「・・アスランっ!!」
そう・・食ったいなく笑顔を向ける、君。
愛しい君。
それを・・自覚したのはつい最近で、
過去を、思い出したのは更に・・・つい最近だった。
最初に・・手にかけた人は、・・・とても、綺麗な人だったと思う。
よく覚えていない。
たしか・・まだ、七つだった。
たった七歳で、人を殺して・・父上に感想を求められたのを良く覚えている。
「・・・・綺麗、赤くて、暖かい。」
でも、と・・・・・それ以上の事を告げることは叶わなかった。
だって・・父上は、その俺の感想に大層満足したようで・・珍しく褒めてくれたから。
"さすが私の子だ。"
そんなに・・誇れる事?
その、綺麗な女の人は・・・もう、二度と動かないのに。
でも・・俺にはどうすることも出来なくて、従うしかなくて。
殺すたび、父上はひっそりと笑って・・褒めてくれる。
"よくやった"
そうなのかと、漠然と思っていた。
でも、一度だって、俺の中で・・それが良い事だとは思わなかったけど。
何年も、経って、その疑問にさえ慣れを感じていて、正直どうでもいいことだとまで思うようになって
そして・・そのままで、次のターゲットの所に向かった。
豪邸、そこに・・いる、大富豪を殺しに。
だけど・・さすが大富豪と言うだけある。
警備も・・この建物の設計も・・中々進入しにくい。
当時、十三歳の少年には・・・重荷だろうと思えたがそれは負けず嫌いの自分の性格が許さなかった。
困難だって・・・行ってやるさ。
・・・・これが・・俺の、生きる道なんだから。
小さな罪悪感が、年を重ねるごとに、人を殺める度に募って行く。
世間の・・モラルなんて、全く知らない・・だが。
俺が、どう・・足掻こうと、殺した人は戻らない。
そして・・俺は殺すことから、逃げられそうにもない。
なら、
道なんて決まっている。
そう・・思って、アスランは飛び出した。
誰にも・・見えないよう。音で数人此方を見たがせいぜい烏か猫だと思っているだろう。
そう・・考えて。
敷地に侵入しターゲットのいる部屋まで静かに走る。
ほんとに広いと感じていると・・雨が降り出した。
でも・・任務中に雨なんて・・何の支障もないと走り、パッと木に登る。
登ったのは・・場所を確認する為で、頂上まで行き・・立ち上がっていた。
あと・・百メートル。
そう目算し、辺りを見ると・・違う木にキラリと光るものを見つける。
眼を凝らしてみると・・小さな女の子で、雨が急に降ってきて・・木の上でオドオドしているように見えた。
此処からでも良く見える輝く金髪。
だが・・次の瞬間、その子は、徐に木から飛び降りていた。
「あぶなッ--------!!!!!!!!」
こんな場所からでは助ける事も出来ないのに、思わず・・身を乗り出す。
フッと、一瞬宙に浮く感じがして・・太い幹に胸や腕数箇所を抉られる。
ドンと・・背中に鈍い痛みを覚えて・・・・・降りしきる雨の中、自分の血を眺めていた。
赤い。
暖かい。
眼を閉じれば闇で、もう・・二度と目覚めなければ良いと・・祈っていた。
そして意識が途切れる。
誰かに・・、顔を見られて・・・その子があんまりにも可愛かったから。
天使かと、本気で・・・・・思ったんだ。
「・・・?どうしたんだよ・・アスラン。」
「いや・・ただ、カガリは可愛いよなって。」
「ッ!!」
記憶を戻してから・・何処となく暗くなるようになった。
沢山の人を・・殺した俺を、君はどう思う?
君の・・・大好きなお父様を殺す・・・・・・・・俺を、君は・・・・
恨んで、・・・嫌いになる?
そう・・思うと急に悲しくなって、でも・・自分はこんな・・純粋で無垢で・・汚れも腐蝕も持たない少女に・・
何か、出来るはずもない。
記憶が無いとき・・カガリの誕生日に一度キスをしたきり。
こんな事・・思い出さなければ、今だって・・たった三十センチ先に在るそのふわりとした唇に・・アスランの唇を添わせる事ができたのに。
だけどと・・代わりに腕を伸ばして、そっと・・抱き寄せた。
「ッ・・・!!な、な・・」
真っ赤になる・・その、天使のような・・女神のような・・愛しい人。
傍にいたかった、ずっと・・・・ずっと。
でも、こんな俺を・・君は許さない、俺も・・・こんな腐りきっていて、汚れていて・・・・・・・そんなの・・綺麗な君には不釣合いだ。
「・・・どう・・した・・んだ?」
たどたどしく・・でも頭を撫でて・・・・・くれた。
「・・・・・・・」
愛していると、溢れるほど思うと・・なんで、声に出せないんだろう。
でも・・君を、手に入れることなんて・・きっと、ない、のに。
それから・・もう、カガリの隣に立ち続けるのは苦以外なんでもなかった。
手に入らない自分と不釣合いなほど・・輝く少女、
せめて、どうすれば・・君は俺を・・
忘れないで・・いてくれる?
そう・・考え、カガリが大切にしている赤い石の付いたネックレスを・・盗もうと決めた。
-----俺は、もう
こんな・・方法でしか、君に・・・
刻めない、自分を。
恨まれても・・嫌われても・・・・・・・いいから、お願い。
忘れないで。
小さく寝息を立てる少女の首から・・・ネックレスと偶々付いていた鍵を奪う。
そして・・最後に、勝手ながらもその・・唇に、自分のものを重ねた。
「カガリ・・」
愛してるよ。
カチャンと鍵で箱を開けて・・アスランは銃を手にする。
いっそ・・・・今此処でカガリと共に・・死んでしまいたい。
一緒に。
だけど・・愛しい相手を・・・・殺せるはずなくて、
自分だけ・・・・・・死ぬことも許されないような気がして、
ただ・・来た日同様の雨の中に・・飛び込んでいった。
わざと、カガリのお父様の部屋に発砲し・・まあ、組織へは失敗したと伝えようと、その場から立ち去る。
赤い、石と共に。
それからも、また幾度となく人を殺し
そして・・・・何度も銃口を額に当てていた。
そのたび、思い出されるのはカガリで。
もしも生まれ変わると言う事が、本当にあるとするならば・・・
次こそ
君に・・・全てを駆けて、生きたい。
そう、思うのだが・・一向に引き金は引けなかった。
理由は・・・・
ただ、もう一度でいいから・・・・・
君に
-----ただ・・その為に。
21のあるとき、父上に・・もう一度、ウズミ・ナラ・アスハを殺せと・・命を受けた時、
アスランの・・顔に浮かんだのは、あの、金髪の少女で。
その・・・・・・・・少女の、泣いた姿だけ、リアルに想像出来た。
カガリ
こんな事に・・なっては、本当に・・・もう、君は・・・・・
でも、君なら。
責めてくれるだろうか?
いけない事だと。
人として、
注意・・・・・してくれるか?
そう・・思い、アスランは・・・・・その場に赤い石を残した。
もう一度、カガリに
自分を刻む為に。
九年ぶりに、あった・・彼女は
綺麗で
そして・・
アスランを
真っ向から
責めてくれた。