第九章:漆黒の少年と歩み寄る定刻




冬休みに入り、いつもしない社交辞令やらなんやらで大忙しだった。
そして私の元に会社の重要役の息子が来た。
そいつとは小さい頃から何度も会っていた、年が割りと近いのもあるし、
会社の事情とか何かと共有点が多かったので相談しあっていた。
「久しぶりですね、カガリさん」
ニッコリとくったいないその笑顔はキラに似ていると思う。
「久しぶりだな、シン。」
しかし、彼と決定的に違うのは、彼は親の後を継ぐ気はサラサラ無いと言うことだ。
「俺、冬休み明けからSEED中に行く事が決まったんですよ!だから、それの報告!」
それを聞きビックリする。シンが?
「実は小学生の時から勧誘来てたんですけど、面倒で・・・。
でも、カガリさん、この学校だって聞いたから・・・それはそれで楽しいかな〜って」
嬉しそうに笑う彼に思わず笑い返す。
「で、俺このマンションに住むんで・・遠くも無いから時々遊びに行ったり来たりしたいって思ったんです!」
そしてマンションの住所、地図、部屋番号を知る。
「・・・あれ・・ここ・・・」
それは紛れも無くアスランのマンションだった。
「どうかしましたか??」
「いや、知り合いと同じマンションだ・・・。」
じゃあ、すぐに来られますね!とシンは嬉しそうに微笑んだ。




・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
。。。。。。。。。。。。。。。。


「アレ・・誰?」
キラのその一言に生徒会室は凍りついた。


「カガリさん!!!」
そう言ってカガリのところに走ってくる真っ黒い髪の少年。
可愛らしく微笑んでいるその表情に周りの女子は胸を打たれているようだ。
「シン!!!」
そうして、あろう事にその少年とカガリは抱き付き合っていた。
それを見て、嫌な汗が出たのは言うまでも無い。
そして、横にいた人間からはどす黒いオーラが漂っていた。


「なんなのさー!!!あの少年は!!!!!!!」
男子生徒会室から悲痛なキラの叫び声が響く。
カガリ曰く弟のような存在・・・らいいが・・・・。
まぁ中二だし、取るに足らないとは思う・・・それにカガリにはアスランがいるし・・・。
そう思い発狂するのを止め冷静になる。
「収まったか?この馬鹿者!!」
イザークはやれやれと言わんばかりに溜息を付く。


アスランも色々考えていたのだが、カガリは自分の彼女だと言い通すことにする。
だから、キラのように発狂する事も無く冷静でいられた。


「カガリさん、一緒に帰ってもいいですか?」
そう、いつも通り四人で帰ろうとする自分達に話しかけてきた。
「いいぞ!あ、いいよな、皆」
そう言いシンという少年はカガリと仲よさそうに話していた。
キラは気に食わないが、でも悪い子ではないと少し大人の態度を見せる。
駅に着くと、キラとラクスがデートするとかで違う方面への電車に乗って行ってしまった。


三人でホームへの階段を下っていると
「わぁ!!!!」
とカガリが声を上げた。自分はカガリの前を歩いていたので後ろを振り返る。
「カガリ?!」
驚く事に足を滑らしたらしい。
受け止めようと手を伸ばすと、寸前でカガリの身体が停止する。
「・・・・あ、ありがとう。シン」
後ろにいたシンがカガリを助けてくれた・・・。まぁそれはいい。
が、許せない事がある。


「えっと・・・シン・・胸・・掴んでるんだけど・・・」
カガリは少し恥ずかしそうに言った。
「え?!あ!!すいません!!!」
カガリの体制をしっかり整えてから、シンは手を離し少し頬を染めていた。
無論自分は怒りケージMAXである。
カガリはまぁ不可抗力だよなっと恥ずかしそうにするがニカッと笑い返していた。

「でも・・・」

シンは何かを思い出したように言う。

「昔より、大きくなりましたね」
ふざけて言ったのだろう、いや、分かっている・・・分かっているが・・・・。
「そういう事ここで言うな!!!」
カガリが否定しないのに驚く。
「だって、二年前より全然・・・・。」
何の話だと思わず顔をが恐くなる。
「あ・・アスラン?」
その表情に気が付いたのか、カガリは焦っているようだ。
「中学になってから一緒に入ってませんね、お風呂」
その言葉で脱力する・・・。風呂???俺とカガリは一度だって一緒に入った事ないのに!!!
「あ、当たり前だ!!お前が中学に入る時、私は中三だぞ!?」
これにはさすがにカガリも赤面する。
「えー面白かったじゃないですか、水掛け合ったり、髪の毛で変な形作ったりするの!!」
こいつは素で言っているのか?
そう嫌な感情が心の中でメラメラと沸いたのは言うまでも無かった。


そして帰り、同じ駅で降りた事に驚く。
「じゃあ俺CDショップに寄っていくんで、今日はお邪魔しました。」
そう会釈をして去っていく少年を恨めるハズもなく、ただ自分の中で悶々としていた。


