「なぁ・・ラクス」
「はい?」
「ラクスはもう・・・アスランのこと・・好きじゃないのか?」
その質問にラクスは眉を潜めて、静かに答えてくれた。
「----じゃあ・・アスラン、僕ちょっとでかけてくるから。」
「あぁ・・いってらっしゃい。」
どう見ても余所行きの服。
きっと・・デートなんだろう。そうぼんやり思いながらキラを見送る。
「・・・----・・はぁ」
色々考えた。
キラと・・カガリの事。
諦められそうに無い自分の心。
・・・いっそ、カガリに想いを伝えてしまおうか?
きっとふられても・・今みたいに未練ばかりではなくなるはずだ。
それに、そうハッキリと言ってもらえれば・・諦めが付くかもしれないし。
カガリは・・困るだろうが、持ち前の明るさで「友達でいよう!」と声をかけてくれると思うし・・・。
-----・・伝えよう。
そう心に決めて、カガリにメールを打つ。
****
話したいことがあるんだ。
電話してもいいか?
****
ちゃんと確認のメールを送り、それが帰ってきたら・・電話をかけよう。
自分の声で・・意思を伝えなくては。
ピンポーン
「?」
「アスラン?ごめん、忘れ物しちゃって・・・。」
キラは・・鍵を持って・・・・・でかけたはず。
「・・・?カガリ」
ガチャン。
「よ!アスラン」
キラの格好をしたカガリが目の前に立っていた。
背が少し小さくて、目は琥珀色・・唇は綺麗な桜色。・・・それ以外はキラと全く同じ。
「・・・・・、お前・・・」
会えて嬉しいが・・また男子寮に乗り込んできたのか?
「何だよ、いいじゃないか!遊びに来たって!」
プクッと頬を膨らませ、カガリは"入れろ"と目で訴えてみせ
そのすがたが面白くてまじまじ見て微笑んでみせると、カガリも微笑む。
そして・・一つ疑問が浮かんだ。
---キラは・・デートだと思っていたのだが・・カガリがここに居るという事は思い違いか・・。
「なんだよ?上がるぞ?」
「別に構わないが・・キラは出かけて・・」
「知ってるさ、じゃなきゃ私はこの寮に入れないからな!」
--------・・じゃあ・・なんで来たんだ?
ガツガツと上がりこみ、カガリはテーブルのキラの座布団の上に座る。
「にしても・・シンプルな部屋だなー・・私も人の事はいえないが。」
そう言いながら茶色のカツラを外し、綺麗な金髪を振りながらカガリは伸びをする。
・・・・やはり、女子としての自覚が足りない。
そう、思わざる得ない。
・・・まぁそのお陰で今こうやって二人きりになれているのだが、、、ディアッカやイザークでも同じ事をしそうで少し恐い。
「どうしたんだ?急に・・・。」
気を持ち直しそう言うと持ってきた鞄からなにやら取り出す。
「はい、コレ。渡しに来た。」
「?」
箱に入ったそれを眺めてなんだろうとあける。
「ネックレス?」
中には赤い石の付いたネックレスが入っていた。
「これ、お母様がくれたんだっ!でな、運命の人と幸せになれる石なんだ!」
---そんな迷信めいたものを信じるカガリもまた可愛いが・・・。
運命の人と・・幸せになれる・・か。
カガリは懐かしむようにその石を眺めて目を細めて笑う。
「と・・いうか、私がそう願掛けをしに来た!アスランの為に!!!」
アスランの為に---・・そう聞いて急に心があたたかくなる。
この石はいろいろな事を頼める云わば"なんでも石"だとカガリは説明し出す。
「でもな、一人一つだけしか叶えてくれないらしい。」
そしてカガリはにっこりと笑いアスランの首腕を伸ばしそしてそれを首から下げた。
ガバッと来られてアスランは少々驚いていると、カガリはニッと笑ってから静かに目を閉じる。
「アスランが・・運命の人と幸せになれますように。」
一瞬、カガリが凄い人に見えた。だって・・他人の為に幸せを祈れるのだから。
そしてその手を組んでいる姿は、まるで女神のようだとも思える。
・・・運命の人・・・----。
そう小さく呟いてからカガリは目を開く。
「こうすると叶うって・・お母様がくれた時教えてくれた。」
「・・ありがとう、カガリ」
カガリは嬉しそうな顔をしたまま、その石に唇をつけて見せる。
やっぱり・・女神だ。
ぼーっとその美しい光景を眺めていると---一つ・・疑問が浮かんだ。
「・・・・・・----俺に・・使ってよかったのか?願い事。」
一人一つしか・・出来ないのだろう?
