「・・・ッ・・貴様---------!!」
カガリの・・・あの叫びから三分、イザークは・・その現場を発見する。
そして、またもやその男に殴りかかっていた。
真っ暗な部屋、見つけたのは・・下着姿のカガリで、イザークは・・血が上っていた。
その男を殴り倒して・・脇へ追いやってから、涙ながらに身を疼くめるカガリにイザークは近寄る。
「・・カガリ。」
しゃがんで・・服を拾って渡しても、カガリは何も反応せず・・・イザークはただその光景に哀しくなっていた。
カガリは強い。
それは・・幼い頃から、ずっと・・合気道で一緒・・中学からは部活で一緒。
ずっと・・長い間友達で居たのに・・・
--------------こんな辛そうなのは・・初めてだ。
決して恋愛ではない、だが・・泣いている女の子を放っておけるような性格ではない。
優しく・・抱きしめて、背中をとんとんと叩くと・・カガリは小さい声で名前を呼ぶ。
「あす・・らん・・。」
「悪いが俺はイザークだ・・、もう試合が終わる。アスランに逢え。」
癒して貰え。
俺ではこれ以上は無理だ。
恐かった。
そう思って・・誰かと叫んだ先に、頭に浮かんだのは・・アスランで、
試合中だから絶対に助けにこられないのに、それでもアスランが浮かんでいた。
反抗するより・・恐怖心が勝って、カタカタと肩を振るわせることしかできない。
それでも、こんなの・・許せるはずが無くて、なんどかそいつの腹を足でけ飛ばしていた。
・・・アスランが・・また、傷ついてしまう。
私が知らない男に、これより先をされてたら・・アスランは怒る。そして・・傷ついてくれる。
想われているのは凄く嬉しい、でも・・・アスランが、傷つくのは嫌だ。
逃げなくちゃ・・。
けど、身体の上にはあいつが居て・・もうどうして良いか分からなくなってしまう。
やっと正気に戻ったカガリに服を渡して・・それを着て、まだふらつくカガリをイザークはそのサッカー部の控え室まで送る。
送ったところで・・アスラン・ザラがきて、イザークはしまったと背を向けて歩き出した。
「・・・・・カガリ?」
涙目の・・カガリに、アスランは今まで走っていて・・だが息を切らしていたことすら忘れていた。
思わず肩を掴んで、カガリをのぞき込む。
「・・おめでとう!!アスラン・・っ・・ゴール入れただろ!!」
そしてギュッと抱きつかれ、アスランは真っ赤になり・・ハイネからは口笛を飛ばされていた。
感極まった・・の、だろうか?
そう思って・・でもさっきいた、イザークは何なんだと・・ちょっと不快に思いながら、カガリを抱きしめてしまう。
「汗くさくて・・ゴメン。」
「気にするなっ・・格好良かったぞ!!」
離そうとしないカガリに・・真っ赤になりながら、でも・・シャワー浴びてミーティングに顔出して・・それからな。と笑いかけると、カガリも笑ってそれを見送る。
けど・・その瞬間、カガリはとても哀しそうに顔を歪ませたのに・・・アスランは疑問だけを残し、そのままシャワーを浴びていた。
「・・まだいて正解だったな。」
「イザーク!!」
不安を吹き飛ばし・・イザークを見ると、イザークはポンッとカガリの頭に手を乗せた。
「貴様は笑っている方が似合う。」
ちょっと・・目線を逸らして言うのが彼らしくて、カガリは吹き出して笑い
・・・・イザークは邪魔にならないようにと気を遣いコーナーの影に隠れてくれる。
ミーティングが終わり部屋から顔を出すと、カガリがまた抱きついてきて・・サッカーの助っ人をやって正解だった。
まさかこんなにも・・・。
シャワーのせいで湿気った髪に、カガリの細い指が絡まれて・・・ドキドキが止まらない。
「・・カガリ・・・」
「・・良かった、今日・・アスランの試合、見に来られて・・」
本当にイザーク達の御陰だ・・、あとで沢山お礼を言わなければと思う。
ああ、本当に助けられてばかりだ・・イザークには。
悠然と微笑んだカガリに、アスランの鼓動は限界で・・思わず顔を近づけて唇を頂く。
角度を変えて・・啄んで・・音を立てる。
ちゅ・・ちゅと続くキスに、なんだか恥ずかしくなって顔を上げると、カガリも恥ずかしそうだがにかっと笑った。
ダメだ。
体温の上昇は際限がないようだ。
この頃・・不安だったせいか、カガリから安心させてくれて・・一気に気持ちかが溢れる。
離したくない。
「アスラン?」
熱すぎる気持ち・・どうすればいい?
受け止めて貰える・・・?
