「カガリ・・さん。」
そう、尋ねてきた子に早々に喧嘩を売りそうになったのはフレイだった。
カガリとその子は場所を移し、また人のいないベランダへ行く。
「・・・・------・・どう、したんだ?」
教室に来た時・・正直、凍りついたような気分だった。
でも・・なんだか失礼だ、そんなの。ミーアはミーア・・例えアスランとどういう関係であろうと、彼女自身を知らないのに悪くも思えない。
「・・たって、あんなの・・出回っちゃ・・---私だってショックだもの。」
ポツンと出たミーアの正直な言葉に、カガリは何だか同類のよしみを感じてしまう。
俯いてそれでも・・何か、どうにかしたいと考える様。
「私も・・お前とアスランがベンチで・・っての見た・・けど。---まあそりゃ、ショックだよな。」
ミーアに負けないほど正直に出た言葉にミーアもきょとんとする。
「ごめん・・って言うのは、失礼か・・。でもな、やっぱり・・私はアスランが好きで恋人でいたいと思ってる。」
そのカガリの言い方が、どこかアスランに似ていてミーアは口を噤んでしまった。
不毛な想いだと知っている、でも・・けど。
「わ・・私だってっ!!・・・・・出来たら・・アスランと恋人になりたいし・・それにッ」
一番に、
思って欲しい。
誰よりも、大切だと言われたい。
私は・・もうそうなっても良いはず、だって・・ずっとずっと・・人の為に・・恋のキュービットだって・・
「・・・もし、アスランが・・そう・・選んだら、----それでも構わない・・・私は。」
一番に思われなくなってしまう事はとても哀しいけど。
今までの記憶が消えるわけじゃない。
・・・・・辛いけど。
「アスランが・・幸せな事が、一番嬉しい。」
だから、・・アスランがそうしたいのなら。私は・・退く。
"イラナイ"なんて、言われない。
・・・一番じゃなくても、きっと・・
いらない・・なんて言葉は絶対言わない。
だから・・大丈夫だ。
私は多分影からアスランを好きでいると思うけど。
愛してる気持ちは・・なくならないけど。
カガリの言葉にミーアは止まった。
何を言ってるのと。
幸せになりたい、・・・そう自然の欲求がないの?この人は。
おかしい・絶対。
それとも・・その程度の想いなの?
違う、そんなのアスランの話からだって・・この人の口調からだって考えられない、・・けど。
-------そういう、愛し方をする、・・・人が・・好きなのかな?アスランは・・。
「ミーア・・?大丈夫か?」
「・・・・・・・・大丈夫。」
泣きたくなってしまう。私・・このままじゃ勝ち目なんてないじゃない。
変わらないと。・・・・・革命的に。
お金で愛は買えないと、アスランが言っていた。
実際恋のキュービットだって・・お金を貰ってやっていたわけで・・。人の為も、大きかったけど。
それでも、あの時・・始めてあった時から・・---その意地の汚さには引かれてたし・・。
それが今になってとても不可解な事に思える。
有り得ない、お金で・・愛を、心をどうこうしてしまうなんて。
こんなの・・アスランにだって・・すいて貰える筈が無い。
「--------・・ごめんなさい、まだ・・同じ場所に上がれない。」
「?」
「でも・・いつか・・っ・・---ちゃんと・・!!」
"もう一回、告白するから・・っ"
そう意思を伝えると、カガリは「そうか」と真剣な顔で言って
「じゃあ・・私も・・、アスランに愛想付かされないようにしないとなっ」
驚くほど爽やかな。
その言葉を聞いた。
「・・・・・・・凄い、っていうのかなぁ・・。」
ミーアはぼうっと考えてそうカガリに対して思う。
普通・・彼氏になんて告白したら・・、私だったらただじゃ置かないし・・。
それに彼女じゃない子に抱きつかれたなんて・・絞め殺しもの・・よね?
なのに、カガリは・・・・そんな事、まったくないみたい。
執着が無い?違う。
大きな信頼を・・寄せているんだ。アスランに。
でも、それでもやっぱり不安定。
「そうとう・・女磨かないとなぁ・・」
スタイルには自信があった。
顔にも・・自信がある。
服のセンスも、唄も・・自信がある。
性格も・・まぁ悪くは無い。
けど・・
足りないものは、まだまだ・・山のようにある。
カガリは沢山持ち合わせて・・ミーアには乏しいもの。
目に見えないけど、沢山あるような気がする。
悪くない・・むしろ、フェアでいい子だと感じた。
ミーアとは・・もっとアスランの事も無しで出逢えていたら・・。きっと。
ミリィやフレイのように、仲良くなれたのに。
----・・遅くは無い。か。
折角・・出逢えたんだ、仲良くなりたいな。
そう感じていた。
でも、もし・・アスランがミーアを・・。
そう考えると胸が締め付けられそうで、でも・でもと自分を弁解する。
そして最後には"アスランだから、大丈夫だ"と言う、何とも不安定極まりない言葉で締めくくってしまう。
けど、
そのアスランだからがどれほど重要で、安心できるものか。
カガリは何となく理解していた。
そんな中。
****
こんど・・また、遊ばないか?
