鏡で映ったのは、酷く、暗い顔だった。
どういう事だ?
そう何度も自分に問いかける。
・・・ミーアを・・選んでしまった?
私に飽きられた?
私だけを選んでくれない・・。
黒く、嫌な感情。
いつから・・?
あの・・フレイから見せてもらった動画・・。
ミーアからアスランに抱きついていた・・あれ、
あの時から、、二人はもう・・両思いだったのだろうか?
・・-----じゃあ・・私・・は?
・・・・・・・
アスランの何?
信じていた人に裏切られた。
そう・・感じた。
ずっと愛してるって
好きなのはカガリだけだって・・・
言ってたのに、
あんなに・・言ってたのに。
・・・・・・・そうやって、アスランは・・っ
・・裏切るのか・・・・・?
行く部屋もなくて洗濯機のある部屋にそのすすり泣きの音を消すように篭った。
好きなのに。
・・・また、離れていくのか?
アスランまで。
嫌だ、嫌だ・・・。
いかないで・・。
そう泣いて、ひとしきり泣いて、涙を拭った。
泣いて・・訴えれば、・・・・選んでもらえるだろうか?
・・・カガリが好きだと、言ってもらえるだろうか?
そう考えた途端、ミーアの幸せそうな顔が頭を過ぎった。
・・・フェアで、正面からぶつかってきてくれたミーア。
アスランが好きだといい・・でも妬んだりせずに接してくれるミーア。
・・なのに・・私はっ-------・・。
こんなに・・黒くて、ドロドロして・・暗い。
嫌だ。
こんな自分。
選んでもらえなくて・・当然だ。
誰よりも愛している人。
その人に・・・果たして・・自分は吊り合っていたのだろうか?
・・・・・自信を持って、恋人を・・名乗れたのだろうか?
優しい・・アスランを・・恋人に持った私は・・。
こんなドロドロの私が。
一緒に居て・・良いはずがないのかもしれない。
アスランを愛している。
だから
一番幸せに・・なってくれれば・・・・・・・
それが・・・綺麗な心の、私の・・考え。
だったら・・
最後まで・・綺麗な私でいたい。
ドロドロは・・嫌なんだ。
アスランに-------
こんな、無様なもの・・見せられるか。
そして決める。
私は・・二人の前では笑っていよう。
二人が・・気持ちよく・・、お互いに愛し合えれば本望じゃないか。
そうだ、・・そうだ。
きつく、心の中のパイプを閉めたような気分だった。
「カガリ〜食事の時間だぞ?」
そうアーサーに言われて、ないていたお陰でまだ、仕事が終わっていない事に気が付く。
「・・あ、仕事・・・まだ終わってなかった、後で行く。」
いっぱい泣いたのに、不思議とおなかは減らない。
心のパイプと共に・・閉めてしまったのかもしれない。
心の流れと・・一緒に。
そして、何事もないように笑った。
平気だった、もう心には何も染み込んでこない。
ただ・・明るく過ごせる。
だけど、食欲がまるでない。
次の日の朝、アスランに軽くじゃれられて・・いつもの事だと嬉しく思った矢先、弛んだようにジンと心が痛くなった。
「・・なんで?」
そう小さく呟いた事にアスランは気が付かない。
そして弛んだそれをもう一度きつく閉めた。
もう・・何も、考えたくない。
シーツの取り替え、また・・部屋には当然のようにミーアがいて・・。
ドバッと・・流れ出てしまった、感情があった。
抱きしめあう二人に。
アスランは・・どうして、私が居るのに・・ミーアと抱き合っているのだろう?
なんで・・ミーアが居るのに・・私に手を出すのだろう?
両方とも好きなのか?
そんな勝手・・アスランはしない。
・・・・---------知ってる、アスランは優しくて誠実な人だって。
なら・・。
---------・・抱いてくれたのは・・同情だったのかな?
アスランは知っていたはずだ。
毎度・・決まった時間に・・カガリがこうやってシーツを取替えに来る事。
・・知っていて・・ミーアを呼んだのだろう?
知っていて・・・・・・こんなもの、見せているのだろう?
つまり-----------・・。
間接的に、「好きなのはミーアだ」と・・伝えたかったんだろう?
哀しくて涙が溢れた。
そしてパッとミーアと目が合い、ミーアはバツが悪そうにアスランの胸へ顔を押し付ける。
・・ミーアも・・気を使ってくれているのか?
