第三十二話:なくす




「あれ・・・っ」




ない。










ないっ!
ないないないっ!!



右腕にも、左腕にも・・ないっ!!!!!




「どうしましたの?カガリ」
「ブレスレットが・・ない・・ッ」

アスランがくれた・・あの、ブレスレットが。
そして朝までラクスと共に部屋をひっくり返す。
が・・・




「・・彼氏からのプレゼント・・なくしたぁ?」
そうフレイは声をあげてすぐケロッとした声をに変わった。

「・・いーじゃない、別に・・部屋においてあるって言えば。」

それを聞きラクスは、カガリは毎日ソレをつけて歩いていたとフレイに教える。

「・・でも、カガリの彼氏・・アスラン?だっけ、・・・はなし聞いてると・・そんな事で怒るような人じゃないわよ?」
「・・でも・・なんか、折角・・・・----・・くれたのに、申し訳ない。」
「アスランですもの、許してくださいますわ、きっと。」

そう、皆に励まされる・・けど。

--------大切な・・もの、だから。

あの・・ブレスレットは。


壊れそうになって、アスランを信じられなくなって・・それでもすがりついたモノだから。



--------・・・・ないと、困る。













「・・・あれ?」

そう、シンは光るものを発見した。
「-------・・ブレスレット・・、カガリの・・か。」
次に逢うとき渡そうと鞄にしまう。

「よし。」
「・・・?何が良しなんだ?」
風呂から上がってレイに突っ込まれ、「何でも」ととっさに答えてしまう。









このごろレイは・・なんだか、カガリをとても大事に思っている気がする。
いや、前からそうなんだろうけど・・・なんだか身に染みて分かるって言うか。
まぁ俺も大切だと思うけど・・なんか、大切の大きさが違う。
前に"カガリが幸せならそれでいい。"そう、かっこよく決めていた・・、レイは本当にそう思っているように見える。
「レイさ・・、カガリのこと・・」

好き・・いや、違う。

「・・・・・特別な・・人、だよな?」

レイにとっての・・

「ああ・・そうだな、」

そう、滅多に見ない笑顔を向けられる。
男の俺でも結構綺麗だと思う。-----・・まるで・
カガリが、恋人の事を思っている時に見せる顔と良く・・似ている。
考えてみれば、あれから。カガリと出逢ってから・・レイは変わった。
笑うようになった、話す様になった。


「・・・・もし、カガリと出会っていなければ・・、シンとも・・こうやっていられなかった。」

そうポツンと漏らすレイの本音を聞き漏らさないように耳を立てた。

「-------・・感謝している、カガリには・・」

聡明な顔で、遠くを見るような眼。----寂しくも・・見える・・けど。

「そっか。」


・・やっぱカガリのお陰だよな。

-----俺も、カガリのお陰で・・女の子、嫌いじゃなくなったし。

きっと・・カガリ、なくなってオドオドしてるんだろうけど・・、この前誕生日の日アスラン・ザラに会う時ここ使うって言ってたから・・その時渡せばいいか。

そう安易に考えてしまった事を、後々後悔する事となる。














クサナギ公園にきていた。

・・・-------ない、よな。
あれこれ・・もう一週間も経つ。
探すところは探したし・・・・。

-------・・アスランに・・あわせる顔が無いじゃないか。


誕生日まであと三日。

・・けど、
このままじゃ・・とても、会えない。
いや、逢って・・ごめんと・・謝れば許してくれるとは思うんだ・・けど、でも。

嫌だ。

見つけたい。


--------大切なもの。


ポツリと雨が降り出すが、カガリはクサナギ公園を必死で探していた。
此処を探すのももう・・四度目だろうか。
座ったベンチ、こいだブランコ。
・・歩いた道。
あの日・・歩いたのは・・




色々と考え、そして一箇所全く探していない場所を思い出した。



・・シンとレイの部屋っ!!!!

