第五話、使用人のお仕事




その日の夕食に、その金髪の髪の子は来なかった。
夕食、使用人のほぼ全てが食堂に集まり主人やその家族の世話をする。
晩餐会や・・多くの来客が来た時と同様に。

だが、あの子がこない。

「アーサー・・・・・えっと、新入りの子は?」
「さぁ・・多分まだ慣れない仕事で、今日の分が終わっていないのかもしれません。」
そうか・・。
何だか少し残念な気分の自分に驚く。
-----いたら、きっと面白いのに。





食べ終わり、部屋に向かおうとするとその金髪の子がアスラン部屋に入っていく姿が見えた。

「おいしょっと。」
シーツを持ち、主人の部屋へと入る。
--------案外、忙しいんだな・・使用人って。
今までのマーナやその他の侍女の気持ちが・・良く分かる。
周りに感謝しろ、そういう意味でお父様は私を此処に放り込んだのかもしれない。
泣きながら嫌々きたのだが・・こんなこと・・・経験してみないと中々その苦労は分からない。

パチンと電気をつけて、寝室に向かう。
「・・・よしっ!やるぞ!!」
クイーンベットのそれを見下ろし、それに似合っただけの大きさ・・つまり相当重いシーツを広げる。
「フワって・・やってみたいよな。」
なんだか昔ハイヅでみた光景が目に浮かんだ。
シーツがフワリと舞ってベットにかかればさぞ気持ちいいだろう。
何とか試みるものの、中々巧くいかない。
「・・・だって、、ハイヅはお爺さんと二人でやるんだもんなー・・私一人じゃ無理か。」

「----なに・・さっきから独り言、言ってるんだ?」

クククッと寝室のドアの前で笑っている人がいることに気が付き恥ずかしくなり振り返る。
「あ・・ご主人様か。」
「「か」って・・何だよ。」
笑いながらその綺麗な藍色の髪と優しい翡翠の瞳を持った人は近づいてきた。
---そう、そーいえば・・コイツ。たしかだけど・・キラと同室の奴だった。
さっき頭を下げた時、何処で逢った様な気がして思わず凝視していたのを思い出す。
「夕食・・今みんな使用人は食べてる・・君は行かなくて良いのか?」
「私は・・コレが終わったら行くつもりなんだ。」
シーツと、枕カバーも変えなくては。
「・・・・手伝ってやるから・・というか俺のベットだから、俺がやるのが本当は一番良いんだろうけど・・・」
そういわれて、少し憤慨した。

「だ・・駄目だっ!これは私の仕事・・・!お前は主人だから休んでてくれよ」

ガッと全ての布を引き寄せて持つと、苦笑される。
「一人じゃ、ふわっとしたの出来ないだろう?」
それも・・そうだが。
主人はちょっと躊躇っているカガリを見て笑った。
「---二人でやれば、きっと出来る。」
そうシーツを取られ、端を渡される。
「-------変な主人だな・・お前。」
「なら、君は変な使用人だな。」
---変か?私は
ちょっと考えているとまた笑われてしまった。


面白い子だと思った。
だって、「ふわっとしたのが出来る」と言うだけで、瞼を瞬かせ瞳は"やりたい"と訴える。
なのに、さっき口にした言葉が邪魔になって・・中々出来ない。
躊躇えば躊躇うほど、顔は「やりたい」と訴えているのが面白い。

「いっせーのーせッ」

そうして、バッとシーツをあげるとふわっと宙に舞い、ベットの上に静かに落ちた。
「わッ見たか!!出来たっ!!!」
そうきゃっきゃと喜んで楽しそうにベットの裾に布を入れ込んでいく。
「よかったな」
そう他人行儀でいうと、その子は唇を尖らせた。
「なんだ・・私だけ・・楽しいみたいだ。」
そしてシュンとして、枕カバーをはめ込んでいる。
さっきと打って変わり頬が膨らんでいて、さっきみたいに笑っていた方がいいのにと真剣に思った。
「・・・ごめん、そんなつもりじゃ・・。」
別に悪くも無いのに何となく謝ってしまう。
「---・・・・・ご主人様は悪くない・・ただ私が子供臭いだけだ。」
そう言うのに、どこかやはり怒っているように見えてならない。
「----俺は・・良いと思う、・・・俺もおもしろいと思った」
そういって見ると、その子はまた瞳を輝かせた。
「・・・迷惑と・・思われたのかと思った。」
そして嬉しそうに笑みを零す。
「私は今、ご主人様の使用人だからな、---主人を喜ばせるのが仕事の一環だとも思うんだ。」
ニカッと笑って、「だって折角働きに来て迷惑になってたら・・何の為に来たのか分かんないだろう」と言ってみせる。
「-----お前・・じゃなかった、ご主人様がそういってくれると私は嬉しいな。」
枕カバーも取替え終わり、スッと立ち上がって扉から出て行く。

