私は馬鹿だと思う。
フレイが騙されて・・あんな事になったのに、
アレックスはそう言う"女を弄ぶ"人間に他ならないのに。
どうして、
いい人かもしれないなんて、思って・・恋してしまったんだろうか。
フェイク・ラブ 後章
カガリが・・心身共に傷つけられたっていうなら、その分の慰謝料も追加して払うよ。
----------それで良いだろう?
・・・・いい訳、無いだろう。
そう言い返す気力もないほどくたくたに疲れ果て、互いの体液にまみれたベットに取り残される。
アイツは、これからも来るつもりらしい。
それだけは確かで、カガリはまた大粒の涙を零した。
何度抱いても満たされない。
カガリならば満たされるはずだったものが、何も満たされない。
「・・くそっ・・!」
泣いている顔ばかりが浮かぶ。
嫌だ嫌だと叫んで、自分を拒否し続けるカガリの顔が・・・浮かぶ。
「・・・っ。」
好きなのに。
こんなに・・・・!!!
「-------なーんか、さ。お前恐いぞ?・・そんなに屈辱だったのか〜、アスハ嬢に依頼途中拒否されたのが。」
「・・・・・・・・。」
「まさか、アスハ嬢に恋したとか・・・?」
「・・・・・・・・・。」
アスランはその日纏めた資料を全てディアッカに押しつけ、コートを着て外に出る。
本当ならばカガリの所に行きたいが、残念なことに今日はミーアとの仕事があるのだ。
・・・カガリが居ないこの仕事に興味なんか無い・・、ディアッカと同じ所に回して貰おうか?
そんな事をぼんやり考えていた。
「アレックス〜!」
相変わらずお気楽そうな声が聞こえ、アスランは不機嫌だった表情を偽りの笑顔に取り替える。
「なぁ、ミーア・・君は俺の何処が好き?」
「え?」
突然の質問にミーアははにかみながら「全部。」と答える。
「全部って・・例えば・・?」
「そうねぇ・・顔も好みだし・・性格も素敵だと思うわ。それに知的だし・・」
「・・性格も?」
「えぇ、誠実そうで・・ミーアはそういうアレックスが大好きよ。」
「・・男の誠実なんて・・嘘だな。」
「え?」
何処かの三つ星レストランに向かっている足取りに反してアスランの声は重い。
「だってそうだろう・・?ミーア、君はセックス中の俺が誠実だって・・思う?」
「それは・・微妙、だけど。」
「・・そうだろう?」
・・・・・・・誠実なんて、嘘だ。
優しさだって、セックスの最中じゃ何処かへ消え失せる。
・・・やっぱり・・。
「体の相性ってそれなりに、大切だよな・・・?」
性格が、いくら合わなくたって体は違う。
そう、だから・・・・どんなに嫌っていてもカガリは・・・。
「・・う〜ん・・ミーアは気持ちが殆どだと思うけどなぁ・・・。」
「----・・そう。」
そんなのは嘘だ。
そう心の中で言い聞かせるように思った。
レストランで食べながら・・ミーアはいつもと様子が違うアスランに少し戸惑いながら食を進める。
そしてまたいつものようにホテルに入った。
「ねぇ、アスラン・・私ね。アレックスにならいくら貢いでも良いって本気で思ってるの。」
ミーアが・・このようなことを喋るのは凄く珍しい。
アスランはカガリのことでムシャクシャしていて、さっさとやることをやって帰りたかった。
「お金でアレックスの気持ちが・・ミーアに向くって思ったこと無いの・・・、けど、けどね・・」
「ミーアは・・それでも、幸せなの。」
君と俺はよく似ているのかもしれない。
だが・・そんな、自分を鏡にしたような相手に沸いたのは同情ではなくて
憎悪。
「・・・へぇ・・だから体も金も差し出すのか。」
「・・・うん。」
「・・安い女だな・・・・・・・。」
「・・っ・・そうだけど、ミーアは・・!」
「同情して貰えるとでも思ったのか?馬鹿だな・・するわけないだろ・・。」
金蔓に。
「あれっく・・・」
「ホント・・馬鹿だ。」
堪えるように笑って・・驚愕したミーアを睨む。
「・・抱いてやるよ?ちゃんと、それが君の望みだろう・・・?」
貰っている金ぶんの働きはするさ・・と言わんばかり抱き寄せて、アスランはどうしようもない苛立ちをミーアにぶつける。
だが・・あくまで客、丁重に扱うことは忘れなかった。
カガリも、俺にこうしてくれればいい。
罵る以上の愛欲を・・人間誰しも持つ性欲をぶつける相手にしてほしい。
それ以上でもそれ以下でもない。
それで構わないから・・・・・・・・・・・俺に、与えてくれないか?
