第十二話、壁の存在




あれから、カガリはしばしばこの校舎に顔を出すようになっていた。

「お!カガリっまた来たのか?」
「あぁ・・、ミリィとなんかあったのか?なんだかミリィ今日凄く落ち込んでたぞ?」
「え・・・、怒ってるんじゃなくて?」
「ううん、落ち込んでた。」
そんな感じでカガリはディアッカとミリアリアの仲、イザークとフレイの仲を修繕するような言葉を沢山言っている。
「よかったー、俺嫌われたかと思って・・・」
「なーんかミリィと同じような事言ってるんだなお前。」

しかも、カガリは見たまま聞いたまま話しているようで・・彼女自身は仲を修正しているとは思っていないらしい。
スパスパと女の子達の事を話し出す。

「フレイは・・アイツ奥手すぎ・・とかなんとか。たまには強引にいけー!!って」
「・・・・----・・そんな事・・。」

イザークは頭を抱えて赤くなって見せる。しかもそれを皆に見せまい頑張っているのがイザークらしい。
「で、イザークは何に奥手なんだ?」
「「「「・・・・・・・・・・・。」」」」
ボンッと激しい音と共にイザークは真っ赤になり、ディアッカは苦笑し出す。
アスランは目を点にして・・キラは「それでこそ、カガリだよ」と微笑んでいた。
「あのなー、カガリ・・男と女っての・・・」
ディアッカが説明しようとするのをキラが睨みで止める。
「いいんだよねーカガリは、いつまでも純粋無垢でっ」
そう言ってキラはカガリに飛びつき頬を摺り寄せて見せた。
「き・・キラァ・・くすぐったいって・・。」
カガリは笑いながらそういってキラも笑いながら暫くそれを続ける。
「一瞬・・ホモに見える光景だな。」

--------・・・。

当然アスランはイライラして、でも・・カガリの前だけでもと笑って過ごす。
「・・カガリ・・帰らなくていいのか?もう・・こんな時間だぞ?」
こんなといっても五時・・しかし夕食は六時からなので、この時間でももう寮に戻らなければならない。
「え・・あ、ホントだ・・。じゃあなっ」
そうカガリは手を振って、校門から堂々と出て行く。---カガリによるといつもデパートで着替えているらしい。

「・・・?アスランどうしたの?」
「-------・・別に。」

キラにそう聞かれたって・・・答えられるわけもない。
・・・キラの恋人が好きだなんて・・・。
そして----どう見たって・・カガリとキラは---両思いだ。

俺が入る・・・・隙間なんて・・ない。


「そーいやさ・・アスラン前カガリが来た時も・・少し不機嫌だったよな?」
ディアッカにまで言われて・・・俺はそんなに顔に出やすいのか?
「別に」

いえない。







「あらあら・・・カガリ、どういたしましたの?」
放課後、携帯を開きメールをチェックすると思いがけない事が書いてあった。

「-----・・・え?」
「?カガリ・・・?」
「ちょ・・ちょっとラクス・・待っててくれるか?三十分ぐらいで帰ってくるから・・・。」
「えぇ、分かりましたわ。お気をつけて」

そういわれてダッシュで教室を後にする。
そして電話を入れた。

『もしもし?』
「アスランかっ?!ちょっといいたい事あるから・・・フェンスに来いっ!!」
『え・・分かった・・でもどうして急に・・』
「そ・・そんなの!!お前が一番分かってんだろぉ!!!」

そう怒鳴って、電話を切った。



ツーツーツー・・・・

「・・・?」

「どうしたの?アスラン」
「いや・・ちょっと悪い、先に帰ってくれないか?」
「・・・?分かった。」

キラに先に帰れといったのは・・随分と久しぶりだった。
いつもいつも・・一緒に帰るのが当たり前だったから。
だが・・この頃は違う。キラといると・・否応無しにカガリのことが蘇り少し暗くなりがちで・・
キラもそれに気が付いていた。・・・・キラとカガリの関係が原因とは、思ってはいないだろうが。








フェンスに着くと、カガリが息を切らして向こう側に立っている。
「・・・?どうしたんだ?」
「ど、どうしたんだじゃない!!!!」
カガリは顔を歪めて大声を上げる。
「----・・?カガリ?」
そしてガッと携帯の画面を見せられた。

****
お前さー、アスランと仲悪いのか?
なんかカガリが来るとアスラン暗くなるんだよな。
****

ディアッカ・・・か?


