あの頃は・・・携帯も持っていなかったから、連絡の取りようもないじゃないか。
季節は梅雨、うっとしい雨を眺めながらカガリは深く深く溜息を付いた。
----だが、何の収穫もなく・・ただ無駄に時を過ごしていた訳でもない。
「カガリ・・何を考えていらしてるのですか?」
その表情から何かを読み取ったように、ラクスは首をかしげた。
「いや・・ちょっとな」
二人だけの部屋で、ラクスは自分の分も紅茶を入れてくれている。
つい・・先日の事。
「カガリ先輩っ・・あの!!」
急に知らない子に話しかけられて、無理やり人気の無い所に連行されてしまう。
「えっと・・・?どうしたんだ?」
「す・・好きです!付き合ってください!」
付き合う・・・・・
「何処に?」
そう聞くとその子は「え?」という顔をしてみせる。
「ゲーセンならいいぞ?あーでもショッピングは嫌いだなー、何だか疲れる。」
そう答えるとその女の子はシュンとして見せたが直ぐに明るくなった。
「い、いえ・・・やっぱりいいです。」
「そうか?」
何なんだろうこの子はと真剣に考えていると、その子は
「ライクじゃなくて、ラブの方なんですけどね。」
そうちょっと笑って言われて、物凄く失礼な事をしたと面喰った。
「えっ!え!!わ、悪い!付き合うってそういう事だったのか?!」
慌てて謝るとその子は笑って
「いいんです、駄目もとで・・でもキモチ知って欲しいだけなんです。」
女同士だから・・・そう、ちょっと泣きそうな顔をされるとバツが悪い。
「カガリ先輩が・・・男の方なら良かった。-----すいません、こんな事。」
確かに・・・自分の顔は中性的だと理解していた。きっと性格も。
-------そう、それがミソだ。
「ラクス・・私エターナルの寮に乗り込む!」
「あら、楽しそうですわ・・でもどうやって?」
「男装するんだっ」
そう・・・キラとカガリは顔が似ている-------当然の事だが・・・。
「きっと、カガリならどんな事でもやってのけそうですわ、早く逢えると良いですわね・・その方に」
ラクスににっこりと微笑まれて、こちらも微笑み返した。
「よし!今度の土曜・・・乗り込むッ」
それまでに・・茶色のカツラかって・・キラがきそうな服も買わないと・・。
そしてキラとの昔話をしながらラクスと紅茶を飲んでいた。
「クッシュン!!」
「キラ・・風邪か?」
「わかんない・・。」
梅雨の季節に風邪引くのは珍しいと思いながら、淡々と機械を組み立てるアスラン。
クシャミをしながらなお、パソコンと向かい合うキラの姿が、エターナル寮208号室にはあった。
「そーだ、アスラン・・婚約者の子と全く連絡もとってないの?」
「・・・もうそろそろ取らないと・・父上に怒られるだろうな、俺は。」
アスランは別にそんな急がなくてもいいのにと深く溜息を付いた。
「でも、可愛いじゃない?なんだっけ・・ラクスちゃんだよね?」
お見合い写真といわんばかりのその写真を見てキラは少し顔を赤くしたのを覚えていた。
「お前・・アークエンジェルに他に想いの人がいるんだろう?なら良いじゃないか」
「そーいうわけじゃ・・まぁいいけど。」
ちょっと不快な顔をしてからいつもに戻ってキラは「それにしても逢いたい」とまた呟いた。
「今度の休みにでも・・連絡取るか。」
----自分も・・キラのように自分から会うことを望めるような子と・・出逢えるとは余り思ってはいないが。
「そうしなよ、相手も待ってるよきっと。」
待ってる・・か?顔しか知らない相手を?
まぁいいか。
土曜になり、午前中の授業が終わってカガリとラクスは寮に戻る。
「これと・・コレと・・。」
服カツラ・・・その他いろいろ持ってカガリはラクスにいってきますと告げた。
「ご武運を」
そうラクスに微笑まれニカッと笑い返してから部屋を後にする。
エターナル寮は駅を挟んで目と鼻の先だった。間にあるデパートのトイレで服を着替え、カツラを被り
そのあと通った駅のコインロッカーに荷物を置く。
鏡で見ればそこにはキラが映っていた。ただ・・・瞳の色だけ違うが。
「よしっ・・完璧だッ」
そうしてエターナルに向かっていると色々心配事が出来てくる。
キラの一人称は今でも僕なのか、とか・・外出するのにも名簿に記入するから、キラが外出してなければ部屋に入れない・・とか。
「成せば成る!!」
そう呟き、エターナルに入りまず郵便受けを探す。
キラ・ヤマト・・キラ・・・・あった。
どうやら、キラはアスラン・ザラという人物と二人で208号室に住んでいるらしい。
エターナルの監視役・・名札にはマードックと書かれている人が入り口の前にいた。
「よぉ坊主!さっき・・出かけたばっかじゃないか?」
そう聞かれ、そうかキラは出かけたんだと少し安心する。・・これで入っても平気だ。
「いやーちょっとね、もどってきちゃった。」
頑張って声を似せて口調も似せてみる。
「おーそうか、まぁいい入れ入れ!」
自動のドアが開き、まったくをもって学生寮に見えない(アークエンジェルもだが)綺麗さに驚く。
そして急ぎ足で208に向かった。
どうにか誰にも会わず、208の前にたどり着きインターホンを押した。
『・・・どなたですか?』
そう律儀な質問をされて慌てて
「ほら、僕・・・ちょっと具合悪くて急いで帰ってきたの・・あけて?」
果たして僕であっているだろうかと嫌な汗をだらだら流しながら、そう言うと相手は快く空けてくれた。
「大丈夫か?キラ」
出てきたのは藍色の髪に綺麗な翡翠の目をした中性的な顔の人。
「う、うん・・ちょっと・・・僕横になるから。」
そう言って出来るだけ目を見せないようにして洗面所に行き手を洗って鏡を覗きこむ。
-------似すぎだな。キラに。
瞳の色以外で気が付くものはいまい・・ただ身長が少し気になる。逢わないうちに伸びてそうだし・・・。
溜息を付いて、そして寝室と思われる部屋に直行する。
「おい、キラ・・・本当に顔蒼いけど・・。」
「寝てれば・・治ると思うから。」
そう押し通して、部屋に入り二つあるベットを匂いでキラのほうを判断した。
ガバッと倒れこみベットのにおいをかぐと、やはりキラのだと安心する。
---------ここで待っていれば、遅かれ早かれキラに逢える。
そう思うといてもたってもいられなくて、そわそわしてしまった。
寝て待っていようと目を瞑りスースーと寝だす。
「大丈夫かな・・キラ」
あからさまに汗をかいて、しかも真っ青。----心配にくらいなる。
そう思って寝室の扉を開けると、スースーと寝息を立てるキラの姿があった。
「・・・・爆睡だな。」
おでこに手をやろうと近寄ると、いつもと違う匂いがするような気がした。
「・・・?」
それに、さっきのキラはいつもとどこか違う。
鼻を少し顔に近づけて吸うと、甘いにおいがした。
-------?
