「セイラン家と会うのは?」
「・・これから六時間後の予定です、一旦ホテルに入って・・休憩し、それからの方が良いでしょう。」
「そうだな。」
そう適当に会話をして部屋まで送られて分かれた。
「お前は本当に休まないのか?」
「はい、これでも護衛・・ボディーガードですから。」
---------命を狙っているくせに。
最悪のボディーガードだな。
「・・・・じゃあな、六時間後に。」
だが、こんな状況下で私は殺せない。
だって、お前と私しかこの部屋のキーを持っていないんだから。
むやみに殺そうものなら・・必ず、お前は掴まる。
・・・・・・・お前はそれほど馬鹿ではない。
「長期戦・・に、なるのか?」
忍耐力で負けたくない。
許さない。
愛しいと思った感情を殺しても・・
許さない。
それだけ大切なものを・・・・。
お前は奪ったんだ。
ごろんと2LDKの一番奥の部屋の寝室に寝転がり、その扉にも中から鍵をかけた。
「キライ・・ね。」
そう、カガリは俺が大嫌いだと・・断言する。
---------・・・苛立つな。
だがアスランとて仕事と女で女を取るほど馬鹿ではない。
・・・・仕事。
そう、君はターゲットに過ぎない。
カガリであっても・・・。
心に言い聞かせていると、目の前に丁度いいモノが通った。
「・・お嬢さん。」
そう、サングラスを外して・・得意の笑みを浮かべた。
--------・・丁度いい。
そして難無くその人を部屋に連れ込む。
ガチャッと音がして、アスランが来たと眼を開き常備している拳銃を取り出す。
そしてドアの横にピッタリと張り付いて、物音に耳を澄ませながら考えた。
馬鹿な・・こんな所で、来るなんて・・。捨て身だろうか?
あの時以来、カガリもアスランについて何も調べていない訳ではない。
マフィアのボスの息子である事。
13までに、殺した人間の数は三桁に及んでいたらしい。
-----あの時、うちに来たのも・・・お父様を殺す予定だったんだ。
そしてゾッと寒気がした。
あの・・ふざけたように笑っていたアスランが?
沢山の人を・・殺していたのだろうか?
-------・・・・信じられない。
だが、お父様を殺した以上信じる信じないの時限は超えていた。
その経験も豊富なアスランが・・こんな所でへまを犯したりしない。
・・・・・・・じゃあ・・。
そうしていると、驚くような声が耳を過ぎった。
「・・・いいの、こんな高級な部屋・・・」
「いいんですよ、お互い・・退屈していたところですし。」
そう丁寧なアスランの声がして、驚きのあまり身体が固まった。
「・・ソファーでよろしいですか?」
「ええ、・・・何処でも。」
艶やかな少し高めの女性の声にカガリは嫌悪感を抱いて、会話を聞き入ってしまった。
会話・・だろうか。それは。
大きな胸、そして細くも無いが・・女性らしい体つき。
-------アタリ、とでも言うのかな。
そう心の中で思いながら、何のためらいもなく抱き寄せた。
女も何も抵抗せず、笑みを浮かべている。
まずは胸にさわり大きさを確認して鷲掴みにしながら手を腰に回して直ぐに下を触る。
キスはしない。
男と言うものは不思議だと感じた。
・・・好きでもない、女を抱いても・・感じるものなのか。
そう、女の身体に触れながら思うが・・やっぱり、萎えると少しため息を付いた。
-------カガリだったら、きっともっと抵抗してやりがいがあるのに。
ある程度触って、相手が火照ってきたのを確認してタオルで眼を隠した。
「・・な・・っ・・なに?・・どうしたの?」
急な事に不安がって声をあげるその女を見下して、上半身だけ脱ぐ。
そしてもっていたローターをその濡れる場所に入れスイッチを押した。
すると直ぐに喘ぎ声が聞こえて、その厭らしい現場をただ見ていた。
ポルノか何かの撮影のようだ。
そう、馬鹿みたいにボンヤリと考えて・・その女が逝ったのを確認して、カガリがいると思われる部屋をノックする。
「・・・はいっても、よろしいでしょうか?」
嫌に挑戦的、かつ侮辱的な言い方。
「・・・・・ッ・・-----・・。」
その喘ぎ声、それにそれまでのスプリングの軋む音。
やっていた事・・そんなの、カガリだって想像は付く。
・・・私が、お前に恋をしていると・・知っていての事か。
幼いとき・・ふざけたように笑ったお前の中に・・優しさが見えたような気がして・・
それが・・大好きで・・、、、なのに・・-----・・。
お前は・・そうやって、いつも。
踏み荒らしていく。
心を。
-------------大嫌いだ。
お前なんて・・嫌いだ。
お父様を殺しても・・そうやって、わざとらしく・・心を踏み荒らしていくのも・・全部・・全部
お前は、ただ・・私をからかっているだけなのだろう?
