕も同感!・・・って、早くカガリをアスランの魔の手から守らなきゃ・・・!」
「私もお手伝いいたしますわ!」