その日アスランは逝くことなく、起きあがり・・ミーアの髪を撫でた。
「・・・・・・・契約の更新、するか・・?・・俺はもう来るつもりはないが・・」
その言葉にミーアは力無く首を振り否定した。
「そう。」
撫でる手を止め、服を着る。
「・・・---君を・・愛してくれる人と、上手くいくことを願ってる。」
これが、彼女のためだと思った。
それ以上に・・自分をこんなにも愛してくれる女性に・・答えることが出来ない自分は傍にいるべきではないと、感じた。
それに、
自分に余りに似ている彼女を・・・・見ているのが辛かった。
ちゃんと言わなきゃ駄目だって思った。
このままずるずるとこんな関係が続くくらいなら、ハッキリと言わなければ。
フレイが前に調べた御陰で、アレックスの勤める会社は知っていた。
表向きは普通の会社。綺麗なオフィスのインフォメーションセンターにカガリは訪ねる。
「アレックス・ディノっていう社員に繋いで欲しいんだけど・・。」
そう頼むと少ししてから、
「・・こちらの会社にはそのような社員は居ませんが・・・。」
そう言われ、偽名だったかとカガリは舌を鳴らす。
つくづく賢いヤツだな。
「そうか、ありがとう。」
そう言って・・出ていこうとすると、「あれ?」と声を掛けられる。
「・・アスハ嬢?」
「・・・は?」
知らない男・・・・金髪で浅黒い顔の男だった。
「遂にアイツに復讐-----って感じ?」
「・・アレックスのこと、知ってるんだな。」
オフィスに入っている喫茶店でコーヒーを頂きながらカガリはディアッカと言った男と話していた。
どうやらアレックスの知り合いらしい。聞く限りフレイのことも知ってそうだ。
「でも復讐なんて毛頭ない。・・ただ私からアイツの手を引いて欲しいだけなんだ。」
その切なそうな顔を見て・・ディアッカはピンとくる。
「・・・あれ?もしかしてカガリちゃんアイツのこと好きなの?」
じゃあアスランが好きになったのは別の女って事なのか・・・?
いっつも大事なところは何一つ教えないアスランより、ディアッカは目の前に居るカガリの言葉の方が信じるに足りる気がしていた。
「・・そう・・なんだろうな。こんなに傷ついてるって事は・・・・。」
「そっかー、アイツも罪な男だねぇ。」
「好きだって、気持ち・・知ってるから・・つけ込んで・・・・・、アイツは・・お金儲かって良いのかもしれないけど・・でも・・っ」
喫茶店で泣き出しそうな相手にディアッカはビックリする。
自分では役不足だと思い、急いで携帯をとりだした。
「おい、アスラン。お前今すぐ喫茶店来いっ!いいな、これ命令だからな!」
そう言って・・五分後に来たアスランは大きく目を見開いていた。
「お前、女の子本気にさせるのはいいけどよ・・もっと上手く相手傷つけないようにやらねぇと、駄目だろ?」
そう耳打ちされ、小さい声で何のことだと聞き返す。
「そりゃねぇだろ、こんな可愛い子ちゃんに悲痛な泣き方させやがって。」
自分のケツくらい自分で拭け。と残され、涙目を擦るカガリとその場に取り残される。
勤務時間の御陰か今は掃除のおばさんくらいしか周りにいないので社内では噂にならずに済みそうだと冷静な頭でアスランは思った。
「・・お前アスランって言うんだな。」
泣きやんだカガリはインターホンを押したとき同様毅然とした態度に戻る。
「・・何しに来たんだ?」
「決まってるだろ、お前との意味不明な約束事ちゃんと取り消しに来たんだよ。」
破られたこの間の紙を渡され、アスランはカガリを見る。
「もう二度と、私の前に現れないでくれ。・・約束して欲しい。」
切実そうに言われた願いに、アスランは腹をくくる。
