第五十二話:食べる




「-----アスラン?」
「なんだ?」
「・・・おはよ」
「おはよう。」

アスランの家より随分と小さいベットに身を寄せて起き上がると、入ってきた医者は困ったように笑った。









「・・・カガリ・・食べられるか?」

そう言って医者に言われたとおりに林檎を買ってきてカガリに差し出す。
"胃が縮小していますから・・急に重たいものは食べられませんよ。"

「・・・なんだかこの頃嫌に腹が減る。」

一日パン一つで生活するなど育ち盛りのアスランからは想像も出来ない事態だった。
けど・・カガリがそう言って食べたいと笑ってくれるとアスランも嬉しくて林檎を器用にむく。

「此処の食事・・異様に少なくてさぁ・・すぐお腹が減るんだ。」
「どれぐらい出るんだ?」
「・・ご飯と・・味噌汁と、あとおしんこぐらい。魚とかあってもいいよなぁ・・。」

-----見違えるほど、食べられるようになってるじゃないか。
そう笑みを零して向き終わった林檎を差し出し「あーん」と言うとカガリは怒ったように顔を膨らませる。

「病人扱いするなよっ!私は元気なんだ!!」
「・・、ふざけた愛情表現に気が付いて欲しいんだけどな-----。」

そしてもう一度「ほら」と言えば、その恥ずかしさに気が付いたカガリは頬を染めてしまう。

「一人部屋だからって・・っ恥ずかしい!」
「・・二人きりなんだし・・・・一応病人なんだから、甘えてくれていいし・・俺も嬉しい。」

そう微笑むとカガリはパカッと口を開けてパクリと食べてくれた。
もちろん、頬は真っ赤で。
緩やかに、着実に回復していくカガリをアスランは喜ばしい気持ちで見守っていた。





あれから一週間色々あったような気がする。
まず・・校長に呼び出しを喰らった。まぁ・・フェンスを壊したのは俺だが・・人を助けるなとでも?と尋ねると校長は何も言わなかった。
そして、何故か・・色々な人に注目される気がする。
此処に来る時もそうだが・・学校内でも、それに-------アークエンジェルの生徒からも。
いや・・前からアークエンジェルの女子には見られていたが・・この頃感じが変わった気がする・・。
そして、ディアッカに「伝説の男」とか呼ばれるし・・キラには「ただの馬鹿者だよ」と馬鹿にされた。

全く意味が分からない・・。

「そうだっ・・もうあと三日ぐらいで落ち着くから、学校に復帰していいって!寮にも戻れるんだっ」

そうやって・・微笑むカガリだけを楽しみにしているアスランに、少し自笑してしまった。

「・・・そうか、よかったな。」

でも・・正直こうやってのんびりと・・誰にも邪魔されず二人っきりでいられる空間がなくなるのは惜しい。





「・・・・・カガリ」

「ん?・・・・・・・っ・・。ん」


唇を重ねた懐かしい感覚に、アスランは嬉しくなってキスに没頭する。
カガリだ。
ちゅぅっと音を立てて下唇に吸い付いて口を開けるよう急かせばすぐに開き互いに舌を絡めあった。

「・・・愛してる。」

ごめんと、真面目に・・。カガリが平常な時に伝えたてはいなかった。
でも変わりに、今までにないくらい"愛してる"と口にしていた。
二度とはなれないように。
ずっと一緒にいられるように。

「・・・・恥ずかしい事・・よく言えるなお前・・」

頬を赤く染めて悪態を付きながらも小さく「私もだ」と答えてくれる、カガリが愛しくて堪らなかった。

「カガリ・・あと一週間ちょいで、俺の誕生日なんだ。」
「知ってるさ。」
「・・・・・・・二人っきりで、祝って欲しい。」

「・・・---分かった。キラには部屋開けてくれってお前から頼めよ。」
「・・わかってるよ。」

カガリの態度は相変わらず男っぽくて、以前の俺だったらすぐに傷つくようなことをスパスパ言うけど。
でも-----・・。
それでも離れていかないと、そう信頼をおいてもらえることがうれしかった。

「りんご・・美味しかったぞ・・----ありがとう。」

そう微笑んだカガリが可愛くて抱き寄せてそのまま幸せに浸った。











本当は嬉しくて・・でも、嬉しすぎて・・。
顔に出せないくらいの嬉しさもあるものだと思った。
愛してると口にしてくれる事も、キスしてくれることも・・--二人で祝いたいと言ってくれたのも。
でも、ミーアとの事・・・・・許してないからな。・・一応。
ミーアからアスランは嫉妬していただけだと聞いて・・心底嬉しかった。・・・けど・・。
その程度の想いだと勘違いされた事はおこってるんだからな。
アスラン以外・・・・選ぶはずがないのに。
そう見られたという事は・・・・・そう言う風な態度を、私はとっていたのだろうか?