そうしてダッシュでエターナル寮に向かう。


雨の中。




アークエンジェルの制服で。










走っていると雨が降っていることがこんなにも邪魔な事だと思えてきた。
煩いし・・冷たいし・・・-----・・。
でも・・

「早く・・いかないと・・--------。」

きっとある。

そう、思いたい。


レイとシンの部屋のベランダに上ろうとすると、たまたまベランダを見ていたレイが驚いて窓を開けベランダから身を乗り出した。

「カガリ・・!びしょ濡れじゃないか・・・」
「レイっ・・あの!私のブレスレット・・見なかったか?!」

レイはその泣きそうな声に驚いて、手を伸ばしてきてくれる。

「・・・---ともかく、一度上がってそれからだ。そのままでは風邪を引いてしまう。」

「けど・・けど、今度アスランと会うまでに-----どうしても、見つけたいから・・っ」

走っていて息切れ切れになっているカガリにレイは手を差し伸べた。
「・・・恋人と・・逢う時、風邪を引いていたほうが・・相手は悲しむ。だから・・あがれ。」

グイッと腕を引っ張られ、捕まえられた腰を軽々持ち上げられてしまう。

「わっ」
「・・・・本当にずぶ濡れだな。」

そうして、レイに招かれて暖かいココアとタオルを貰った。
「・・・俺は見ていないが・・・、前この部屋に来た時になくしたのか?」


ない・・


その言葉がショックで、少しボーっとしだす。
「・・・カガリ?」
「あ、いや・・無いなら・・いいんだ。ありがとう。」







大切・・なんだな、恋人が・・そのブレスレットが。
レイはシュンとなってしまったカガリを見ていられなくて、少し眼を逸らして考えた。

「・・・だが、恋人は・・アスラン・ザラは、そんな事で怒る人ではないのだろう?」

カガリはまだ濡れている蜂蜜色の髪を揺らして琥珀色をキッと上げた。

「・・・嫌、なんだ。あれは・・・私がこの前泣いていた時の・・お守りみたいなもの・・だったから。持っていないと・・」

持っていないと・・、落ち着かない。そういう事だとレイは解釈した。
だがお守りだって・・恋人がしっかりとしていれば、カガリは不安がる事など無いはず。・・ならば。

「・・・アスラン・ザラは・・・カガリの信用に足りない人間なのか?」
「違うッ!アスランは・・っ---優しくて、あったかくて・・いい奴・・だ、私が馬鹿みたいに不安がってるだけで・・・・っ」

そうしてカガリはまた、震えだしてしまう。

-----この前のように。

「カガリ・・、」

カガリは・・レイにとっての特別な人だった。
何故と聞かれれば・・明確に答えを言える。

「・・・、もし・・見つからなかったら・・謝って、----でも・・見つけたいから、誕生日までは頑張る。」

震える肩を元に戻して、カガリははっきりと声に出し決めた事を話してくれた。

「そうか、・・・そうだな、それまで・・俺も手伝う。」
「え・・、でも・・」
「気にするな、恩返しみたいなものだ。」
「?」


恩返し。



カガリにはその意が伝わっていないらしく、首を傾げられたが笑ってみると「ありがとう」といってくれた。













「この頃・・カガリと会ってないんだよなぁ・・・・」

そうポツンと呟けばディアッカから頭に拳骨を喰らう。
そんな殴らなくても・・、それに此処一週間一緒に昼食も取っていない気がする。
毎度"ごめん"とメールで言われるものだから・・・・・、なんだか気が落ち込むのだ。

「おまえなぁ!一人身の俺の前でそういう事いうなっ!!」

ディアッカが喚くとイザークは逆にキレだした。

「はッ、そんなにミリアリアが恋しいのならさっさと寄りを戻せば良い!大体貴様、折角の機会を悉く棒に振ったではないか!」

どうやらディアッカは自分がうまく行っていないらしくアスランに八つ当たりをしたらしい。

「-----・・まぁ、ディアッカも、ね?きっとより戻せるよ、」

慰めるようなキラの声にディアッカは更にげんなりして見せた。

「・・・・カガリは・・なんか、誕生日の日にはちゃんと会いに来るって言ってたよ。アスラン」
「本当か?」

誕生日まであと・・二日。
-------二日なら・・我慢できる。

そう気を持ち直して、カガリと会う日を楽しみにしていた。












「レイ〜、見つかったか・・?」
「いや、こっちにはないな・・」
「そっかぁ・・。」

ションボリとして二人でクサナギ公園のベンチに座る。

「もう・・何処やったんだろう・・・。」
「今日、帰ったらシンと部屋を探してみる・・。もう今日も遅い。帰ろう。」
「・・・・ごめんな、レイ・・付き合わせて・・」

そう、口にしたカガリも・・何処か上の空のようで少し心配になる。
カガリは・・・例えるなら太陽のような人だとレイは思っていた。
優しく皆を照らす、光のような人だと。

