テスト期間、カガリとアスランは全く会えなかった。
否、会わせてはいけない。
「ラクス・・・カガリ、見なかったか?」
帰り、珍しく一人で帰るラクスに話しかけた。
「えぇ、お会いいたしましたわ。」
彼女はいつもと変わらない微笑ましい態度で答える。
「キラは?」
「お忙しいみたいですの」
フイッっと背を向けるラクスにいつもと違う空気が流れた。
「・・・ラクス?」
「知りませんわ。」
そう突き放すように言うと彼女はスタスタと先に歩いていってしまった。
帰り道、当然またグルグルと考えていたのだが、到底答えが出るわけでもなかった。
カガリはどうした?キラは?何が起こったんだ?なんでラクスは何も話してくれない?
夕焼けを見つめながら色々考えた。そして、決心する。
「あら?アスラン君じゃないの?!どうしたの?久しぶりじゃない!元気にしてる?」
そう出たのはキラのお母さんだった。
「あ、はい。あの・・・キラいますか?」
こうなったらキラに聞くしかないと思った。本当は悔しくて堪らない。
何故いつもカガリの役に立っているのは自分ではなくてキラなんだと。
だが、それ以上にカガリの事が心配で堪らなかった。
「ごめんね、今あの子カガリちゃんのお家に遊びに行ってるのよ〜。」
その言葉にビックリする。カガリの家?俺だって行った事ないのに?
「今日は泊まるからって・・・。」
「え・・・?」
どういう事だ?泊まり・・・・?
「ラクスちゃんも一緒みたい。まぁ中学に入ってからは三人で仲良しだったから・・・」
ラクスまで・・・?
嫌な汗と共にどうしようもなく嫌悪感が出てきてしまう。
キラはそんな奴じゃない。そんな事は知っている・・・。では何故ラクスまで何も言ってくれないのだろう?
まるで自分だけ仲間はずれを喰らったような気分になった。
ガキ臭いと自嘲しながらも、少し悲しい。
なんでカガリは俺に相談しないでキラに相談するんだ?
キラが「アスランにも迷惑が掛かるだろう?」と言ったのを思い出す。
俺のため・・・なのか?
そう思うも心は晴れなかった。
テスト期間・・・一週間の間アスランとカガリは顔を合わせることが出来なかったが、
テスト終了を折りに、生徒会の仕事が始まった。
男女合同でクリスマスパーティーについての企画立てだった。と言っても毎年やっているのでそう難しくない問題だ。
「例年通りでいいな。と言うか今からじゃ企画もかえられん。」
イザークはホワイトボードに軽く段取りを書く。
「どうせ理事達が中心だ。」
「分かった。」
カガリは出来るだけアスランと目を合わそうとしない、その光景にキラは心が痛む。
あの日以来、アスランとカガリは会っていない。その方がお互いの為だと判断した。
カガリも同意した・・・でもこの空気は痛い。
心配そうにカガリに目をやると大丈夫だと言うように微笑み返される、がその中には憂いがあった。
そして、アスランも欲求不満が溜まったようでムスッとしている。
その日の帰り、校舎を出ようとした時だった。
「キラ、今日久々にお前の家で泊まって良いか?」
後ろから急に親友に声を掛けられる。
アスランは知っていた、自分がカガリの家に泊まりこんでいたのを。
「・・・どうしたの急に?ここ三年くらい泊まりに来なかったのに。」
それは間違えなく、自分とカガリの関係を疑っているからだと確信する。
そこにラクスもやってくる。
「あら?どうしましたの?」
ラクスは話を察しているように見えた。
「・・・遠まわしに言うのはよそう・・・。カガリは?」
その言葉にやっぱりとため息が漏れる。
「カガリは今君と一緒にいられない。・・・分かって?」
そう、カガリは今・・君と一緒にいられないんだ。
「なんで?」
「貴方をカガリが大切に想っているからですわ。」
この言葉にはアスランも身を引く。
「カガリは身の上柄どうしてもと言う事が多々ありますのよ・・。それに恋人の貴方がけちを付ける気で?」
ラクスは出来るだけカガリの身には大変な事が起きていることを象徴するように言う。
「じゃあ、なんで俺には・・・!!!」
アスランはそこで言葉を詰まらせた。なんで自分には相談してくれないのか?と。
「大切な人だからです。」
ラクスはコレで最後だと言うようにピシャッと絶った。
「待たせたな・・・ラクス!キラ!!」
下駄箱の影で当事者の声がして焦った。この状況でカガリが出てきては・・・。
「・・・・アスラン・・。」
明らかなまでにカガリの瞳には困惑の色が浮かんでいた。
「帰ろう、カガリ・・・。」
そう言って肩に手を回す。
「カガリッ・・・。」
その声にカガリは思わずその主を凝視してしまう。
キラとの関係が不安なんだ。
自分だけはぶられているのが嫌なんだ。
カガリの傍にいたいんだ。悩みを・・俺だって・・聞きたい・・・そして支えたい。
子供染みたでも確かにそう思っていることが頭をグルグルと廻っていた。
しかし、それをキラに言おうとした瞬間、なにか自分では役不足で、だから頼ってもらえない・・・?
