誕生日を迎えた。
母は何とか家に帰ってきて、キラとカガリも俺の家に来てくれている。
「「アスランおめでとうっ!」」
双子からクラッカーをもろに喰らい、少し目を細めて笑っているとカガリとキラも嬉しそうに笑ってくれる。
----本当の兄弟みたいだな。
そう思えそうなのに、やはり一線引いていた。
・・昔は・・・そう思っていたのに。
ケーキを食べながら、母さんと久しぶりにまともな会話を交わす。
その様子をキラとカガリは嬉しそうに見てくれていた。
今日は休みで、昼から誕生日を祝ってもらっていたのだが母はどうやら二時からまた仕事らしく、一時には家を出てしまう。
「やっぱレノアおばさん・・美人だよなぁ!」
カガリとキラは優しいいし・・と付け加えた。
「カリダおばさんの方が優しいぞ?絶対。」
母はああ見えて結構厳しい。
「え〜僕とカガリ・・一度で良いからアスランの家の子供やってみたいっ!」
・・・・。
「・・俺だって・・。」
キラとカガリの兄弟で生まれてみたいさ。
-------そう、幼い頃から思っていたことを口に出そうとして・・止めた。
「アスラン・・?」
子供っぽいから・・そういう理由ではない。
----兄弟でいる事を・・否定している心がある。
カガリは不思議そうに覗き込んできて、気まずくなって話を逸らした。
「・・・そういえば・・週末課題、終わったのか?」
「「げぇッ!!」」
二人は声を揃えて嫌な顔をした。だがお互い見合って、
「わ・・私は半分終わらせたぞ?」
「うわ〜僕まだ・・。」
-------半分?
「・・・まさか・・お前達・・・半分ずつといて、もう半分写してるのか?」
呆れ交じりでいうと二人はエヘヘと笑って見せた。
エヘヘじゃないだろう。エヘヘじゃ
「・・・・・・・はぁ・・まったく。」
そして自分の部屋に上がる。
「え〜アスランうち来ないの?!」
キラは不自然だと声をあげるが、だいたい・・この歳になってもう・・母がいなくても家に留守番ぐらい出来るさ。
「ちゃんと勉強終わったくらいに行くから、俺がいたら遊ぶだろ?」
そう言うとカガリとキラは唇を尖らせた。
-----いつまでも、子供なんだから。あの二人は・・・。
そうため息を付いて自分の部屋に入る。
ドアを閉めようとすると、中々閉まらず振り返った。
「・・・・・・・カガリ?」
カガリは心配そうに覗き込んできて、黙って自分の部屋に入りドアを閉める。
「どうかしたのか?」
カガリは答えず、ボスッと音を立ててベットに座った。
「ん〜何か・・アスラン、寂しいんじゃないかと思って・・。」
----寂しい?
「ほら、昔・・よくお母さんが帰ってこないって・・半べそ掻きながらうちに来ただろう?」
-----そんな昔の話・・。
「・・今はもう、大丈夫だ。」
そう答えるとカガリは不思議そうな顔を浮かべた。
「・・・・そうなのか?--------なんだか、微妙そうな顔してたから・・そうなのかと思った。」
・・・微妙そうな顔・・。
「あぁ・・それは・・・・。」
-------昔・・キラとカガリが自分の本当の兄弟だったらと強く望んでいたのに、今はそう思えないことだろう。
嫌いになるわけないし・・でも・・・・・・・・違う気がしていた。
------幼馴染・・も、そうなのだがそれでもどこか釈然としない。
「俺と・・キラと・・カガリってどんな関係なんだろうって思って。」
兄弟とかいうのは恥ずかしいので伏せておいた。
カガリはその質問に目を開き、少し意地悪そうに目を細めて笑う。
「・・・・・幼馴染だろう?私たちは。」
来い来いと手招きされ、ベットの隣に座った。
カガリはスッと立ち上がり自分の目の前に来る。
「安心しろ、私は・・・アスランもキラも同じくらい大切だと思ってるから。」
立てひざで立ち、自分の顔を覗き込まれ頭にポンと手を置かれる。
「・・・・・な!」
キラをあやすようにカガリは自分の頭を優しく撫でていて、その指先が動くほどに何か痺れるような感覚が皮膚を走った。
微笑みかけてくれるカガリ、その笑顔が綺麗で・・だからこの頃違和感があったのかと納得がいく。
---------カガリが変わったのか・・?