そう、さっきカガリが口にしていたのを思い出す。
「あぁ、私はお母様が願いをかけてくれたから。」
「それもそうだが・・そうじゃなくて・・。」
ラクスや特にキラの方に使った方が良いのではないのだろうか?
「俺の為の・・願い事で、良かったのか?」
そう尋ねるとカガリは少し儚く微笑んで
「あぁ!お母様は・・大切な人に使ってあげなさいと言っていたしな!」
----大切な・・人?
「それに、アスランもうじき誕生日だってキラが教えてくれたし・・・」
俺が・・カガリにとっての・・・・大切な人、なのか?
そう頭に過ぎり、心が温かくなる。
「絶対叶うぞ!だって、お母様が天国から・・その石と一緒に見守ってるって、言ってた!!」
-------え?
「・・・形見・・なのか、この石は・・?」
天国・・そう言ったよな?今
「あぁ、そうだけど?」
カガリは首をかしげて、不思議そうな顔をした。
--------そんな大切なもの・・・。
「貰えない・・・、返すよ」
そう言って外そうとすると、カガリはちょっとと止められてしまう。
「・・なんでだよ?良いじゃないか!」
「良くないっ!君の母親の形見なんて・・・、それにコレはカガリが大事にしなければならないものだろう!」
死んだ母親だって・・それが何処かの馬の骨に渡るのを快く思わないはずだ。
「大事だ!大事だが・・・私はアスランに使うと決めた!お母様は理解してくれる!」
カガリはそういい切って、外そうとするのを許しはしなかった。
そんな・・軽い思いでお母様から貰った石をあげるのだと誤解された。
違う、本当に・・本当に大切なものなんだ。
でも----だからこそ、アスランにあげたい。
幸せになってほしい。
・・・何故か分からないが、そう思う。
ただ・・今の状況が不幸に見えるからだと言ってしまえばそうなのかもしれない。
でもそんな同情であげるようなモノではない。
分からない・・分からないが、私はこの石を・・アスランにあげたい。
「・・・・、アスランにもらってほしい・・。」
そうカガリは呟いて、目が合う。
さっきまでもみあっていたせいか、顔が近くて・・その瞳に見入った。
「大事な人に・・継いでいかせる。それも、大事なんだって。お母様は言っていたから。」
「・・・・。」
母親の・・形見を渡せるほど、俺はカガリにとって大切な人なのだろうか?
・・・・----キラの方が、良いのではないのだろうか?
