ユラが来て、もう二週間が過ぎようとしていた。
「おはよ・・ユラ」
そう声をかけるといつも通り、自分のタオルケットを剥いでしまって寒くなったのかアスランのタオルケットに潜り込んでいるユラに声をかける。
「ん・・・」
そう唸って、またいつも通り二度寝が始まった。
冷房が効きすぎて寒いようで腕をアスランの首に巻きと身体を密着させてスースーと寝息を出す。
首筋に何度も呼吸が当たり、くすぐったい。それに、ユラの髪からは痺れるような甘い匂いがする。
何となく・・この匂いに弱い。かいでいるだけで少しクラッとくるのだ。---ユラの寝顔だけでも随分と悩まされているというのに。
そしておそらくだが・・・今日は脚もはだけているのだろう、脚まで絡めてきて流石に恥ずかしい。
「起きないと・・アーサーが怒るぞ?」
赤くなりながら言うとユラは琥珀色の瞳をやっと開いて、目を擦った。
「・・・おはよう、ご主人様」
そしてはだけたバスローブを気にせず起き上がり、トロンとした瞳でメイド服を取り、別室に向かう。
--------・・さすがに・・慣れたが、やはり・・・心臓に悪い。
そう思いながら着替えてユラと共に食堂に向かう。
「今日はなんだろうなー、ベーコンエッグ?・・うーんロールパン・・ご主人様はなんだといい?」
「・・俺は何でも良い。」
---ユラが一緒に食べてくれれば。
・・・気のせいかもしれないが、ユラと共に食べるご飯はいつもより美味しく感じる。
「ご主人様は・・私がいて、良かったか?」
唐突にそんな事を聞かれビックリする。この子は本当に何でもストレートに聞いてくるから・・。
「・・・楽しい・・って、思うよ。」
少し恥ずかしがってそう言うとユラはうれしそうに微笑んでくれた。
「本当かっ!私も・・この二週間、ご主人様といれて楽しかった!」
-------?
「私、今日で短期バイト・・終わりなんだ。」
アスランの表情を読み取ってか、ユラはそう説明してくれた。
「・・・そう・・なのか、ありがとう・・お疲れ様。」
-------もう・・来ない・・って事・・だよな。
急に食べる気が失せて、食事に手を付けるのを止めた。
「ちゃんと食べないと・・夏ばてするぞ?」
ユラは心配そうに覗き込んできてくれる。
この二週間このアスラン・ザラといれて、楽しかった。
心配性だし、優しいし・・・
でも、今見たく少しショックなことがあると直ぐに考えちゃうんだよな。
午前九時、ザラ家を出ることになっていたので食事の後すぐに荷物をまとめて制服に着替えた。
「無理言って雇ってもらって悪かった、アーサー」
そうただ一人見送りに着てくれたアーサーに礼を言う。
「いえ、アスラン様も---嬉しそうだったし・・・君が来てくれて楽しかったよ。」
そして握手を交わしていると、ご主人様が歩いてきた。
「・・・もう、行くのかユラ。」
「あぁ。」
制服を見られてハッとされる。
「アークエンジェル・・か?」
-----あぁ、そうか。コイツの前ではキラに変装してたんだった。
「あぁ・・そうだ。」
そしてアーサーはそういえばと口に出した。
「アスラン様の婚約者も、アークエンジェルでしたね。」
婚約者・・・。
「凄いよなー、私の友達でもエターナルの奴と婚約してる子いるんだっ」
-------・・なんで、今此処で婚約者の事を言うんだコイツは。
そう、思って少しアーサーを睨みつける。
・・・ユラも・・何とも思って無いらしい。
「・・・・ユラ・・」
何だか悔しくて、少し怒って名前を呼んだ。
「なんだ?ご主人様」
「・・・・。最後に、命令していいか?」
ユラはニッコリと笑って何なりとと頭を下げて見せた。
「・・・名前で呼んでほしい。」
----・・馬鹿みたいだ。おそらくもう、逢う事もない子にこんな感情を抱くのは。
・・・なんだか・・ご主人様は、悲しそうに見えた。
「・・・、Thanks MyMaster.」
そう言って悲しそうなご主人様の頬にキスをした。
「たのしかったぞ、アスラン」
そう言うと、アスランは少し顔をゆがめる。
「・・・ユラ。」
ギュッと抱きしめられて、何だか泣き出しそうに思えて頭を撫でてやった。
「じゃあな、元気で」
そう言って、撫でていた手を離すとアスランは目を逸らして、俯いてしまう。
「・・・元気でいろよ、約束してくれ。」
そうして頭をポンポンと叩くと、「あぁ」と言われる。
「ユラこそ・・元気で」
やっと顔を上げてそう言われ、微笑んでザラ家を後にした。
ユラがいなくなった日の夜、ラクスから電話がかかってきた。
「もしもし?ラクスですわ---今お暇かでしょうか?」