平等に・・・、わけ隔てなく。母親のような人。



レイには、親が居なかった。一時期施設にも預けられたが、歳の離れた兄がすぐに働ける年齢になり、
親の残していった財産でマンションに住んでいた。
しかし、兄には海外に研究の為に行ってしまう。だから、この学校に入れてもらった。
"一人でも寂しく無いように"と。
正直、誰とも関わる気などなく・・ただ適当に過ごしていた。
母の大好きだったピアノだけは習慣のように弾いていたけど・・それだって、暇だからなのだ。
---------だが。あの日。


「・・・おいっお前・・こっちだ、こっち---あのさ、人助けするきないか?」
そう・・声をかけられて、驚いた。
輝く蜂蜜色の髪。
その、印象に惹かれ思わず頷いてしまう。
しかもその人助けもシンの為。それにその後喧嘩に介入した時だって・・レイとシンを思っての事。
他人に・・そう興味を持ち、力を貸せる。-------そういう人が本当にいたんだと思った。


そして、酷く憧れた。

それから、シンとも話すようになり・・何より、カガリが褒めてくれたピアノを頑張ろうと思えた。
些細な事・・なのかもしれない。他人から見れば・・でも、レイ自身の中では確かに、大きく・・変動した。

衝撃のように波紋を広げて。




「・・気にするな。俺は気にしていない。」
「・・うん。」

それでもしょんぼりとするカガリの頭をポンと叩き見つめるとカガリは笑ってくれた。
やっぱり、カガリは笑っているのが一番だ。
そう思い、レイからも笑いが零れる。

「ありがとな、・・・レイ。」
「・・ああ。」















「あれ・・-----カガリ・・?」
そう声を出したのはキラだった。

「え?」
「ほら、あそこ。」

そう指をさされた先には横断歩道を誰かと渡るカガリの姿が見えた。しかも・・アークエンジェルの制服で。

「---隣は・・・、高校生?かな、エターナルの・・」

キラは首をかしげてその方向を見ていた。

「・・・・・・・-----・・そう、みたい・・だな。」

俺とは会わないのに。
・・なんで・・他の男と・・逢ってるんだろう。

「カガリに限って浮気なんて有り得ないから、今度・・誕生日の時に聞けば良いよ!」

そうキラに励まされ、うんと頷く。
・・・・カガリに限って、有り得ない。
それは・・アスラン自身、そう思えることだった。











「・・・---・・そういえば、カガリ---少し・・元気が無いな。」
そうレイはカガリに尋ねた。なんとなくだが・・口数が減った気がする。
「え・・、えっと---・・実は雨に当たって・・熱があるんだ。」
折角タオルとココアまで用意してもらって・・なのに申し訳ないとカガリは頭を下げてくる。

「-------・・ちゃんと、休めよ。誕生会出られなくなったら・・本当に・・どうするつもりなんだ?」
「・・ごめん・・けど、誕生会は絶対出るっ!!」
「はぁ・・まあ止めはしないが・・。」

そう駅まで歩き、お互いを見送った。

「じゃあ・・な。」
「ああ、誕生会・・明後日か・・。今日シンに聞いておくが・・、明日は探すのを止めて寝ているほうが・・」
「いやっ!・・もしなかったら・・明日も探す!・・じゃないと、アスランにも申し訳ない!」

