チッと舌を鳴らす姿はとてもこの学園の生徒とは思えない仕草。
だが、その一人の少女は確実に大きく舌打ちをした。
そして、有に3mはあるであろう、大きな金網フェンスを屋上から見下ろしている。
ここ、女子校アークエンジェル。そして隣・・兄妹か姉弟かは不明だが、対になる男子校があった。
男子校エターナル。両校とも素晴らしい大学進学率を持つ一流進学校だ。
普通、その学校へは中学受験で入り、みっちり六年制の教育を受けるのだが、・・ただ一人。
そのアークエンジェル校に高校から入学したものがいた。
その子はまだゴールデンウィークを過ぎた頃だと言うのに・・・すでにクラスに馴染みきっている。
ただ少し、学校に不満があったが・・・・・。
「ナタル先生〜漢文の課題・・・」
「・・・・先生には敬語を使え。それに・・お前は少し、言葉遣いが荒い。」
「先生だけには言われたく無いぞ、それ。」
「私は教師だ、それに上司の前では敬語を使う。」
---------厳しい。・・というか礼儀作法に煩い。それは自由人のカガリにとってかなり痛いものだった。
「あらあら、先生に叱られてしまいましたの?」
「そーなんだ、言葉遣いが荒いって。」
「別に先生の前だけ猫かぶっときゃいいのよ。」
「あーでも、カガリこの前ほら、二階から飛び降りたし・・あれとかも結構怒られたわよね」
友達になったラクス、フレイ、ミリィは笑いながら"気にするな"と言ってくれた。
「それより・・もっとウザイのは、この学校・・・男女交際禁止なのよ!」
フレイはブリックパックの中の桃ジュースが零れるのを気にしないで怒って見せた。
「あー、あれな・・別に個人の自由だよな。」
カガリから言わせて見れば全く興味の無いことだったが、個人の自由の尊重と言う奴を忘れてはいけない。
「しかも目ざといのよね・・・一緒に帰ってるの見つかれば、次の日担任に呼び出しよ?」
ミリィは友達でそういうこいたんだよねーと困っていた。
「それこそ、先生の目を掻い潜って・・・ですわよ。」
「そーいえば、ラクス・・エターナルの誰かと付き合ってるって噂・・・本当?」
「さぁ・・どうでしょうか?」
-----うーん。みんな、これには大分・・・困らされているらしい。
「よしッ私・・どうにかして、男子の偉い先生と話してくる!」
「はぁ?」
「だって・・皆困ってるんだろ?ちゃんとなれば・・・ラクスも隠さなくてすむし、フレイだって・・」
「そう簡単に変わるものかしら?」
サンドイッチをほおばってミリィは少し考えて見せた。
「・・・この対の学校、なんだか仲悪いらしいしよ?大学の進学率とかいっつも理事同士競い合ってるらしいし・・。」
「そうそう、それに女子の中でもあんまりにも男子と一緒にいたこと無いから・・「恐い、汚い」って思ってる子沢山いるのよね」
「それと・・男子の皆さんも「女子なんて」と・・思っている方も多いとか・・・。」
---------うーん。
「でも・・世間は男女社会だぞ?そんなの・・大人になってから困るだろう?」
カガリはアメリカから帰ってきて、この学校に編入しので、そういう型にとらわれた考え方は嫌いなのだ。
「あと、街中で顔をあわせると・・即陰口とか・・私もされた事あるわ、振った男子からだったけど。」
「その男子も馬鹿ねぇ、ただフレイの気を引きたいだけだったと思うわよ。」
「それにあちらの持てる方も良く知らない女子から陰口を叩かれるって嘆いていましたわ。」
「・・・・。」
何だこの悪循環はッ!!!!!
