第四十六話:嘔吐




「え・・、アスランと・・・・・別れた・・の?----カガリ・・。」
「ああ、別れた。」

そうあっけらかんとヤマト家に戻ってきたカガリから話を聞き驚いた。

「本当はアスハに戻ろうと思ったんだけど・・バイトするって言って出ちゃったから。」
「へぇ・・」

何でどうして、聞きたいことは山積だったがまずは黙ってカガリがいいたい事を言わせた。
「ミーアって知ってるか?ラクスにそっくりで・・それに、ラクスとは違うけど性格も良いんだ。」
どっかで聞いた名前だとボンヤリと思いながら、カガリの話を聞く。

「その子・・前からアスランが好きで・・。どうやらアスランもそうだったみたいで。気が付かなかった。」
「うん。」
「それに・・ほら、アスランもミーアも優しいから・・気使ってくれてて・・。私に悪いからって・・言ってた。」
「・・・カガリは・・どうしたいの?これから・・アスランとミーアの事・・」
「見守るさ。そりゃ」
「・・・・・アスランの事・・いいの?」
「・・・・・・・だって、」

初めて、言葉が詰まったカガリを覗き込めば瞳に沢山の涙を溜めていた。

「・・愛してる・・っ・・・だからッ・・幸せになってほしいんだ・・ッ-----!」

「・・本当に?」

泣きじゃくるカガリに間髪いれずに聞いたのは、カガリから愛してると言う言葉を聞いたからだった。

「・・・ほんとう・・にっ・・---二人が・・私に気負いしないで・・付き合ってくれたら・・一番・・良い・・。」

もう慣れた事だと、叫ぶ心に言い聞かせていた。
お母さんも・・そうだった。
必要として・・結局・・都合で要らなくなってしまったけど。
愛がなかったとは・・思わなかった。

アスランもそうだ。

愛がないとは思わない。
けど・・・・私と居ることが、幸せとは・・限らない。
だから・・。

手放して・・幸せになってくれるのなら、それでいい。



「カガリ・・・」

それに、・・・もしも・・そう自分を選んでくれても、カガリは納得いかない。
誰よりも、我が儘だと承知しているから・・。
私は・・私を永遠に愛してくれる人じゃないと・・一緒に居られない。
誰かもう一人と自分を選んでくれる人では・・満足できない。
そんな汚いのは嫌だ。


