「ご主人様ッ」
そう言ってユラは度々俺の部屋に来ては気分転換をしないかと提案してくる。
「・・・・そうだな、----ちょっと・・区切り悪いから待っててくれないか?」
そう言うと、ユラはにっこり笑ってソファーに腰を下ろして待っていてくれる。
---------それがこの頃の日常。
「ユラは・・仕事、いいのか」
「アーサーがご主人様の気分転換に付き合うのも使用人の務めだって・・で、なんでだかしらないが私にいけって」
・・・なんだ、ユラが望んできているわけじゃないのか。
何をユラに期待しているのかは分からないが、少し的外れだと肩を下ろした。
「それに、私はご主人様と話すの好きだ。」
・・・---。ユラがそう思ってくれているなら・・少し嬉しい。
ソファーの上で二人並んで座っている時に見あげられると、顔が近い。
桜色の唇に目がいき、それを必死にずらす。
「どうかしたのか?」
「いや・・。」
そうご主人様はシュンとした顔になる。
・・・・?
悲しいときや泣きたい時、寝るときも・・自分とキラは決まって頬か顔の何処かにキスをする習慣があった。
でもそれは限られた人にしかし無い。というか出来ないし・・・。
不思議とご主人様には不快感を覚えず毎日寝る前は頬にキスをしていた。
「ご主人さま」
そう呼ぶと、少し儚げな翡翠の瞳が覗き込んでくる。
寝る前同様、頬に軽くキスをした。
「・・・ゆ・・ユラ。」
ちょっと赤くなるのを見るとやはり抵抗があるらしい。私とキラなんて顔色一つ変えずに出来る。
「何だか・・悲しそうだ。」
そう手を伸ばして頭を撫でてやる。ご主人様は参ったなと優しく微笑んでくれる。
--------・・この顔が、好きだ。
優しくて暖かくなる・・・この微笑み方がすき。
「私、ご主人様が好きだ」
「・・・え?」
「今の顔・・凄く暖かくて、好きだ」
なにか、励まさないとその崩れそうに優しい笑顔が保て無い気がして声に出して褒めた。
-------ご主人様がすき。
・・・・俺も・・ユラが好きだ。
だが次の言葉を聞いて脱力する。
・・・---でもユラがこの微笑み方が好きだと言うなら、いくらでも見せてやりたい。
「・・・俺もユラが好きだよ。」
そう微笑むとユラは"笑顔"だと受け取ってしまう。
「本当か?じゃ、沢山笑っててやるよ」
ユラの笑顔は好き。寝顔も・・・泣いた顔も・・。
「ちょっと・・外行かないか?こう部屋の中にいるのは身体に良くない気がするんだ」
そして手を繋ぎ外に行く。
小さい手。
外に出れば熱風が吹いてユラはアハハと笑う。
「冷房効きすぎて・・・部屋は少し寒いからな」
そして外の噴水の前にきてユラは芝生に寝転がった。
「水のあるところって・・・なんだか無条件で涼しく感じないか?」
グッと起き上がり"な?"と同意を求めらる。
髪に付いてしまった芝生の草を払ってやるとユラはくすぐったそうに目を細めて微笑んだ。
ユラの髪は・・・甘い痺れる匂いがすることに、少し気が付いていた。
「そうだな・・此処で少しのんびりするか。」
-------暑いところは嫌いだった。
・・でも
「寝転がるか?・・・膝なら貸すぞ?」
パンパンとメイド服に隠れた太ももを叩き、ドウゾといってくれるユラ。
「借りる。」
それだけ言ってユラの太ももに頭をおいた。
ユラは優しく髪を撫でて微笑んでくれている。
「ユラ・・・。」
「なんだ?」
「・・・・・、なんでもない。」
---------・・なんで、君が婚約者じゃなかったんだろう。
・・・・触れたくても・・触れられない。-------これ以上。
「何だか・・まだ---悲しそうだ。」
額に唇を近づけて軽く押し当てられる。
---俺からも・・ユラにキスがしたい。頬や額だけじゃなくて・・・・・。
でも・・---それは、ラクスを思うと・・・・どうしても出来ない。
----自分の中の道徳にも反する。
"好きだ"
そう・・言えたら-----良かったのに。