それから、カガリは神隠しにでもあったように・・エターナルに姿を見せなくなった。
いや・・正確に言うと・・アスラン・ザラの前に。
あれから・・キラとカガリはよく会っていた。
放課後、休日・・・・ついでも。
本来・・在るべき姿だと、本人達は考えている。
だが・・それをラクス・・アスランは心地よく思うはずも無いのだ。
-------・・知っている、けど。
「カガリ・・。」
この状態のカガリを・・・僕がほうっておける・・はずがない。
ラクスには散々謝りの電話とメールを入れて・・アスランには散々怒鳴り散らした。
「カガリがまた駄目になったらどうしてくれるのさ」・・・って。
アスランは・・目を点にしていたような気がする。
クサナギ公園で二人でベンチに腰をかけていた。
「私は・・我が儘だな。」
「そうだね」
「勝手・・だよな。」
「うん」
「・・・・・・・嫌いか」
「好き。」
そう何度目とも分からない言葉を繰り返す。
そして・・やっとそれ以外の言葉がカガリの口から出てくる。
「なんで・・好きなんだ?」
子供が親にねだる様な目をされて、それをわざと突き飛ばした。
パッと目を逸らし、軽く顔を横に向ける。
「-----・・カガリ・・だから。」
そう・・・カガリだから。
「キラっ!!泣くなよっ」
「だ・・だってぇ---」
昔は立場が逆だったよう泣きがする。
「そんなんじゃ・・お父さんと、お母さんに申し訳ないだろうっ」
そう叱咤されてからギュッと抱きしめられる。
「私がいるじゃないかっ・・泣くな!」
優しく髪を撫でられて、おでこにキスをされる。
「寂しく無いぞっ・・二人で引き取られたんだっ寧ろ幸せだ!私たちは!!」
その時・・当時四歳くらいだったとおもうが、すでにお互い血の繋がりがある事を知らなかった。
「カガリ・・、でも---」
「でもじゃないっ!」
そう・・カガリはいつだって・・そう言ってくれて励ましてくれて・・、大好きだった。
姉のような存在、自分を守ってくれようとしてくれる唯一の人。
「「お父さん、お母さん・・お帰りなさいっ」」
義父、義母が帰ってくれば必ずそうやって頭を下げてお帰りなさいを告げる。
そして家の手伝いをして・・九時には寝る。
キラもカガリも当時の両親を凄く好いていたような気がする。
優しかったし・・
けど、そんな生活が三ヶ月続いたある日だった。
「キラ君も・・カガリちゃんも・・ホント聞き訳が良くて・・」
そう施設の人との連絡。
「でも・・・・家族って感じが・・イマイチ・・しないんです。」
そう・・聞いてしまった。
キラも・・カガリも。
カガリは直ぐに真っ青になって、キラはそんなカガリの手をギュッと握り締めていた。
・・一週間後、施設の人の車はきてしまった。
名残惜しさに泣くキラ、・・・一方泣こうとしないカガリ。
「キラ君は・・この家が好きだったのね」
そうお母さんに言われた。-----・・違うよ、僕より・・カガリのほうがずっとこの家が好きだったんだよ。
ずっとずっと・・お父さんとお母さんに迷惑にならないように頑張っていたのは・・カガリだから。
けど・・お母さんは分かってくれなかった。
僕の頭を撫でて・・カガリの頭は撫でてくれない。
そして、五歳になり・・キラとカガリは別々の親に引き取られる事となった。
「・・・・泣くなよ、キラ・・。」
「カガリこそ・・元気でね。」
そして、別れの際・・カガリからポツンと
「この間の・・お父さんと・・お母さんの事・・ごめんな。私が子供らしくしなかったから・・キラまで・・・」
"次の家では・・子供らしくするんだぞ・・。ごめんな"
そして僕は子供らしく・・というかあるがままの生活を送っていた。
両親とも・・本当の家族になれたと僕は思っている。
「はじめまして、カガリちゃん」
「よろしくお願いします・・お父さん、お母さん。」
お父さんと・・お母さんは・・・両方とも仕事で忙しかった。
昼間・・誰もいない家に一人・・残された。
一人の家は寂しくて・・泣きそうになった。
・・でも、キラに泣くなといった手前・・泣くわけにはいかないと、自分に言い聞かせていた。
毎日、洗濯・食器洗い・掃除機がけ・窓拭き・・・。
良かった事に今の両親は"子供らしくない"とは言ってこない。
カガリだって・・お世話してくれている人の役に立ちたい。
そう思って毎日毎日・・同じ事を繰り返した。
お父さんとお母さんが帰ってきたとき・・気持ちよく迎えられる家でありたいと。
そして三週間がたつ。
「・・お父さん・・?お母さん?」
そう繰り返した一週間。
誰も・・居ない家。
一人。
二人が帰ってこなくなって・・一週間。
最後に二人を見た日は・・喧嘩していた。
でも大人の喧嘩に子供が首を突っ込むのは良くないと思って・・黙って寝室に向かう。
子供部屋・・、一人のベット。
施設では・・同じ大きさのベットにキラが一緒に寝てくれていたから・・大丈夫だった。
でも・・此処は一人。
親の怒鳴り声を聞きながら・・寝るのは・・嫌だ。
そう思って・・次の日
二人とも居なくなっていた。
そして・・一週間・・まだ・・帰ってこない。
----私が・・いけない?