そういつも通り可愛らしく尋ねられ「えぇ」と答えた。
「この間仰いました友達が、今日バイトを終えていらして・・・嫌がっていたのですが、やってみたらとても面白かったとっ」
電話越しで嬉しそうに声をあげるラクスは確かに可愛い。---・・だが・・。
「ですから・・私の不安事も無事なくなりまして・・よければどこかに遊びに行きませんこと?」
そう言われ「そうですね、どこにしますか?」と作業的に受け答える。
「レコード屋さん・・いきません?私お唄が大好きで・・。」
-----・・相反することにアスランは音楽は大の苦手だった。
「・・あ、はい。分かりました・・」
すこし曖昧に返事をした後、日時と場所を決めて電話を切った。
「はー。疲れた。」
基本的に人の前では壁を作る性格なのだろう。ラクスにはそれほど作っていないつもりだったのだが・・。
「ユラや・・キラに比べるとな・・。」
あの二人には素で話せるのに。
溜息を付き、でも---ラクスは嫌いになれない・・寧ろ好きだと言い聞かせた。
--------婚約者・・なんだから。
恐らく親に「嫌だ」と言えば無いことにはしてもらえるだろうが、そんな事を言うほど嫌いでも無い。
そしてキラに電話をかける。
「どーしたの?アスラン。」
「いや・・暇で・・・。」
「良く言うよ、この前僕がかけたとき速攻で切ったじゃない。」
あの時は・・ユラと話してたかったんだよ。
「悪い悪い・・今・・暇か?」
「ブッブー、生憎今僕はあの子と会ってるんだー」
あの子・・あぁ、変装して来た子か。
「泊り込みでバイトしててさ〜今日やっと会えたの、全く・・・それに泊り込み先で雇い主と仲良くなったーとか喜んでるし。」
キラ拗ねたように怒っていた。
「しかも聞いてよ、雇い主が同年齢だって・・・ったく自分の可愛さを自負してないよね!しかも誰だか教えてくれないし!!」
そうのろけを聞かされて、分かった分かったと答える。
「って訳で、今日はその子といるから忙しいんだ、ゴメンね。」
-----っていうか、今って夜だよな。
「あぁ・・じゃあな。」
キラももうそういう事する年齢なのか・・俺もだけど。
そしてごろんとクイーンベットに寝転がる。
「-----広い。」
それに、寒い。
枕に鼻を押し付けるとまだユラの匂いが残っていた。
「・・ユラ・・。」
--------きっともう、会う機会もないだろうけど・・けど。
「好き・・だ。」
確かに・・俺はユラに恋してた。
-------でも、手を出してはマズイ。それに俺にはラクスがいる。
そう、思って・・・当然だがあんなに一緒にいたのに指一つ・・ださなかった。
--------今思えば恨めしい。
はだけた肌も、金色の髪も・・琥珀色の目も・・・・きっと間近で見ることは二度とない。
たまたま・・見掛ける程度なら・・望めるかもしれないが。
深く溜息を付き、その枕を抱きしめて眠った。
「よかったですわね、カガリ」
そうラクスに言われ「うん」と笑った。
「今な、キラの家にいるんだっ」
キラと自分は戸籍上は従兄弟、じっさいは姉弟だった。
「あらっ・・そうですの?こんな夜更けに?」
「あぁ・・でも別に何もしないし。」
---できないし。
「そういえば・・婚約者・・・どうだ?上手くやってるか?」
「えぇ、今さっき連絡を差し上げて・・今度遊ぼうと言う話をしましたの。」
そう電話をしていると、ラクスは
「私、キラさんとお話してみたいですわ・・・・よろしいですか?」
「おう!!もちろんっキラには私の親友だって伝えておいてるし・・・」
そうしてキラに電話を代わった。
ラクス------・・、もしかしてアスランの婚約者の子だったりして。
そんなドッキリ的な事を考えて受話器に出た。
「もしもし、キラです・・ラクスさん?だよね」
「えぇ・・ラクスとおよびくださいな。」
-------・・もしかしたら・・ビンゴかも。アスランが言ってたような子。
「いつもカガリと仲良くしてくれてありがとう、僕からも礼を言うよ。」
そんな事を話していると、ラクスとキラの好きなミュージシャンが殆ど一致していることに気が付いた。
「しってる、そこ良いよねー・・なんていうかあの英語の歌詞が身にしみるっていうか・・」
「えぇ・・感動いたしますわ」
しみじみと話しているとカガリが「携帯代ヤバイ」と小声で言ってきたので謝ってカガリに代わった。
「キラ・・思っていた通りのほほんとしたいい方ですのね」
「まーキラは良い奴だな。でもラクスもいい人だっ」
「ありがとうございます、では・・携帯代やばいのでしょう。」
「げ・・聞こえてたか・・うんゴメンな。また今度」
そうして電話を切った。