「・・・・・・・アスランからは・・出来れば何も聞かないで欲しい。・・アイツは悪くない。」

人の心なんて変わっていくものだ。
カガリだけ、止まったようにアスランを向いているだけで。
同じとは限らないから。

「でも----君を泣かせるような相手に・・僕は・・」
「いい、言わないで・・。アスランだって・・今までずっと・・気を使ってくれていたんだ・・」

幸せになるべき人を見つけたと言うのに。
私がその足を引っ張っていた。

「・・・・・じゃあ・・言わない。」
「アスランに・・此処にきたことも、伝えないでくれないか?」
「分かった。」

そしてほっそりとした身体に気が付きキラは眼を開いた。

「・・・カガリ・・ちゃんとご飯食べてた?」
「・・・此処三日水だけ。」
「・・・・・ちゃんと食べてよ・・?・・身体壊したら・・大変だから。」





「キラ・・カガリきていないか?」
『きてないけど?』
「そうか・・カガリが行きそうなところに・・心当たりは・・・。」

そう聞かれてキラはカガリを見るとカガリは口パクで「シンのところ」と答えた。




『シンじゃない?・・この頃仲良しだし・・・・』
「シン・・っ?また・・何で・・」
『・・・・・・・じゃあ切るね、』

アスランがシンの連絡先を知るはずもなく、無性に悔しい気持ちでいっぱいになった。
ミーアはそれを心配そうに見て、黙って・・・家を後にした。





結局、埒の明かないまま夏休みは終わる。






「・・・シンッ、レイっ!!お願いがあるんだ!!」

そうあと一日で夏休みが終わると言うときカガリはベランダから乗り込んできてイキナリ頭を下げた。

「ど・・どうしたんだ?カガリ」

シンはこの間の事を思い出して顔を赤く染めてしまう。恥ずかしかった本当に・・あれは。
でも・・・・嬉しくて・・。

「どっちか・・恋人の振り・・・してくれないか?」

その言葉にシンもレイも驚いた。
そしてもう一つ、頼まれる。





あれから・・カガリとは音信不通で・・ラクスに連絡してもラクスは取り次げないと言う。
怒って・・嫉妬したにしては度が強すぎる。

「・・カガリと何かあったのか?」

そうディアッカに言われて、こくんと頷くと「あーあ」と額を押さえられた。

「・・・カガリと?他の女の子との間違いじゃなくて?」

そう冷たくキラに言われて「何のことだ」と聞き返したくなるが・・そんな余力もない。
バスローブも・・ベットのにおいも無い。
カガリと一緒にいた証が・・消えてしまったように・・思える。
幸い、あの髪留めはミーアから返してもらい、それとあげる予定だった指輪も持ち歩いていた。
いつ、どこで会っても・・渡せるように。
ガラッと戸が開いて、出てきた奴にアスランは驚いて眼を張った。

「・・・シン?」

キラはシンを見て、シンはアスランを見る。

「・・・・これ、今度はもう"返さなくていい"そうですよ。」

そして出されたものは袋に入っていて・・でも、直ぐに何だったか分かった。

「・・・ブレス・・レット?」

契れて、でも赤い石が五つ残っていた、それにアスランは大きく眼を開く。

「それと、これは俺から。・・・・・もう、二度とカガリの前に姿を見せるな。・・・・・・・・カガリは貴方のものじゃありませんから。」

そう言うと、シンは去っていこうとするので状況が読み込めず質問を投げた。

「・・カガリは?」
「・・・・・俺の恋人に何か?」

恋人?

「・・・・・何・・わけの分からない事を・・」
「分からないのは構いませんよ、俺は。ただもう・・カガリは俺のものです。手出さないで下さい。」

そしてシンはキラの方を向き深く頭を下げた。

「・・・・妹さんは・・俺が幸せにします。・・だから、許してください義兄さん。」


にい・・さん?

パッとキラを見るとキラは不服そうに顔をゆがめたがパッとシンを見た。

「・・・僕は・・カガリを泣かせない人になら、・・任せるよ?」
「努力します。」
「・・・・・じゃあ、よろしくね。シン。」

シンが去った直後そのアメジストの目に見入る。

妹・・兄?

「・・・・血が・・繋がっていたのか・・・?」
「・・・・・あれ?カガリから・・聞いてなかったの?」

冷たくあしらわれて、アスランは視界が凍るのが分かった。
一言も・・聞いていない。
いや・・カガリの家の事情は・・殆どしらない。
アスハ家の子供で・・、母親が小さい頃なくなったとしか。
それしか・・知らない。

「・・・・・・・----ま、カガリがそうしたなら、僕は何も言わないけど。」

親友から出てくる言葉は、まるでアスランを拒絶するかのようだった。
その態度にアスランは機嫌を悪くするが、それ以上に引っかかる。

「・・・・・・・・・恋人って・・どういうことだ?」

俺がいながら・・なんでカガリはアイツを恋人にしたんだ?
その程度の想いだったのだろうか?
その程度の"ずっと一緒にいる"だったのだろうか?
不意にベットの中で幸せそうに笑うカガリが脳を過ぎった。

「なんで・・俺がいるのに・・っ」

「・・・・アスランと別れたって、カガリは言ってたよ。他に両想いの子がいるみたいだから・・私は良いって。」

「そんな人・・いるわけ・・!」


・・・・・・・・・・・・・ミーア?


