「じゃ、行ってくるなっ!」
「気をつけろよ・・カガリ、可愛いんだから。」
「可愛くないッ!!!」
玄関でそう会話をするとカガリははしって行ってしまう。
にしても・・本当に走るのが好きな子だと思って微笑みながら見送った。
待ち合わせの駅に着き、二人を待つ。
「カガリ〜!」
そうシンが手を振って、後ろからレイも走ってくる。
「すまない、おくれてしまって・・」
「いや、私も今来たところだから・・。」
そしてレイは呆れたようにシンを見てシンは気まずそうに頭をかく。
「さてはシンが遅れたな?」
「うん・・まぁそんなところ。」
そして浜辺に向かい、着替えてビーチに集合した。
青い空、青い海・・入道雲。本当に綺麗だった。
「遠出して、正解だったな。」
そうレイがその場を見渡し爽やかに笑う。
「あの辺じゃ何処も海汚いからなぁ・・。」
シンも嬉しそうに笑って、ビーチボールを膨らませていた。
カガリはその風景を見ながら、こんどアスランと来ようと思い笑う。
「どうした?」
「綺麗だな・・・本当に。」
ビーチサンダルを脱ぎ捨てて海に足を入れると冷たさで声が上がる。
「カガリー先ピーチバレーしようよ。」
シンがそういってボールを投げてきたので三人でまわして遊んだ。
カキ氷をたべているとレイは申し訳なさそうに口を開く。
「実は・・今日久々に海外から兄が帰って来るんだ、だから・・少し早く抜けさせてもらう。」
それを聞いて眼を輝かせたのはカガリだった。
「よかったなッ!!お兄さん帰ってくるのかっ!早く顔見せてやらないと・・」
血の繋がりがあるものと、一緒に居られるのは本当に嬉しい。それが・・・残った一人ならばなお更。
カガリにとってのキラのような存在、本当に大切な人。
「私にも姉弟がいてなっ!そいつと会う時私も楽しみで・・」
そう言うとシンは思い出したかのように手をぽんとたたく。
「あの人ッ!アスラン・ザラと一緒の部屋の・・」
そういえばこの間変装しているのを見られたんだと納得して、「そうそう」と答える。
「キラ・ヤマト先輩だな。確かに・・カガリと似ている。」
「あっ分かる、あの明るいところだろ!」
そう、話していると・・レイはハッとしてカガリを見た。
「・・・施設・・に、いなかったか?・・・キラ先輩と・・カガリ。」
急に思い出したように、その言葉にカガリは息を呑む。
施設。
キラとの楽しい思い出だけではない、暗い思い出お母さんに捨てられた思いでも色濃く残っている場所。
「施設・・?孤児院・・みたいなところ?」
シンの質問にレイは頷き、言葉を続ける。
「ああ・・、俺は兄が直ぐに働ける年齢になったから・・あまり長居しなかったが・・たしか・・」
「・・・・・いたぞ?・・五年間くらい・・」
苦いものを飲み込んで言葉を出した。懐かしい感覚よりも寂しい感覚が強い。
誰にも頼らないように、生活していけるようにスキルを叩き込まれた場所でもある。
その・・場所。
「・・・そうか、悪い・・嫌な記憶だな。」
レイは謝って、もう時間だとまだ昼になったばかりだと言うのに帰る支度をしてしまう。
「・・・、シン・・お前も早く帰れよ。」
そういい残したのをシンは悔しい気分で聞いていた。
・・・熱があるのだ、本当は。
レイは直ぐにいつもよりテンションの高いシンを不審に思ってそう尋ねてきて・・帰るように言われた。
でも・・折角カガリと海いけるのにと駄々をこねて、無理にでもきたのだ。
だから・・遅刻した。
「シン?・・・海入らないか?」
「え、あ、うん。入ろ!」
レイからはくれぐれも海には入るなと言われたが・・無理だと心の中で謝る。
そんな直ぐに悪化しないだろうと、多少高を括っていた。
そして改めてカガリの水着姿に惚れこむ。可愛い、可愛すぎる。
赤い水着はカガリの元気をさらに引き出すようで、それにたまたま持ってきたシンの赤い海パンとも色が一緒だ。
そして胸も、伸びる足も・・太陽と水でキラキラと輝いて見えて・・ドクドクと心臓が鳴る。
「シン?」
「いや・・その、綺麗だと思って。」
「そーだなー、あの入道雲とか特に凄いよな。」
カガリは自分の事だとは全く思わないらしくそういわれてシンは肩を下ろした。
でも・・その天然ささえ可愛く、愛しく思えて笑みがこぼれる。
そうして遊び、もう夕方になりあたりから人が消えてきた。
「帰るか?」
「分かった。」
そう話して海から上がろうとすると、浮力が抜けてドンドン足が重くなっていく。
「・・・?シン?」
「あ・・なんでもない。」
全然何でもなくない。やばい足は重いし・・頭もくらくらする。波に漂っていたせいだと思っていたのに。
海から出た瞬間、足が止まった。
「・・・・・どうした?-------・・顔・・青いっ」
急いで前を歩いていたカガリが駆け寄ってきて、倒れそうになるシンの身体を支える。
