「-------今日、帰り・・・家に来てくれ。」
ボソッと聞こえるか聞こえないかで吐き出された声は明らかに自分宛だと確信でた。
「-------あらあら?どういたしましたのカガリ、お顔が沈んでいますわ。」
キラの恋人・・・ラクス。掃除中話しかけられビックリする。
「・・・うんん、ちょっとな。」
--------今回は早かったな・・・まだ一週間しか経ってない。
「良ければ、相談にのりますわ。」
ラクスは心配そうにこちらを見て、持ち前の和やかな空気を向けてくる。
しかし・・言っても良いものなのかと少し考えてしまう。
「-------好き・・って思われてるのか・・不安で・・・。」
その言葉にラクスは「アスランの事ですわね?」と聞いてきたので首を縦に振った。
「私からはとても仲がよさそうに見えますわ。」
--------そう・・だろうか?
・・・・・・-------精力処理に・・使われているだけなのかもしれない。
「----・・・強引に・・身体を求められる時があるんだ。」
そして・・それは恐らく今日もだ。
「あのアスランが?」
ラクスは普段の彼からは想像できないと首を傾げた。だが、直ぐに考え
「では・・何か不安なのですよ。アスランも・・・身体を求めなければ壊れてしまうくらい。」
そう言われて、そんな事・・考えた事もなかったと目をパチクリさせた。
---------確かに・・アスランは少し嫉妬深いし・・。もしかしたら、何か不安にさせるようなこともしたのかもしれない。
「・・・・・ありがとう、ラクス・・。」
そう言うとラクスはにこりと笑い、頭を撫でてくれた。
---------思い当たる節が無いわけではなかった。
・・・・・昔に、・・一度だけアスランに「大嫌い」という言葉を使ったことがある。
それから間もなく、彼は変わった。
---------・・私の・・せいなのかもしれない。
・・・・・謝ろう。----それで彼が元に戻るなら。
帰り道、一人で歩いていると凄く物寂しい気分になる。
彼の今までの行為に・・甘んじて受けていたのは・・----やはり・・私は彼が好きだからなんだ。
謝って・・もし・・・・それが原因じゃないとしたら?
---------本当に・・肉体関係だけを、アスランが望んでいたとしたら・・・。
哀しい。
それでも信じていたい。幼い日に交わした約束は今もお互いに生きていると信じたい。
--------守ってくれると。
・・・・約束してくれた。
ずっと一緒だと・・・--------約束したんだ。
アスランの家に入ると、誰もいない家に一人ぼっちで寂しく感じる。
アスランの両親は週に一度、帰ってくればいい方らしい。
--------小さい頃は・・きっととても哀しかったんだろうな。
誰も迎えてくれない家。一人の空間・・・。
だから・・必要以上にうちに来たそうにしていたのかもしれない。
-------自分と一緒にいようと思ったのかもしれない。
靴を整えて、一直線にアスランの部屋に向かう。
昔から何も変わらず、シンプルな部屋。本棚が三個もあり沢山の参考書が並べられていた。
・・・一人だから・・勉強するしかなかったのかもしれないな
--------寂しいよな・・そんなの。
そこに鞄を下ろし、いつも使うベットに身を寝かせ考え事をしていた。
そういえば・・自分達は此処でしかしていない。
--------決まって、この部屋で犯される。
・・・・此処以外の場所では、アスランは身体を求めたりはしない。
フッ思い出すのは、初めてのときのことだった。
14歳の時の・・秋。アスランが誕生日を終えた頃だったような気がする。
カガリが他の女の子にからかわれて「アスランの事好きなんでしょ?」と聞かれ恥ずかしくなって
「好きじゃないッ」と大声で答えた事だった。
アスランは「え?」という顔をしたがカガリだって此処まで言ってしまえば後には引き下がれない。
意地として、思いがけない言葉を言ってしまった。
「アスランなんか・・大嫌いだッ!か・・勘違いするなよっ」
その時、アスランは硬直してカガリを凝視し、カガリもアスランがいた事を思い出し口を塞ぐ。
二人の間に、緊張が走ってアスランは駆けていってしまう、カガリは直ぐに追いかけた。
「アスランッ」
急いで呼び止め、人目につかないように体育館の裏まで連れて行きアスランに謝った。
「ごめん・・き・・嫌いなんて・・。」
カガリだってばつが悪い。---------好きな人に嫌いなんて・・売り言葉に買い言葉だとしても。
「別に・・気にするな。」
アスランは一言優しくそう言ってくれた。
安心して、下げた頭を上げて微笑む、だがそこに既にアスランの姿はなかった。
「--------?アスラン?」
その時は不思議に思ったが、次の日も次の日もアスランは前と何も変わらない。
よかった・・そうだよ、アスランはそんな事で怒ったりしない。
そして、何週間もたってからアスランはカガリを部屋に呼んだ。
「----?なにして遊ぶんだ?アスラン」
アスランは黙っていて、何もこたえる気配ない。
「--------?」
ちゅッと音を立て唇にキスをされた。
「え・・・。」
嬉しさと、恥ずかしさと驚き・・そんな感情が渦巻く最中、首にきつく吸い付かれる。
「----い・・痛い・・アスラン?!」
アスランは声が届かないように唇を離すと出来た痕を満足げに見て笑った。
「・・・?-----どう・・か・・したのか?」
アスランは黙り込み、キッと此方を睨んだ。その始めて見せられた敵意に身体が竦む。
挙動不審にセーラー服に手をかけるアスランを、時が止まったように見続けた。
何を・・する気なんだ・・・・・・・。なんで・・。
逃げようなんて所には考えが及ばす、なすがままにされてしまった。
全てが始めて、愛情も優しさも感じられない。
------恐い。
未発達の胸を揉まれて、先端を甘噛みされて体は火照っていく。
だが、同時にこれが・・アスラン?と疑問が膨らむ。当然抵抗だってした。
しかし素肌で触れて・・見て、自分と彼は余りにも違うんだと思わずにはいられない。
一回りも、二回りも大きい肩、手・・腕。
-------今、目の前にいる男の人は誰なんだろう?