でも・・・。

それでも、嫌だったんだ。

そんな・・・・

軽い思いで・・ずっと一緒にいたいなんて・・私は言わない。
アスランもそうだと思ってるから・・信用しているし・・、されていると・・思いたい。


「アスラン」
「・・?」
「・・これでも、少しまだ不機嫌なんだからな。」
「うん知ってる。」

ごめんと・・彼はまだ・・余り言ってくれていな気がする・・けど・・。

「・・・・俺のこと嫌い?」
「・・・お前・・馬鹿言うなよ。」

そう、私の気持ちを知っていて試すのも・・彼の軽い冗談だと思えるようになってきた。


「・・じゃあ好き?」
「・・・。」


当然だ馬鹿。
言おうと思ったけど、なんだか・・まだ、不機嫌な振りをしていたい。
・・・これでも・・あの時本当に嫌われたと思ったんだぞ。
もう二度と・・こうやっていられないと思ったんだぞ、私は・・。
・・・・・・・・それでも・・ずっと、好きで、愛しくて・・堪らなかったのに。













退院してから、学校へ向かうと・・・・-----なんだか凄い事になっていた。

「「カガリっ!!!」」

フレイとミリィに飛びつかれて、まるで護衛を受けるように校門から教室まで付かれてしまう。
だが・・いや、どう言うわけだかさっぱりなのだが、何だか嫌と言うほど視線は浴びるし・・それに三十人ほどから追いかけられた。

「・・何が・・どうなってるんだ?」

教室でやっとの思いでつくと、息切れ切れにミリィとフレイは説明してくれる。

「あんたとアスラン・・・・なんか愛の象徴扱いうけてんのよっ!あの日からアスランはずっとカガリのお見舞いにいってるし・・」

なんで・・そんな事皆知ってるのだろう・・。
そう軽く疑問を抱えていると、ミリィは携帯の動画を見せてくれた。
そこには、泥だらけのカガリを抱き上げて愛しいそうに見つめすぐに電話をかけるアスランの姿。
フェンスは破られていて、アスランがやったのかと驚く。

「で、あのアスランがあけた穴が・・観光地的な扱いに・・」
「・・それは・・また、大変だな。」

なんだか実感が持てず曖昧に態度をとると「他人事にしないっ、あんたの事よ!」と突っ込まれる。

「・・・・・なんだ・・じゃあ、あそこでもう・・一緒に昼食取れないのか・・-------」

折角の場所なのに。

「行けば良いじゃない?・・・そしたら、また噂酷くなりそうだけど。」

悪戯っぽく微笑むミリィにカガリも笑った。
そしてラクスが教室に入ってくる。

「何処行ってたんだ?」
「フェンスまで、キラにお弁当を届けてましたの。」

ああ、そういう場所にも使われるのか、あそこはとカガリは思った。

「へーじゃあ、こんど四対四で食べましょうよ?ミリィもディアッカとより戻した事だし。」
「そうねー、伝説のアスラン君もまじかで見てみたいしね。」
「普通だぞ?あいつ、」

そう話して、四人で笑う。








「アスランっ」
「カガリッ・・・」

そしてその穴の開いた場所でキュッと手を握ると、アスランは少し怪訝そうに後ろを見る。

「・・友達?」
「ん?イザークの彼女とディアッカの彼女とラクスだぞ?」

「--------・・本気でつれてきちゃったのか。」

「あれ?メールで送ったよな?」
「・・・・・(二人で食べたかったのに。)」


そう溜息を付いてから、校舎内で食事をするキラ達に電話をかけて四人でランチを取った。
集まる人々を完璧に無視して、皆で食べ物を広げる。

「おッ!キラお弁当か〜乙女だな。作るなんて・・あ、玉子焼きくれよ。」
「違うもんこれ、ラクスが作ってくれたんだもんッ・・---!駄目、箸つけないでよ!」

そうディアッカとキラのやり取りに、アスランはジッとカガリを見る。

「な・・なんだよ、----言っとくが上手くないぞ?料理・・」

イザークはどうやらねだっても駄目だと決まっているらしく何も言わず、フレイも「ラクスらしいわ」と微笑んでみていた。

「カガリが作ったものが食べたい。」
「・・ッ・・おまえなぁ・・」

そうして真っ赤になる二人を、ミリィは面白いと眺めてディアッカを見て溜息を付く。

「ミリィ・・俺の顔見て溜息付くなよ。」
「・・・アスラン君みたいな初々しさが欲しいわ・・ホント。」
「初々しい俺なんて・・気持ち悪くない?」
「そりゃそうだけどね・・」

その呆れ具合を見て、キラはピキンとくる。そうとう手が早いらしい・・ディアッカは、見た目どおり・・。
そして今見ていても、ディアッカはミリィの脚を撫でていて、ミリィは顔にパンチを食らわせていた。

「貴様・・TPOというものを考えて行動しろ。」
「・・・あら、イザーク。じゃあんたは此処で私に迫られても何もしないわけ?」
「・・・・・・・・・・・-----・・刺すぞ?」

恥ずかしそうに顔を染めてフレイを見るイザークは何だかアスランにとって新鮮で笑いたくなってしまう衝動を抑えていた。

「こう見ると・・みんなラブラブですのね」

微笑むラクスを見て、他の皆はその二人に注目する。
もう、これ以上ないほどピッタリとくっついているキラとラクスに他のものは「お前らが一番だよ」と思ってしまう。




「でもさぁ・・やっぱ、いつかはこの都合のいい穴も塞がれんのかな?」

そうディアッカが口にして、カガリはシュンとしてしまった。
せっかく・・皆で楽しく昼が過ごせると言うのに。

「----・・署名集めるか?アークエンジェルとエターナルで」

そうアスランは提案して、ラクスも「いいですわね」と手を叩いた。











そういえばと、カガリはチラリと自分の腕を見る。
この間・・契ってしまったブレスレットはもう無い。
そして・・シンに・・アスランに返すように頼んでしまった、大切なもの。

-----・・アスラン、怒ったかな?

お互い様だろうと思いながらも、やっぱり申し訳ない。こんど・・二人になったとき謝ろう。


































































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あとがき
はー、なんかハッピーです。
ついでに、次ラスト!!
2006.04.27