「いいのか?!それで!!・・そうやって、壁を作っていては・・何も始まらないだろう?!」
「実際、壁・・あるしね。」
フレイは揚げ足を取るように笑って、指をさす。
「ほら、此処からじゃ良く見えないけど・・・3mちょいの金網のフェンス。女子は誰も近寄らないけど・・あれ超えたらエターナルよ」
そして、その夕方。勝手に屋上に上がりそのフェンスを見下ろした。
「・・・あんなの・・イラナイよな。」
そう、あれはカガリにとっても・・不要極まりないもの。
「キラ・・・。」
そう、小さく名前を呼ぶ。
「あら?こんな所に・・いらしたのですね」
「え?あぁ、うん」
「乗り込む方法でも・・考えていらしたのですか?」
「・・・まぁな。」
「ですがもう、日が落ちていますし・・・帰りましょう?」
「ああ!」
アークエンジェル校とその隣エターナル校は全寮制。
そして、カガリとラクスは同じ部屋、ミリィとフレイも隣の部屋だった。
そして一方、エターナル校。
「アースラン!・・どうしたの?浮かない顔して・・・。」
「・・・・・なぁ、何で知らない奴から・・・寮に手紙が来るんだ?」
そう、アスラン・ザラは呟き、一応だがその手紙に目を通す。
「なんだって?付き合ってくださいって?」
「・・・・・・・・・・そうらしい。」
そんな・・見たことも、話した事も無い女子とどうやって付き合えと言うのだろう。・・・それに、何より。
「アスラン、婚約者いるもんね。」
小さな声でキラはボソッといった。
-------そう、自分には婚約者がいる。
「はっ、遊んでいるように見えるから・・そんな手紙貰うのだ馬鹿者!」
ガンと隣に腰掛けた銀髪のすらっと背が高く少し目がきつい男にそう言われ、カチンと来たのは言うまでも無い。
「でも、アスランよりか俺の方が遊んでるように見えるぜ?」
そういったのは、その隣に居た小麦色の肌で金髪筋肉質で身長も高い男。
「その影響でたまたまそばにいる俺にまで・・・下らない手紙が来るのだがなッ」
銀髪・・もといイザークは色黒のディアッカを睨みつけた。
「まーまー二人とも・・カッコいいってことで。」
さっきからアスランの隣にいるキラ・ヤマト、ジャニー○に入れそうな容姿、誰にでも好かれる性格の持ち主。そして親友。
「俺だって・・欲しいなんて思っていない。」
この四人は何かと一緒に行く事が多く、まぁ・・言ってみれば仲が良いという奴なのかもしれない。
「だって、アスラン・・アークエンジェルじゃ"クールな騎士(ナイト)"って呼ばれてるじゃない。」
「お前・・人のこといえるのか?----"微笑の皇子"・・のくせに。」
「イザークは・・"白馬の貴公子"、ディアッカは・・"合コン係"・・・だっけ?」
キラはふざけたように笑って、ディアッカを見た。
「ち・が・う俺はだな・・・」
「喧しい、この馬鹿者。そんな女子の馬鹿みたいな話つきあってられんだろう!」
「・・・・"海の家にいそうな奴"・・だったか?」
からかうように言うとディアッカは少し拗ねて
「勝手に言ってろ、どーせこの中でまともに女の子と付き合ったことあるの・・俺ぐらいだろ?」
そう、彼女がいた(過去形)を強く主張して見せた。
「女なんていらん。」
「お前・・男色?」
「ふざけるなッ!!」
そうやっていつもの喧嘩が始まり、それをキラとアスランは傍観していた。
「でもさーぶっちゃけ、不便だよね〜女子と全く交流がもてないのって。」
そうキラが呟くと、ディアッカはすぐに悪乗りする。
「だろーキラっ!もう高校生にでもなれば、彼女の一人や二人・・欲しいよな!!」
「そこらへんは一人で良いけど・・。アスランも、困るでしょ?」
・・アークエンジェルには、婚約者がいるんだから、とキラは問いかけてくる。
当然、イザークとディアッカもその事はしっていたが・・・そう何度も言われるのは嬉しいものではない。
-------ましてや、親が決めた相手。
・・・まだ、写真しか・・見た事がないのに。
たしかに、ピンク色の髪で・・顔も結構可愛かった。-------・・性格も良いらしい・・が。
あまり・・運命の人・・とは、思えなかった。
-------あってみないと・・分からないか。
「僕も・・会いたい人・・いるのになぁ・・。」
そう、珍しくキラに女の影がちらつきイザークは眉を潜めて、ディアッカはニッカと笑った。
「貴様まで・・・この男と同類になるつもりかっ?!」
「同類って・・。つうかこの盛りの時期に女に興味ないのがおかしいんだって。」
そう言ってくるのを尻目にキラは懐かしむような顔をする。
「いや、すっごく仲良い子が・・海外行ってて・・三年ぶりに帰ってきたのに、まだ一度も顔あわせて無いんだ。」
しゅんとして、キラは境目にあるフェンスに目をやった。
「まー元気だと思うけど・・・・顔みたいな。」
この学校は全寮制、しかも日曜だって家に帰るのには許可が必要だ。
「じゃあ不便だな、せっかく三年ぶりなのに長期の休暇・・夏休みまでは会えないだろうな。」
ディアッカはお気の毒と肩を下ろした。ディアッカであれば間違いなく規則を破って会いに行くがキラはそういう事はしない人間だ。
「そーだね・・・。」
そうしている間に短い休みは終わり先生が入ってくる。
「あいたいな・・・」
そうキラが呟くのを見逃さなかった。
---きっと、キラにも俗に言う恋人が存在するのだろう。
俺も・・あってみるかな、その・・・婚約者に。
ぼーっとそんな事を考えながら、授業を受けていた。