もっと・・いい子にしてれば良かったのだろうか?
お父さんとお母さんの喧嘩を・・止めてあげられれば良かったのだろうか?
嫌だと・・思ったから・・二人はいなくなったの?
私は・・お父さんとお母さんに・・大切に思われていなかったの・・?
頑張ったつもりだった。
一週間がたち、冷蔵庫の物も底をつく。
・・知らない・・人たちが、玄関から入ってきた。
「だれ・・?」
お父さんとお母さんじゃ・・ない。知らない人。
「あれ・・?おかしいな・・この家売ってもらえたから・・下見に来たんだけど・・まだ子供が居るじゃないか。」
----・うら・・れた?
「お父さんと・・お母さんは・・?」
そう言うとその人は首をかしげる。
「子供なんていないって・・聞いてたんだけどなぁ・・・」
-------・・子供が居ない・・。
「で・・でも・・私・・この家でお父さんとお母さんっ待ってる・・!!」
私はこの家に連れてこられた。
何で?
そんな簡単に手放すなら・・・つれてこなくても良かったはずだ。
「でもねぇ・・お嬢ちゃん」
「お父さんと・・お母さんの・・所・・連れて行って・・っ」
そう、お願いすると・・その人は直ぐに連絡を測ろうとしてくれた。
恐らく・・哀れに思ったのだろう。私の事を。
食べる物が少なくて・・少し頬もほっそりとしてきている事にぐらい気が付いていた。
「ほら・・お母さんだよ・・君と話したいって。」
そしてその携帯に縋りつくような思いで耳を傾ける。
「・・ごめんなさいね、カガリちゃん・・。あの人も子供がいたら・・少しは、家庭に興味を持ってくれると思ったんだけど・・駄目だったわ。」
・・・え?
「子供のあなたにこんな事分からないでしょうけど・・、ともかく・・いらなくなったの。」
-------・・いらない。
イラナイ・・?
「・・お母さん、ごめんなさい。」
震える声でそう言って電話を切った。
泣かない。
泣くもんか。
----イラナイ。
そうか、私は要らない子供なのか。
そしてまた施設に送り返される。
・・偶々遊びに来ていたキラに会った。
「みてっカガリ・・!!僕のお父さんとお母さんっ!!!」
そう言って、優しそうな両親に抱きかかえられるキラ。
誇らしげに・・自慢できる両親。
ポタッと涙が垂れた。
泣かないと・・言ったのに。
思わず駆け出して、いつもキラと二人で使っていたベットの中に篭る。
もう・・キラもいない。
広いベットに一人きり。
家と違い・・他に施設の子供は沢山居るけど・・でも・・・。
寂しい。
なんでキラは必要とされて・・私は必要とされない?
私が・・いけない・・。
コンコンとノックが響きキラが入ってくる。
「カガリ・・泣いてるの?」
「・・・・かっこ悪いなぁ・・私は-----・・。」
キラにアレだけ泣くなといったのに。
「いらないんだって・・私のこと。両親は・・・」
そしてまた泣き出す、
「よしよし・・」
そう声がしてキラに頭を撫でられて、優しく頬にキスをされた。
「・・他の人がカガリをいらなくても----僕にはカガリが必要だよ?」
え・・。
パッと見あげると落ち着いた表情のキラが立っていた。
「だから・・寂しくないよ、僕が・・カガリの傍にいてあげる。ずっと。」
そう、言ってもらえて・・・どれだけ救われたか分からない。
いらないと・・言われた・・カガリをキラは必要だと・・言ってくれる。
嬉しかった・生きる・・希望ができたような気がした。
「き・・らぁ・・・」
そして抱きしめあって今までに考えられないほどの涙を零した。