第三十七話:歯車に石




「・・・・ごめんなさい。」

そう、ミーアに言われて・・驚いてしまった。








ミーアは初めて異性が好きになった。
・・アスラン・ザラ。
夕食にも誘われて・・浮かれていた。けど・・
-----所詮は恋のキュービッドでしかない。
知っていた、けど・・浮かれていた。


「・・・え・・?食事・・女の子と?」
土日曜はエターナルもアークエンジェルも夕食が外食でもいい事になっていた。
・・そう、だからその時にミーアを誘ったのだ。ちゃんとお礼がしたかったから。

「・・ああ、カガリとの事・・気に懸けてくれた子だから。」

そう言って部屋を出て一階に下りると、運悪く・・だろうか、シン・・という少年と出くわした。



「「-----・・」」

お互い黙りあって、シンは口を開いた。

「今から・・夕食ですよ?・・・どこ出かけるんです?」
「お前には関係ないだろ?」

そう言うとシンは唇を尖らせて部屋に戻り、すぐ出てくる。

「・・・・・・・----・・カガリ?」

シンがひぱって来たのは男装したカガリで、少なからず驚いた。

「・・アスランっ!・・---どうしたんだシン?」

シンはフンと鼻を鳴らしてアスランを見て睨んだ。
「・・・---・・シンと・・一緒に居たのか?」
そう重く口を開けると、カガリは「ああ」と明るく答える。
「・・アスラン、忙しいんだろ?・・シンも呼び止めちゃ駄目じゃないかっ!」
シンはそのカガリにどもりながらも、アスランを見てカガリの手を取り部屋に戻ろうとするとカガリが声をあげた。

「アスランっ!暇になったら・・また、遊ぼうなっ!」


そう愛しいカガリは嬉しそうに笑って手を振ってくれて、アスランも頬が緩んだ。
ミーアとの・・事が終わったら、また頻繁に遊ぼう。
そうじゃないと・・シンやレイに妬いてしまう。

・・・気持ちがドロドロになってしまう。


--------やっぱり、カガリがいてくれないと。









そうスッキリとした気持ちになり足を急がせて夕食を待ち合わせた店に向かった。

「・・アスラーン!!」

大きく手を振ってミーアは駆け寄ってきてくれる。
「早く入りましょう?イタリア料理なんて久しぶりなのっ」
グッと腕を捕まれて、まぁいいかと思いながら店に入り向かい合って食事を取っていた。

「どう?彼女さんと・・」
「・・相変わらずだ、でもカガリは鈍感だから・・・・他の男の気持ちにも中々気が付かない。」
「よかった・・わね。」

そしてミーアはニッコリと微笑んで、食事を続けた。
食事が終わりデパートの外に出ると、ミーアは広場で静みたいと言ってきたのでベンチに腰掛ける。

「・・・今日は・・ありがとう、アスラン・・」
「いや・・俺からちゃんとお礼がしたかっただけだし・・」

そう言うとミーアは決心したように、声を出した。

「あ・・あのね、わ私!アスランの事・・好きなの!!」


・・・・。

好き?


好き・・好き



「えぇ!?」

「ゴメンナサイっ!!!!」


そして唐突に謝られる。

「分かってるの・・アスランが大切なのはカガリって人だって・・。でも想いを伝えないでいると・・引きずったり・・しちゃいそうで・・」
「え・・その・・えぇっと・・」

アスランも何だか申し訳ない気分になった。
・・・全く・・気がつかなかったし-------。

「・・・ごめんなさい。」

そう俯いてしまう女の子にアスランはどうして良いのか分からなかった。
カガリだったら・・肩を抱いて、頬にキスをして・・髪をなでて・・それから唇にもキスをすればいい・・けど。
----普通の女の子に・・どう、接すれば・・。

「・・すまない・・。俺には・・」

カガリが居るから。

「-------・・分かってる・・の。---だから・・ごめんなさい・・。」
驚かせてごめんなさい、そうミーアは頭を下げた。

「・・・---もし・・もしも・・だけど・・。カガリさんと・・別れたら・・待ってる・・。」

悪気なく言われた言葉にアスランは喉を詰まらせてしまう。
-----カガリと別れるなんて・・有り得ない。・・が・・
今此処で泣いている女の子に・・それを言ってはいけない。そんな気がした。


「・・・ごめん。」

何故かアスランも謝って、ミーアは顔を上げた。
「・・でも・・・・カガリさんも凄い人ね・・。こんなかっこいい人がいるのに・・他の男の子と遊べるなんて。」
意地悪い・・その言い方をアスランは快く思わなかった。
少なからず・・カガリを悪く言う者に共感は出来ないから・・でも。

「・・・・・-----・・初めてなの、依頼者を好きになったの。」

そしてミーアはガッとアスランに抱きついた。

「っ・・ミーア?」
「・・・・・・・・・・・・・今だけ・・今だけだから・・ね?」

縋るような声。---------・・突き放つわけにも・・いかない。
少なからず・・アスランに好意を持っている人間に・・冷たく出来ない。
そういう・・人間だとミーアも理解しての行動だった。
暫くするとミーアは離れて、涙を拭いて立ち上がる。