---------・・・私が・・、邪魔・・なのか・・。
ギィッと音を立てて扉を閉めた。
いらないのは・・・・私なのか。
なら。
寝るとき、ミーアに必死に謝られた。
・・・ミーアも・・アスランも・・優しいから。
恨みたい気持ちでいっぱいだったのが、その二人の優しさで消えていくのが分かる。
二人に・・こんなに迷惑をかけていた。
知らなかった。
二人の・・邪魔に、なっていたなんて。
---------ごめん。
謝りたくて、でも許せなかった。
朝、アーサーに言われてアスランを迎えに行くといつも通りキスをされる。
でも、心臓は鳴らなかった。
トクンと、音を立てるのを・・許さないように閉まったパイプ。
感情が、感覚が色あせたように感じる。
グレーでもない。
何も無い色。
何も・・・感じない。
空腹も、悲しみも・・・愛しさも。
感じない。
そして・・また、その日・・。シーツを取替えにアスランの部屋に入ろうとすると声が聞こえた。
「やっぱり・・良くないと思うの。」
ミーア・・。今日も・・やっぱりいるんだな、
「だって・・やっぱり・・・・カガリの事を考えると・・私・・」
そう涙声になったミーアにアスランは
「----・・・・そうだが、でも」
でも?
でも・・なんだろう。
悲しんでいる私より・・ミーアの方がずっと大切?
「・・・気が付いてると・・思うのカガリ・・でも・・カガリは優しいから・・言ってこないの。多分だけど・・」
その、一言カガリはなきそうになった。
やっぱり、私が邪魔なんだ。--------この二人の邪魔をしているんだ。私は。
「・・・その程度の想いだったのかな・・」
・・・・・・・そうかアスラン。
-----・・・そう、なんだな。
「違う、アスランが好きだから・・あの子はそうするの。」
そのミーアのカガリへのフォローと共に部屋に入った。
"私の事は気にするな"
そう、・・・・口にするのがやっとだった。
夕食の時間・・アーサーに話をつけてから荷物をまとめる為にアスランの部屋に向かう。
そして・・・懐かしむように見回した。
一緒にお茶をするテーブル。
アスランの作業台。
一緒に座るソファー。
・・・・将来を・・共有出来たと思い込んでいたベットも。
荷物をまとめて、直ぐにカーテンからソファーから・・何から何までに消臭剤をかけた。
そしてベットに行き端から端まで・・全部。
消すように。
あの愛しかった思い出と一緒に。
きっと、アスランはこのベットを・・ミーアの匂いで満たしたいはずだから。
甘くて女の子らしいあの、匂いで。
そして、ブレスレットを外す。
捨てていこうかと思った、ボロボロに切り裂いて。
でも・・・何だか・・申し訳ない。
-------過去の自分と過去のアスランに。
愛していた・・思いでは、嘘ではないはずだと思いたかったから。
そしてキラに逢い話していると、ボロボロと、零れるように感情が流れてきた。
閉じたパイプもゆっくりと開く。
汚い心も沢山流れてきて・・でも塞き止めた。
・・・・・・・・・一向に、食欲はない。
それはもう、何週間も続いた。
そして一週間後携帯の電源を入れると・・信じられないほどアスランからメールと着信が届いていた。
「あす・・ら・・」
ボトッと音を立てて汚い感情が流れるように胃から酸が逆流してくる。
なんで・・電話なんてよこすんだ。
もう恋人でもないのに。
心配なんていらないのに。
こんなに・・・・辛いのにっ---------・・。
大好きで大好きで・・堪らないのに。
なんで・・・・・・他に好きな人が居るのに、こうやってくるんだ・・?アスランは・・
まだ・・罪を感じているのだろうか?
いいのに、そんなの。
もう・・----関わって欲しくない、自分に。
ミーアと・・見えないどこかで、幸せになってくれれば・・いい、のに。
アスランへの思いを契るように、机においてあった赤いガラス細工の付いたネックレスを素手で契った。
飛び散る銀の場所をみてキラはビックリして拾い集める。
カタカタと震えて、手に残っているそれさえも床にたたきつけてその部屋を出て行く。
終わったんだ、もう。
終わった。
そうして部屋に戻れば丁寧に透明の袋に、ブレスレットだったものが入っていた。
「・・・----想うのは・・勝手だよ、カガリ。」
そのキラの言葉に涙を流して、おそらく消えることの無い想いを、大切に心の中にしまう。
「カガリ・・食べないの・・?今日も」
「・・・飴・・一つだけ舐めたから。」
「そう・・。」
食べたくない。
いらない。
何もいらない。
・・・・・・・
アスランだけ、欲しい。