ラクス・クライン。
私の名前。
そう呼ばれるようになったのはここに来てから。
「カガリさん。」
彼女はこの家の主。人間で、私達を見張っているのか、見守っているのかいまいち分からないと思っていた。
話している時の瞳孔の動きや、仕草からは、私達を監視しているようには感じない。
この人は工場の人間とは違う。
私達を監視し、管理しようとは欠片も思っていないのだろう。
強いて言えば、彼女は毎日私達の様子を簡潔に纏めて両親に送る。
彼女の両親は、有名すぎるほど有名な遺伝子の研究者だった。
「ラクスの作るお菓子はなんでも美味しいよね〜。」
彼はキラ。
カガリさんの弟(か兄だが、どうみても弟だろう。)で、カガリさん大好きである。
私と違い、監視やら何やらを考えていないんだと思う。
でも、私はそんな無邪気な彼が嫌いなんかではなくて・・・。
「キラ。ありがとうございますわ。」
「なんでラクスがお礼言うの??言うのは僕の方だよ。」
そう無垢に笑うキラを見てると、心が温かくなる事に気が付いていた。
この気持ちは何だろう?
暖かくほんのりと、灯る気持ち。
「カガリ〜っ!」
「もう!キラっ!大きい体で飛びつくなっ!!」
そして、つんと絞られるような痛み。
私は数ある人形の中でも、歌に特化されて作られたから、それ以外の能力は人並み程度。
だから他の人形に比べればずっと感情が多く感じられた。
でも。
この感情は分からない。
好き、好きの感情なのに・・甘いのに苦い。
彼の髪色・・ビターチョコレートのようだ。
それからしばらくして、アスランの不思議な視線に気が付いたのは、きっと同じ境遇だったから。
カガリさんを目で追うアスラン。
彼女が笑うと、彼も嬉しそうに笑った。
そして、キラがカガリさんに飛びつくと逸らしてしまう。
「・・・ああ・・、では・・これが・・。」
「ラクス?」
カガリさんの声を無視し、ラクスは自分の気持ちに埋もれる。
これが、"恋"ですのね・・・。
見えない感情の渦達。
「ラクス・・どうしたの??」
心配そうに駆け寄ってきてくれるキラに、ラクスはフワリと微笑んだ。
「どうも・・いたしませんよ?」
「でもなんか・・今ラクス・・・。」
「秘密、ですわ。」
そうクスリと微笑むと、彼は18とは思えないあどけない表情で私を見つめる。
カガリさんとアスランが此方をちょうど見てはいなかった。
「・・・っ?」
ふんわりと触れるだけの、口づけ。
「・・・、らく・・す?」
「秘密、ですわよ。」
そしてまた悪戯に微笑むと、彼は頬を染めて綺麗な瞳をユラユラさせながらこちらを見ていた。