「駄目ですっ」


「行くったら行くんだっ!」




+雨の中+




まったく、このカガリはまたわけの分からない事を言い出す。

「・・って訳で今日の夜は街に出るからな。」

「・・・は?」

街に出るって・・自分の立場を分かって言ってるのだろうか?

「バカな事言うのは止めてください。それにキサカさんに怒られる。」

「関係ない、行くのは私だ。」

どうやら本気らしく、呆れた目で見る。

「・・と、とにかく私は行くから・・・・留守頼むぞ。」

「・・俺まで連れて行かないつもりか!?」

馬鹿言うんじゃない、そう声を荒げる

大体、君は代表・・俺は護衛。





「だって、お前も口うるさく代表代表言ってくるんだろ・・。」




そう、しゅんとされると何となく申し訳ない気分になる。

それでもカガリは代表だ。国の・・カガリだって分かってるだろ・・?



「分かってる・・だが・・アスハ代表だ」








・・・アスハ代表・・。

分かってる、でも・・いいじゃないか最近ずっと・・何もしていない。

ちゃんと分かってるつもりだったお父様の大変さを、

名誉ある仕事だから仕方ない・・そう割り切っていたが、ここまで鳥籠に入れられたような生活とは・・・。





仕事が無い時ぐらい・・外で羽を伸ばしたい。




それに・・アスランにまでアスハ代表と呼ばれるのは少し哀しい。

彼にすらカガリと見られなくなってしまう。







『アスハ代表。』





それがどれ程重く、辛く、素晴らしく、名誉であり、残酷な呼び名か・・彼は知ってくれているのだろうか?








「・・分かった・・・分かったから・・・もういい、今日は部屋でゆっくり寝る。」

その言葉を聞いて安心した。










****

「あれ?」

大きすぎる食堂につくと、そこにはカガリが全く手のつけていない料理が置いてあった。


「まさか・・・っ」


コンコンッ

部屋をノックするが、誰も居ないかのようにその音が響く。

「カガリッ?!」

抜け出した--そう思い外からカガリの部屋の窓を見る。

案の定そこからはヒラヒラとカーテンがなびき、光が零れていた。




「何処いったんだ・・っ」








この敷地から抜け出す方法をあれこれ探していた。
もっともアスランがいれば直ぐに見つかるんだろうが・・。



しかたない。



アイツは私を代表としか思っていない・・・。


付き合っている・・そうなのだが、それ以上に彼は護衛である事を優先にする。

当然だ・・私だって恋人である事より代表であることを優先するのだから。





でも・・・・・・・。




さっき、二人で話しているのに「代表」と呼ばれたことは流石に嫌だ。





・・・。
知ってるさ。



これはただの私の我が儘だって事ぐらい。



代表であることを優先した私を、代表と呼ぶのは当然のことで、
それを嫌だと思うのはただの勝手だ。





結局出る場所も見つけられない。
此処はまるで鳥籠だ。



空も夜だから黒く、風も厭に湿って暖かく吹いている。
星も・・見えない。





何か、今の自分の状況に似てるような気がして悲しい。


希望も見えず、ただ飾りとして在り続け、・・・生殺しだ。


しょせん私は代表と言う名の生きた平和の象徴に過ぎない。




ポタッ


頬に一滴のしずくが零れる。・・・雨か・・?

その雨は直ぐにザーッと音を立てだし、次第に激しくなっていく。

木の陰に隠れ、それでもしきりに当たる雨水が冷たい。


「・・・アスラン?」

そう言ったのは彼にではない、今こうやって覆ってくれている木に。

激しい雨から必死に自分を守ろうとしてくれる姿は彼を想像させる。

そしてその気に寄り添った。

彼に出来ないから、木に額をピタッとつけ瞑想する。

彼なら、こんな馬鹿みたいな自分を抱きしめてくれるだろうか?

雨に濡れ、どん底の気分でいる自分を・・・。



木は何もしてくれなかった。


それが・・正しい選択なのかもしれない。





ポタッ・・ポタッ


背筋に冷たい感触が走るが、そんなのはどうだっていいんだ。

・・誰にも「代表」と呼ばれず、誰にも囲まれず・・。

自由だから・・。



それから何十分経ったか分からない。

冷たく、冷たく、ツメタイ。

自分を蔑むように降る雨も、守ってくれる木も・・全て・・・。








暖かい物が欲しかったのに。


空も、大地も・・雨も




全てが私を拒絶する・・?



アスランも・・・・?






『カガリ・・』




そう呼んで、・・・誰か認めて・・自分を。





カガリを





「カガリ」




響くような低い声にゆっくりと顔を上げる。

泣いてなんかない・・鬱だっただけ

「びしょ濡れじゃないか。」

そう言い傘を突き出されるが、それを拒んだ。




「カガリ・・・?」


笑えばいい。
私は何も出来ないんだと。
抜け出す事もままならない、昔とはまるで違うこの非力さを。
笑ってくれればいい。



『代表なんだから、ちゃんと自粛しろ』って・・。

それは何処か『飾りは飾りらしく大人しくしてろよ』といわれてるような気がするけど。





所詮、私は・・・





バサッ




急に暖かいものに包まれた感じがした。

雨とは違う。

暖かく、包み込んでくれる大きな腕が。

「・・・アスラン?」

こんな事をしてくれるのは木じゃない、アスランしかいない。アスランだ。

「カガリ・・・。」

髪の毛に通される太めだがスラッと長い指、
覗き込んでくるサファイアの瞳、
闇に染まる藍色の髪。



「アスランッ」






どうしたらいいか・・分からないんだ・・っ





落ちた傘が少し転がり止る。










そして雨は一向に止む気配は無い。

















+++++
あとがき
中途半端な切り方します。
いや、良いんです(ナニガっ)
カガリの思考がダークモアダークです。
むしろヒステリーで支離滅裂です
いやーでも運命一話以前って相当過酷だったと思います。
あの元気さだって無かったかもしれない。
そう想って打ってみました。
2006.2.25