父と・・話すのは、嫌いじゃない、だが・・・話せば必ず不愉快になる。
不愉快・・と、言うより・・・焦燥感やらなんやらで・・・・生きていると言うことが、分からなくなってしまうから。
リムジンに乗って・・・・何の会話もせず着いたのは、何処かの豪華な家、晩餐会でもあるのだろうか?
全く馬鹿らしい、中世ヨーロッパでもあるまいし・・・・・いい加減うんざりだ。
「服だ。」
「はい」
でも・・父には逆らわないでいる、理由は・・無い。
ただ・・生みの親としての感謝の心がまだ残っているのだろうと感じていた。
それに父は、もう滅多なことでは自分を呼び出さなくなっているし・・・これは母の御陰だろうか。
---------こんな風に、前向きに・・物事を捕らえられるようになったのは、やっぱり・・・・カガリの御陰だろう。
そう、考えた瞬間、何だか顔が熱くなって・・備え付けの飲み物を飲み干し、置いてある立派な服に手を通す。
幼い頃は・・大変だったと、正直に感じながら・・だが、その御陰で・・カガリとキラに出会えたのかと思うと、そう父も嫌いになれない。
-------だが・・そう、本当に大変だった。
小学生の時、
父は・・滅多に帰ってこなくて、母は毎日のように父の写真を眺めていたのをアスランは知っている。
それほど・・母は父が好きなのだろうと、-------理解していた。
けど・・
「おかえりなさい、父上」
「・・。」
父は・・俺を、見てはくれない。
母は・・・・・気遣うように俺を見て、困ったように微笑んでくれる。
父上は・・・・俺のことが嫌いなのだと、ハッキリと感じていた。
好きで在れば、見てくれる。---------抱き上げてくれるはずだ。
アスランの記憶に・・父に、抱き上げられたものはない。
そのくせ・・剣道、そろばん・・・・学習塾はレベルが低くて直ぐ辞めたが・・他にも色々、中学受験だってさせられた。
まぁ・・高校は・・・・難関校入試の日あえてサボって・・・・滑り止めに合格。当然父は怒った。
中学時代も・・面倒で、アスランは何となく学校に通っていて・・・
だが--------学校は・・嫌いだった。
誰とも・・話したくない。きっとこれは自分の性分だと、決めつけていた。
今なら分かる
---------つまらない・・自分を、他人には知られたくなかった。
だから距離を置いていた。
勉強も、運動も・・・顔だって人並み以上であることは何となく自覚していたし・・何より、勉強と運動に関しては負けず嫌いだった。
おかげで・・誰とも話さなくても、虐められることなく・・・ただ、女子の黄色い声が少し五月蝿い程度にしか感じていなかったし・・・。
でも・・
中学のある時、なんで・・生きているんだろうと、疑問が浮かんだ。
誰とも話さない、関わらない、俺は、、、此処にいる意義があるのだろうか。
そう思ったとき、答えは無・・だったのだ。
だから・・・せめて、自分に何かないだろうかと探す。
学力?運動・・・。違う。
---------もっと違うものが・・・・・・・・、
欲しかった。
そうして・・思い悩んで、行き着いた先は・・・・身体で、生きているならば血が出るはずだと、カッターを握りしめていた。
手首を・・選んだのは、死んでも良いと思ったからなのかもしれない。
死だって・・迎えられれば、今まで生きていた証となる。
筋肉質で・・少し浮き上がった血管にアスランは自分でカッターを通した。
赤かった。
-----------よかった、生きている。
けど、それで得られた安心感は・・そう長続きせず
・・・結局、欲しいものがこんな血ではないことに・・気が付いたのは高校に入ってからだった。
「カガリ・・!ねぇ、今日のバスケ・・」
「アスハ〜英語教えろよ〜」
「ちょっと、みんなカガリは一人なんだからねッ!!労って!!」
「キラ君可愛い〜〜〜!」
「いいよなーヒビキ家は・・・俺、ヒビキの兄弟に生まれたかったよ」
「えーカガリは親友に欲しいタイプ!」
いつも・・クラスの中心にいる双子。
端の席から・・見ていて、何で・・あんなに、楽しそうなんだろうと疑問を持つ。
---------俺は何も楽しくない。
なのに・・なんで、あの人達の周りだけ・・・・楽しそうなんだろう。
そう考えて・・・・直ぐに、答えが出てきた。
-------・・そう言う人間なんだ。あの二人は。
俺とは・・正反対の人間、だから・・・あんなに毎日が楽しそうなんだ。
けど、数学の証明で言うなれば・・何だか、その回答は違う。
使う・・・・定理を、間違ったような違和感。
少し・・・・・考えたが、それを止める、----他人を考えるほど・・俺は余裕なんて無い。
そう思って・・・ピッキングで開けた化学室に入り、勝手にガスバーナーと・・・鉄の先端の丸い棒を取る。
根性焼きに・・填ったのは、リスカを始めてから程なくしてだった。
痕が・・治る様、意志とは関係なく・・・自分が生き物であることを教えてくれる。
だから、治っては焼き、治っては・・・・・それを繰り返していた。
そして、運命の出会いが訪れる。
フッと・・・考え事から戻り、父と共に・・その晩餐会の会場に入った。
心ここにあらず・・とは、正にこのことだろう。
--------いるはずのない、君を、こんなにも捜してしまう。
「アスラン」
分けて貰った・・・・・希望。
人としての、存在感。
いつの間にか出来た傷が・・治って・・いくのが、ハッキリと自覚できる。