「・・・ごめんなさい、アスラン。でも・・覚えておいて、私は・・貴方が好きよ。」
「・・・。」

赤くなるわけでもないが、微妙な気分になった。
好きだとそう口に出来る子が凄いと思った。
カガリも・・恋人になる前はよく言ってくれていたけど・・今は・・余り言わない。

「・・・じゃあね、今日は楽しかった。」

そうシャンとしてミーアは走っていってしまう。

「・・・・暇があったら・・また、遊んでねっ!アスランっ!!」

そう大声を出して。














「・・・ラクスと・・アスランが付き合ってる・・?」
そう噂が流れ出すのも・・・当然の事だった。
「・・・私・・そんな覚え、ないのですが・・」
ラクスは首を捻って、カガリには思い当たる節があった。
「そう・・いえば、アスラン・・・ラクスとそっくりな子と・・一緒にプラントでアイス食べてたけど・・」
フレイはパカッと携帯を開け動画を見せてくれる。

「暗くて良く分からないけど・・・、ほら。」

噂で流れてきたらしいそれは、確かにアスランで・・相手の子も・・おそらくあの一緒にいた子だろう。

・・でも・・嘘・・。
だって・・抱きつかれてる・・・・アスラン。
嘘だ。

そう簡単にその画像を否定した。

「・・・アスランに限って・・あるわけないだろ。そんな事。」

驚くほどきっぱりと声が出てミリィは逆に心配そうな顔をした。

「・・・----・・カガリ・・?」
「だって、アスランだぞ・・?有り得ないだろ・・。普通・・。」

あるはずが無い。








「レイ・・コレ見てみろよ!!!!」

シンはガッと携帯をあけて動画をレイに見せた。

「これ・・ほら、あの時一緒に居たラクスさんにそっくりな人・・っ・・。抱きついてるぞ!!」
「シン・・?」

いつになく熱いシンにレイは眼を見張ったが直ぐに表情を崩して、

「・・・シン・・カガリのこと・・好きなんだな、女性として。」
「えっ・・!!」

言われたシンは逆に驚いてしまう。
女性として・・?
確かに・・姉でもないと・・感じていたけど・・。

「・・・シンは・・どう、したい?-----カガリのために。」
「・・・・真実をアイツに吐かせてやるっ!!・・・カガリを捨てるなんて有り得ない!!!」

でも・・・・もし。
別れたら・・。
そう頭に過ぎった。













廊下を歩いていると、髪をお下げにした子に出くわした。
ピンクの髪、めがねを・・かけているが・・・

「・・・・・・・・・・カガリ・・さん?」

そう口にしたのは、相手から・・だった。
そして共に人気の無いベランダへ行く。
「カガリ・ユラ・アスハさんですよね?アスランから話は聞いてます。」

この人にあって・・どうしたいんだろう?
ミーアは自分自身に投げかける。

「えっと・・アスランと一緒にいた人・・だよな、名前は?」
「ミーア・キャンベル・・高一よ。」
「そっか・・、そうだ・・アスランなんで忙しかったんだ?・・・・その、疑うわけじゃ・・ないんだが・・。」

パッと眼を逸らしてしまうその人が可愛くて、アスランはこういう子がすきなのかと納得していた。
でも・・・・。

「・・あのね、カガリさんには・・申し訳ないんだけど・・。私・・アスランの事・・好き・・なの。」

それを・・言ってしまうのは卑怯だとも思った、でも。
「・・本当に・・好きなの。----・・・・。」
言わない方が、何だか嫌な感じ。

「・・・・・・・そ、そう・・。----そう、だよな・・アスランかっこいいし・・。」

引きつった笑顔を向けてくる、カガリさんが少し痛く見えたけど・・でも。

「・・負けたくない。」

宣戦布告。

「・・-------・・・・。」

カガリさんは黙って、コクンと頷いただけだった。

















申し訳・・ない。けど、いつだってアスランの心を支配するカガリさんを・・良く想えるはずもなくて。
一週間ほど・・傍に居たけど・・相当いい人で。


・・・自分のものに・・なってほしかった。










-------・・どう、し、よう。

そう頭をグルグルとその文字が回った。

・・・・アスランが・・ミーアと一緒に居る時の方が・・楽しかったら・・どうしよう。



・・また・・


置いていかれるの?




私は










いらないと









前の・・お母さんのように、徐々に・・微かに前触れを残して・・離れて・・最後に「いらない」と


・・・・・・・・・・・・・・・・。





アスランは・・そんな事・・しないよな。



気持ちを持ち直して、パンと頬を叩いた。









・・大丈夫。大丈夫だから。




そう自分に言い聞かせた。

































































+++++
あとがき
ミーアは割りといい子設定です。
本編のミーアらしさを尊重したかった・・(汗)
2006.04.16