「・・ごめ・・・少し体調悪くて・・・」
そして意識が途絶えそうになりながらもカガリに支えられて海の家に寝かせてもらう。
「連れのにーちゃん、熱38℃もあるよ・・・、救急車呼ぶほどでもないが・・今から帰るのは辛いかもしれないな。」
「そうか・・あの、」
そう、シンの身体を気遣って、カガリは海の家の人に提案を持ちかけた。
「今日、一晩泊めてもらえないか?お金は私が払うから・・」
「・・・構わないが・・二階が空き家だ、・・お題は・・二人で6000でいいよ。」
「すまない・・」
そう深々と頭を下げてシンにシャワーを浴びせて、身体を拭いてやる。
「大丈夫か?服・・持ってきたから、着替えろよ。布団敷いておくから・・」
「ごめんカガリ・・・」
そう言ってシャワー室の扉を閉められシンは海パンを脱いで着替え出す。
そして何とか自力で二階に上がりカガリは買ってきたインスタントのおかゆに湯を注いで作ってくれていた。
「ちゃんと寝ろよ・・、薬・・解熱剤買ったから、明日までに少しでも熱冷まして・・帰れるようにしないと。」
そして携帯を出され家に電話するように言われて、電話をして寝転がった。
「・・あ、もしもし?アスラン?」
そう携帯に向かって話しているカガリを横目で見ていた。
どうやら・・アスラン・ザラと待ち合わせをしていたらしい。・・・・申し訳ない。
「友達が・・熱出しちゃって、帰れそうにないから海の家で・・」
そう説明をしている。
「・・あ、シン・・・ちゃんと寝てろって・・。」
そう電話の最中、自分の名前を出された。
「・・・・・・・・シン?」
その名前に焦ったのは言うまでもない真実だった。
『そうなんだ、シンが熱あるのに無理してきて・・レイは家の用事で途中で帰っちゃって・・』
「・・・なッ」
カッと頭に血が上る、信じられない。男と・・二人っきりで夜を明かすつもりか?それも・・シンと?
『・・・あ、おかゆできたから・・。食べれるか?・・指先震えてるじゃないか・・。』
「・・だめだ、カガリ・・帰ってこい!」
『何言ってるんだよ?!病人置いて・・帰れるか!ッあ!シン、零してる!食べさせてやるから、少し待ってろ!』
「カガリっ!!」
『悪いアスラン、そう言う訳で帰れそうにないんだ、ごめん。』
「待てカガリっ!」
『冷めちゃうだろ?おかゆ。』
そしてピッと切られてしまう。
その携帯を喪失感にかられた目で見下ろした。
「・・ほら、シン・・口開けろ。」
「ん・・」
嬉しいが・・恥ずかしい。そう思いながらシンはカガリに言われるまま口を開けて食べていた。
「熱いか?」
「少し・・」
「じゃ、冷ますから・・」
フーフーと息を駆けるのも可愛くて、もういろいろな意味で倒れそうだった。
こんな事、毎日カガリにしてもらえたら・・俺死んでもいい。
そう馬鹿みたいに考えて、カガリから食べさせてもらう。
「ちゃんと元気になれよ?・・ほら、」
「ありがとう。」
真っ赤になりながらも食べさせてもらうのは幸せで、なんだか夢心地だった。
ある程度間食して、解熱剤を飲み寝てしまう。
苛立っていて、携帯を壁に投げつけた。
そしてベットに倒れこむ。
「・・・・・・・・なんで・・」
カガリはそうなんだ?
分かっているのだろうか・・この俺の不安を。
「・・・---ッ・・」
泣きたい、俺以外の誰かにおかゆをすくって口に運ぶ姿を想像するだけでも寒気がする。
有り得ない、俺は・・カガリ以外には有り得ないのに。なんで君はそうなんだ?
いや、愛してくれるのは分かっている。ずっと一緒にいたいという言葉だって嘘じゃないと思っている。
けど、でも。
酷く、自信が無い。自分に。
何でも出来ると思っていた。
なのに・・・君の事になるとまるで弱気になってしまう。
こんな気持ちは嫌だ。
・・・・・・・・それに、シンはどう見たって・・カガリに気がある・・気が・・あるやつと・・----。
一夜を共に過ごすなんて・・熱があるとはいえ危険すぎる。
アスラン自身、身に覚えがあった。まだキラの彼女だと思い込んでいたとき、カガリを襲いたくて堪らなかった。
-------そんな気持ち。
一瞬、酷くシンにも同情する。シンの立場は・・まるであの時のアスランそのものだから。
でも・・、
カガリを渡すわけには行かない。
・・・・・俺は、カガリ以外なんて嫌だ。
そして、その怒りの矛先はカガリにも向いた。・・・大体友達と言えば、女友達だと思う。
なのに・・なんで今になるまで言わないんだ?カガリは・・
天然だと理解したうえで怒りがこみ上げた。
俺ばっかり・・カガリを求めて、俺ばっかり振り回されている。
--------・・カガリだって少し、困った方がいい。
子供の喧嘩のように、アスランはミーアに電話をかけた。