「・・・カガリが・・昼から戻らない・・っ?」
『ミーアさん・・ご存知ありませんか?』
息を呑んだ。
あの後・・・駆けて、どこに行ってしまったのだろう。
「いえ・・あの、知りません。」
『・・・そうですの・・。ありがとうございますわ。』
プチッと電話が途切れて、雨の降る街中で倒れそうな気分になった。
私のせいで・・また、何か・・・カガリに・・?
そして、思いついた人に連絡を入れる。
「アスラン・・っ・・あの・・」
「・・・・カガリが戻らない?」
そう電話で聞いて・・それでさっきからキラもそわそわしているのかと納得する。
閉門時間まで・・あと、五分。
戻らないなんて・・。
「キラ・・・なんで、俺に・・----・・。」
「・・・君が知ってるわけないとおもったから。」
つんけんとした態度・・見る限りじゃまだカガリとの事を許してはないらしい。
「カガリ・・今日傘も持ってないんだって。-------なんで、急に・・」
戻らないなんて。
キッと睨まれて、疑われているんだと気が付いた。
「・・・・・俺は・・何も知らないぞ。なにもしてない。」
「・・・・なら・・いいけど。」
そして黙り込んで、キラは口を開いた。
「今日ね、カガリのところにミーアって言う子が来たんだって。そしたら・・カガリ走りだして-----どこかに行っちゃったんだって。」
ミーア・・・の所?
何を聞いたんだろう?
そう考え出して、パッと答えが出た。
「・・・・・出かけてくる。」
「・・・-----・・行ってらっしゃい。」
「ああ。」
靴を履いて傘を持ってガッとベランダから雨の降る場所へと飛び出したアスランを見送った。
傘はささないまま、走ってどこかに消えていく。
「・・・・大丈夫かな・・カガリ。」
キラも・・本当の事を言えば飛び出して・・探しに行きたかった。
でも-----・・。
カガリが待っているのは・・キラじゃない。
シンでもレイでもない・・・。
アスランだから。
知っていた、シンは・・恋人でない。
言われたわけではないけど、でも。
いつだってカガリが見ているのは・・アスランだけだった。なのに・・。
それに気が付かず、傷つけた・・。
僕は・・君を許せない。
---------挙句の果て、カガリをボロボロにして。
僕の前じゃ・・・絶対、いちゃつかせないよ?本気で。
そう、二人が寄りを戻す前提で物を考え出した自分にキラは驚く。
・・・・・・・・だいたいね、カガリが一度選んだ人を手放すわけがないんだよ。
それは長年カガリと居合わせて、なおかつ記憶を共有するキラだからこそ分かる事だった。
エターナルの校門の鉄格子を飛び越えて、その場所に向かった。
昼・・・・カガリが行く所。
ミーアは・・恐らく真実を告げてくれたんだろう。
だから・・いなくなった。
----------・・俺と逢う為に。
雨でぐちゃぐちゃになった泥を蹴飛ばして、その場所に行く付く。
でも、そこには人がいなかった。
「・・・・・・・いない・・?」
絶対に・・此処だと思ったのに。
そして直ぐ嫌な考えが過ぎる。
嘘を・・言われたのだろうか、ミーアに・・・・。
付き合っていると、アスランとミーアが。
でも・・あの子はそういう事は・・しないはずだ。
そしてもう一つ、浮かぶ嫌な考え。
シンの・・所。
夜這い・・・でも・・していたら・・・-----・・?
そしてその考えも水滴を落とすように振った頭と同じように投げ捨てる。
カガリが必要としてくれているのは俺なんだ。
そうだと・・思いたい。
信じてあげられなくて・・傷つけたんだ。
----・・ここで、また・・カガリを疑ったりしない。
俺は・・・・カガリを・・信じる・・。
よく、ランチを一緒に食べたそのフェンスを歩いた。
結構長い・・。横三、四十メートル・・ある、そのフェンス。
そしていつも・・決まって一緒に食べる場所のフェンスに手を掛けた。
-------前は・・ここで手を組んだりしていたんだっけ・・。
酷く遠い記憶に感じる。
雨が・・ザーッと鳴り、そして暗い。
此処の・・こんな風景を見るのは初めてだ。
カガリといる時は・・決まって晴天で・・。
明るくて・・楽しかった記憶しかないから。
傘をささず、そのフェンスにおでこをつけた。
「-------・・カガリ・・っ」
呼べば・・来てくれる気がして、でも・・返事は無い。
そしてしゃがみ込んだ。
カガリ・・カガリ・・
君は今・・何処にいるんだ?
俺の・・傍に、いてくれているのだろうか?
-------・・見えないだけで、でも。
きっと・・・。
傍に居てくれている?