ハッと手を口に当てた。カガリはアレを見ていたのだ、そして・・気にしていた。

「・・やっぱり、いるんだね。」
「違う・・あれは誤解だっ」
「・・誤解で、カガリを泣かせるんだ・・・・・君は。」
「キラッ?!」

分かってくれと言いたかったが、その浅はかな行動は決して・・褒められたものではない。
子供染みた嫉妬。
ただ・・カガリにも意識して欲しかっただけだった。
アスランが・・大切なんだと。
アスランがカガリが大切なように。


・・・・・・・まさか。

こんな事に・・カガリが・・別れると言い出すなんて・・夢にも思わなくて・・・。

「・・・君の弁解なんてどうでもいいんだよ、僕。ただ・・泣いているカガリにシンが必要なら、僕はシンを応援するから。」

その殺伐とした空気にイザークもディアッカも口を挟めずに黙ってしまう。








「・・・・カガリ・・やせた?」

そうミリィに尋ねられて「ダイエットに成功した」と笑って答える。
実際、あれから殆ど物が通らず体重は5kも減っていた。
ただでさえ太っているとは言いがたい、カガリが。

「でも・・少しやせすぎじゃない?アスラン寂しく思うわよ?彼女がこんな角ばってちゃ。」

その声にラクスはタブーだと人差し指を立ててフレイに見せた。

「あ・・、アスランか・・。もう別れたし、あいつが元気なら・・私はなんでもいいや。」
「それって・・もしかしてあんたが振られ・・」

そう声をあげたフレイの口をミリィとラクスは押さえ込む。

「・・うん、そう。----でも、哀しくないぞ・・私は。だから大丈夫だ。」

元気なく微笑まれて、フレイは何も言えなくなってしまう。
そしてその直後カガリはキモチワルイと言ってトイレに駆け込んだ。

「・・・八月の中間から・・ずっとあの調子だとキラから聞きましたの。」

その言葉にフレイもミリィも驚きを隠せない。

「・・ど・・どういう事よ?それ・・」
「アスランの話題・・思い出、着信、それに触れるとカガリは戻してしまいますのよ。・・・ただでさえ一食しかとらないのに。」
「・・・一食って・・・・・やばいんじゃ・・」
「はい・・。心配ですわ・・とても・・答えているように見えますもの。」

ラクスは深く哀しそうに溜息を付いて、不安の色を見せフレイもミリィも深刻に考えてしまう。









謝りたくなって、必死にカガリに電話をかけるが・・一度も出てもらえない。

仕方なくメールを送っても、返信は来ない。






トイレで、バイブが鳴るたびに戻す身体を押さえながら携帯を見ていた。
アスランから・・もう二十回目となる電話、そしてメール。
そして二十一回目となった嘔吐。
胃酸が逆流して歯を溶かしてしまうとまで思えた。
まだ・・私に・・何か負い目を感じているのだろうか?
そう思って、・・・もう平気だと見せてやらなければとシンとキラにメールを打つ。
そして、アスランにも・・メールの内容を確認せず、返信を打った。

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私はもうシンと付き合いだしたから・・。
もう、アスランとは関係ない人間だから。
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悪いんだけど・・今日、アスランとプラントに来てくれないか?
なんだか・・アイツまだ気に懸けてくれてるみたいで・・。
大丈夫だって所・・見せたいんだ。
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今日・・一緒にプラントいこう?
ちゃんと・・食べられるように頑張る・・から。
・・・アスランにも・・もう平気だって見せたいから。
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そう、アスランと三度打って・・また吐いた。
































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ごめんカガリ・・誤解なんだ。
ミーアとの事は・・ただ、少し・・シンとレイに嫉妬して・・。
カガリに・・俺を大切だと・・思って欲しくて・・。
甘えていた。すまない。
シンとキラから少しだけ聞いた。
恋人・・になったんだって?
勝手は・・承知している・・けど。
俺が好きなのはカガリだけだから・・。
戻ってきて欲しい。
謝るから。
二度とこんな馬鹿みたいなことしないから・・。
泣かせないから・・。
お願いだ。
俺を選んでくれないか?
俺は・・カガリじゃないと嫌なんだ。
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それを見ることなく、カガリは消去した。

































































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あとがき
ベリーシリアスです。メロンです(何ネタでしょう?)
ともかくシリアス、あー甘いのが書きたいのに。
これからシンとレイに動いてもらう予定ですが・・動くか不明です。
2006.04.23