「君・・・」
「え?」
金髪を振り返らせ、「どうかしたのか?」と顔で聞かれた。
「いや・・、なんでもない。」
「?」
別に話す用事もないのに話しかけてしまった。


「しっかし、変な人だなーあの主人は。」
だって、使用人に頭下げたぞ?
-----私は・・キサカ以外の使用人・・に入るのかキサカは、まぁいい。少なくともマーナや侍女には頭を下げた事は無いように思える。
変な人だが・・いい人だ。だって・・シーツ手伝ってくれたし。
そして食堂に入り、もう冷めた夕食を一人でとった。


「所で・・アーサー、私は何処で寝ればいいんだ?」
「え?」
--------部屋が・・ない。らしい。
「悪いね、ホント急だったから・・・。」
「いやお風呂に入れれば・・何でも良いよ。」
下着はちゃんとリュックに全部入ってるし服は借りられるし・・寝るところなんて、どうにでもなる。今夏で暑いし。
「じゃ、お休みアーサー」
そして、寝る場所を探す。結局第二食堂(行ってみればザラ家の団欒場所、第一食堂は皆で使う場所)の
暖炉の前、ふわふわのカーペットが敷いてある場所でリュックを枕にして寝ることにした。






「----------あれ?」
自室から機械いじりの息抜きに庭を見れば、またあの子がいて・・
ボーイの上着を脱ぎ、ワイシャツを捲りあげて、麦藁帽子をかぶって草むしりをしている。

-------こんな暑い中・・。

蝉はミンミン煩いし、暑すぎて少し遠くの風景は歪んで見えると言うのに・・。
「・・・・・大丈夫か?」
窓を開けて話しかけるとその子は振り向いて、手を振ってみせる。
「よっ!大丈夫に見えるか?相当暑いんだぞ!外は!!」
そう言う割には面白そうで、結構手際もいい。
「-----巧いんだな、草むしり。・・というか、機械があるはずだが・・・。」
その子はクッと上を向いて
「だって、こういうのは根から抜くのが一番良いんだっ機械じゃ刈り取るだけだろ?」
そしてまたその途方も無い作業を続けている。

「---------・・・手伝うぞ?」
「いいよ、お前・・いや、ご主人様も忙しそうだ。」

だが・・・はっきり言って、この量は厳しいだろう?
「・・・・手伝う。」
窓の外においてあるサンダルを履き、庭に出るとそれだけで立ちくらみが来そうだった。
「・・・案外しんどいぞ?草むしり。」
「-----それを君一人にやらせるのは申し訳ないだろう?」
炎天下、二人で黙々と作業をしていると・・流石に辛いと思ってしまった。
ポスッと音がして頭に麦藁帽子が被される。
「辛いだろうから・・使え。」
そう言われ、「でも・・それじゃ君が」と言うとその子は笑って
「知ってるか?金と藍色だと、光の吸収率が違うんだよ。」
だからやると言われて、なんだか申し訳ないのだが貸してもらうことにした。
日が暮れだし、アスランの部屋の前からは雑草と言う雑草は全てなくなった。
「ふー、一通り・・この部屋の前だけは綺麗になったなっ!」
二人とも汗だくで、顔を見合わせて笑った。

「久しぶりだな・・こんな肉体労働したのは」
「私もだ。」

二人で部屋に戻り、一度シャワーを浴びるように進める。
「入りたいのは山々なんだが・・・ワイシャツ二枚しか持ってなくてさ、昨日のは洗濯に出したから・・今日のコレしかないんだ。」
だから風呂に入っても直ぐ汗だくのものを着なければならないと、その子は苦笑してみせる。
「メイド服・・着れば良いじゃないか?」
そう進めるとその子は拒絶するように首を振った。
「嫌だっ!だって・・あんなふわっとしたスカート履けないっ似合わない!脚がスースーするし・・・。」
「・・だが、汗だくでいるよりはましだろう?-----似合うと思うぞ?」
その言葉を聞いてその子は笑い出した。
「いったな、後で見せてやるよメイド服!似合わなくて笑えてくるぞ、きっと」
そういい残し使用人用のシャワー室に駆けて行ってしまった。



夕食の時、その子はやっぱりまだ来てなくて・・・部屋にいるのかと思えば、シーツは既に綺麗に敷いてあった。
「後で・・見せてやるって、言ってたのにな。」
ボソッと言葉を吐きまた機械いじりに没頭する。
深夜を回り小腹が空いてきて、何か食べるものは無いかと食堂を訪れた。
第一食堂はシェフが使うから、料理場に鍵がかけられる。となれば行く先は第二食堂だった。
だが・・考えてみれば母もいないし・・果たして賞味期限が切れていないものがあるかという問題に直面するだろうな。
ボーっと考えて第二食堂に着くと、空気の抜けるような音が一定のペースで聞こえてきた。