と疑念がわいた。
そして、彼女が目の前に現れ、目を合わせてもくれない。
「・・・・アスラン・・。」
辛い。
どうして?どうしたんだ?俺が何かした?君がどうかした?
親友に肩を抱かれ、伏目がちに悲しい目をしている彼女に俺は何も出来ない?
ボソッと呟くように彼女の俺の名を呼ぶ。
途端、カガリは何かを堪えるように涙を流した。
その涙を見て、キラはカガリを抱きしめた。それすら悔しく許せない。
でも、自分には抱きしめる権利も無いように思えた。
カガリの悩みすら彼女自身から知らされない。
そんな俺に、彼女を慰める権限は無い。
「カガリ・・・。」
ラクスもその姿に同情するかのように二人を包み込む。
そして苦しそうにカガリは声を出した。
「ゴメン・・アスラン・・・・。」
ごめん・・・?
その意味が分からなかった。何が?
問いたかった、でも問えない。
「今日はもう・・・帰りましょう?」
そうラクスも悲しそうだった。
「今度・・・ちゃんと説明するから・・・」
キラも苦しそうに言う。
そして三人は俺の前から姿を消して行く。
中学に入り、生徒会にはいった。
成績はいつも上位。しかもウェストではいつだって一番。
多かれ少なかれ女の子にはもてていたし、でも少し人間関係が苦手だった。
そして幼馴染のキラとも徐々に話さなくなる。いくら幼馴染とはいえお互い別に成長していくものだと思った。
でも俺とキラの友情は揺らがなかった。それはいつまでも変わらないことだと信じていたし、確信していた。
その間、キラはカガリやラクスに出会って何をしていたのか?
幼馴染の自分が入り込めないほどあの三人の絆は強いのか?
ラクスとだって一時期付き合っていた。まぁ他の女の子に告白されるの嫌で、彼女も同じような境遇だったからだ。
だからと言ってラクスはその時俺の中での一番の女の子には変わらなかった。
ホンワカしていて、可愛くて歌が上手い。そして上品だった。
だが、ラクスはキラに出会い恋に落ちた。でもこの二人ならと素直に手を引く自分がいた。
そして、俺はカガリと出逢った。
ラクスとは逆に男勝りで・・・でも好きだった。
どこがときかれると、沢山上がりすぎたりして困るが。
でも、それはただの恋でしかなかったのか?
カガリは今俺の恋人だ、しかし頼るのはキラとラクス・・・。
俺とは恋のみで信頼するには足りないのか?
次の日、学校に行くのが嫌だった。
だが、そんなバカみたいな事も言ってられず学校へ行く。
「おはよう、アスラン」
正門で会ったキラは少し目がはれていた。
キラの後ろに見え隠れする綺麗な金髪。
どう話しかけて良いか分からず沈黙が流れた。
「おはよ!!アスラン!!」
そう大きくいつもと同じく活発な声で話しかけてきてくれたカガリ。
「おはよう・・。」
少し、気まずいと思ったがカガリは気にせずズカズカと話しかけてきた。
「なにボーっとしてんだよ!ホラ!遅刻するぞ!!」
そうキラと自分をバフッと音を立てて鞄で殴り、元気良く校舎に入っていた。
昼ごはんのとき、やはりいつもと変わらず皆仲良く話していた。
昨日の事は?と聞ける雰囲気でもなくただああ良かったと思った。
「カガリ、今日は一緒に帰れるか?」
そう尋ねると
「あーうん。でもキラとラクスも一緒じゃ駄目か?」
と言われ肩を下ろす。
「・・・いいけど。」
これで二人っきりで帰りたいと言って断られた方がずっと痛い。
「あれ、キラ・・・そっち方面じゃないだろ?」
「うん、カガリ送っていくから」
その答えに驚く。
「あぁ、今日は一緒に帰れて良かった・・・、なアスラン」
カガリもさもキラと帰るのが当然なような口調だった。
「ではアスラン、私達は帰りましょう」
ラクスはまるで誘導するかのようだった。
家に付き考える。やはりまだいつもと違う。
気のせいか?
それにキラとカガリが仲がいいのは知っている。
けど、恋人という訳ではない。
もういっそうカガリに電話してみるか・・・。
「・・・もしもし、あの・・アスラン・ザラです。カガリさんはいますか?」
そう言うとピーッと鳴り
「アスランか!」
と元気な声で帰ってきた。
「カガリ・・その前から聞きたいことが・・・」
「丁度いい!私も話したいことがあったんだ!!」
「え?」
その事をカガリの口から利けると思うと、少し嬉しかった。
「こんどクリスマスパーティー、一緒に踊ろう!!」
・・・・。そっち?
少し的外れだがまぁ・・。
「当然だろ?」
と答える。そう、当然なのだ。俺とカガリは恋人なんだから。
「まぁな!!でも、当日になって他の人と踊ってたら、なんか悲しいだろ?だから予約!」
活発にいつも通りはきはき答えるカガリに安堵する。取るに足らない心配だったか?
