情報株式会社--ザフト。・・・裏名ホストクラブ、ザフト。忍びのザフトなんて呼ばれたりもしている。
何で会社なのにホストかといえば、ホストに扮して情報を提供して貰ったり収集したりするから。
忍びは・・テレビ局や警備員などに扮して情報を集める奴もいるからだ。
まぁ表向きは給料が格別に高い株式会社。
そこに勤める俺、アスラン・ザラには最近変わった客が出来た。
フェイク・ラブ 序章
何でも出来る・・それが幼いときからの自分の肩書き。
事実勉強もスポーツも・・並はずれて出来ていた。
だからこそ、他人と距離が常に出来ていたのかもしれない。
「今日も・・お前?」
少し首を傾げた少女・・、歳はアスランと同じなのだが・・童顔のせいかそう言いたくなる。
「ああ、嫌なら・・別の人を・・・・。」
「違う、嫌じゃない。」
キュッと腕を掴む仕草は、まるで好きと言っているようだ・・だが、そんな訳はない。
彼女は俺を他の女性のようにセックスをする相手とも見ていないからだ。
ただ、添い寝して今日会ったことを話すだけ。
彼女・・カガリ・ユラ・アスハは大企業の令嬢。のわりには口が悪いが、慣れてしまえばそれが彼女らしさなんだと分かる。
「今日はな・・、」
歳は互いに22、なのにカガリの口から話される日常はアスランのものとはかけ離れていた。
とても自分とは違う綺麗な世界を見ているのだとアスランは思った。
そんな彼女が何故、このホストに手を伸ばしたのか。
アスランには計りかねていた。
「アスハ嬢からは有力な情報無し!かぁ〜。アスランらしくねぇなぁ。」
「・・一晩居る分、金額だけなら相当稼がせて貰ってるけどな。」
「そーだな、でもよ。やっぱ情報は大切だろ?この前聞き出せたアルスター家のは驚きだったね。」
「・・あぁ・・、まさか・・ジブリール氏の目当てだったとはな。」
今前にいるヤツは・・大学の先輩だった、ディアッカ・エルスマン。
この会社もコイツに教えてもらった・・顔が良くて容量が飛び抜けて良いからと言う理由で。
「アレはこの会社出来て初かもしれないビックマネー企画だったな!まぁアルスター家は破綻したみただけどよ。」
「・・裏筋でこの会社の事も有名になっただろ?・・手を組んでおかなかければ不味い・・ってな。」
「そうだな〜、まぁ今回の成功の半割以上はアスラン!お前の手柄だ!!社長もお前のこと凄く気にってたぜ?」
「・・恐縮だな。」
「でも、有名になった分気を付けろよ〜。アスルター家のフレイ嬢なんか地の底から這い上がってでもお前のこと刺しに来そうだぜ。」
「まさか。」
まぁ相手は死んだわけではないから・・街で待ちかまえられたら刺されるかもな。とアスランは笑う。
「女はこえーよ、俺等が思ってる以上に。」
「・・肝に銘じておく。」
サラリと手を振り・・アスランは黒いコートを羽織る。
「あれ?またこれから外回り?色男は指名が多くて辛いねぇ〜。」
「今日はキャンベル嬢だ・・、俺のことホントの彼氏にしたいらしい。」
「・・可哀想な子猫ちゃんだなぁ。金払ってるのは本人だろうに。」
「金で愛が買えると思ってるんだろ。」
そう言って出ていこうとするとディアッカはクスクス笑う。
「よく言うぜー、本気で人好きになったこともないお前が。」
「・・・、行ってくる。」
そう小さく言って・・アスランは会社から出ていく。
今年の冬は一段と寒いな・・そんな事をぼんやりと思っていた。
彼女たちは・・当然自らが話したことが情報として売られているなんて露にもしらないだろう。
赤の他人にほいほいと重要なことを喋ってしまうのもどうかと思う・・と言うのがアスランの勝手な思いだった。
「アレックス〜こっち!こっち!」
ファーが付いた皮のコートを羽織ったミーアが自分を見つけるなり飛び上がり腕にギュッとミーアのを絡めた。
豊満な胸が腕に当たるのは男としてはとてもラッキーだったりする。
アスランは別にこの仕事を嫌ってはいない(面倒だとは思っている)男ならば誰だって性欲はあるし、品行方正と歌われた自分にも人並みにしっかり備わっているからだ。
女に好かれて嫌だと思う人間は居ないだろう?