体内に異物が入る感触がして、それの痛さに叫び声をあげた。
「痛いッ!!いたいッ・・・いやあぁぁ」
アスランの指だと気が付くのにさほど時間はかからない。だがアスランは何も感じないような目で見下ろしていた。
直ぐに抜かれて、助かったと安心したのは束の間。
「--------------ッいっ・・。」
グイッと指なんかと比較にならないものが穴から入ってくる。
ただ痛くて、痛くて涙なんてものではない。
苦痛で何が何だか良く分からないし、それを強いているのが紛れもないアスランなんだと瞳を開ければ確認せざる終えない。
-------・・俺、カガリを泣かせたり・・困らせたりしないような人になりたいんだ。
そう言ってくれたのに・・。
負の感情が頭をいっぱいにする。
でも不思議と"嫌い"という言葉は浮かんでは来なかった。
それが終わり、虚ろな目でアスランを見ていた。
ポタッと暖かいものが肌に触れる。
-----------泣いているのか・・・?
だが、ぼんやりとした頭ではそれ以上の事を理解するのは不可能だった。
起き上がり、寝てしまっていた事に気が付く。
三十分ほどだったみたいだ、そして起き上がり、ベットを見下ろす。
「シーツ・・真っ赤だったな・・・・・・・あの時は」
暗くなった空を見てから、リビングへと下りていった。
幼い頃、よく一緒にロールキャベツを食べていた事を思い出しそれを作ろうと思った。
アスランはどうせ生徒会で七時くらいまでは帰ってこない。
トントンとキャベツを丁度いい大きさにして、なんだか夫の帰りを待つ主婦みたいだと笑いが零れる。
きっと、そんな時も自分達には訪れるのだと思いたかった。
ちょうど作り終わった時、アスランはガチャンと音を立てて、不思議と匂いのするリビングの方へ歩いてくる。
「お帰り、アスラン」
つけていたエプロンを取り、元あった場所にかけてアスランに駆け寄る。
「今日、ロールキャベツ作ったんだっ・・アスラン好きだったよな?」
アスランはキョトンとした顔を見せてから、ギュッとカガリを抱きしめた。
いつもよりずっとずっと優しく感じて何となく涙が出そうな気分に陥る。
顔を上げ初めてカガリからアスランにキスをした。
ちゅっと音を立て触れるだけのキスをするとアスランは今までに見たこともないくらい真っ赤になる。
「-------アスラン?」
新婚さんみたいだと思い笑えばアスランはぎこちなくだが嬉しそうに笑みを作った。
-------やっぱり・・アスランは昔のままだ。
そう感じて、自分の体重を預けるように身を任せる。
「か・・カガリ・・。」
ベットの上では考えられないようなあどけない瞳にカガリ自身驚きを隠せなかった。
・・・・・・・・なんで、アスラン。
こんなに優しくて、まだまだ幼いアスラン・・・。
--------歪めたのは?
腕の中にいるのに急に哀しくなる。
アスラン・・。
どんな事をされようと、やっぱり私はお前が好きなんだ。
胸元をギュッと掴み、アスランは下にいる私を不思議そうに覗き込んでいる。
「-----夕飯、ちょうど出来たところだから・・・一緒に食べよう?」
・・・・一緒に。
そう言うとアスランは泣きそうに微笑んで運ぶのを手伝ってくれた。
一緒にロールキャベツを食べながら、アスランは此方をよくみて目が合えばカガリから微笑みかける。
「--------・・凄く・・巧いな、ロールキャベツ。」
「ほ、本当かッ!頑張って作ってよかったっ」
久しぶりに今日はアスランの心からの笑顔を見られた気がしてそれだけで嬉しくて、良かったと心から思えた。