その日、珍しくカガリに電話をかける。
「アスランか?どうした?」
少しして電話に出た彼女になんと言って言いか分からず、少し黙り。
「いや、少し話したいと思って・・・今何してたんだ?」
何でも良いから話題・・・そう思い適当な事を振ってみる。
「私か?今、風呂に入っていたぞ?」
そう言われ想像しかけてそれを消すように頭を振った。そして少年の言葉を思い出す。
「・・・風呂・・あのシンって子と一緒に入ったんだってな。」
「あぁ!・・・ってお前、気にしてるのか??」
図星だが・・・そこで肯定するのも釈然としない。
「アイツはただの友達だ、友達!!勘違いするなよ!!」
そう念を押してくれるのは大変嬉しいが・・・。
何か、自分ばかりカガリが好きみたいで少し嫌になった。
そう言えば、一度だってカガリから好き、とか愛してるとか、言われた事がないのに気が付く。


「なぁ・・・カガリは・・・・」
言葉が詰まった。そんな事を聞くのは失礼だと思う。
「なんだ?どうした?」
受話器越しでは少し心配そうに声を出すカガリがいた。
「ううん・・・なんでもない。」
その声だけで安心しお互いの関係に核心を持てる自分はお気楽なのかもしれないと思った。





「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・ん?どうかしたのか?シン?」
一月も終わるある日曜日。
「アスランさんじゃないですか?何でこのマンションに??」
「・・・・・・・・。え?アスラン?」
そういいドアの影から顔を出すカガリ。
「お前こそ・・なんで・・・」
「ここ、俺の部屋なんですよ。」
「・・・・・部屋?」
その言葉に耳を疑う。部屋?シンは同じマンションに住んでいたのか?それはまぁいい・・・。
が・・・・!!!!!
「で、カガリ?」
「ん?」
お前は何をやっているんだと問う。
「何って・・・ゲームしたりしてたんだよな?シン」
ゲームって・・・何の?!!
「いや〜カガリさん、後一歩で俺に全敗!!」
「お前が強すぎるんだよ!!!」
何の話だ?まぁ二人の態度を見るからに危ない事ではないと察す・・しかし・・・。
「そうだ!今度一緒にアスランも・・・!!」
その言葉に驚き、カガリの腕を掴み
「じゃあな、シン。」
とそれだけ残して差って行く。


「・・アスラン?どうした???腕、痛いんだけど・・・・。」
自分の部屋の前まできて、その言葉に思わずため息がこぼれた。
「・・・男の部屋で・・だいたい!君は危機感がなさすぎる!!!」
「は??」
怒っている意味が分からないらしく、聞き返される。
「・・・。じゃあ、俺がもし、女の子を俺の部屋に入れたら、君はどう思う。」
その問いに、カガリは顔をしかめて俯いた。
「・・・捨てられた。って思う。」
「へ?」
そこまで話は飛躍するのか??
「あぁ!!そうか・・・え!!」
アスランの質問、怒りの答えに気が付いたのかカガリは慌てふためいた。
「・・・そういう事だ。」
そう少し恥ずかしくなり言うと、カガリのほうがずっと顔が赤い事に気が付いた。
「カガリ・・?」
顔を覗き込むと
「・・な、だって・・そんな風に・・・想われないって思って・・・。」
どうやら、いつもの俺のラブコールは全く分からないらしい。
それは恋人としてもカガリに信用されていなかったという現実に少し寂しくなる。
「・・・思ってるよ。」
その言葉に更に頬を染め見上げてくるカガリが可愛くて、しばし見惚れ肩を抱いた。
「ゴメン・・・アスラン・・でも、私が・・・っ」
ここで彼女の言葉は止まった。先の言葉が聞きたくて瞳を覗き込む。









言葉が詰まった。
それは今から自分が言う言葉がいつか相手を傷つけると分かっていたからかもしれない。






「・・。私が好きなのはアスランだけだ・・・。」
彼女の口から初めて自分に"好き"と伝えてもらい、思わず頬が赤くなる。
そうか、好きなのかと分かりきった事を馬鹿みたいに自分に言い聞かせてると何とも言えず優越感に浸る。
「俺も、カガリだけ好きだ・・・。」
そう伝えるとカガリの瞳からは大粒の涙がボロボロこぼれてくる。
それに夕日のせいではなくハッキリと顔が赤い。
久しぶりに口付けをすると、カガリは嬉しそうに俺の背中に腕を回してくれた。



次の日、マンションの前でシンと遭遇する。
「昨日はすまない。」
大人気ないことをしたと言う意で頭を下げた。
「別にっ・・アスラン先輩とカガリさんって付き合ってたんですね。」
「まぁな。」
少し得意になってシンの方を見るとシンはムスッとして見てくる。
「ま、良いですけど?今のうちに仲良くしてて下さいよ・・カガリさんの為に」
その刺のある言い方にカチンと来た。だが、ここで怒っては同レベルと自分を落ち着かせる。
そして緑色の視線と赤い視線がぶつかった。
「・・・・。ついでに言わせてもらいますけど、昨日なにもテレビゲームだけしてた訳じゃありませんから。」
その意味ありげな言い方に、疑問を持つ。
だが、昨日カガリが真っ赤になって好きだと言った言葉の前にはそんな冷やかしはあってなきに等しかった。
そしてその勝ったような態度に、シンはキッと睨みつけてくる。
「・・・・・っ!別に俺は・・カガリさんが悲しまなければ・・それでいいですけどねっ」
そして去って行ってしまった。

















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あとがき
本編の復讐をと思い、カガリの男難っぽいものを決行(笑)
でも後々アスランの女難もやりそうだなぁとちょっと思う。
本編と違い、こっちのシンは精神年齢高めです(多分)
2006.03.02