「あれ・・また入ってるよ・・。」
自分の下駄箱に、二通手紙が入っている。
こんな事も珍しくない。
「アスランっ、悪いんだけど先屋上行っててくれないか?」
今日の放課後、部活が休みなのでアスランとキラと屋上でのんびりと過ごす予定だった。
テストもやっと終わり、ようやく羽が伸ばせるし・・アスランとは約束したし。
「-----キラも・・そんな事言っていたな・・。」
「キラもラブレター来たらしいぞ。」
そう答えるとアスランは顔をしかめた。
「おっと・・やばい、もう三時半・・呼び出しされたんだった!」
アスランに背を向け走り出した。
「あっ後でお前にもいいものあるから、楽しみにしてろよ!!」
そして顔も知らぬ子の元に駆けて行く。
「カガリ先輩ッ!」
そう普段誰も通らない、倉庫の前で・・まぁ俗に言う愛の告白を受けていた。
「好きです!!」
------女の子から。
「ありがとう」
そしてニッコリと笑い手を出す。これがカガリ的な感謝の表れなのだ。
「はいっ・・!!カガリ先輩は私たちの憧れです!目標です!心の彼氏です!!」
そう嬉しそうに言われると、何となく微笑み返したくなる。
「先輩・・・この頃皆"綺麗になった"って言ってますっ、私もそうだと思います!」
その子はそれだけ言い残して走り去ってしまう。
"綺麗になった"・・・・・?
そんな事・・無いと思うのだが。
屋上に向かって歩いている時、もう一つの手紙を取り出す。
"アスラン・ザラ先輩へ"
時々、部活の後輩から渡されるのだ。
ギィッ・・そう鈍い音がして、屋上の戸を開ける。
アスランが既にフェンスから空を見あげていた。
「アスラン!」
駆け寄り、隣に立ち一緒に空を見あげ微笑んでいた。
「-----告白・・どうしたんだ?」
その言葉に手紙の存在を思い出す。
「あっこれ・・アスラン宛。時々恥ずかしがり屋の人が私に頼むんだよ」
アスランはその手紙を受け取り、中身を見てため息を付く。
「・・・また・・俺の知らない子だ-------何で手紙なんてくれるんだろう?」
その手紙をアスランは一応鞄に閉まって、めんどくさそうな顔をしていた。
「ちゃんと行けよ・・相手だって必死に想い伝えようとしてるんだから。」
女の子から来たって、カガリ自身一度だって行かなかったことはない。
「・・・分かっているが・・。」
アスランは眉間を押さえ、深くため息を付いた。
「キラ・・遅いな。断るの躊躇ってそうだもんな〜キラは」
ハハッと笑うと、そういえばとアスランは話を返してきた。
「・・カガリは断ったのか。」
その質問に思わず笑う。
「だって、相手女の子だぞ?」
するとアスランは「それは・・OKのしようがないな。」と言ってもう一度今渡した手紙を見た。
「いい子だったら付き合えば?」
そう思ったから、そう言ってみた。でもアスランは「え?」と言う顔で見てくる。
「な・・なんだよ?」
「----いや、あぁ・・印象次第・・かな?」
何とも微妙な顔をされ、少し嬉しくなった。
少なくとも今は・・互いの隣にいるのが当然だと感じている。
-------私たちだけの・・場所。
それは幼馴染といえる、この関係。
「キラ・・遅いな。」
屋上の入り口には誰も来る気配がない。
「・・・・・・・まったくだ、何やってるんだ?あの片割れ。」
しばらくしてキラが微妙な顔で帰ってくる。
「・・・・・・・聞いてよ〜カガリ・・アスランっ!!」
よく見ると右頬だけ仄かに赤い。
「・・・・叩かれたか?」
アスランは苦笑して自分も苦笑してキラに駆け寄る。
「だって・・僕が断ったら急にビンタだよ!?さすがに痛いし・・っ」
「分かった分かった、手で冷やしてやるよ。」
さっきから屋上にいて秋風に吹かれていたお陰で、手はすっかり冷えていた。
ペトッとフワフワとした頬に自分の手をあてる。
「冷たッ!!あ〜でも気持ちいいー。」
キラはじゃれるかのように、自分の手に頬を摺り寄せてきて・・ホント可愛い弟だと笑った。
「子供の時から・・全然変わらないな・・お前達は。」
アスランにちょっと遠い目で言われたのを自分とキラは見逃さなかった。
「なにそれ・・アスランは変わったみたいな言い草じゃない?」
ね?とキラに同意を求められ深く頷く。
「アスランも・・あんま変わらないぞ?」
一歩下がって立っていたアスランの腕を引いた。
「-------違うか?」
笑いかけてもアスランは曖昧にしか返してこなかった。
一緒に帰っていると、やはりアスランは一歩後ろを歩いている。
「・・・・?アスラン」
呼べば、あぁと適当に答えられてしまった。
「なぁ・・アスラン、おかしくないか?」
「・・・う〜ん、何か上の空って感じ・・テスト疲れが今になって出たとか?」
夕食の時、やっとアスランらしさが戻ったように見えた。
「キラ・・行儀が悪いぞ?」
「えぇ・・?あぁ肘?」
「何度注意すれば分かるんだよ・・。」
「何度だろうねぇ〜。」
「こら、キラここで茶化すと後が恐いぞ、謝っておけよ。」
そしてキラははいはいと謝りアスランは不服そうに箸を進めていた。
アスランは女子に結構人気なのだが・・彼のこういう世話焼きな性格や、じつは怒りっぽい所。
そして何より優しい事を知っているのは、恐らく自分だけだと思う。