目で訴えても、カガリは何も言わず・・けど、腕の中でニコニコとして・・嬉しそうにしていたのは見間違えではなかった。
-----アスランと・・こうしていられる、なら・・・。
この頃ろくに二人きりになる時間もなくて、忘れてしまったような感覚が戻ってくる。
アスランと一緒にいるのはこんなにも楽しい。
・・それを守るためなら・・。
少しぐらい苦しいのには耐えようではないか。
アスランが・・苦しくなって、前のように思い悩んでしまわないように。
なんだか・・そう考えていたら笑顔になっていた。
アスランも満面の笑みのカガリに・・笑みをこぼし、二人とも・・・何とも言えない甘い空気で、学校を後にする。
けど、次の日の朝・・逢ったアスランを包んでいたのは、甘いオーラではなかった。
「「お帰りっ!!ラクス!」」
「はいっただいまですわ!」
ミリィとカガリに抱きついて・・ラクスは、二人の肩をぽんぽんと叩いて、顔を見合わせる。
「・・大丈夫、でしたのね?」
「?」
「まーねー・・結構辛かったけど。」
そうですの・・と安心したように笑みを浮かべたラクスに・・カガリは分からないながら微笑んで、キラとアスランもこちらに歩いてくる。
そして・・いつのまにか、アスランと二人きりになり・・カガリは笑いながらアスランをのぞき込んだ。
「・・-------------・・どうか・・したのか?」
あ・・・
「・・いや・・・・・カガリが気にする事じゃない。」
-------------前の・・アスランだ。
そうして・・まるで、視界には何も移らないように・・アスランは、カガリの隣から姿を消す。
----待てよ・・・。
そう・・声が掛けられなかった。
突き放された。
あの・・冷たい翡翠の瞳に・・。
ドクドクと脈動が聞こえてくる。
それは・・決して、愛しい人と居るときに音ではなかった。
「おい」
「っ・・!!」
急に後ろから声を掛けられて・・真っ青な顔のままカガリは振り向く。向いた先に・・良く知る人物が居て正直驚いた。
そして・・安堵の表情に変わる。
「イザークっ!どうしたんだ!?」
「どうしたんだはこちらのセリフだ馬鹿者っ!!」
「--------・・。」
楽しそうに・・話し出した、二人にアスランは教室の出口から睨みを利かしていた。
よく分からなかった、最初は・・けど、これは事実感だと・・認めざるを得ない。
貰ったのは一枚の写真。
下駄箱に入っていたものだった。
「・・・なんだ・・これ?」
イザークに・・見せられたのは、校内でキスをしているカガリとアスランの写真で・・カガリは驚いてそれを見る。
「お前・・こーゆー趣味あったのか?」
「殺すぞ・・。」
半ば呆れて・・イザークは事態を説明する。
二股女と書かれた紙、そしてその翌日の写真・・ならば、答えは一つだと。
「---------・・アスラン・・にも・・似たようなのが・・」
「そうだ馬鹿者!やっと気が付いたか・・」
溜息をついたイザークを後目に、カガリは廊下へ駆け出していた。
だから・・さっきあんなに暗かったんだ。
アスランは・・アスランだけは傷ついて欲しくなかったのに・・。
泣きそうになった、けど・・・泣いたら負けだと、化学室のドアを開ける。
「アスランっ!」
「・・・アスハ君、静かに。・・ここは化学室なのだよ?」
「クルーゼ先生・・・。」
いると思った・・アスランが居ない、--------どうして・・・どこに・・・?
そう思って・・チャイムの音が鳴る中、アスランとの思い出の場所を一通り探す。
始めてキスをした木下も・・・よく二人でキスをする角も・・・・でも、アスランは居ない。
-----どこいったんだよ・・っ・・。
逢えない。こんな顔では・・・。
はぁっと溜息をついて・・アスランは自分の家のベットに雪崩れ込んでいた。
カガリは・・俺を愛しているなんて・・恋人になるなんて・・好きだなんて・・
-----一言も言っていないなじゃないか。
なら・・-------・・。
そう、何処で誰と何をしていようと、俺には関係がない。
----違う。
・・・・関係ある。
驚いた、
こんな写真・・・・。合成?いや・・嫌がらせだろうか?
きっとそうに違いない。
そう思いこもうとして・・でも写真は真実を語っていて・・・・
見れば分かる、
撮ったのは、試合の日。イザークと・・下着姿のカガリが抱き合っている。
何かの間違いだ・・・そう、思った、けど・・聞けなくて・・もやもやして・・・・・・・・・・・・・・
カガリに、冷たくしてしまって・・。
これでは前の堂々巡りではないか。
くそっと頭をかき・・軽い睡眠薬を飲む。
考えたくないとき・・アスランは決まって睡眠薬を飲むのだった。
「・・言うしかないだろ・・。」
「そうね。」
「-------奴にも責任の一理はある。誤解されるぐらいなら・・」
確かに・・。
きっと・・アスランは私とイザークが一緒にいる写真でも見せられたのだろうと簡単に想像は付く。
でも、それでも---
アスランのせいで、虐められて・・それが言えないで今まで隠していた・・なんて言えるか?
先日のユウナのことならまだ言える、けど・・
イザークは、「今までのこと全て吐いてこい」というのだ。
「・・無理だ・・だって・・」
「だってじゃない、このままでは終わるぞ?」
そう・・ユウナのことだけ話したって・・女子の問題が完璧に解決するまで、イザークには頼ることになってしまう。
だがその度その度・・アスランがこういう状態になってしまっては続かないと言う。
---分かる、分かるが・・でも。
「・・アスランが・・自分を責めるのなんて・・見たくない。」
「じゃあ何か、今誤解して苦しんでいる恋人は別にいいというのか?」
「ちが・・っ」
「ならば・・一刻も早く、真実を告げるんだな。」
イザークは・・昔から隠し事が大嫌いだった、カガリも・・そうだが・・・
-----・・でも・・。
・・アスランとこんな事でお別れなんて、絶対嫌だ。
・・なんとかして・・・アスランに話そう。
困らせるのを承知で・・でも、私のことなんかで苦しんで欲しくなくて・・カガリは、言うことを決意する。