駄目元なら言ってしまえと、自暴自棄になっていたのかもしれない。
「好きな女性を抱きたい。お金で君が納得しなくても・・・・・俺、諦めるつもり・・ない、から。」
「・・・・・?」
彼の言葉に、カガリは首を傾げる。何を言いたいんだコイツは。
そう思う心・・・たが、それと一緒に今まで欠片も感じなかった希望が見えた気がして、カガリの心はドクンと跳ねる。
「・・な、何言ってるのか分からない・・、お前は私の・・アスハの情報が欲しいだけ・・だろ。」
微かに感じた希望をかき消すように、カガリは声を張り上げる。
騙されては駄目なんだ、と自分の心が挫けないように励ましながら。
「最初は・・そうだったけど・・・、今は・・!」
「嘘吐きに何言われても・・私は信じない。」
ああ、何で涙が溢れるんだろう・・。
「カガリ・・俺は・・本当に君のことが・・!」
駄目だって、分かってるのに。
「好きな人に・・っ!金で抱かれる女の気持ちなんてわかんないくせに・・っ!!!」
駄目だ。涙が溢れる。
ボロボロと泣きながら、カガリはアスランを罵声した。
お前みたいな人間大嫌いだ、と
相手のことを金蔓としか思わない
人の心を微塵も理解せずに踏み込むお前が
本当に嫌いだと。
「・・分からなかったんだ・・、でももう分かる。」
「・・・・っ・・。」
そういって、近付いてくるアスランから遠ざかる事も出来ず抱きしめられる。
カガリは硬直したように目を丸く開いたまま、動けなかった。
「・・嘘付いてばっかりで・・ごめん。・・・・最初から・・俺が、抱きたくて・・」
「・・え・・?」
自分の評価を下げるしか出来ないが、せめてついていた嘘を全て吐き出そうとアスランは素直に言う。
「・・気になって、仕方なくて・・。君が酔ってるのを良いことに襲ったんだ----。」
カガリはこれ以上無いほど目を開いて、アスランの顔を見上げた。
いつひっぱたかれるかとアスランはどこか冷静な頭で考える。
でもその程度の制裁は受けるつもりだった。自分はもっともっと酷いことをしたのだから。
「・・何で・・もっと早くいわないんだよ・・っ!」
「・・嫌われるようなこと・・言えないだろ・・。」
「酷いこと・・いっぱいしたし・・言ったじゃないか・・っ!!」
そっちの方がよっぽど嫌う・・。そう言われ、俺は馬鹿だと改めて思う。
でも・・
「・・・・離れて行かれるより、嫌われても触れられる方が良かったんだ・・。」
しゅんとして言うアスランにカガリは疑うことを止めたくなったが・・
あの行為や酷い言葉を思い出すたびに、信じたくなくなってしまう。
けれど・・今目の前にいるアスランが・・嘘を付いているとは思えなくて
「私・・だって、アスランのこと気になってた・・・・でも・・今更信用出来ない・・。」
それが正直な気持ち。
「でも・・本当なら・・一緒にいたい・・・。」
これも、正直な気持ちなんだ。
そう告げると・・アスランの顔はとても嬉しそうに弛んでいた。
だが・・直ぐに真剣な顔になり「ごめん」と言う。
「・・カガリが俺を・・本当に信じられるよう・・努力する。好きだから。」
まるで宝物を扱うようにアスランはカガリの髪を撫で、清掃員のおばさん達の黄色い声を無視し、唇を奪う。
カガリは真っ赤になってアスランを睨んだがその顔はどこか嬉しそうだ。
「お、お前なんかしらんっ!!」
周りの目線に絶えきれず言うと、アスランはクスリと笑い「送るよ。」と言う。
「・・・仕事は・・」
「大丈夫、さっきのヤツが何とかしてくれるさ。」
それに・・その顔じゃ帰れないだろう?と言われ、カガリはムスッとしたが嬉しかった。
アスランにもそれが伝わってしまったのか、優しく微笑んでくれた。