・・・昔から・・そう、やって。
--------・・なんでこんな奴、一度だって愛しいと感じたんだろう。
だが、そう考える意に反するように瞳に涙は溜まる。
「いらっしゃらないのですか?」
いると、分かっていて・・そう聞く。
嫌い嫌い嫌い・・嫌い。大嫌い。
いつだって・・そうだ。お前は。
扉に向かってゆっくりと拳銃を構える。
撃ってしまえばいい。
すべて終わる。
幼い日の恋心も、無駄に執着する今も。
これさえ引いてしまえば、全て終わる。
そうしていると、カチャッと音がして・・ドアが開いた。
「・・・駄目だな、カガリ・・・俺はこの道のプロだぞ?」
そう声がして、ピンをもったアスランが立ちはだかっていた。
「・・・-----・・っ・・」
撃てない・・。
私は・・-------・・撃てない。
それを認めるのが嫌でガッと拳銃を向けなおし睨んだ。
「・・・、そんな震えた手じゃ・・当たらないぞ。たぶん」
そして上半身が裸のアスランは黙って近づいてくる。
「来るなっ・・、出て行け!!!」
大切なものを奪ったお前が
幼い日の恋心さえ、いとも簡単に踏み荒らすお前が
それでもなお・・目の前に立ち続けるお前が・・・
----------憎くて、憎くて・・・・堪らない。
「顔も・・みたくない。」
憎しみが
哀しさが
募るから。
-----大好きなお前に。
絶対に、許さない・・お前に。
「・・・カガリ」
「ッ」
いつの間にか差は縮められ、腕を引かれて銃口を下にさげられてそのまま引き寄せられた。
「--------・・見なくて良いよ。顔。」
片手でグッと頭を胸板に押し付けられた、そしてもう片手はカガリの銃口を下にさげる為に使われている。
さっきの女と戯れて汗ばんだ胸板に押し付けられてカガリの怒りは頂点に達した。
「離れろっ・・来るな・・くっつくな・・----どっか行け!!!!!!!」
そう叫んで胸板をドンドンと叩いて叫び散らしすがアスランは一向に離す気配もなく、手に力を込めた。
「・・・哀しかった?」
「死ね。」
微笑交じりに言うアスランがムカつく。哀しがると知って・・した事だろう?
じゃあなんで尋ねる必要がある。
・・・・なんでそこまで私を苦しめる・・・。
「どけよ・・、早く。-----------・・腐る。」
気持ちが。
「腐って。俺の為に。」
「嫌だ。」
そう答えるとアスランは笑って
「・・・俺も腐ったカガリは嫌・・かもしれないな。」
そう答えて、手を離した。拳銃の手はまだ握ったまま。
「・・・・・腐るぞ、そんなもの・・持ってると。」
注意するように拳銃を取り上げようとしたアスランをキッと睨んだ。
「嫌だ。-------護身用だ。」
その答えにアスランは酷く顔をしかめてから、分かったと手を離す・・そしてすぐに思い出したように質問を投げかけた。
「・・・・、何で涙目になったんだ?・・嫌いなんだろう、いいじゃないか、俺が誰と寝ようと・・君には関係の無い事だ。」
「-----・・服を着て、その人に土下座して・・とっとと出て行け。」
「---嫌いって言った事少しは後悔した?」
そう真剣に言われて、グッと胸に募る。
お前はいつだって・・そう、私の反応で遊ぶ。
「仕方ないだろ、嫌いなんだ。----------嘘はつけないたちでな。」
嘘だ。
好きだったからこそ、・・憎い。
「嫌いを前言撤回する気にはならないのか・・君は」
「真実を撤回してどうする。」
そう・・睨んでくる眼。
暗がりの部屋で分かる・・その光。
---------・・やっぱり、それでこそ・・カガリなんだ。
俺を憎んで
俺を殺そうとして
だが、どこか幼いときを忘れられないカガリ。
それが---俺の大好きなカガリ。
お父様を誰よりも愛して、それを奪った俺を憎む。
それが・・カガリだ。
「俺は、やっぱり・・好きだな。カガリが。」
そう微笑むと案の定顔をしかめられてしまうけど。
それでも・・好きなんだ。
嫌われて・・当然。
嫌ってくれて構わない。
人殺しの・・俺を許すような君じゃないだろう?
俺は・・そういう君が好き。
「-------・・・じゃあ仮にそうだとして、好きな人を殺すのって・・そんなに笑って出来る事・・なんだな。お前は」
嘘だと、断定しきった眼。
「辛いよ、凄く。だって・・生きていても二度と・・カガリの声が聞けないんだから。」
「玩具が減るだけだろ、お前からしてみれば。」
「玩具・・、か。」
玩具はピストルだけで十分だ。
・・・・・、人を殺せるもの。
それだけが・・俺の玩具。
「・・・・・・・出ていけよ。顔も見たく無いと・・さっき言っただろ?」
「-------・・そう、だったな。」
折角・・一緒いられる最後の時なのに。
「・・あと・・二時間か、ゆっくり寝ろよ。」
そう声をかけて、ドアを出てまたピンで鍵をかけた。
ガチャンと音がして、出て行ったことを確認する。
・・・・・泣くもんか。
お前の為に・・お父様を殺したお前の為なんかに泣いてなんかやらない。
・・・・泣かない。
そう呟いたのか、心で言ったのか。
分からない。