第六章:抱きつき症候群

彼女の名前を知り同じ生徒会ということもあり、頻繁に会うようになっていた。
「アースーラーン!」
そういってセントラルの廊下で抱きつかれる事もしばしばあったが、
それは俺だけでなく、キラだったりニコルだったり・・時々イザークだったりした。
「カガリ、抱きつき禁止令」とキラはカガリに言う。
「な、なんでだよ、癖なんだから仕方ないだろ」
そう、彼女の抱きつきは一般的な愛情表現に過ぎない。
このシーズンは生徒会もやる事が少なく大変助かるよい年月でもあった。
今まで彼女は糸が張った状態が続いておりそれが緩んだように見えた。
新聞部からは女子生徒会特集で会長のカガリのことが取り上げられた。

カガリ・ユラ・アスハ:世界的大富豪の娘だが、その気品の欠片も感じさせないのが 彼女の売り。
運動神経がありカリスマ型。人懐っこく友達なら誰でも抱きつくらしい。
彼女に抱きつれたい人、友達になる事を進める!!

これを見て嫌な汗を流すのは言うまでも無い。
キラはこの新聞をみて相当怒ったらしい。
なので出た「抱きつき禁止令」。
この頃俺はどうにかして、カガリと一緒に昼食をとろうとイーストに足を運んでいた。
しかし、そのたびにキラに邪魔され、結局カガリと俺とキラとラクスで食べるハメになっていた。
「お前、売店ばっかじゃないか?」
そう、俺の弁当は売店のパンやおにぎりばかりだった。
俺は自宅から離れてマンションで一人暮らしをしていて作る人も暇もないのだ。
「よければ・・・玉子焼きやるぞ?」
そう言われ目を輝かすと、間髪いれずキラが割り込む。
「ん?じゃあ僕の弁当全部上げるから、残ってるのと交換してよ!」
こいつ、一体俺に何の恨みが?それともラクスという大切な人がいるのにカガリにまで?
いやそんなことはしない奴だ。
ラクスもこのキラには相当手を焼いているようだった。