「・・・そうか、なら・・俺もまた付きあうよ。」
「あぁ!」

すっかり暗くなった町を逆さの方向に歩き出した。














「あ・・。」
そう、シンは声をあげてエレベータの前に立つ目の前の人を見た。
アスラン・ザラ・・・・・・だよ、な?
そして隣には栗色の髪の人が立っている。
・・渡した方が・・良いのだろうか?
----・・でも、カガリも・・・・なくなっていたと思っていたものを、もう一度恋人からもらえるのは嬉しいかもしれない。
そう、考え・・少し恐いながらも声を出した。

「ぁ、あのっ!!」
すると栗毛の人は「ん?」とこっちを向く。

「・・・カガリの恋人ですよね?・・アスラン・ザラ・・って・・」

そう声に出してから、先輩にさん付けすらしなかったことに気が付き焦るが、もう仕方ないと割り切った。

「・・これ、カガリのです。・・・渡しておきます。」

アスラン・ザラの翡翠色の瞳が、そのアクセサリーに注がれた。
赤いガラス細工の入った。紛れもなくアスランがカガリに渡したものに。

「・・・---・・君は?」

そうアスランの意思を汲み取るように声を出したのはキラだった。

「この間・・俺の部屋に落ちてて・・----ちゃんと返した方が良いと思って。」

シンは聞かれていない事を答えて直ぐに背を向け部屋に歩き出す。

「・・おいっ・・お前・・。」


・・・・カガリは、これを・・外してしまったのだろうか?

----知らない、あの、男の部屋で。


「・・そうだっ!俺・・あんたにまだまだ言おうと思ってたことがあったんだっ!!!」

シンはそのブレスレットで唐突に、カガリが泣いていた時を思い出しアスランのほうへもう一度歩き出した。

「・・あんた・・この前、カガリのこと泣かせたろ!----次ぎ泣かせたら・・たたじゃおかない!!!」

アスランにもフッとこの間、合コンの最中・・カガリが他の男と共にいたことを思い出し、あの時の奴かと合点がいく。
-------しかし・・。

「なんで、他人のお前に・・そんな事言われなきゃいけないんだ。」

そう低く声が出たのは、不機嫌になったからだった。
あの時の・・、奴。
カガリと楽しそうに会話をしていた・・奴だから。

「カガリは・・大切な人だっ!!泣き顔なんて見たくないんだ!俺は!!!!!」

シンも負けずと怒鳴り返す。
コイツと何かあれば・・絶対にカガリは泣き出してしまうから。
悔しい・・より、ずっとずっと・・カガリを幸せにしてくれないと困るといった感情が強く出ていた。
笑っていてこそカガリ。そして、シンやレイに光を与えるのが・・カガリ、だから。

「なのに、あんたは泣かせるし・・・!太陽みたいなカガリを曇らせて・・、最悪だ。」

子供染みた言葉、そして喧嘩腰が得意なシンらしい言葉・・だが、それが初対面のアスランとキラには酷く映る。

「・・・、泣かせるつもりは・・ない。--だから、お前の出る幕も無い。」

・・・・・なんなんだ、コイツは。
---------・・苛立つ。

アスランも柄になく冷静な判断を下さず喧嘩腰になった。


「勝手に言ってろ。」
シンはそうしらを切って部屋に向う。
シンとしてみれば別に喧嘩をしたいわけではなかった、しかし・・カガリを泣かせる事はやはり・・許せない。
その思いで先輩であるアスランにあんなに当たってしまった事を後悔半分で部屋に戻る。


「・・あれ?レイ・・---先帰ってたのか?」
「ああ・・、シン・・カガリのブレスレット見なかったか?大分・・探しているようなんだが・・・」
「それなら、今丁度会ったアスラン・ザラに返しておいたけど?」
「・・・・・・・・・・・・・----・・そう、か。」

その言葉に、レイは顔を曇らせてしまう。

「レイ?」
「いや・・いい。それなら・・誕生日の日、カガリに渡されるだろう。」



「うん、きっと・・喜ぶよな、カガリ・・」


「・・・・・そう・・だといいな。」

































































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あとがき
嵐の予感?(笑)
一応中学生から寮に入るので、皆母親が恋しかったりします(笑)
だから、イザークは少しマザコンだし、シンも母親っぽい雰囲気のカガリが大切だったりします。
カガリファイッ!みたいな内容になっていく予定です(汗)
2006.04.16