「キラ・・じゃなくて、良かったのか?」
そう口にするとカガリは目を逸らして
「アイツは・・いい。もう幸せみたいだからな!」
カガリは微笑んで見せるが・・・、何故か暗い気がした。
そしてその暗い雰囲気を引きずったまま、カガリは
「それで・・な、ラクス---もう、他に両想いの人がいるんだって・・・・。」
カガリは泣きそうな顔でそう、口に出す。
「でな・・少しでもアスランの事、---励ましたくて・・。」
何で、カガリはこうなのだろう。
何でいつも他人の事を最初に考えてくれるんだろう。
カガリは目を伏せて、悲しそうにしていた。
「私・・アスランが悲しむところ・・見たくなくって・・、でもラクスも大切で・・・だからっ---」
---伝えに来てくれたんだ。
カガリは微かにカタカタと震えているように見えた。
・・泣いて・・いるのだろうか。
「せめて・・何かしてあげたくて、でも・・私じゃ何も出来ないかもって---・・。」
何で・・人の為に---涙を流せるんだろう。
綺麗に光る金髪にそっと指を通し撫でた。
「カガリがそうやって来てくれて・・俺は嬉しいよ。」
ポタッと震えている握りこぶしに涙が落ちた。
「ごめんなっ・・応援するって・・・いったのに---私・・何も出来なかったッ・・・。」
涙を何度も拭って謝って・・、
「アスランも・・ラクスも・・大好きでっ・・だから・・幸せになってほしくて・・---・・。」
・・・何で
こんなに優しいのだろう。
グッと抱き寄せて、背中に手を回した。
「ありがとう・・カガリ、ありがとう。」
おでこにそっと唇を落とす。
カガリが悲しい顔をした人の頬にキスをするように。
「カガリ・・・悲しそうに見えるから。」
---・・俺の為に、泣いてくれたから。
カガリはその言葉に顔を上げて、濡れた瞳が痛々しく映る。
「・・・俺は、大丈夫だから---泣くな。」
そして頬に伝う涙を拭く。
「・・カガリは笑っているのが一番似合う。」
そう言うとカガリはガバッと音を立てて抱きついてくれた。
「・・---・・カガリ。」
カガリは優しい。
----誰にでも
・・・俺のものに・・してしまいたい。
「アスラン?」
「カガリ・・俺は----」
意を決して言う覚悟を決める。
「カガリが好きだ。」
その言葉にカガリは微笑んで
「私もアスランが大好きだ。」
----え?
・・・本当に?
「大好きでも無い人に・・形見なんてやれないだろう?」
そう言われ、そうなのか・・と嬉しさがこみ上げてきた。
だが・・キラの事を考えると---手放しで喜んでも居られないと少し気分が落ち込む。
「ラクスも・・キラも大好きだ!」
---------・・。
・・・・。
「そう、か。」
・・・・・大好き。
カガリの大好きは・・そう、なのだ。
"特別"がない。
「俺も・・あの二人は好きだよ。」
大好きは・・・カガリだけ。
「そうだよな!あの二人・・私も大好きだっ」
カガリは笑顔を取り戻したかのように笑う。
「----・・カガリ」
「なんだ?」
「石・・ありがとう。」
でも・・その中でもこうやって石がもらえたのは俺だけだと、思い込むこととする。
「いつか・・お前の大切な人に渡せると良いな!」
そう微笑むとアスランは一瞬微妙な顔をして見せた。
「そう・・だな。そう出来るといいな。」
そしてアスランにもう一度抱き寄せられる。
「カガリ・・。」
そう耳元で言われて、トクンと何かの音がした。
「アス・・ラン?」
「カガリは凄いな。」
「・・・?」
藍色の髪が頬に当たり、温かくて大きいものに包まれる。
そして、暫くその体制でお互い固まった。
耳に掛かる息がくすぐったくて、胸元が温かくて・・・・
------・・暖かい場所。
そう思って瞳を閉じた。
小さい身体を抱きながら、金髪に顔を寄せてその匂いに酔う。
他人おもいで、泣いてくれて・・・優しくて---
愛しい。
キラの為でない、俺の為に・・あんなに思い悩んで泣いてくれて---嬉しい。
「カガリ」
そう囁いて、耳もとにキスをすれば小さな肩はビクンと跳ねた。
・・・これ以上・・は、無理か。
身体を離すと真っ赤な顔をしたカガリが俯きがちにしていた。
「ごめん。急に・・・」
「い、いや・・その・・びっくりしただけで・・。」
カガリははにかんで笑い、急いでカツラをかぶり部屋を後にしてしまう。
「じゃあな。」
「あぁ、今日はありがとう。」
そう言うとカガリはうれしそうに微笑んで走って行ってしまった。
急いでエターナルを出て、デパートまでダッシュで行き服を着替えた。
「・・・・---言えなかった。」
ラクスと付き合っているのは・・キラなんだって。
---アスランとラクス・・キラ。皆皆大好きで。
誰にも傷ついて欲しくなくって。
----でもそれが無理で。
少しグルグル考えたが、仕方の無いことだと納得するしかない。
・・それに---。
さっきの耳元に付いた吐息と唇の感触が離れない。
「・・・ッ〜〜〜、あーもう!」
何でこんなにもやもやした気分になるんだッ!!
そう自分自身に怒りがこみ上げてきてアークエンジェルの寮へと帰っていった。