女子生徒会室、どうせ今日はやる事無いなと思い入ると皆そこにた。
「先輩〜今日は何の話し合いするんです??」
「大きなイベントないわよね〜今。」
「まぁ委員会は委員会だし、仕方ないよ」
「いいじゃないですか、定刻までお喋りしてればいいのですから。」
「ね、私いたって事にしておいて!」
「またサイとデート??」
「忙しいの!私!」
早々にフレイは去っていった。
「やる事も無いから別にいいよな」
そういって暇だ〜と言うとルナから提案が入る。
「そうだ!男子のところいきません?」
その提案をラクスは
「いいですわね、でもあちらが話し合いしいたら不安ですから、5:00ごろに行きましょう?」
と提案しなおした。
そして5:00が迫るとラクスが急に思いだしたように
「・・・あ、そういえば・・・資料室に・・・」
「どうした?」
「いえ、どうって話ではありませんの、あ、でも・・・」
少し悩んだような顔をして、
「カガリ、資料室に大切な忘れ物していませんでした?」
「え?」
資料室にラクスと共に何度も入ったが、落し物をした覚えは無かった。
「いえ、前カガリのかと思ったのですが、他の人だと困るでしょう?だからそのままにしておいたのですわ」
そう言われると行かなきゃ行けないような気になってきた。
「じゃ、ちょっと私資料室行ってくる!皆先行っていいからな!!」
そういって資料室に直行する。ん?所で忘れ物がなんだったか聞き忘れたな・・・。
ガラガラと資料室を開けると中にはアスランがいた。
「アスラン!!」
そういうとニッコリ笑って
「カガリ、どうしたの、こんな所に?」
「何だか分からないけど、忘れ物したっぽくて・・・」
そして同じ事を聞き返す。
「アスランこそ、此処で何を?」
「カガリのこと待ってた」
意地悪そうに笑う彼。
「ふん、別にいいさ、本当の事言いたくないなら!」
そういってきょろきょろと探し物を始める。
「俺も手伝うよ、カガリ」
資料室は電気がついていなかったが夕日ですこし明るかった。
「お前、本当に何しに来たんだよ?」
そういって笑うと彼もニッコリ笑ってくれた。
「でも、一体何忘れたんだろう?」
本当に心当たりがないのだ。
探していると、昔のアルバムとか色々な物が目に止まった。
「あ、コレ、お前達の小学校の卒業写真だ!!」
それは丁度アスランたちの卒業の歳の物だった。
「あれ、カガリはSEED小じゃないんだっけ?」
「あぁ、私は中学からだからな!!」
そういい写真を眺める。
「あ!!コレ、アスランだ!可愛いな〜隣キラ!どっちも幼い!!」
その反応を見てアスランがニッコリ笑う。
「でも、やっぱ・・・」
そういってパタンとアルバムを閉じる。
やっぱり、昔より今のほうがいいと思った。二人ともカッコイイし。頼れるし。
「今のほうがずっとカッコイイからな!」
そういうとアスランは後ろから抱きしめてきた。
「ア・・・アスラン?」
自分が人に抱きつくのは全然緊張しないのに、人から抱きつかれるのはこんなに緊張するものなんだと思う。
「・・・お前に抱きつかれると、嫌に心拍数あがるんだけど?」
多分今、自分は真っ赤だと思った。
何か話していないと壊れそうで、でも話題が見つからなくて するとアスランは一度放し振り返った所でまた抱きついてくる。
「あ、アスラン、どうした?気持ちわるいのか?」
アスランは首を振り、囁いた。
「いつもみたいに抱きついて。」
ふざけて言ったんだろうが、でも確かに自分ですればこの緊張からも逃れられるような気がした。
そうだ、いつもしている事だ・・そう思い、アスランの背中に手を回す。
しかし、心臓の音は早くなるばかりだった。
「・・・どうしよう、アスラン・・・心臓の音が・・静かにならない」
何かがおかしいと思った。自分から抱きついて緊張した事なんてない。
なのに何でこんなに緊張しているんだろう・・・?
「俺の心臓の音・・・聞こえる?」
「いや・・聞こえないけど?」
すでに自分の心臓の音と伝わってくるアスランの心臓の音とは区別がつかない。
「・・・俺もすごく早い。」
暫くじっとしていると徐々にアスランと自分の心臓の音の区別がついてきた。
するとアスランが笑い出す。
「俺達どっちとも相当早くないか?」
そう言われ頷く。その声が余りにも耳元で言われるのでまた心拍数が上がる。
「カガリ、早くなった」
実況中継しなくていい!と思ったがこのドキドキ感に慣れてきていた。
それにこの腕の中は異様に安心することも分かった。
でも恥ずかしくて、目が潤んできているのが分かる。
「もうそろそろ・・・いいだろ?」
その声を聞きアスランが腕をほどき、顔を覗き込まれる。
「嫌・・・だった?」
首を横に大きく振った。
そうすると彼は今にも涙を流しそうな目、というか瞼に唇を落とされ焦った。
「な、な、な、何するんだ!!」
アスランは微笑んだ。
「嫌?」
「嫌とかそういう問題じゃない!!」
逆に涙がポロポロ流れてきた。
「恥ずかしいだろ!馬鹿!!」
涙を拭っているとアスランはゴメンと肩を落とした。
「謝って欲しくも無い!!」
俯きアスランのブレザーの袖を掴む。
「・・・カガリ・・」
そうして髪にキスをし、手で顔を持ち上げられる。
「ごめん」
その瞬間、自分では何が起こったのか全く分からなかった。
いや、確かに唇に何かが当たった。そう、アスランの顔が近くにあった。
そして今離れたその顔はどこか赤い。
「・・・カガリ、よければ俺と・・」
そこまで言われてアスランはカガリの異変に気が付いた。
意味も無く大量の涙があふれ出てきたのであった。
アスランは慌てふためいて、バツの悪そうな顔をした。
しかし、そんな事より、何だこの不安な気持ちは。
別に何かに脅されてる訳でもない、ただキスをされただけ。少女漫画で良くある事ではないか。
不安な時こそ、誰かに抱きつきたい、だが今こんな事ををした人に抱きついたら心臓が壊れてしまう。
そんな自分をアスランは黙って優しく抱きしめてくれた。

やっと泣き止んだと思い顔を上げるとすでに外は暗く、星が輝いていた。
部屋は電気をつけていないので殆ど真っ暗といってよかった。
暗闇の中顔を上げるとアスランは寂しそうに見ている。
「・・・ゴメン、ありがとな」
アスランは言葉の意味が分からず、戸惑っていた。
今私を泣かせたのはアスランだったのかもしれない、しかし、アスランの腕の中は落ち着く。
それが全てでいいと思った。
だから、お礼と言わんばかりに抱きしめてやった。
「か・・カガリ・・・」
顔を上げると珍しくアスランが赤くなっていた。
「よし、大丈夫だな!」
そういって腕を解く。
結局探し物は見つからなかったが、何かを得たような幸福感があった。

アスランside

お昼直後の事である。
「なぁ、ラクス・・・カガリとキラって・・・」
「私の口からは言えませんが、とても仲良しでらっしゃいますわ。」
それでも納得がいかないのか、ラクスは寂しそうな顔をした。
「カガリ、本当に可愛らしい子だとおもいません?」
そりゃメッチャクチャに可愛いので同意する。
「キラの手放したくない、傍にいてやりたいって気持ちも痛いほど分かるのですが・・・」
そしてラクスはこちらをみてニコリと笑う。
「ですが、キラのあのバカッぷりも、カガリの心が固まれば、何の問題もないと思いますの」
そしてラクスの周りに黒いオーラが見え隠れする。
「で・す・か・ら、アスラン私貴方を応援してますわっ!」
そう迫られ、アスランも正直ビックリする。
(あのラクスを此処まで本気にさせるのは凄いな・・・)
昔、自分とラクスは付き合っていた時代があった。
それはラクスが余りにも告白されてウンザリしていて、アスランも同じ事で、
カモフラージュの為に付き合いだしたのだが、学校全体に広まってしまったのだ。
しかし、ラクスにキラというよきパートナーが出来たのをきっかけに二人は全く会わなくなった。
「今日、私どうにかして5:00にカガリを資料室に向かわせますから、アスランもその時間になったら来てくださいな」
今日は生徒会活動日だったが、まぁ抜けても平気だろうと思い、それを承知する。
「その間、私は男子生徒会の方へ伺いキラが絶対に資料室に行かないようにいたしますわ。」