「そうなのか?アスランは私の事が嫌いなのか?!」
フェンスに手を掛け、カガリは泣きそうな顔でそう問う。

酷い。
カガリは・・・・酷い。

「そんな事ない。」
そうにこりと笑うと、カガリは一瞬嬉しそうな顔をするがまた顔をしかめる。
「じゃあ・・なんでお前は私が行くと・・暗くなるんだ?」
フェンスに掛かった手に力が入ったように見えた。

------・・そんな事、君に・・カガリに言えるはずが無いのに。

・・・伝えられるはずが無いのに。


「アス・・ラン?」

カガリは目を開き、手を伸ばそうとしてくれるが金網のフェンスがそれを許さない。
「-----悲しそうに・・見えるぞ?」
これがなければ・・・きっとカガリは俺の頬に唇をそっとつけてくれるつもりだったのだろう。
「カガリは・・気にしなくて良い事だ。----だから、心配するなよ」




嘘だ。
アスランは今・・嘘をついている。

「私にも・・相談できないような事なのか?」

・・・ラクスの事、かもしれない。
そうか・・イザークやディアッカの前で恋人の話をするのに・・ラクスのこと・・あんまり伝えてない。
----だって・・ラクス、他に好きな人が出来たって・・。
誰だか教えてくれないけど。

「カガリが・・こうやって心配してくれただけで・・俺は嬉しいよ。」



---カガリの前では・・自分を出せるはずだった。
でも、、、自分自身のせいで・・・・要らぬ皮をかぶらなければならない。
カガリの前でも・・キラの前でも。
折角・・素で話せる人たちだというのに。





「アスラン・・・。」

カガリはそれでも心配そうにしてくれていた。


ごめんな・・・でも、こんな想い・・・・・伝えてしまったら、カガリはもっと・・困るから。
だから・・・。


「心配するな。」
そういい切ってフェンスにあるカガリの手を握る。

「俺は大丈夫だから---・・ありがとう、カガリ。」

フェンスがなければ・・カガリは抱きついてくれただろう。


--------壁が・・なければ。







金網フェンスを・・今ほど、憎く・・・思った事はない。



・・このフェンスがなければ・・・カガリは俺の頬にキスをして、抱きついてくれた。
だが、そうなれば---俺はきっと抱き返してしまう。
・・・キスを・・したくなってしまう。

--------きっと・・してしまう。





これがあって・・・・----良かったのかもしれない。





「----・・・ちゃんと・・・本当の事・・いつでもいいから言ってくれよ?」
「あぁ---・・。」

そうして、フェンスから遠退いていくカガリを見つめていた。


・・・届かない。
超えられないもの。

目に見える形で存在して

目に見えない形で・・・・存在するソレ。









「おかえり・・アスラン。どうしたの?」
「・・・・・なんでもない。」

そうキラに言ってごろんとベットに横になった。
そしてビニールに入っているバスローブを抱える。

「アスラン?」

「---------・・・なんでもない。」


不毛な想い。
・・・・断ち切りたい。

-----・・それすら・・・・出来きない自分が哀しい。


「今ね、カガリからメールきたよ。」
・・・悪いが・・、今キラとカガリののろけを聞けるような状態では・・・。

「心配だって、---キラからも何かしてあげろってさ。」
「・・・・、ありがとう。」

・・・----キラは・・なんで、俺が持っていないものばかり・・持っているんだろう。

「?」
「---羨ましいよ・・キラが。」


何でも出来た。
勉強だって・・スポーツだって。
父は社長、母は研究者。
一般よりずっと裕福な家庭に育って
私立にも入れさせてもらって・・・-------
可愛くて優しい婚約者だっていたはずだった。

それでも、手に入らない。


・・・キラのような優しさも。
-----カガリの心も。

・・・・・・・それは俺の努力不足なのか?

それとも・・・・ただの我が儘、なのか。



それでも・・


---------欲しいと望んでしまう。

































































+++++
あとがき
せつな系アスラン。(を通り過ぎて凄い事になってるような・・。)
というか・・すれ違い激しい・・・。
キラ様はあえてアスランに教えてないと思います(笑)兄妹だって。

2006.04.02