過去からずっと好かれ続けていたのに、何故か・・・この人が良いと思えた試しがない。
そう、自分は女ならば"誰でも良い"のだと思う。
「今日はヴェザリウスホテルでディナーしましょ?・・ふふ、この間アレックスに教えてもらった場所の一つ。ミーアとっても気に入っちゃったの。」
「そう、良かった。あそこのコースは美味しいって評判なんだ。・・メインは?」
「ロブスターよ、アレックスお肉あんまり好きじゃなさそうなんだもん。」
「そう・・嬉しいな。」
優しく笑いかけると、ミーアはポッと頬を染めて顔を背ける。
分かりやすい。
世の男ならこれを可愛いと言うのだろう。
当たり前のようにフルコースを食べ、そのままホテルに連れ込み情熱的に犯す。
好きな人に強引に求められるというのは少し嬉しいらしい。
・・アスランは目を覚まし先にシャワーを浴びる。ミーアと会ってから5時間。
アスランは基本的に時間で料金を取るため、今日はこれくらいで良いか・・と心の何処かで思う。
「アレックス・・もういっちゃうの・・・?」
「・・・ごめんね?」
そう言って優しく髪を撫でると、ミーアは背を向けてしまう。泣いているのだろうか?そう思うと申し訳ない気もしたが所詮は商売。
情けは無用なのかもしれない。
相変わらず寒すぎる風に吹かれながらタクシーに乗り、アスランはぼんやりと思う。
俺は・・いつか誰かを愛せる日が来るのだろうか・・・。
そんな自分には罰当たりなことをアスランは考えていた。
「アレックス・・、今日なんか難しいこと考えてるだろ?」
「え?」
いつものように・・アスハ嬢の扉を開けた瞬間、カガリに眉間の皺をつつかれる。
おでこを押さえると、カガリはクスクスと笑う。
「いっつも私が話してるからな!たまには聞いてやるぞ?」
まるで中学生が悩み事を友達に話すかのように聞かれ、アスランは少し困る。
ホスト・・というものは、客の話を聞く職業だからだ。
金を貰ってやってきているのに・・それではおかしい気がする。
「何だよ、私には話せないのか。」
「・・悩んで何て・・ないよ。」
「ふぅん、別に言いたくないならいいぞ。」
言いたくなったら・・な?と微笑まれ、アスランも曖昧に微笑み返した。
今日のカガリは・・珍しく、アスランに体をくっつけていた。
単に寒いからと言う理由でも無さそうなので、アスランは体を望まれているのかと思いカガリの腰のラインをなぞりお尻を触る。
だが・・その腕をカガリはやんわりと外し、指と指を絡ませた。
「・・私、そういうのキライなんだ。」
そう言われ、指を外される。
外された指は、アスランの髪を優しく撫でた。
今までも何人もの人に、このようなことをされたがそれは諸事情の最中、もしくはそれに入る直前。
だから・・それなりに誘ういやらしさや妖艶さを持っての事だった。
「よしよし。」
まるで・・母が子に言うような口調で言われ、アスランは多少驚く。
いやらしさも、妖艶さも全くない。何かを心配するような淋しそうな目で・・カガリは言うのだ。
その手があんまりにも優しくて、アスランは何故か泣きたくなる。
「・・おいで、お前・・悲しそうだ。」
暖かい胸に招かれて、アスランは目を閉じていた。
いつの間にか朝になる。
朝まで・・いたのは初めてだな・・・。
隣で気持ちよさそうに眠るカガリに、アスランは微笑んでいた。
「・・・。」
黙って・・頬に近付いて、キスを落とす。
そして、唇にも黙ってキスをする。
カガリのことをもっと知りたい。
・・・・・・・・この気持ちは、
恋って言うんだろうか。