外で遊んで・・その後中で。
****
そのメールを見て無意識に頬が緩む。
****
可愛い服買ったんだっ!!
今度見せてやるよ!!
****
そう帰ってきたメールにアスランは嬉しくなった。
俺の為に・・・だよな?カガリ。
そしてその愛しいが止まらないアスランをイザークはキモチワルイと殴りつけた。
「・・・・そーいえば、・・何処までいったんだ?お前ら。」
その言葉に、昼食中のイザークとアスランは噴出す。
「貴様・・・馬鹿だろう。」
イザークは少し頬を染めながら下らないといいつつも頬を染める。
その顔に驚いたアスランは、思わず質問をしてしまった。
「ま・・まさか、・・・・-----」
そして全員を見ると、頷かれてしまった。
「え・・、まさか・・・まだ?アスラン」
キラは少し嬉しそうに質問をしてきて何だかムカつく。
「・・・・・奥手・・っぽいもんなぁ----お前。」
ディアッカは"本当に男か?"とまで聞いてきた。
「ま、・・貴様らしいし、アイツらしい付き合いだな。」
イザークだけ、少しまともな事を言ってくれて少し苛立ちが収まる。
だって・・カガリにそんな事したら・・----怒るだろうし・・、泣くだろうし・・。
でも・・---俺だって男な訳で・・。
「そういえば・・もうじき夏休みでしょ?またカガリはアスランの家に泊まりこみだねっ!」
「「また?」」
「そーそー、もう、夏休みと冬休みはずーっと同じベットで寝てるって・・カガリが。」
そしてその二人から非難の眼を浴びるのは当然アスランだった。
「・・・・・・・・お前・・中性?」
「・・意気地なしだな。」
「煩い・・っ」
仕方ないだろう?・・・・・恋人じゃなかったんだから。あの時は・・。
今だって・・・・・できるか物凄く・・自信がないけど・・・・。
「おしッ!!!じゃ、やるぞっビリヤード!!!」
そう張り切った声を聞いて、「初めてだって言ってたじゃないか」と微笑交じりに溜息を付いた。
「アスランが教えてくれるんだろ?じゃあ、問題なしだっ!」
そうして明るく笑うカガリに気を取られる。
今日のカガリの格好が、少し露出が激しい気もするが・・カガリらしくて。
それに、緑の服も・・ついているネックレスも似合っている。
「で?この棒で玉を突けば良いのか?」
「棒じゃなくて・・」
カガリの天然交じりの初心者発言に笑いながらも教えていた。
「もう少し、キューを下げた方がいいだろう。」
「えっ・・コレよりも?」
「上がりすぎだから・・。」
カガリの二の腕を少し触り、丁度いい位置に持ってくる。そして指を見るとさっき教えたのにもう形が崩れていた。
「指、間違ってる」
「えっ・・あ、本当だ。」
ちょっとオドオドして、でも自信有りげなカガリらしい眼でキューボールを睨んだ。
そして打つ、それはちゃんとその前方に合ったボールにぶつかり、カガリは「どうだっ」と眼を輝かせて見てくれる。
「初めてで、上出来だ。」
そう褒めるとカガリは嬉しそうにニッコリ笑い、もっと教えろと催促してくる。
色々教えていると、カガリは割と飲み込みが早いことに気が付いた。
「凄いな、ここまで出来るようになるなんて、思わなかった。」
「当然だっ、今度来たらゲームしようなっ!」
帰っている最中、カガリはさっきの事を思い出しては胸をバクバクと鳴らせていた。
教えてくれている時、無意識だろうが・・顔が近くて、耳に声が触れる。
時々触れる手もなんだか、外だと新鮮で・・嬉しさが増す。
それに・・あれはどう見ても・・恋人同士だった。
----それが、嬉しい。
「変装道具持ってきたんだろ?・・部屋いかないか?キラはまだ帰っていないだろうから・・」
「ああ、分かった。」
トイレで着替えてエターナルへと足を運ぶ。
「三時か〜まだまだいられるなっ」
折角シン達から選んでもらった服を着てたのに・・。
上から少し大きめのTシャツを着てズボンをはいてちゃ意味無いじゃないか。
そう思って、Tシャツとズボンに手を掛けるとアスランは少なからず驚いて見せて
「いや、ちょっと・・。暑いだけだ。」
そうだよな、とアスランは心の中で溜息を付いた。
ガッと豪快に脱ぐとまたさっきの服に戻る。
短い短パンから伸びた長い血行のいい足が綺麗で、腰も細いし肩も狭い。
いつも・・・この部屋ではカガリは男装しているから・・。
そう考えていると心臓が早くなることに気が付く。
やばい、
別に格好で左右されるとか・・そこまで愚かではないが・・・・。
でも、ここにはベットもあるし・・シャワーもあるんだ。
それに・・まだまだ、時間がある。
いける・・・か?