「じゃあな!」
そうして電話は切られてしまった。
クリスマスパティーの日、生徒会はしばしばセットなどの手伝いをしなければならなかった。
そして、生徒会の生徒には学校の代表としてブローチが渡された。
いよいよ始まり、理事達が堅苦しい挨拶をし皆でご馳走をほうばる。
一瞬、入り口からワッと歓声が上がった。
女子生徒会入場である。
男子は生徒会の仕事が終わりすぐに正装に着替え会場入りしたが、女子の場合化粧とか色々あるらしく
大変時間が掛かったようだ。
そして、みんなで会場に入った結果こうなる。
「綺麗・・・・。」
そう、綺麗だ。
みな元から顔立ちが良いんだが、ドレスがさらにそれに拍車をかけた。
すでに、女子の周りには嫌なくらい男達が戯れていた。
「・・・俺も行ってこよ〜」
ディアッカはちょっと渋い顔をしたが直ぐに笑顔になり一直線にミリアリアの元に行く。
「・・・なによ、あんたまで」
「踊っていただけませんか?ミリアリア様」
ふざけて言うディアッカに少し顔を膨らませるが
「構いませんわ、ディアッカ様」
とふざけて返した。
フレイは近づいてくる男を見る気もせず一直線にサイを目指す。
「フレイ!!・・・綺麗だよ」
「ふふ!当然じゃない!!」
学校一の悪女フレイと中学時代恐れられたが今は安定しているようだった。
ルナマリアは男の人に愛想を振りまいたあと、友達の方に駆けて行ってしまう。
「お姉ちゃん、いいなーもてて」
「そんな事無いわよ!」
あぁあれは確か妹のメイリンだったか・・・?と思った。
そしてキラはラクスとカガリのほうへ向かう。
「キラ!!」
そうキラを見つけた時のラクスの顔は誰が見ても天使だった。
それを目の仇にするかのような男達に目もくれず
ガバッ!!!!!
ラクスがキラに飛びつきキラが軽々支える。
そんなラブラブな光景を見て、自分もとカガリに近づいた。
カガリは男達と楽しく話している。彼女はおそらく性というものにあまり関心は無いだろう・・しかし・・・・。
問題は周りにいるやつらだ。明らかにカガリを狙っているでは無いか?
ムスッとしながら近づくと、パッと振り向きニカッと笑うカガリがいた。
黙って手を差し出すと、カガリも少し恥ずかしそうに手をとってくれた。
周りの男はそんな・・・。と言わん限りで脱力していて、すこし優越感に浸る。
「気をつけろよ」
可愛いんだからと続けたかったが、さすがに恥ずかしかった。
「大丈夫、今日ヒール履いてないから」
・・・可愛いという自覚もあまり無いらしい。思わずため息を付く。
「カガリらしいけどな」
「?」
不思議そうに上を見てくるカガリが可愛かった。
腰に手を回し身体を寄せるとカガリは恥ずかしいと言うが直ぐにスポッと収まる。
そしてダンスが始まり、二人で見つめ合う。
「久々だな・・・」
「ん?」
「こうやって目が見れるの」
カガリは一瞬酷く瞳孔が小さくなるが、すぐにいつもに戻る。
「そうか?そうかもな」
そしてダンスをすると、お互いとてつもなくスムーズな事に気が付いた。
カガリは社長の娘という立場上、こんなパーティーはしょっちゅうあったのかもしれない。
隣ではキラとラクスが踊っていた。あの二人・・・キラが多少幼顔で女っぽいせいもあるが・・・。
「横の二人天使みたいじゃないか?」
とカガリは苦笑する。
「俺も思った。」
そして、耳元で囁く。
「でも、カガリは姫だな。」
その言葉に赤くなるカガリが可愛かった。
「俺は・・・ナイト・・?かな」
カガリは苦笑して言った。
「それじゃあ、結ばれないだろ?」
それもそうだが・・・自分は王子と言うキャラではない。
どちらかと言えばキラが妥当だろう。
そうしてクリスマスパーティーが終わり、会場の外に出る。
まだ、生徒会の仕事として後片付けがあるから、皆が帰るのを待っていた。
「あ〜!もう!!今日はサイの家に泊まろうと思ってたのに!!!」
フレイは大きく啖呵を付きため息を付く。
男性人はその言葉にギョッとする。
「やめんか!!そういう事を言うのは!!!」
一人身のイザークはこの空気はなんだと言わん限りに怒った。
そう、おそらく男性人は彼とニコル以外全員、彼女をお持ち帰りする気だったからだ。
「何がですか??」
ニコルは頭に?を飛ばしていた。
「フレイ先輩、これが終わったら行けば良いじゃないですか?」
ルナマリアはニコニコしながら言う。
「当然でしょ?」
彼女持ち全員、これぐらい自分の彼女もやるきだったらな〜とため息をついた。