トクン
トクン・・・
そうやって、今まで感じたことの無い感情が、押し寄せてくる事に薄々気が付いていた。
「服を着ろッ!!!!」
そうザラ邸の一角にアスランの声が響いた。
「な・なんだよ、ちゃんとバスタオル巻いてるだろ?」
「そういう問題じゃないッ!!」
「そんなに・・怒らなくたって・・」
だって・・あっちの部屋にバスローブ置いてきたんだ・・仕方ないだろ?
そう口出すとアスランは怒りながらバスローブを取ってくれた。
「ありがとう」
だがアスランは依然ムスッとしたままだった。
バスローブを着てアスランの前に出た
「何起こってるんだよ・・・っていうか、この頃寝不足なんじゃないか?クマできてる。」
「・・・・。」
黙るなよ。
頬を膨らませてソファーの隣に腰を下ろした。
「----次・そんな格好で出てきたら・・・本気で怒るからな。」
そう冷たく言われて唇を尖らせる。別にいいじゃないか・・・。
上目遣い、尖らせた唇。
なんでカガリは気が付かない・・・?
最近、寝れないわ・・緊張しっぱなしだわ・・それで相当大変イライラしていた。
なんでこんなに鈍感なんだ。
-------・・少しぐらい・・意地悪してやろう。
俺は散々・・生殺しにされてきたわけだし。
・・それに、いい加減俺を男と認識して欲しい。
頬にキスをする振りをすればカガリは自然と身体を預けてくれる。
そう、カガリの中で頬にキスは当然の行為らしいのだ。
だから・・そのまま、柔らかい頬に唇を落として舌を少し出す。
ペトッとした感触が頬に走った。
・・・?
そしてそれはスススッと耳に移動する。
きっと・・カガリは顔色一つ・・変えないだろうな。
そうボンヤリ思いながら、耳に優しく唇だけで噛み付き何度も何度も場所と角度を変えて繰り返す。
毎日・・我慢してるんだ。これぐらい----許されるはず。
どれ程熱が溜まろうと、ひっつかれようと・・・絶対に手だけは出していない。
胸にも・・脚にも触っていない。
-------・・少しくらい褒めて欲しいぐらいだ。
全く抵抗しないカガリを見ると・・・・どうせくすぐったい程度にしか----感じてはいないだろうけど。
そう思うと悔しくて、俺ばっかり好きで・・・・。でもそんなの微塵も感じないカガリが疎ましくさえ思える。
キラが・・いつだって、カガリの中にはキラが存在するのだから。
-------両想いでも無い相手に・・手は出さない。
だから、せめて・・・。
耳からさらに下におりて、首筋をなぞりキスを落とす。
--------・・俺といるときぐらい・・・俺を見てくれないか・・?
そう思って瞳をあわせた。
どうせ、けろっとした顔を・・しているんだろう?
「ぁ・・あす・・らん・・・。」
-------え・・?
な・・なんで急に・・ッ・・・---・・っていうか・・駄目だ。
心臓が・・トクンと言う音から・・どんどん強さを増していく。
耳を咥えられるたび・・音は上がる。
息が当たれば・・何だか・・恥ずかしい。
柔らかい唇の感覚に・・何か支配されていく。--------キラなら平気なのに。
何で・・・。
首筋をなぞられてはゾクッと背中に何かが走る。
駄目だアスラン。
お前と居ると・・この頃変になるんだ・・・。
もう、思考が働かないほど恥ずかしい。
さっきは別にバスタオルでも平気だったのに。
-----なんで急に駄目になる?
カァッと顔が熱くなって、赤くなるのが分かるのに・・止めるすべは見つからないし・・・。
そんな中・・翡翠の瞳に見つめられれば・・・言葉を失う。
「カガリ・・・?」
潤んだ目、赤い頬。
---・・もしかして・・----いや。もしかしなくとも・・
「恥ずかしかったのか・・?」
バスタオル一つで出てこられるのに・・?
