「・・・・、」
目を覚まし、第一にしたことはやはり頬を触ることだった。
朝食堂につくと、その子は昨日と同様、足元まであるメイド服をきて「おはよう」と頭を下げた。
「おはよう。」
席に着き、朝なのでシェフとその金髪の子が見守る中一人で朝食を食べていた。
グゥ〜。
そう聞こえ音の発信源を見てしまう。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
-----どうやらあの子はお腹を空かしているらしい。
しかも鳴ったのがバレたと気が付いて顔は真っ赤だった。もちろん、俺は食事中という事を忘れて噴出して笑う。
「・・・す、スルーしてくれよ!恥ずかしいっ!!」
「わ・・悪い悪い・・・。」
だってあんまりにも申し訳なさそうに赤くするから・・・・。
「シェフ、朝ごはん・・一人前俺の向かいに持ってきてくれないか?」
そう頼み、まだ食べ終わらない朝食を他所に向かい側の席の椅子を引いた。
「・・・お腹すいてるんだろ?」
「・・だ・・だが・・。」
「いつも一人でご飯を食べるのは・・あまりいい気はしない。一緒に食べてくれないか?」
そう言って微笑むと、嬉しそうに微笑み返されてストンと今椅子を引いた席に座った。
「ありがとな」
「俺こそ・・」
本当に、毎日毎日一人でご飯を食べるのは本当に嫌になる・・。
しかも夕飯は使用人全てに囲まれて食べる・・なんだか監視されているようで少し嫌だ。
「・・夕食も一緒にどうだ?」
他の使用人は俺に気を使ってか話しかけても来ないが・・・この子なら平気だろう。
「え・・、いいのか?」
「君がよければ・・。」
食べながら、そう話していると・・琥珀色の瞳が何度か瞬いて
「・・・ホントはな、使用人ってご飯遅いだろ?だからいつもお腹すくんだ・・。」
ちょっと申し訳なさそうに言われて、でも・・それならなお更OKだよなと少し嬉しくなった。
「でも---私一人、・・なんだか他の皆に悪い。」
あぁ・・そうか、この子はそういう子だ。
「----大丈夫だろ、みんなここの生活に慣れている。君は・・新しく入ってきたばかりだから、俺から皆に言っておくよ。」
そう適当に理由を探す。他の使用人と一緒じゃ・・弾む会話も弾まない気がするし。
「・・本当か?皆・・大丈夫か?」
それならとその子は嬉しそうに頬を上げた。
「じゃあ・・一緒に食べる。」
ニカッと笑って嬉しそうにパンをほうばる姿は何とも幼くて可愛らしかった。
朝食が終わり、部屋を出ようとした時
「わぁッ」
ドテ・・。
そう音がして見れば、その子が自分のスカートに足を詰まらせて転んでいた。
「もう!だからドレスは嫌いなんだっ」
そう服に文句を言って立ち上がるとたまたま廊下にいたアーサーは笑い出した。
「今日・・何度目?」
「うぅ・・・十回・・くらい」
それを聞いて、アスランもアーサーも大爆笑する。
「し、仕方ないだろ!普段制服とズボンしかはかないんだからっ」
「--------アーサー、たしか膝丈のメイド服・・あったよな、それかしてやってくれないか?」
「わかりました。」
そうしてその子を見ると、ちょっと頬を膨らませていた。
「何だか・・結局私がご主人様に面倒見られてる気がする。」
-----そんな事、ないと思う。
「いや----なんだかんだ、君には世話になってる。」
頭を撫でると膨らませた頬を解いて下から瞳を覗きこまれて少しドキッとした。
「・・よし、これからも沢山世話するぞっ」
そう気張っているとアーサーにメイド服を届けられた。
「たぶん・・・これが一番この館で可愛いデザインの服だと思うよ。」
その服と中に着るワイシャツを二枚渡されて、その子は顔を歪めた。
「-------可愛いの・・似合わないから、一番地味なのがいい・・。」
確かに・・今着ているメイド服も他の人のと比べると少し・・飾り気が無い。
「似合うって、若いし・・可愛いし」
アーサーは何も考えず・・そんなセリフを吐けてすこし、羨ましい。
でも、アスランもこの子は可愛い服が似合うと思った。きっと着慣れていないだけで。
「・・・・絶対笑うことになるぞ、後で・・。」
三時になり、食堂から内線で電話がかかってきた。
『すいません、シェフが甘さ控えめのケーキ作ったんですが・・いりますか?』
食堂からの内線なのに、何故か相手はシェフではなくアーサーだった。
「・・・いや・・あるなら食べるが・・。」
『じゃ、運ばせますんで・・・色々楽しみに待っててください』
そしてプチッと内線は切れた。
「・・・?色々」
そうして少し待つと、部屋のドアがガチャンと開いた。
「持ってきたぞ・・。」
「・・・・・・・・・・。、どうも・・ありがとう。」
金髪を二つに束ねて、膝丈でフワリと広がる黒いスカート、レースの程よく付いたエプロン。
そこから出た足は筋肉質なのにスラッと細い。
少しその姿に見惚れて、こっちの方がやっぱり良いと思った。
「似合うな・・君。」
「嘘付け・・こんな可愛いの似合うわけないだろ?」
頬を膨らませてケーキを置き部屋か出て行こうとしたのを呼び止めた。