そう甘い事を考えて頬が緩みそうになるのを必至で止めてアスランはカガリを見た。
「?どうした?」
「・・・・・いや・・あの----、似合うなその服。」
それに、何処となくボディータッチの意も込めてネックレスに触り持ち上げる。
「これも・・あってるし-----」
カガリは嬉しそうに微笑んで「よかった」と笑う。
「私一人じゃ良くわかんなくてな、シンとレイに頼んで・・選んでもらったんだっ!」
その一言に、今もっていた甘い気分が酷く壊れる音がした。
「・・・・・・・・・なんで?」
「え?」
なんで?なんでって・・?
驚いたような、蔑んでいるような、・・怒っているような、そんな顔。
どうしたんだ?
ゆっくりと手が伸びてきて、二の腕をガッチリとつかまれる。
「アスラン?」
そして、抱き寄せられたと思うとすぐに手のひらが脚を撫でた。
「・・・・・・その・・ネックレスも?」
そう耳元で怒った様に言われて、カガリは少し焦りでも真実を答えた。
「いや・・これは、シンが服に合うって言って買ってくれて・・」
実際・・似合うと思うんだが・・。
「・・・・そう、か」
首筋に指先が触れてそのネックレスを床に落とされてしまい、カガリは驚いてアスランを見た。
「・・・?どう、したんだ?-------気分でも悪いのか?」
腰を抱かれているまま、アスランの頬に手を寄せて尋ねるとアスランは顔をしかめてしまう。
「・・・・機嫌・・が、悪い。」
やはり君は気が付かない。
俺一人・・・いつも、こうやって---君が誰かに取られるんじゃないか、奪われるんじゃないかと・・・・心配になっていて・・。
ミーアの時だって・・・君は、何も言ってこない。
-----俺を、どう思っているのだろうか?
好き?
恋人として。
「・・・・・キス・・して、くれないか?」
カガリから・・俺に。
そう言うとカガリはほほを真っ赤に染めて「出来ない」と示して見せた。
「・・・・嫌、だからか?」
「嫌じゃない・・けど、恥ずかしいし・・」
腕の中でワタワタと恥らう姿も可愛いけど・・でも、今は。
「・・・・して?」
確かめたい。
「・・・---アスラン・・?」
不思議そうに見あげられて、でもカガリははにかんで眼を逸らしてもう一度見あげて
恥ずかしそうに、俯いてしまう。
「・・嫌?」
「嫌じゃない」
「・・・・・・・俺の事嫌い?」
「そんな訳・・ないだろ?」
「じゃあ・・」
馬鹿みたいだ、こんなねだり方。
ただ、"シンとレイとどうなんだ?"も聞けない、
カガリから・・俺への愛を確かめたい。
「好きじゃない?」
そう告げるとカガリは、俯いていた顔を上げて「本当にどうしたんだ?」と疑問を投げてきた。
「・・・----機嫌が、悪い。から---・・ちょっと。」
ただ、キスしてくれればいい。・・・確かめられたら・・我が儘言わないから。
「・・眼・・閉じて、いてくれないか・・恥ずかしいから・・。」
そっと瞼が下りると、カガリの細い指がアスランの頬を触る。
そして、柔らかい感触が唇から脳に伝わった。
もっと、
そうねだる様にカガリの頭を押さえて、離れられないようにしてしまう。
カガリから・もっと、なにかして欲しい。
アスランからは動かない、それを不思議に思ったカガリは目を開けて瞬きをしてから少しだけ舌を出して疑問を投げた。
・・・・そういう事。
そう言うようにアスランは腰にかけた腕の力を強めて、カガリは赤くなりながらもアスランの口内に入る。
「・・っ・・ん・・ッ」
カガリから、舌を絡めて、カガリから吸い上げて。
初めての事にカガリは真っ赤になりながらも、必死にそうしていた。
苦しくなって開くのもカガリが先だったが、アスランはまだまだと頭を押さえる手を離さない。
「・・---〜〜〜ん・・」
苦しい・・
そう感じて、舌の動きを止める。もう無理だと、アスランにアピールするように。
けど、アスランは離してくれない。
ドンと一度、胸を叩いた。もう無理だって。そう思って、でも離さない。
グイグイと肩を両手で押して、やっと、離れてくれた。
「・・・・---・・」
「・・・・・?」
苦しがっているのは分かっていた、けど、まだ、あんなんじゃ足りない。
足らない、全然。怒りを静めるのにも、我が儘を押さえるのにも、
足りなすぎる。
なんで?