「うぅ・・煩いッ・・・---お前が急に耳なんて咥えるから・・ッ・・・。」
耳を押さえて、ソファーの上で小さくなるカガリを危うい精神で眺めていた。
「バスタオル一つで出てこられるのに?」
「だ・・・だって・・その---あ・・えっと・・」
色々答えを探すように目を泳がせてから
「わ・・分からないが・・・---っ」
その真っ赤なままカガリは黙り込んで、フリーズしたようになってしまう。
・・・・、
「--------・・ちょっと・・トイレいってくる・・・。」
------・・なんでそんな可愛い顔するんだ。
そう心で激しく突っ込み、急いでトイレに向かった。
やっぱり・・変だ。
アスランといると・・変になる。
----いや、でも急に態度を変えるのはおかしい。
いつも通り・・いつもどおり接すればいい。
-------キラと接するように。
さきにベットに倒れこみ熱を冷ましながらボーっとしていた。
「・・・広いな・・・このベット」
フッといつもアスランと一緒に寝ているベットで思う。
・・・寂しいな、こんな所・・・・・一人で寝るのは。
そう冷静になって考えているとアスランがトイレから戻ってくる。
「お前は・・嫌じゃないのか?こんな大きなベット。」
「え?」
アスランは唐突な質問にも関わらず
「-----少し、寂しいって思ったことはある。」
そう、真剣に返してくれた。
やっぱり・・・そうだよな。
「私は・・大きいベットに・・一人は嫌だ。」
小さい頃、普通のベットでも大きく感じてキラと一緒に寝てたし・・・。
----・・そういえば、私は本当に小さい頃・・ずっとキラと二人っきりだったな。
そしてその頃の事を何となく・・アスランに淡々と語り出した。
「昔な・・まだホント小さい時・・・普通のベットでも---広くて恐くて・・眠れなくって・・・」
キラが傍に居てくれたんだと。泣いた時は必ず頬にキスをしてくれた。
だから・・大丈夫だったんだ。
そう言うと、アスランは儚そうに微笑んだ。
やっぱり・・カガリはキラしか見ていないんだな。
そう、カガリは言っているように思えて・・泣きそうになる。
----こうやって、俺と二人っきりで居るのに・・・。
さっきの赤い顔は、もう何処かに消えうせたように思える。
-----どうせ・・カガリの心を埋めるのは・・キラなんだ。
そう思って悲しくなっているとカガリの指が伸びてきて優しく頬を撫でた。
カガリは起き上がって、ベットにすわりコツンとアスランのおでこにカガリのおでこをつける。
「寂しく無いぞ、アスラン・・・---今日から私も一緒だ。」
胸元が、首筋が・・胸が・・・全てが精神を危うくさせる。
でも、それでもカガリに何もしないのは・・やはり、カガリの心が一番大切だからなのかもしれない。
柔らかい唇が優しく舌を出しながら頬をつたう。
ゾクッと背筋に走り、下半身に熱が入った。
「かが・・り?」
寂しくない・それを態度で示すようにカガリは頭を抱え込えこんで髪に唇を当てた。
グッと柔らかいものが顔に当たりそのままベットに倒れこむ。
「・・・っ」
胸だ。
「アスラン・・」
・・・この感じ。この感じが・・いつもの私とキラのペース。
よかった、なんだアスランとも恥ずかしがらず出来るじゃないか。
「カガリ・・・」
さっきの赤面とはまるで考えられない行動に焦った。
カガリは・・俺に幼い時のを重ねているのか?
幼いときカガリを慰めてくれたキラのように・・カガリは俺に接する。
まるで・・今までキラから貰っていた愛情を返すように。
・・・違う。俺は
ちゅ
そう、何度目とも分からないキスを頬にされる。
・・カガリ・・違う。
俺は---お前のキラの代わりなんかじゃない。
ガッとカガリの身体を離す。
「--・・いや・・だったか?」
カガリは目を丸くして、離された距離を埋めるように手を延ばしてきた。
・・・---違う・・違う、
そっと細い指が唇に触れて、どうしても・・・気が立つ。
俺は・・---カガリが求めている愛情ではないモノを持っている。
カガリは俺に"キラ"を求めている。
「カガリ・・・。」
そっと指先が動く。どうやっても熱が集中するし・・押し倒したくなる。
"なんで身体を離すんだ?""なんでキスしちゃ駄目なんだ?"
そう・・・聞いてくる瞳を振り切った。
「俺は・・キラじゃない」
そういい切って、カガリをポンとベットに起こす。
「そんな事しって・・」
「君は・・---今の俺に何を求めてたんだ?」
そう聞くとカガリは硬直して
「な・・何って・・・別に・・ただ、寂しかったら---」
「寂しいのは君だろう?」
その言葉にカガリは酷く震えて見せた。
広いベットが寂しいのは君。そしてそれを慰めるのがキラの役目。
だとしたら・・カガリの性格を考えて自分のしてもらったらうれしい事を相手にしようとしてくれるはずだ。
---だから、何も考えず単純に俺にそうした・・。
小さい時、カガリが広いベットでは寝られなくて・・キラに慰めを求めたように。
「なっ・・何言ってるんだ、アスラン」
カガリが俺に・・求めていたのは、キラの面影なのか?