泣きたくて瞳に涙が溜まっていて・・誰が見ているわけでもないが伏せて考える。
此処以外に・・日常的にカガリと共に居る場所なんて・・そうない。
ザラ邸、プラント・・・でも、プラントは・・良い想い出ばかりとは・・いえない場所だ。
涙を擦ってパッと俯いたまま眼を開けた。
・・・・え?
見たのは、濡れた・・金髪。
「・・・ッカガリ!!!」
雨に濡れて泥が跳ねて・・それでも輝く金髪が見えた。
制服のまま、まるで・・死んでしまったように・・----・・。
倒れている。
「・・カガリッ・・---カガ・・ッ」
そのフェンスを何度も揺らして、それでも・・カガリは起き上がらない。
立ち上がり、神経を集中させた。
カッと眼を開いて、その金網を蹴り破る。
そして開いた穴から金網を素早く器用に解いて・・・アークエンジェルの敷地に入った。
「カガリっ・・・・」
ガッと抱き起こして肩を揺らす。
顔の一部にまで泥をかぶり、髪も・・もう殆ど泥まみれ制服も・・足も。
冷えた唇に耳を近づけると規則正しく・・でも極度に弱い呼吸が聞こえた。
「--------・・カガリ・・。」
ごめん
抱き上げて一歩踏み出すと、グチャッと何か踏んだ事に気が付いた。
「・・・・----おにぎり・・?」
"・・この頃、やっとパン一つ食べられるようになりましたの"
辺りを見渡せば、パンも・・口をつけていないペットボトルも転がっている。
一緒に食べようと・・想っていたのかもしれない。
----・・俺と。
そう考えると泣きそうで、何で気が付かなかったんだろうと情けなさでいっぱいになる。
一度だって、離れている間だって・・カガリは・・。
俺の事を想っていてくれたのに。
俺は・・
疑って・・ばかりだった。
傘をさして、校門へ向かう。
そして、キラとラクスとミーア・・あと救急車に連絡を入れた。
その光景を見た救急隊は驚いたと言う。
雨の中泥だらけの女の子を、大層綺麗な顔の男の子が・・
まるで、自分の姫のように抱きかかえていたと。
「・・・アスランっ」
「カガリは・・どうですのっ!」
病院に駆けてつけたキラとラクスはずぶ濡れのアスランをお構い無しにただ一人の心配をしていた。
「・・・カガリっ」
寝ているそのただ一人に対して二人は悲しそうなでも無事でよかったと言う顔をした。
「・・・倒れてたんだ、・・アークエンジェルで。」
手を握ったままカガリの金髪の髪を撫でてアスランは呟いた。
そして、、また・・夜の病棟に人が入ってくる。
「・・・・-----カガリっ」
シンと・・レイだった。
二人とも哀しそうに顔を歪めて、そして非難の目はアスランに向けられる。
「・・----・・あんた・・っ」
「・・・俺の事を・・待っていた・・。カガリは。」
俺だけを
俺が・・カガリだけを・・待ち望んでいたように。
同じように
自慢でもなんでもなかった。ただ・・
ただ--------なさけなくて
「--------・・・・・・時々・・一緒に昼を食べていた所で---・・倒れていた。」
シンはハッとしてカガリを見た。
あの場所だとシンでも分かる。
フェンス・・・・・-------カガリとはじめて会ったところ。
初めて・・見たカガリは小さく口にしていた。
"これ・・なくならないかな"
フェンスを見て・・ボソッと・・、
あそこは人通りが全くな居場所。
だから・・喧嘩とか・・そういう事に使われる場所だとばかり思っていた。
「・・・栄養出超・・ですか?」
「・・・ああ・・それも・・過度だそうだ。」
「---------・・カガリ・・体重が二ヶ月で10キロ落ちたと・・言ってましたから。」
その言葉、責める言葉にアスランはカガリの頬を触る。
ほっそりとした頬。
やっと温まりはじめた・・頬。
ガッと扉が開いてもう一人、入ってくる。
「カガリ・・っアスラン---カガリは・・?!カガリは大丈夫なの?!」
泣きそうな声・・そしてそこにいた誰とも眼をあわせずカガリに一直線に走ってくる。
「カガリ・・ッ・・---・・・・。」
無事であることを確認して感じた安心感、同時にこんな事にしてしまった自分への罪悪感。
一気に募って涙が出た。
そしてその様子を見たラクスは寄り添うようにその子を慰める。
「・・・・・この人・・っ----あんたの・・」
「・・・彼女は悪くない・・俺が馬鹿だっただけだ。」
しばらくして、キラは二人っきりにしてあげようと声を出した。