他の男に・・そういう事をさせるんだ?
分かっているのか?---------どれだけ、傷ついているのか。
分かるハズがない、分かっていたらこんな事、しない。カガリは・・。
「アスラン・・?」
「足りない」
カガリから俺だけに与えられる愛情が
「こ・これでも・・頑張ったんだぞっ?!」
潤んだ瞳も、真っ赤な頬も、可愛いけど・・。
「・・・・・・・足りないって、いってるんだ。」
「・・・----・・・・?」
「・・だから、もっと。」
「・・・・・・・お前・・どうした・・?」
「キスしてくれないか?」
「おい・・アスラン?!質問に・・」
「嫌?」
「聞いているのか?!」
「・・・・・嫌なのか?」
「だから、質問に・・っ」
「・・・そうか、嫌なら・・いい。」
パッと手を離す、そして急に距離を取った。
「・・・・・お前・ッ・・・アスラン?!!!」
「・・・・紅茶とココア、どっちがいい?」
「ココア・・って、違う!--お前らしくも無い・・どうしたんだよ?」
ココアを入れて、アスランの分のコーヒーも入れる。
カガリは近寄ってきて見あげて、琥珀色の目には疑問とアスランが映されていた。
「なあ・・アスランっ!答えろっ!!」
「・・俺からも、質問していいか?」
お盆に、今入れた飲み物を持ちテーブルに向かう。
「・・・・カガリは・・俺の事、どう想ってるんだ?」
「馬鹿か・・お前、そんなの・・」
そう言いかけてカガリは俯いてしまう。
「・・・・・・・・好きだ・・ぞ、・・大好きだ。」
「恋人として?」
「・・・・・・・当たり前だっ」
キッと睨みつけて、涙目になったカガリと、依然不機嫌なアスランの視線は交わっていた。
「・・言って、くれないか・・・・じゃないと、安心できない。」
「・・・・安心?」
「俺が不機嫌な理由。」
不安、・・なのだろうか・・?
何が?どうして・・?
「・・・・・・・愛してるぞ・・。アスラン。」
眼を逸らしてボソッと口にするとアスランはへそを曲げたように眉をしかめる。
「・・・は、恥ずかしいんだぞッ・・・言うのだって・・--・・アス・・。」
近寄ってきて、耳元で囁かれてしまう。
"ちゃんと、いってほしかった"
哀しそうな顔で。
「・・・・-----・・伝わらない・・のかなぁ・・・」
呟いてしまう。こんなに好きなのに、相手には欠片も通じない。
愛しているし・・ずっと、一緒にいたいと思っているのに
「愛してる・・--------から、ずっと・・私は・・---アスランだけ・・」
多少、消え入りそうな声だったのは・・やもえない。
けど・・本当だから、嘘じゃないから・・
「・・・・・・本当?」
「当たり前・・----ッ・・」
首筋に唇が当たり、直ぐに離して首筋に移り鈍い痛みと共に赤い痕ができた。
「・・・アスラン・・?」
「・・・・・・・・・愛してる、カガリ。」
耳元でも囁かれて、カガリからアスランの頭を抱きかかえた。
「・・・・私も・・だ。」
やっと大人しく収まって、顔を上げたアスランは・・いつも通りだった。
「・・我がままいって、ごめん」
「いい・・、たまになら・・聞く・・から、私も」
「・・・・・・ありがとう。」
優しく抱きしめられて、カガリも優しく抱き返す。
-------・・アスランだ。
そう、安心を感じた。
「そうだ・・アスラン・・あれ、ブレスレット。」
早く付けたい。
「・・・・あ・・あぁ、そうだった。」
勉強机の上にあるその赤いガラス細工の付いたブレスレットをアスランは器用にカガリにつけた。
「・・・・・これな、凄く大切なんだ。」
ブレスレットを見て微笑むカガリが可愛くて、そして視線が合う。
「・・・つけてるよな、お前も。」
抱きしめられた時の感触で分かる・・それにこの間からずっと付けてくれている事をカガリは知っていた。
「---ああ、カガリからもらった大切なものだからな・・」
「・・・-------・・うん。私も・・これ、アスランから貰ったから・・凄く大切だ。」
素直で可愛いカガリに、微笑めば微笑み返してくれる。
・・・・・こう、安心していられたら・・一番幸せなのに。
そう思った。