第十九話:わざと長引かせた風邪



風邪を引いた。

--------------好都合だったのかもしれない。

この三日間、カガリは感じられるだけ全ての自己嫌悪を負っていた。
守るという言葉を盾に、アスランを傷つけ・・そして・・・。
エゴイスト?
違う。

私は・・純粋に、アスランに傷ついて欲しくなかった。

--------出口の見えないトンネルでさまよっているような気分になる。

もう・・終わりだ、こんなの。

明日には熱も・・喉の腫れも全て完璧に治まってしまう。

この・・答えのない問題も、現実を見れば自ずとなにか解るだろう。








「・・キラ、カガリは?」

「うーん・・まだ、でも・・明日には出てこられるよ。」

「・・ありがとう。」

昨日もそう言った。そして今日もカガリは来ない。
-------俺に会いたくない?
「そうそう、昨日・・イザークとミリィとディアッカがお見舞いに来たよ。アスランも来ればいいのに・・。」
「・・・・・・・・・・・俺は・・」
いい。
「・・何それ、カガリの顔が見たくないって言うの?」
「・・そんなハズないだろう・・。」

見ていたいさ、でも・・どんな顔で逢えばいいのか解らない。
俺が・・


「・・実は僕、イザーク達から話聞いたんだよね。」

「?」

「--------来なよ、今日。」


大丈夫だから。
そうキラに肩を叩かれ、アスランは頭に?を飛ばした。
ともかく・・逢ったら謝ろう、話はそれからだ。
キラは大丈夫だと言っていたが・・もしかしたら、カガリは俺の顔を見たくないほど嫌っているかもしれない。
暗い方向に物事を考えて・・埒があかないことにようやく気が付いたときには、もうキラとカガリの家の中だった。
俺が怖じ気づく暇も与えず、キラは俺の手を引きカガリの部屋をノックする。

「カガリっ・・お見舞い!アスランだよ!」

「キラ・・っ・・」

止めてくれと心から思った。
心の準備というものがあるし・・それよりなにより、カガリが・・
キィッと開いたドアの中にパジャマで居る人物と目が合い・・・・・お互い固まってしまう。
「じゃ、僕はコレで。」
「ま・・」
待ってくれと・・言いかけたが、口を閉じる。
そして改めて琥珀色の目と向き合っていた。






動揺した翡翠の瞳に・・カガリは心を痛ませる。
そんな顔・・してほしくない、---------------・・ごめんな。
私は守るとばかり心にして、行動でお前を傷つけて・・・・・こんなんじゃ、何の意味もない。
ギィッと音を立ててベットから降りてアスランの前に立ち・・服の裾を掴んでいた。
なんて・・言葉をかければ良いんだろう。

---ごめんなさい?

違う・・・。
「・・・・ゴメン。」
「・・え?」
見上げると・・泣きそうになったアスランの顔があって・・そのまま抱きしめられた。
ごめん、ごめんと耳元で言われて・・・そして最後に一言呟かれる。

「離れていかないで・・。」

行くはずないのに・・・。

そしてカガリもアスランに優しく抱きついて・・・・事を説明しようと思う。
「・・ごめん・・・・私は馬鹿だ。」
そう一言行ってから・・カガリは、封筒と取り出しアスランに見せる。

「?」

「開けて見ろ。」

ぱさっと・・落ちた紙を拾い上げて、アスランは信じられないものを見る思いになっていた。
女の子の字で・・「二股女」と書かれた紙、そして写真。
そう唖然としている間にカガリは押入から色々なものが出す。
破られた教科書、裂かれた上履き。


「・・これ・・は?」

「・・・・・・・・・女の子からの嫌がらせ。」

「・・何で俺に・・っ!!」


相談しなかった?


