朝起きて、とても・・食堂にいける気分ではなくて・・でも、カガリは迎えに来てくれた。
「行くぞ?ミーア、大丈夫か?」
「ええ・・大丈夫。」
引きつった笑顔で微笑んでカガリを見た。
「えっと・・アスラン起こした方が良いんじゃない?ほら・彼昨日も遅れてきたし・・」
「・・・ミーア行くか?」
「えっ?!・・カガリのお仕事でしょ?」
そう問うと、そうだなと曖昧に笑いアスランの部屋へと歩いていくカガリを見送った。
大丈夫だろうか・・カガリは。
そう不安になって、たまたま会ったアーサーに挨拶をする。
「・・あー、そういえばカガリ・・この頃食べてないんだよな・・・でもあんなに走ってまぁ・・。」
「そう・・なの?」
お喋るするのに夢中でまるで気が付かなかった。
「うーん、海に行って体調でも崩したのかなぁ。」
「・・・・そう、かもね。」
「・・・起きろっアスラン!朝ッ!」
「カガリ・・」
習慣で抱きしめて頬にキスをする。
「おはよ・・。カガリ。」
カガリは何も反応を示さず、キョトンとして微笑んだ。
「・・おきろよ、アスラン、」
「うん・・」
覚醒しない脳でカガリに触れるとカガリは嬉しそうに笑って、立ち上がる。
「ミーアが居るから、先行くな。」
「・・わかった。」
昨日先に行ってしまったのはミーアの為かと納得してアスランも食堂に向かった。
だが、そこにカガリの姿は無い。
「・・・カガリは?」
「今着て・・"お腹すいてないから"って言って・・どっか行きましたよ。」
「・・・・・-----珍しいな・・。」
風邪でも引いたのだろうか・・?シンの傍にいて移されたのかもしれない。
「・・・・熱でもあるのかもな」
「そうですねー、この前海いったばかりですし。」
その会話を聞きミーアはなんて鈍いのかしらと溜息を付く。
そして・・同時にどうしようと・・考えた。
一日中ボーッと考えて、すぐにその時間は訪れる。
「あの・・アスラン。」
その罪悪感に耐えられなくなってミーアは口を開いた。
アスランの部屋、いつも決まってカガリが来て・・アスランとじゃれる時間。
「・・・?」
「やっぱり・・良くないと思うの。」
嫉妬させるなんてと強調するように言うとアスランは困ってしまう。
「だって・・やっぱり・・・・カガリの事を考えると・・私・・」
「----・・・・そうだが、でも」
ここまできて、とアスランもいいたそうな顔をした。
「・・・気が付いてると・・思うのカガリ・・でも・・カガリは優しいから・・言ってこないの。多分だけど・・」
「・・・その程度の想いだったのかな・・」
そう自嘲交じりに呟くアスランにミーアは少し睨んでしまう。
「違う、アスランが好きだから・・あの子はそうするの。」
そう、話していると・・カガリはギィッと扉を開けて二人を見た。
「・・あ、気にするなよ、シーツ取替えに来ただけ・・」
パッと寝室に出向き、カガリは手際よくやってのけ出て行こうとするのをアスランは止めた。
「・・・なんで、何も聞かないんだ?」
嫉妬したくもならないのか?そうアスランはカガリに尋ねたつもりだった。
「-------・・お前は、私にどんな言葉を望んでいるんだ。」
そう冷たく切り返されて、アスランは言葉を失った。
嫉妬すらされないと、アスランは思ったから。
でも、ミーアは分かっていた。
違う、
カガリの言葉は・・そういう意味じゃない。
気が付いたら、涙が零れていた。
「・・?ミーア?」
「・・・ごめんなさいッ・・ごめんなさい・・・私・・・カガリッ・・・!!」
そう背を向けたカガリに言うとカガリは振り返り、笑う。
「・・なんでお前が謝るんだよ?・・・失礼だぞ?私に。」
"ごめん・・って言うのは、失礼か・・。"
そうカガリの言葉を思い出し、涙は加速した。
「・・・どうしたんだ・・?ミーア・・?」
アスランは良く分かっていないようでミーアに話しかける。
「・・・・だって、カガリが・・カガリ・・」
傷つけてしまった、嘘でもなんでも。
「・・?ああ、嫉妬しなかった事か?・・・・駆け引きに負けたかな。俺は。」
カガリらしいけどと続けるアスランを睨んだ。
「違う・・カガリ・・どうしよう・・・・私、」
でも・・それでもアスランがすきなの。
・・・・・・・けど、カガリも大切なの。
・・--------どうしよう。
弁解も出来ない。