キラ?
気のせいか、唇だってずっと桜色に近くてふっくらとしているし・・身体も一回り・・小さく見える。
ガチャン
そう音がして驚く。鍵はかけたはずだ。
「ちょっとアスラン聞いてっ僕の偽者が・・・!!」
-------偽者・・?
「なんかもー僕が偽者なんじゃないかってマードックさんに散々疑われて・・・」
・・・・コイツが?
偽者
「ねぇアスラン聞いて・・・」
寝室に入ってくるとキラの声はスッと止んだ。
「・・・・・・・・・にせ・・もの?」
そう指を差した先にはスースーと眠る一人の少年の姿があった。
「ん・・?」
今の騒がしさで起きたのかその少年は眼を擦る。
「・・き・・ら?」
--------。
「ちょ・・ちょっと待って・・何でこんな所に・・・」
さっきとは違う、、だがハスキーな声でその人物は起き上がった。
「キラッ!!」
そう、ベットからアスランを有に飛び越えキラにダイブした。
「えぇ!!!ちょっと・・え!!嬉しいけど・・何で君が!?」
「逢いたかった・・逢いたかったんだぞッ馬鹿!!!」
その人はいきなり泣き出してキラは慰めるように抱きしめている。
「ごめ・・アスラン---ちょっと知り合いだったみたい、僕の」
--------知り合い?・・そんな、引っ付いてるのに?
「泣かないで・・ほら」
ちゅっと音がしてキラはその人の頬にキスをした。
「・・きらぁ・・。」
・・・俺から見れば・・小さいキラを今のキラが抱きしめているようにしか見えないんだが・・。
「泣かないの、昔よく僕にいってたじゃない。」
「そうだけど・・うれし泣きだバカァ・・。」
どうやら女の子かもしれないと思った、そしてその子の頬にもう一度キラがキスを落とす。
「逢えたんだ・・いいじゃない?」
そしてギュッと抱き合って見せた。--------・・俺の存在を全く無視してだが・・。
「それより・・なんてかっこうしてるの?・・・女の子なのに。」
「だって・・キラに逢うのに・・男装しか思いつかなくて・・。」
・・・・それにしては板につきすぎだろう。はっきり言って誰も気が付かない。
「・・逢いに来ちゃ・・駄目だったのか?お前は私に会いたくなかったのか?!」
その子は真っ赤になって怒り出し、信じられないほど恥ずかしいセリフを並べた。
うる目で・・・。しかも眉もひそませて。
「逢いたいに決まってるでしょ?」
キラも優しく微笑んでから、頭を撫でてみせる。
そう、なんだか有り得ないラブストーリーを見ている気分になる中、
コンコンッ
「おーいキラ・・偽者見つかったか?!」
そうマードックさんの声がする。
「マズイ・・。」
そう、キラが言うとその子は直ぐに玄関に行き
「僕の部屋にはいないみたいです!ちょっと、他探してください!僕も直ぐに行きます」
そうキラの声真似をして帰ってきた。
「・・でキラは今から、さっきのおっちゃんと私を探すことにして・・・私はキラに逢えたし・・・もう帰るな。」
「わかった、気をつけて。」
そしてその子はニッコリと笑い、キラもつられるように笑う。
「え・・君はどうやって帰るんだ?-------まだ周りは探されているだろう?」
そうやっと口を挟んだ俺に、そのこは問題ないと微笑んだ。
「私飛び降りるから、じゃあな。」
そう靴を履いてベランダからその子は飛び降りた。
「「えぇ!!」」
キラと叫ぶと、しっかり着地したその子は手を振って、
「また今度来るから!!」
そう声をあげた。
「ちょっと待って・・僕のメールアドレス、渡しておく!!」
キラは叫んで、メールアドレスを書いてそれを紙飛行機にした。
「ありがとー」
そうしてその偽キラは足早に消えていく。
「・・・・さて、僕は探しに行く振りでもしようかな。」
「-----凄い・・慣れてるんだな、今の子に。」
有り得ない、変装して・・抱きついて、しかも二階から飛び降りるなんて。しかもそれを当然として受け止めている。
「そういう子だから、すっごくいい子だよ。」
キラは微笑んで見せ、足早に部屋を出た。
--------・・凄い、、子と恋人なんだな・・・キラって。
そう呆然とキラを見送り、何だか恋って凄いものなのかもしれないと漠然と思った。