----ただ、---今、近くにいない・・・キラの代わり。
「俺は寂しいからといって・・・こんなものが欲しいわけじゃない。」
キラの代わりに注がれる愛なんて・・寧ろ御免だ。
キラの・・代わり。
-----・・そう・・言われれば・・そう、、なのかもしれない。
でも・・キラにはトクンとかゾクッとか・・そんな感触を持った事は無い。
・・・でも、確かに・・今は----キラに重ねていた。
アスランは不機嫌に眉を曲げて電気を消し、目の前でもう寝入るような体制を取ってしまっている。
カガリは一人呆然と座って、アスランの言葉を考えた。
だって・・キラと同じように接して無いと・・心臓がおかしくなりそうなんだ。
ドクンドクンと波打つ感じ。
いつもと違う何かが押し寄せてくる違和感。
恐怖。
そして好奇心。
なんで・・同じ大好きな人たちに差が出来るんだろう?
なんでアスランといると・・・変になるんだろう。
--------トクン。
そうまた小さく音がする。
「アスラン・・怒ってるだろうから、答えなくていい。聞いてくれ。」
背を向けているアスランからの返事は無い。
「あの・・キラと重ねてたのは・・ゴメン。確かに今---重ねてた。」
寝ながらそれを聞いてやっぱりと溜息を零しそうになる。
-------どうせ、おれは・・キラの代わりでしかないんだ。
そうひねくれたくなるのに・・----カガリに触れてもらって嬉しいと言う男心がそれの邪魔をする。
カタチはどうであれ・・・触れてもらえるのは嬉しい。
「でもな・・」
カガリからの第二句目を待つように耳をすませた。
「この頃、お前と居ると・・・変なんだ-----私が・・その、なんていったら言いか良くわからないんだが・・・・」
変・・・、俺の前だと素が出せないという事だろうか・・?
「心臓が・・ドキドキして・・・触られるとゾクッとして----・・恥ずかしくて・・キラみたく接して無いと・・心臓が爆発しそうで・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・え。
閉じていた目を開く。
それは・・・
「だからな・・キラみたく接してれば・・・大丈夫だと思ったんだ。----でも、それで気を悪くさせたなら・・悪かった、ごめんな。」
-----カガリは・・俺と一緒にいる時の方が・・ずっと心臓が高鳴ってるって事だよな。
キラよりも・・俺の方が、カガリに"男"として・・認められてるんだよな?
カガリがパタンと横になり振り向くと拗ねたのか珍しくアスランのほうを背にして寝ていた。
そっと音を立てず近寄って、耳元で囁いてみる。
「カガリ・・。」
「っあ・・アスラン」
カガリがこっちに向こうとするのを止めて、背中から抱きついた。
腹に手を回してうなじにキスをする。
「は・・恥ずかしいって・・・・---今・・いったじゃないかぁっ!!」
カガリがそう抗議の声をあげればあげるほど、アスランの心臓は高鳴った。
カガリは・・俺を感じてるんだ。
キラでなく。
俺を。
「可愛い。」
そう口にだして、手を腰のラインに這わせるとカガリの肩は震え出す。
「あ・・すら・・ん・・・本当に・・ほんと・・恥ずかしいんだって・・・・。」
消えそうな声。・・・少し鼻に掛かっていて、少し泣き出しそうだと思った。
「嫌?」
「嫌とかじゃ・・ぁ・・っ」
耳を咥えて、バスローブから肩を出し、耳から肩までキスをしながら舌を這わせた。
ゾクッとする感覚が何度も身体を走って、囁かれるとキュンと腹のしたが閉まる。
耳を咥えられ舌と唇が這う感覚に、痺れるような感じを憶えた。
「ぁ・・す・・」
この始めての感覚で、身体は麻痺していう事が聞けないように思える。
「カガリ・・・」
自分の上に馬乗りになるアスランが、何だかはじめてみる人のように思えてならない。
優しく髪にキスをされただけで・・心臓は何処かに飛んでいきそうになる。
・・・感じやすいのかもしれない。
潤んだ瞳・・すでに切れる息。
桜色の唇からは、あたたかく湿った息しか出てこない。
男の性が丸出しになりそうになるのを押さえた。
-------・・カガリが欲しい。
そう・・思った瞬間、フッと顔が浮かぶ。
--------・・・・・キラ。
駄目だ。
反射的にそう思った。
「アスラン・・?」
カガリはこれから何をするのか、それにアスランは何で今そんなショックな顔をしたのかまるで分かっていないようだ。
・・・・こんなに・・近いのに。
俺は----これ以上君に触れられない----・・・・。
グッと悲しくなる気持ちを抑えた。
涙が出そうだ。
「--------------・・かな・・しいのか?」
下からカガリの腕が伸びてきて、優しく頭を包んで胸に迎え入れてくれる。
「キラの代わりじゃないぞ、私がこうしたかったから・・こうしてるんだぞ。」
そう・・カガリに言われて、カガリの胸の中に顔を埋めた。