第四十七話:偽彼氏




プラントで・・もう夏の新作も消えたメニューを淡々とした気持ちで眺めていた。




「・・ねぇ、アスラン。アイス食べよ。」
「・・キラ?」

どういう風の吹き回しだろうとアスランは考えたが大人しく従い、ついていく。

「夏の新作・・食べたかったなぁ・・。美味しそうだって、言ってたのに。」

その主語がカガリであることをあえてキラは口にしないがアスランには伝わっていた。
「・・・・そう、か。」
シンの元で・・カガリは今も元気にあの笑顔を振りまいているのかと思うと、心が痛んだ。
あの笑顔は・・俺のものなのに。
俺が傷つけたのだろうか?
あの・・ベットで見せた笑顔は・・もう、見れないのだろうか?

・・・・・・・嫌だ。

そんなの。
言えば・・分かってくれる。
戻ってきてくれる。
きっと・・







キラはアイスを注文しアスランはコーヒーを注文した。







「ごめんな・・シン。」
「いいって・・気にするなよカガリ。」

愛しい人が・・痩せ細っていくのが分かる。
着実にやせ腕、頬・・。腰周りも・・。
でも、あの太陽のような笑顔だけは健在で、それも・・・・雲に隠れているように見える。

「・・・ちゃんと食べてる?」
「うん、少しずつ・・入るようになってる。」

その分吐き出していることは黙っておいた。
そんな事・・一人にでも言えば・・いずれ全てアスランに伝わるような気がする。
それは駄目だ。
アスランは幸せにならないと。
・・・・・邪魔をしたりしちゃいけない。
だから・・頑張って元気になって・・。
大丈夫だと、見せなければならない。
プラントにカランと音を立てて入り、いると思った方向を見ないようにして席に着いた。
でないと・・吐いてしまいそうで。

「大丈夫?」
「あ・・ああっ!で、シン・・何頼む?」

あるかないか分からない元気を振り絞って声をあげた。
アスランに聞こえるように、元気な声。
もう、心配しなくて良いからと。
アスランはもう、とらわれる必要はないんだ。

「そうだなぁ・・バナナクリームかなぁ・・カガリは?」
「うーん、チョコチップ・・かな。やっぱり!」







入ってきた金髪を見つめて、大きな溜息が出た。
シンと・・歩いている、カガリなんて・・嫌だ。

「・・・・シンとカガリだね。」

知っているような口調に、アスランは少し怒りを感じざる終えない。

「知っててつれてきたのか?」
「だったら?」
「・・・キラお前っ」

俺の気を知ってのことか?

「・・・・そんなに気になるなら、話しかけてくればいいじゃない。・・・・・・・カガリは泣くよ?・・僕は怒る。」

けど止めない。
そうキラは続けた。

「君が良い人だってことは知ってるし・・カガリが君の事をキライになったとは思わない・・けどね、アスラン。」


"カガリはもう・・君の手の中に居ないんだよ。"


その一言が辛く刺さった。

「・・・・・・・泣かせると思う・・けど、謝らなきゃいけないんだ・・。----俺のせいだから、なお更・・。」
「そう、行ってらっしゃい。」

アスランが立ち上がろうとした瞬間、カガリが急に立ち上がりダッとトイレに駆けていってしまう。
仕方なく、トイレに向かおうとするとシンに見つかり止められてしまう。

「・・・・・・・・・なに、追いかけてるんですか?あんた・・っ!!」

胸倉をグッと掴まれて、シンを見下ろした。
今・・カガリはコイツの腕の中にいるのか?
笑って・・いるのだろうか、ちゃんと。
泣いていないだろうか?
俺のせいで・・。

「・・・-----・・酷い事をしたから、謝りたいだけだ。」

それだけ、と・・・そんなハズは無い。謝って、寄りを戻したい。
カガリなら・・それを許してくれる理解してくれる。
だから・・。

「・・・ふざけんなっ!!カガリは今あんたの名前聞いただけで吐くんだぞ!食べないし・・なのに胃液ばっか出して・・・」

シンの顔が悲痛に歪む、そして泣きそうな顔をした。

「あんたのせいだ!!------今何とか少しずつ食べられるようになってるのに・・なのにっ」

食べていない?
吐く?