「・・・・僕は・・怒ってるからね、アスラン。」
そういい残して。
「・・・で、あんたは・・アスラン・ザラの何だったんだ?」
その刺す様な言い草にミーアは顔を潜めた。
「・・・・・貴方がシン?アスランね貴方にすっごーく嫉妬してたの。」
そう言うとレイは馬鹿馬鹿しいなと溜息を付いた。
「本当に怒ってたのよ、アスラン----・・私に頼むくらいなんだから。」
そう言うとキラは思い出したように手をぽんと付く。
「あー、君がディアッカの言ってた恋のキューピット?」
「ええ。」
そう話したところで駅に着き、ラクスは「なら一件落着ですわ」と笑い出した。
「あと・・カガリが元気になってくれれば・・それでオールオッケーですわね!」
そして男女別に歩き出す。
時計はもう零時をさしていた。
「もう・・帰られたほうが・・」
そう言って来る見回りの人を突き返すように睨み「まだいます」と告げ、カガリを見る。
腕には点滴が刺されて、医者曰く糖分を摂取させているらしい。
「カガリ」
俺がいないと・・駄目だから・・・・カガリは。
慢心でもなく、依存でもない。
・・・・それが当然。
そう・思える。
俺とカガリは一緒になるために生まれたんだと感じていた。
俺だけが・・カガリを望んでいたわけではない。
俺だけが、カガリがいなくなって駄目になるわけではない。
二人でいることが当然。
それがなくなるなんて・・有り得ない事だ。
だから・・。
片方が弱れば、補うのは当然の事。
少しずつ暖かくなるカガリの手を優しく握っていた。
そして、何分経ったか分からないくらいでキュッと握り返される。
「・・カガリ・・・」
「・・ぁ・・す・・---」
寝言・・うわ言・・どちらにせよ、カガリはアスランの名を呼んでいた。
「カガリ・・どうした?」
答えるように話し返すと、つぅっとカガリの涙が頬を伝う。
「・・・・アスラン・・来て・・くれたんだ-----」
「・・ずっと・・そばにいるから。俺は。」
そしてゆっくりとカガリの頬の雫をすくって、頭を撫でるとその手を追いかけるようにカガリは手を添えた。
「・・・-----アスラン?」
そうはっきりとした声がしてカガリはぱちっと琥珀色の瞳を覗かせる。
「・・・いるよ、そばに。」
そう声をかけると、ブチッと点滴の取れる音がして視界が金色の変わる。
細くなりすぎた腕が、首に巻きついてそしてこれでもかとギュッと締めていた。
「アスラン・・っ---アスラン・・ッ!!!!!!!」
叫びに近いその声に、アスランは泣きたくなって抱き返す。
「ごめん・・ごめんなカガリ。もう二度と・・あんな馬鹿みたいなことしないから・・。」
「・・キライになって・・置いていかれたと思ってたんだぞっ・・ッ!・・もう・・・----愛してくれないって・・っ」
「・・・俺はカガリがいないと凄く困る・・-------・・カガリしか愛せないから・・。」
「嫌いに・・私が・・ドロドロしてるから・・---アスランが・・誰かのところに・・ッ-----嫌で、ドロドロで・・」
支離滅裂に言葉を並べるが、言わんとしている事は理解できる。
「そんな・・ドロドロした自分・・アスランに吊りあわなくて・・ミーアの方が・・幸せに・・ッ・・良い子だからッ・・ミーアは私と違ってっ」
カタカタと震える肩を撫でて、本当に細くて角ばっていると感じた。
俺のせいだ。
俺が・・・・カガリをボロボロにした。
想われていないと勘違いして。
・・・・こんなに・・想ってくれているのに。
「でも・・でも・・きてほしくて・・ッ・・ドロドロだけど・・でもっでもっ私・・・・・・・・・アスランに・・そばに・・ッ」
座っているアスランの上に抱きつくように座り肩に顔を当てワンワンと泣き出すカガリを黙って抱きしめた。
そして・・暫くして、その泣き声が収まる頃、アスランは口を開く。
「・・・・愛してる。」
「・・----・・。」
「カガリだけ・・愛してるから。」
「・・あすらん・・・?」
顔を上げたカガリは眠たそうで、眼をとろんとさせながらも・・その言葉を聞いてくれている。
「・・また・・こんど言うから・・ちゃんと・・、今は寝よう?---眠たいだろ?カガリ」
「・・いい・・平気だから・・続けて・・・・・・」
「駄目だ・・ちゃんと言うから・・今は寝てくれ。」
「・・・・・・・・・・・・・アスランが一緒なら。」
「分かった。」
次の日の学校も気にならず、病院のベットで二人で寝息を立てた。