酷い雨だった。
梅雨・・と言うのに相応しい雨。大雨洪水警報と出した天気予報のごとくの雨。
歩道はともかく・・車道は優に10pを越す水かさだ。
「最悪だ・・。」
そう、溜息を付いた俺に更なる悲劇が襲いかかるのはその数秒後だった。
1 出会いの梅雨
ビシャッ!!!!!!!!!!!!!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
最悪なことに、車道に車が通りその勢いで飛んできた水がアスランの右半身を濡らした。
もとから雨と風で傘は意味を成していなかったかもしれないが、横からなんて飛んだ不意打ちである。
しかも泥水ときたものだ、アスランの白いワイシャツは見るも無惨な薄茶色へと姿を変えていた。
これから、電車を二本も乗り継いで帰るのに・・っ!!!
「・・・最悪だ・・・。」
そう噛み締めるように言った直後だった。
「げ・・っ・・、凄く汚れちゃってるな・・。」
自分に言われたのか?と頭を上げると、傘も差さず自分より少し年上の女性・・大学生だろうか?その人が近寄ってくる。
だが近付いてみると、童顔だなとアスランは思ってしまった。
・・・そして綺麗な人だとも思ったが。
「悪い・・、今通ったの私なんだ。・・・何か凄く水掛かったみたいだから、脇に車止めてきて・・。ホント・・酷いな。」
貴方のせいですか。とアスランは眉を顰める。
だが・・次の瞬間、アスランは手を引かれていた。
「家、車で5分もしないところにあるから・・、来い!!」
「え?!」
反論しようと口を開けたが、相手は構わないようで自分を車の助手席へと乗せ運転を始める。
「ちょ・・待って下さいよ、急に・・っ」
「馬鹿、喋るな!!運転し始めたのつい最近なんだから、気紛れるようなことしたら事故るからなッ!!」
その時はどうしてくれるんだ?!・・そう理不尽な・・彼女からすれば正当な理由を押しつけられ、アスランはまた何も言えなくなってしまう。
話しかけようとしても、彼女は本当に運転しだして日が浅いらしく真剣そのもので・・・アスランも結局何も言えず、少しばかり高級そうなマンションに入り、エレベーターで七階を目指していた。
「あの・・。」
そう改めて声を出し、相手を見ると相手も相当の濡れ具合で元からピッチリしていたであろうワイシャツが体のラインをかたどっていた。
そのラインを見つめてしまい慌てて目をそらす。
「あ・・ごめん、勢いで連れてきたけど・・予定とかあっただろう。」
「えぇ・・まぁ。」
特にないが、此処まで強引にされると悪態を付けたくなってしまう。
すると相手は申し訳なさそうな顔をしてから、アスランのワイシャツに目をやる。
「でも・・この格好で、街中は辛いだろ?」
「・・・。はい。」
素直にそう言うと、相手は「服、乾かして行ってくれよ。な?」と笑顔で言われてしまっては、アスランは何も言えず黙る。
一見すると誘拐とも見れる行為なのだが、この相手は余りにもその気がないのでアスランも安心しきっていた。
部屋にはいると、女性の匂いが漂いアスランはそこに来て初めてまずい・・と思う。
女性と一つの部屋で二りっきりと言うことが男子である自分の欲を加速させる。
それに今までの有り得ないシチュエーションだけに、何かに期待してしまう。
何を馬鹿みたいなことをっ!とアスランは必死にその空想をかき消し、ソファーへと座る。
「何座ってるんだよ、お前こっち!」
「え、はい。」
呼ばれて突っ込まれた場所はバスルームで・・どうやらシャワーを浴びろと言うことらしい。
確かに雨で冷えているが・・・っ!!
さっき考えた空想・・もとい妄想に近くなりつつある現状にアスランは戸惑いを覚えながらも従ってしまった。
女物のシャンプー、リンス・・トリートメントに・・・。
見知らぬ人・・しかも女性のバスルームを使うと言うだけでアスランは気恥ずかしくて居たたまれない。
出来るだけ早く上がり、用意されていた女性にしては大きめのTシャツ、そしてハーフパンツを来てリビングへと戻る。
「お、早いな。今ワイシャツ脱水中だから、もう少ししたら乾燥に移るぞ。」
「えっと・・。」
「あ、私か?カガリだ。紅茶淹れたから飲んでろよ、私もダッシュでシャワー浴びてくるからさ。」
「はい・・・って・・え!?」
シャワーを浴びてくる?!