「あんたがカガリの前に出たらっ・・また、何も食べられなくなっちゃうだろっ!!!!!!!」

泣きたかった。
あんなに嬉しそうに恋をしていたカガリが、あんなに楽しそうに頬を染めて・・アスラン・ザラの事を話していたカガリが・・
何も食べなくなって、やせて・・。
笑顔も・・曇る。頬も染まらない。
あんなに輝いていたカガリなのに。
あんたのせいで。

「あんたが・・カガリに酷い事するから・・ッ!!!」

そう怒鳴りあげた瞬間、シンはアスラン・ザラの後ろにその愛しい人の陰を見た。



泣いてる。



食べていない?吐き出す・・・?
大丈夫じゃない、カガリは・・どうしてしまったんだろう?

俺のせいで?


「シン・・もう・・やめてっ」

そう後ろを振り返ると、たった二週間、なのに酷く印象の違うカガリが目の前にいた。

「・・・・・・・カガリっ?!」

別人のようだった。
やせているとか・・そういうんじゃない。
存在が、見た目から受ける印象が・・。
まるで違う。

「・・ごめん・・っカガリ・・俺・・つい・・。」

シンは急いでカガリに駆け寄って頭を撫で抱きしめた。

「・・・アスランは・・悪くないから・・、お願いだから・・そんなに悪く言わないでぇ・・」

そう泣き出してアスランは何もいえなくなった。
俺のせいなのに。
俺のせいでカガリは食事もまともに取っていないのに。
なのに、俺の事を庇う。

「カガリ・・」

そう声を出すとシンは有り得ないものを見るように息を呑んでカガリの手を引いてその場から去ってしまう。

「・・シンっ!!!!」

そう声をあげても、シンは振り返らなかった。

「・・・・二人の分の会計、アスランお願いね。」

そうキラに渡されそれを払いプラントを出る。

「見たでしょ?あのカガリ。だいぶ・・良くなった。」

あれで・・良くなった?
そう思ってしまう。
全然良くない。・・・・・あんな、今にも倒れそうなのに。

「・・・・・あんな、状態にさせたのは・・誰だろうね。」

容赦なく責めてくれるキラのほうがずっとありがたく感じる。
・・・シンも・・責めてくれた。
でも

カガリは・・・・・・・・そんな、事はしない。


いっそ、怒ってくれた方が良かったのに。

「・・・大丈夫かな・・カガリ・・」
「・・・----俺のせいだ、俺が・・なんとかする。」
「・・・なんとかって・・どするの?君・・だって、カガリとの接点絶たれてるじゃない。」
「・・・・・・・・見つける。」
「そう、頑張って。」

冷たくも、気持ちの篭った言葉にアスランはなきそうになった。





「カガリ・・大丈夫だから、もう此処までくれば・・アイツは・・」

クサナギ公園まで走ってベンチに座らせる。そしてカガリを見ると嗚咽で喉がむせ返っていた。

「・・アスラン・・あすらんっ・・」

愛しく哀しく呼ばれる名は、シンではない。
それを酷く傷つきながらも、シンは撫でた。

「大丈夫・・カガリには俺が付いてるから・・」

俺がそばにいるから・・。
ギュッと抱きしめても、聞き取れる名はすべて"あすらん"だった。

「カガリ・・もう、カガリのアスランは・・いない。」

そう言い聞かせるように言うとカガリはハッと顔を上げる。

「・・・アスランはもう、カガリじゃない人を・・選んだんだ。」

だから・・

「カガリが望んでも・・もう、アスランは・・愛してくれない。・・いらないんだ。」

酷い言い方だと思った、けど・・シンだって、自分を頼って欲しかった。
もう、カガリを捨てた奴なんかに負けたくない。

俺が。
カガリを護る。

「いらないなんて・・ッ・・あすらんは・・あすらんは・・ッいわっない・・」

それでも縋るように呼ばれる名前、
シンは泣きたくなって、カガリを抱きしめて・・時間がたち止むのを待った。
一時間も経つ頃、カガリは泣きつかれて寝息を出していた。
もう泣く体力なんてないような身体で泣いて・・、起きている事なんて不可能だろうとシンは優しく抱きあげる。
今だけでも、恋人になりたい。
寝ている間だけでも。

ちゅっと音を立てて寝ているおでこにキスをする。

「・・・カガリ・・、俺・・アイツに負けないくらい・・カガリのこと愛してるよ?」

だから・・


「・・・・もう少し・・落ち着いたら、俺の事・・本当の恋人に・・してくれないか?」

聞こえないと知っても・・伝えたかった。

-----俺はカガリを必要としていると。


・・・あんな奴に・・執着する事はないと。

俺が・・誰よりも・・いっぱい愛してあげるから。



だから。




もう泣かないで。

































































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あとがき
シンが男前です。カガリ乙女チック!!
2006.04.23