「なんで・・ケーキが二つあるんだ?」
「さぁ・・アーサーが二つ、いるだろうって。」
ちょっとご機嫌斜めなその子はそう言い残して去ろうとする。
「・・・俺は二つも食べられないからな・・・君はいるか?ケーキ」
クルッと直ぐに振り返り、嬉しそうに歩いてくる。
「・・・・・捨てるのは勿体無いからな。」
アスランの向かい側のソファーに腰を下ろして食べたさそうにケーキを見つめる。
しかも・・あらかじめホークは二本用意されていた。
--------・・アーサー・・・最初からこうするつもりだったのか。
何となく、その好意を頂戴する。この子と一緒にいるのは・・楽しい、そう感じている事にアーサーは気が付いているんだろう。
「付いてるぞ」
食べている途中、生クリームがその子の頬に付いて食べ終わっても気がつかなそうなので注意した。
「え・・何処だ?」
舌でペロッと唇の周りを一周させるが、落ちない。
「ほら・・、」
人差し指で頬と唇の境にあるクリームを拭うと、その子はちょっと頬を染めて
そして指先を舐められる。
「えっ」
舌の感覚に驚いて声をあげてしまった。
「私のクリームだ・・・私が食べる。」
どうやら、そうとうこのケーキが気に入ったらしく、ちょっと唇を尖らせてそう言葉に出した。
-----・・この子・・女という自覚が無いのだろうか・・。
考えて見れば初めからボーイの格好、食堂で寝る。メイド服を着たがらない・・・・、
それはこの子が中性的な事を意味していた。
だいたい・・昨日の頬にキスだって・・・・挨拶代わりなんだろうが、俺からしてみれば・・結構貴重なことで・・。
アスランも食べ終わるとその子は笑い声を上げた。
「お前・・・人のこと言えないじゃないかっ」
ひとしきり笑ってから、細い指が唇をなぞる。
人に唇を触られたのに、不思議と不快にはならない、寧ろ恥ずかしいくらいだ。
「ほら・・クリーム、お前にもついてる。」
人差し指で拭ってそれを見せられた。
「?お前食べなくて良いのか?こんな美味しいクリーム・・結構貴重だぞ?」
え・・。
女の子の指なんて・・・そう軽々しく舐めて良いものではない。
そう、考えていると"あーん"と言われた。
言われたとおりあけると、細い指が入ってきて舌にクリームを置く。
「美味いだろ!!」
まるで自分が作ったかのような言い方に笑いが零れた。
そして今更だが名前を聞いていないことに気が付く。
「・・・君、名前は?」
そう聞くと、その子は眉をまげて
「アーサー以外の使用人は名前を知らせちゃいけないんじゃなかったか?」
-----そういえば・・そんな決まりもあったきがする。
仲の良すぎる人間関係は、主従関係としては良い傾向ではないからだ。
「だが・・呼ぶとき、名前が無いと呼びにくい。」
夕食だって・・寝るときだって、会話ぐらいするだろうし。
「そーだなー、ユラ・・、うん。ユラって呼んでくれ」
実名ではない名前を出され少し悲しくなった。
「-----どうか、したのか?」
「・・いいや。」
・・・なんで悲しむ必要があるんだろう?
夜になり、ユラが部屋に帰ってきた。
夕食も共にとったが、やはりユラといるのは面白い。
「・・・ユラ・・もしかしていつもその服で寝てるのか?」
メイド服やボーイ服はピッチリとしたのが多い、つまり相当寝にくい。
「あぁ・・服ないし、仕方ない。」
それを聞き溜息を付いた。
「・・・これ、貸してやるよ。」
一着薄黄緑バスローブを貸すと、「ありがとう」と微笑まれる。
「・・・そうだ、思ったんだが・・・ベットとソファー交互にしないか?」
そう、提案したのはやはり・・女の子にはちゃんとした所に寝てほしかったからだった。
「え・・でも」
「命令」
そう口に出すと、ユラは頬を膨らませた。
そして昨日と同様に言い争う。
数分後ユラは思いがけない答えを出した。
「・・・あ!そっか、そうだよ!!二人でベットで寝れば良いんだよ!!」
---------はい?
「馬鹿だなー私たち、こんなでかいベットなんだから、二人でねたってぶつからないし・・問題無いよな!」
----いやいやいや・・大有りだろう。
「そうと決まれば・・ほら、ご主人様早く横になれ!」
----------何だか・・凄く誤解を招くような・・。
ガンと肩を押されパタンとベットに倒れてしまった。
「よし、私も寝るか」
そうアスランの上で馬乗りになっているユラは満足そうに笑う。
-----顔が・・近い・・。
「おやすみ、ご主人様」
昨日と同様に頬にキスをされて真っ赤になってしまうアスランに全く気が付かないユラはすぐに離れて隣でパタンと寝てしまう。
「・・・・・、て・・天然・・?」
寝ようとしてもバスローブのはだけたところから見える鎖骨や、細い二の腕。
それに寝返りを打つときに少し唸る声。
-----・・寝られる・・訳が無い。
だが、どうする訳でもないと自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせなんとか寝ることに成功した。