その言葉に真っ赤になると、相手はにやりと笑いアスランに一歩ずつ近付いてきた。
その目や、歩き方が、大人の女性・・艶めかしさがあり、アスランの胸が大きく跳ねる。
「・・なぁに、考えてるんだ・・・?」
口調は相変わらず男っぽいのに、声のトーンがさっきと違う。
少し、ねだるような、そして強要させるような・・なのに童顔を生かした上目使い。
「・・ぁ・・。。。」
ゴクンとアスランの咽が鳴る。
自分の先ほどした想像より、遙かに妖艶な姿だ。
その顔が近付いてきて、アスランは反射的に静かに瞼を落とす。
だが・・いつまでたっても、唇に柔らかい感触が当たることはなかった。
「・・・綺麗な顔・・だな。」
代わりに、そんな言葉が投げられアスランは目を開ける。
「ッ・・//////」
「あ、お前思いっきり期待しただろ?可愛いヤツめ。でもそんな安い女じゃないぞ。大体そんなコトしたら私は本当に誘拐犯か強姦魔になるだろ?」
でもお前の真っ赤になって、期待したときの目とかは溜まらなく良かったけどな!とよく分からない感想を付けられ、アスランが反抗する間もなく手をヒラリと振り、バスルームへと行ってしまった。
その直後、アスランはガタンと脱力し・・・真っ赤になった頬と心臓を静める。
「・・・ッ!!!」
男としてのプライドが壊滅させられた瞬間だ。
第一、自分は何事も品行方正にこなし生徒会長も務めて(もう高三だからやめたが)、眉目秀麗と唱われているのに。
「・・くそ・・っ。」
年上とは言え女性に翻弄されて、自ら期待したあげく裏切られても、何だか悪い気がしないのだ。
俺はいつからマゾヒストになったのだろうか?
自分の不甲斐なさに地団駄を踏んでいると間もなくして女性・・カガリが、自分と似たような格好・・だが、明らかにズボンが短く、血行のいい足がほぼ全快に見える格好で歩いてきた。しかも、何となくだが彼女は今ブラジャーを着けていない。
「・・・・・ッ貴方は・・もっと、女性と言うことに気に掛けてください・・・!!!」
「お前、私の弟みたいなこと言うな〜。平気だって減るもんじゃないだろ。」
「そういう問題じゃあ・・・っ!!」
「そういえば、お前の名前は?」
「こっちの話を・・」
「何だよ、話なんてお前の名前聞いた後でも出来るだろ?」
「・・・アスラン、です。・・・ちょ、何出してるんですか!!!!!」
「何って、ブラだよ、ブラジャー!!何だよ、ちゃんとあっちの部屋でつけるぞ。」
「当たり前だっ!!!」
思わず敬語も忘れ真っ赤になって言うと、相手はクスリと笑い隣の部屋に行きちゃんとしたパンツスタイルで帰ってくる。
だが胸元が大きく開いたTシャツはアスラン的にはストライクゾーン過ぎて嫌だった。
この人は・・カガリは、身体のラインが出る服を着るべきではない。
身体の良さが前面に出すぎて困ってしまう。
「お前さ・・正直だな。スッゴイ胸見てるぞ・・・?」
「ち、違ッ!!!!!違いますッ!!」
頑張って否定するも、男と言う性・・どうしようもない時もあるのだ。
アスランが真っ赤になって眼を逸らすと、相手が自分の一点に集中している事に気が付きアスランもバッとその場所を見る。
自分の股間・・が、通常よりも膨れていてアスランは思わずしゃがみ込んでしまう。
「・・っ・・・・・!」
思わず睨むと、相手は少し困った顔をしてから同じ目線になるようにしゃがみ小さく「ごめん」と謝った。
「からかいすぎちゃったな・・、ごめんな?」
「・・・・・・・。」
「そんな風にさせた私が言える義理じゃないが、健全な証拠だぞ?良いじゃないか。」
またよく分からないフォローをされ、アスランはまだ頬を染めたまま相手を見ると、相手は優しく笑ってくれる。
姉とも母とも取れるような笑い方に、アスランは何もいえなくて黙ってソファーに座りお茶を飲み干した。
「ワイシャツ、乾いたみたいだな。最寄り駅まで送るな。」
「・・はい。」
そういわれて・・車で二十分ほど走り最寄り駅で降ろされる。
軽く、「じゃあな。」と手を振られ・・小型の車は自分の前から姿を消した。
相変わらずの雨。
「・・・・・・・帰るか。」
だが、何故か最悪だとは思わなくなっていた。