そうしていると夕食の時間になってアスランとその場に向かった。
アーサーが珍しく来ていない、カガリも・・いなかった。
「・・二人は?」
他の使用人は頭を振り、十五分ほどしてアーサーが暗い顔で戻ってくる。
「・・・カガリを見なかったか?」
「み、見ていません。」
「・・・?」
顔に出やすいアーサーは何かを隠しているように見える。
「・・・・私・・夕食終わったら出るわ・・。もう、お礼はいいから・・カガリの事、宜しくね?」
コレしかいえない。
でも・・これが一番いいことだとミーアは思った。
「そうか、悪かったな付き合わせて・・」
結局カガリが来ないまま夕飯は終わりアスランは部屋に向かった。
戸を開き中に入ればいつもと何処か違うと眼を配らせる。
「・・・・・?」
ない。
「・・・・カガリ・・?」
荷物も、服も・・・バスローブさえない。
部屋も綺麗に掃除されていて・・ベットには消臭剤をかけたように匂いも消えていた。
廊下でカガリとすれ違い後ろめたさから眼を逸らすとカガリから声をかけてきてくれた。
「そういえば・・ミーアの誕生日は夏だったな。」
「え・・うん、そう・・だけど・・。」
「・・・これやるよ。」
パッと外されて束ねていた髪が落ちた。
「髪留め、案外使えるから・・」
微笑まれて、「うん」と答えるとカガリは嬉しそうに微笑んで歩いていってしまった。
直ぐにそれを頭に付ける。
「・・・本当にいくのか?カガリ・・」
「ああ、無理言ってすまない。でも学校で決められた二週間はちゃんとバイトしたし・・。」
何処となくアーサーはカガリの腕を見ていた、いつも着いているブレスレットが消えている。
「・・・・あの・・えっと、ブレスレットは・・?」
「ああ・・あれか。---どうしようかな。」
あげることも・・捨てることも・・・・・できない。
「・・・・でも、近いうちに手放すさ。」
じゃあ、そう夜の中に消えるカガリをアーサーは黙って見送った。
「ミーアっ」
「・・?」
「カガリ・・知らないか・・ッ?!」
「さぁ・・さっき廊下ですれ違ったけど・・?」
てっきりアスランの部屋にいるものだとばかり思っていた。
そして当のミーアは帰りの支度をしている最中で・・。
「・・・・・ミーア・・それ・・・?」
指差された髪留めを自慢するようにアスランに見せる。
「これ、カガリが誕生日プレゼントってくれたのよっ!可愛いでしょ!」
「・・・・・・・ッ」
アスランは息を呑んで、携帯を手にする。
「・・・・・っくそ、出ない・・」
「・・・どうかしたの?」
そう尋ねると翡翠の目はキッと睨んで直ぐに
「・・・・それは・・俺がカガリにあげたものだ。」
「え・・・」
パタンと手から荷物が落ちた。
夜の街を歩きながらタクシー乗り場へと足をせかした。
携帯で家のものを呼ぶのが早いのだが・・アスランやミーアから電話が掛かってきたら嫌だから電源を切っている。
二人がそういう関係だった事に・・気がつけなかった。
・・・・・・・私の努力が足りなかったのかもしれない。
シンを構った事に・・少なからずアスランは怒っていたし・・。
-----愛想つかされたんだろうな、私は。
でも、
ミーアと・・アスランなら・・・・・幸せになってくれる。
ミーアとも仲良くなれた・・、ミーアも幸せになってほしい人だ。
ならいいじゃないか。
心に蓋を閉めて、これからどうするかを考えていた。
アスランとミーアは私に・・罪を感じているようだった。
扉の前で聞いた会話、ミーアは何度も私に悪いと泣きそうな声で言ってくれていた。
アスランは・・"でも"と、・・・・・・・。
「要らない」
そう言われなかったことが唯一の救いだと思った。
そういわれたら・・流石に耐えられなくなってしまうから。
アスランの部屋に入り、自分との記憶を出来るだけ消せるように全てのものを消した。
私が使っていたコップも・・ベットについた匂いも。
でも・・まだ、ブレスレットだけ・・消せないでいる。
早く消して・・二人から私への罪悪感を捨てて欲しかった。
幸せならそれでいいから。
忘れてしまっても構わないから。
そう・・思える。
そう想えるほど・・アスランが愛しいから。
だから・・・。
もう、忘れて。
楽しかった記憶も
哀しかった記憶も
幸せに邪魔なら。
出会えた事も、無かった事にしていいから。