「・・・カガリの・・様子は?」
『少しずつ・・ですが、やっとパン一つ食べてくれるようになりましたの。』
一日での話だった。
「そうか・・-----少しでも良くなってくれて・・良かった。」
『・・---そうですわね。』
「すまない・・ラクスも」
『・・・・・まだ、怒ってますのよ・・私。』
「・・・本当に申し訳ない。」
『ですが・・アスランのカガリが心配だと言う心は・・理解していますもの。』
そしてプチッと電話は途切れた。
「・・・・・優しいね、ラクスは。」
隣で内容を聞いていたキラは溜息を付いてアスランを見る。
僕なら絶対教えないと顔を背けた。
あれから数週間・・カガリは何とか一日にパン一つ食べるようになったそうだ。
それに、ラクスはサプリメントを懸命に飲ませている。
大丈夫ではないが・・水で生活していた二週間に比べればずっと良い。
そしてラクスが言うに昼食の時間になると食べない事を悟られないようにフラフラと何処かへ一人で歩いていくらしい。
どこに?と聞いても答えないそうだ。
----・・その場所は・・なんとなく、あそこだと・・理解していた。
でも・・行こうとは思えなかった。
また・・喉にものが通らなくなったら?
吐き出してしまったら・・・。
そう思うと・・いけない。
「・・・・・・・何も感じないよな。」
金網フェンスに背を向けてよりかかる・・でも背中から感じる体温も・・存在も・・やっぱり無い。
「・・・・アスラン・・。」
声に出して・・名前を呼べば、抱きしめてくれるような気がして・・。
また、一緒に居られるような気がしていた。
馬鹿みたいに。
でも・・・考えるのは・・人の自由だと、思ってその空想に身を委ねた。
幸せだったんだ。あの時。
その瞬間は分からなかったけど、凄く満ち溢れていたんだ。
幸せが。
アスランと共に過ごした事が・・・。
アスランは・・今この感覚をミーアと共有しているのだろうか?
----哀しい。けど。
アスランが・・・幸せで居てくれれば・・本当になんでもいい。
予鈴がなって身体を持ち上げる。このごろ足がすかすかしてイマイチ立っていると言う感覚が無い。
それでも・・地面を踏んでいるのだから、歩けているんだろう。
メールを開けばシンから"クサナギ公園にきて"とメールが入っていた。
「・・・・どうした?シン?」
言ってしまえ。
そう心の中で、一人の自分が声をあげる。
そして直ぐに反論が起こった。
これ以上・・カガリに悩ませる種を作る気か?と。
「あの・・俺・・」
ごめん、カガリ。
君の事を・・・・本当に、守りたい。
恋人として。
「・・・・カガリのこと・・好きなんだ。-----恋人に、なってほしい。本当の・・」
そう言うとカガリは何も分からないようキョトンとしてしまう。
「・・・恋・・人・・。」
いなくなってしまうもの。
他の人を選んでしまうもの。
それを欲しいと望む・・シンが理解出来ない。
それに。
「・・・私の恋人は・・アスランだけだ。」
裏切るのも、
喜ばせてくれるのも。
それはアスランの特権。
「・・・・・・・・そ・・っか。ごめん・・そうだよな、」
そう言われてからカガリは改めて頭を回した。
好きといってくれて・・恋人になろうといってくれた相手。
その人に・・恋人役を・・頼んでしまった。
「・・ごめ・・ごめんシン・・まさか・・そんな風に見てくれていると思わなくて・・」
感情が戻ったように話し出すカガリ、でも本音はどう見ても前者だったのだろう。
そしてカガリは涙を流した。
「・・・でも、必要としてくれたのは・・嬉しい。答えてあげられない・・けど、嬉しいぞ。」
久しぶりに見た、その笑顔に正直シンは嬉しくなった。
これがカガリだ。
泣いているカガリを護る事は許されないけど・・でも。
「俺・・見守ってるから・・泣きたくなったら・・・頼っていいから・・。」
「うん・・ありがとう。」
泣きながらありがとうと声を出すカガリが眩しくて、やはりカガリ輝いているんだとおもえた。
「・・シンは・・優しいな。」
そう言って姉のように頭を撫でてくれるカガリが少し悔しかったけど。
でも・・・
不思議と・・悲しみは無い。
「・・・・・でも・・アスラン・ザラは許せない、・・カガリを泣かせるから。」
「・・・うん、でも・・シンもアスランも・・凄く優しいから、きっと・・」
"分かり合える"
「・・・カガリが言うなら・・そうなんだろうな。」
そしてギュッとカガリを抱きしめた。
「俺・・カガリのお陰で・・・女の子キライじゃなくなったし・・前より喧嘩しなくなったし・・」
そう続けるとカガリはうんうんと頷いてくれて背中を撫でてくれる。
「・・・俺は・・カガリがいてくれてよかった。」
恋は実らなかったけど。
ひっそりと・・想うのは・・できるから。
「・・・・ありがとう、私も・・シンが支えてくれて・・そうじゃなかったら今頃駄目だった・・から。」
ありがとう
お互いそう言って、シンはカガリを離した。
「・・・・・また・・友達で頻繁に遊んでも・・良いかな?」
「・・当たり前だ・・喜んで行く。」
「そう、よかった。」
クサナギ公園を後にしたカガリを目で追いながら、シンはスッキリとした顔をして見送る。
言い様の無い、喪失感は残ったけど。
でも・・
そこを埋めるように流れ込む新鮮な流れがあった。
カガリと逢った事で変わった。
大切に思うことを学んだ。
だから・・、大丈夫だ。
そしてシンが、金髪の恋人を作るのはもう少し・・先の話だった。
「・・お前は・・」
アスランは眼を貼るように相手を見つめる。
「・・・お話があってきました・・レイ・ザ・バレルです。」
そう言われて、次の日曜空いているかと尋ねられる。
「・・・一応。」
「付き合ってもらいたい・・場所があります。・・・少し遠出です。・・・お金は結構持ってきてください。」
そしてパッと部屋の前から姿を消した。
「待て・・レイっ」
「・・・・なにか?」
引き止めてどういう訳かと聞こうとすると一発。
ゴツンと音を立てて頭を殴られた。
「・・・・・・・・すいません、つい・手が勝手に脳の意思を尊重させました。」
「・・・ッ・・」
結構な痛さにズキズキさているとレイはアスランを睨んだ。
「・・・・・・・カガリの痛さはこんなものではありません。」
そう言ってレイは階段を下った。