「・・・ガス漏・・か?」

調理場に行ってガス栓を確かめる。どこも洩れてはいない。
「・・・?」
だが、未だに聞こえる。-----入り口の方が大きい音で聞こえたような・・・
そう思ってまた入り口に戻りちゃんと電気をつけた。

「・・・んっ・・・」

そう、人らしき声がしてビックリしてそこに向かう。
「え・・・・?」

真っ黒なドレスと白いエプロンに身を包んだ女の子が、丁度寝返りを打った。
「お・・お前っ!!何でこんなところに・・・!!」
何があったんだと急いで抱き上げると、薄っすらと目を明けて
「・・・此処、寝る場所だから・・・・気にするな。」
-------は?
「こんな所に女の子一人寝て良いわけが・・・」
目を擦ってパッチリと琥珀色の瞳を開く。
「だって・・部屋足りないんだ。仕方ないだろ?」
唇を尖らせて言ってまた眠たいのかスースー眠り出す。
「って・・おい!!」
仕方なくそのまま抱き上げて、歩いていると目を覚ましてきた。
「----何・・やってるんだ?・・お・・違った。ご主人様は」
「-----君を運んでいる・・・あんな場所で女の子を寝かせては置けない。」
「・・・ん。」
どうやら寝言に近かったらしくまた寝息が聞こえてきた。
自分の部屋に入り、ベットに寝かせる。
「・・・・・?ぅ・・ん?え・・」
少し気が付いて、その子は不思議そうに声をあげる。
そして俺はタオルケットを一枚取り、ソファーで寝ようとした。

「ちょ・・待て、私がソファー、お前がベット!!」

腕をグッと引っ張られて、寝室に引きずり込まれる。

「俺は男だから・・いいんだ。」
「駄目だ、それ以前にご主人様だ。」

ジリリと睨みあうと、琥珀色の瞳は「引かないからな」と訴えてきた。

「-------世の中にはレディーファーストってものがあるんだ。」
「私は今、お前を主人としてるんだ。それなのに、主人より良い場所で寝れるか。」

両者一歩も引かず、視線が交差する。しかも相手もグッと腕を掴んでソファーに行かせまいとしている。


「命令だ、お前はベットで寝てくれ。」


"命令"それは主従関係で最も意味を成す言葉だと理解していた。

「----聞けないっ」

だが眉を潜めて断られてしまう。
「-----主人の命令を聞くのが使用人の務めだろ?」
少し呆れて見ると、その子は瞳に涙を溜めていて、少しギョッとした。

「ならいいっ、出てく・・食堂で寝る。」
「おい・・馬鹿言うなっ!!」

スカートを揺らして走り去って行こうとした子の細い腕を捕まえて、怒鳴ってしまった。
「だって・・主人に迷惑かけられない、折角仕事してるんだから・・そんな当然の事ぐらい真っ当させろッ!!」
振りほどかれそうになる手首を離さず、その子の瞳を覗いた。
「----だって・・私ずっとずっと・・迷惑かけて・・・・・何の為に働いてるのか分からないじゃないかっ!」
きっと、シーツや草むしり・・それに今アスランが運んできたことを指しているんだろう。
「迷惑じゃない!あんな所で眠られる方が・・よっぽど心配になるだろう!!」
ビクッと身体を震わせて、その子は目から涙を流した。

---------・・少し強く言い過ぎただろうか・・・。

「・・・だってぇ・・」
空いている腕で涙を拭って、それでも涙は止まらないようだった。
「・・悪かった、怒鳴って・・・・・」
バツが悪くて謝ると首を横に振られる。
「・・・でも・・ベットは・・使ってくれ、じゃないと・・・私本当に立場無いから・・。」
泣いている子に頼まれては・・・とても嫌とは言えない。
「・・わかった・・・・・だから、泣き止めよ。」
ふっくらとした頬に手を当てて涙を拭って見せるとその子は微笑んでみせる。
「・・・。」
-----・・綺麗、可愛い。
その二つが頭を過ぎった。
「ありがとう、ご主人様」

ちゅ

「え・・・?」
今・・頬に・・・
「あっ悪い・・つい癖で・・・私、アメリカから帰ってきたばかりだから・・・。」

ちょっと申し訳なさそうに言われて、----こっちは、それどころじゃなくって・・・。


「お休み」



そしてまた綺麗に微笑んでその子はタオルケットを持ち、ソファーに向かった。


「・・・っ・・。」


思わず頬を押さえて、今の感覚はと確かめるようにさすってみる。



パッとガラスに映った顔を見ると、確かに・・頬が赤くなっていた。


































































+++++
あとがき
アスランカガリに侵食されるの巻き(笑)
ハ○ジじゃなくてハイヅにしてみてり・・・
カガリは天然キャラですので-------
・・・真面目にアスランが赤くなったりしてるのに気が付いていません。
2006.03.29