目を合わせると少し潤んだ瞳で見られ、言葉を飲み込んでしまった。
「アスラン?」
名前を呼ばれ、何となく・・嬉しい気分になっていた。
お返し・・そう思って、カガリの頭を撫で、カガリと同じように髪に指を絡める。
横髪を触ると、ふっくらとした頬に指が触れカガリはその手を捕らえて自分の頬にくっつける。
「・・・カガリ・・?」
その行動に少し戸惑い、声を出すとカガリは
「何驚いてるんだよ、・・・昔・・よくやっただろう?」
---------たしかに・・。
そういえば昔はよく互いの頭を撫でて頬にだって手を当てていたような記憶はある。
----でも・・。
「・・なんだか・・変な気分だ。」
カガリはその言葉に首を傾げ、少しずれた自分の指先がカガリの耳に触れた。
「そうか・・」
カガリは少しくすぐったそうに笑い、その笑顔をに自分も嬉しくなり微笑み返す。
「・・・でも・・やっぱり」
少し切なそうに目を逸らし、カガリは
「・・お前・・大きくなっちゃうんだよな・・キラもだけど・・。」
----え?
「・・・当然の事、なんだけどな。私は女で・・お前達は男なんだから。」
・・・・・俺は男で・・カガリは女。
「・・今じゃ・・腕相撲だって・・互角に戦えないし、----身長だって・・手の大きさだって・・。」
・・・・・・・・言われてみれば・・そうかもしれない・・。
「・・・私だけ、少し仲間はずれを喰らった気分だ。」
目を細めてカガリは俯く。
「・・男に・・生まれれば良かったのか?・・私は」
カガリが・・男に?
「・・・それじゃ・・カガリじゃないだろう?」
-----それだけは違う・・。そう思えた。
慰めるように瞳を覗けば、うっすらと涙を浮かべて哀しそうに微笑んでいるカガリが見える。
「・・・・カガリ・・。」
-----自分だって、キラとカガリと兄弟じゃなくて仲間はずれを喰らった気分だった。
けど・・それは、カガリだって同じ事なんだ。
---そう思うが・・自分がカガリと兄弟でも・・カガリが男でも・・・--何かが、違う。
「---いいじゃないか、カガリは女の子で・・・。良いと思うし・・好きだ、女の子のカガリが。」
そういい終わって、何かおかしいと思った。この言い方だと、俺はカガリの事を好きだといっているように思える。
でもカガリもそこら辺は分かると笑みを浮かべ「ありがとう」と声を出した。
でも、やはりどこか沈んだ笑顔は・・此方の胸まで締め付ける。
グイッと引っ張り、自分の胸の中にカガリを呼んだ。
「---------アス・・ラン・・?」
カガリは驚き、目をパチパチとさせたがスッポリと収まる。
--------本当に・・小さい。
小学生の頃は、もっと・・同じくらいで・・。
肩や腰周りを微妙に触れても・・どこをとっても・・・。
----女の子・・。
小さくて、守ってあげなくてはいけないような身体。
-------正反対に、誰でも守れそうな性格・・。
「・・・カガリ・・。」
そして息を吸い込むと、この間のマフラーと同じ・・シトラスの香りが身体に入ってくるのが分かる。
頭を何度も撫でて、腕をすこしずらしてなんども抱きしめた。
抱く力が少し強くなると、カガリは恥ずかしそうに顔を上げ、その真っ赤な顔が面白くてちょっと笑ってしまう。
「・・っな・・何が面白いんだ!」
そう唇を尖らせて聞かれ、いつもに戻ったと思い腕を離す。
「・・・・。」
自分から腕を離したのはいいものの、・・・今在ったはずのカガリの身体が腕から抜け、なにか物足りない気分になる。
「・・・ありがとう、アスラン」
カガリは少し赤い頬をそのままに綺麗に微笑んだ。
「・・・あぁ・・。」
呆然としてその笑顔を見てしまう。
-----・・カガリだって・・俺だって・・変わったのかもしれない。
そう思い、カガリの背を見送った。