「・・それに・・下着も盗まれた。--------女の子が下着なんて盗むか?」
哀しそうに微笑んだカガリに・・つい最近学校を追い出された教師の顔が浮かぶ。
共犯・・ならば・・・・・・・その女子達は何故?カガリは性格もいい・・誰からも・・疎まれたり・・。
「・・その女達は何だって・・・・・・君に・・こんな・・。」
「それは・・・」



アスランが、もてるからだ。








「は?」




「私は・・アスランが好きな子から疎まれて・・虐められた。」


「そんな・・-------・・あるはずないだろ?大体・・俺のことを好きな女の子なんてそう・・」

「沢山居るんだよ!!お前が気付いてないだけで・・・」



だから・・



---------私は。







「・・じゃ・・あ、俺の------------せいで・・君が虐められたのか?」

未だ信じられないと言った口調のアスランに、カガリは頷いた。
「・・だから・・お前には言わなかった、ミリィに相談して・・そしたらディアッカとイザークに・・」
俺のせいじゃないか。

---------苦しんでる・・カガリに、




"・・カガリは・・そういう女だったのか。"







・・・--------最悪だ、


最低だ。




「私は・・・お前を、傷つけたくなかったんだ。けど・・結果として・・傷つけた。----ごめんな、アスランは何も悪くないのに・・」

悪くないわけないじゃないか。
気が付かなかった。

あんなに守ると誓ったのに・・・俺は・・・・

"--------アスランは、思ってくれると・・解ってくれると思ってた!!!!!!!!"



俺を・・想っている君を泣かせて・・・・・・・・・・

君に・・今、謝らせて。



「・・俺が悪い・・-------・・ごめんカガリ・・・・・何も・・気が付かなくて・・」

そんなことしか言えない。

「違う・・私が気付いて欲しくなくて・・隠していたんだ、気が付かなくて・・当然だ。」



---------------違うだろ?

俺が・・・あまりにも頼りないから、だから・・言えなかったんだろ?






-------頼れなかったんだ。





俺が不甲斐ないから、こんなにも・・崩れやすいから。







「ごめん・・カガリ。」


後ろ向きでゴメン。

だけど・・これからは・・・。



「・・・言って、・・・守るから。」



前向きに頑張るから、もう・・・・馬鹿みたいに背負ったりしないから・・・。

俺で・・よければ、本当に・・一生守り抜く。


全力で・・・・・


ギュッとカガリを抱きしめて、カガリの背中を優しくさするのに・・震えているのはアスランで、

自分がどれだけカガリに心配されていたんだと想うと・・本当に、なさけない。













「・・愛してる。だから-----守るから・・傍に・・」
誰よりも、イザークよりも・・兄のキラよりももっとずっと・・
「ずっと・・・一緒にいよう・・。」
そう言い終わって・・自然と涙は止まる。---------君が好きだ。だから・・。
前向きになる。
もう・・後ろ向きにばかり考えていた頃とは違うんだから。


「・・うん・・。」


はにかんだ・・カガリに、アスランは微笑んで・・・ちゅっと触れるだけのキスをした。





そしてそのまま優しくベットに寝かされて・・アスランは髪を撫でてくれる。

--------なんだか・・少し、格好良くなった気がした。

そう思いアスランを見上げると、何も解らないようにアスランは頭の上に?を飛ばす。
でもそれから悠然と微笑んだアスランに・・カガリの心臓が激しく鳴った。


「?----どうかしたのか?・・熱あるんじゃないか・・顔が赤い。」

「ちが・・違うっ!!」

「・・風邪ってお多福か?」

「そうじゃなくて・・っ」

「じゃあ何だ?」


うぅ・・となったが・・むしろ素直に言ってやろうと、カガリは声に出して言ってしまう。




「・・アスランの・・笑顔が良かったんだよ!!!!」

「それと・・カガリが赤くなることに・・なに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

途中まで言って・・アスランは口をパクパク動かし、カガリも真っ赤になって布団に潜った。

そしてその状態が暫く続いてから・・アスランはカガリが思っても見ないことを口にする。



「・・・ありがとう・・でも、俺はカガリと居るとき・・ほとんどそうだよ?」

「っ・・な、何言って・・」

「・・本当に・・カガリが笑ってくれるときいつもドキドキする。」

「嘘だっ・・」


「・・嘘の訳ないだろう・・」




呆れたように言ったアスランの顔を伺うカガリに・・アスランは苦笑し、カガリの赤い頬へと唇を添えた。

































































+++++
あとがき
一応、ほのぼの目指してるんですよこれ・・(無理っ)
話的には起承転結で喜怒哀楽が激しいキャラにした方が、展開的にもはらはらしていいんですが・・。
誰かを守りたい気持ちでこれ以上相手のことは責められないので、この程度にしておきました。
2006/07/10