その言葉を信じ生徒会室を抜け資料室に入る。
五分しないうちにガラガラと資料室を開き、見ると案の定カガリがいた。
「アスラン!!」
そういうとニッコリ笑って俺の方に寄ってくる。
「カガリ、どうしたの、こんな所に?」
実際、どんな口実を使ったのか気になった。
「何だか分からないけど、忘れ物したっぽくて・・・」
・・だまされている事に全く気が付いていないらしい。
「アスランこそ、此処で何を?」
すこし焦ったが、本当の事を言う。
「カガリのこと待ってた」
カガリは気に召さなかったらしく顔を膨らませた。
「ふん、別にいいさ、本当の事言いたくないなら!」
そういってきょろきょろと探し物を始める。
「俺も手伝うよ、カガリ」
この単純さも可愛いと思い緩む口元を必死で立て直す。
「お前、本当に何しに来たんだよ?」
彼女は変なの!と言わんばかりに笑うのでつられて笑ってしまう。
「でも、一体何忘れたんだろう?」
だから、何もしてないんだよ。と言いたいが我慢した。
すると、棚から一冊のアルバムをみだす。
「あ、コレ、お前達の小学校の卒業写真だ!!」
懐かしいなと思い後ろから覗き込む。
「あれ、カガリはSEED小じゃないんだっけ?」
「あぁ、私は中学からだからな!!」
もっと早くから知り合っていたかったと切実に思う。
「あ!!コレ、アスランだ!可愛いな〜隣キラ!どっちも幼い!!」
きゃっきゃ騒いでるのをみるとやはり可愛いとしかいいようがない。
「でも、やっぱ・・・」
そういってパタンとアルバムを閉じる。
どうしたと思い首をかしげていると
「今のほうがずっとカッコイイからな!」
それは口説き文句かなにかか・・・?いつも冷静な頭に血が上り、おそらくもういつものような判断は下せない。
そしてこの可愛いとしか言い様の無い彼女を後ろから抱きしめる。
「ア・・・アスラン?」
彼女は驚いたのか身体を固めた。
そして俺の腕にスッポリと収まった彼女は何か話さなくてはと話題を探す。
「・・・お前に抱きつかれると、嫌に心拍数あがるんだけど?」
結局見つからなかったのかまたしても可愛い返答が返ってきた。
一度放し、振り向きざまにもう一度抱きしめる。
「あ、アスラン、どうした?気持ちわるいのか?」
そんな事ないと首を横に振る。
「いつもみたいに抱きついて。」
そう、いつも廊下で抱きついてくるように・・という意味で言う。
すると本当に彼女の手が俺の背中に来て驚きと嬉しさ恥ずかしさで心拍数が上がる。
「・・・どうしよう、アスラン・・・心臓の音が・・静かにならない」
良く言ってる意味が分からないが、愛しさの前には何の障害もなかった。
「俺の心臓の音・・・聞こえる?」
これだけくっついていれば聞こえるかもしれないと思い尋ねた。
「いや・・聞こえないけど?」
「・・・俺もすごく早い。」
暫くじっとしていると徐々にカガリの心臓の音も聞こえてきてお互いに凄くドキドキしていると思い笑った。
「俺達どっちとも相当早くないか?」
囁くと、彼女の心臓の音はより激しくなった。
「カガリ、早くなった」
彼女の心臓の音が心地いい、身体も、存在も。
「もうそろそろ・・・いいだろ?」
そう言われ残念だったが腕を解くとカガリは泣き出しそうな顔をしていた。
「嫌・・・だった?」
彼女は首を横に大きく振った。
見ていられなくて不意に瞼に唇を落としてしまった。
「な、な、な、何するんだ!!」
ここまできたら、どうにでもなれ!と思い微笑んで見せる。
「嫌?」
「嫌とかそういう問題じゃない!!」
速攻で返事がきて嬉しかったが彼女の瞳から涙がポロポロ流れてきた。
「恥ずかしいだろ!馬鹿!!」
そういい、弱弱しく涙を拭う彼女にゴメンと小さく謝る。
「謝って欲しくも無い!!」
俯きブレザーの袖を掴まれた。
その動作が可愛く、名前を呼ぶ。
「・・・カガリ・・」
そうして髪にキスをし、手で顔を持ち上げる。
「ごめん」
どうしようもなかった。だってこんなに可愛い人が目の前にいるんだから。
そしてそのまま唇に唇を重ねる。
さすがに初めてのことなので頬が赤くなる。
もう、ここまでしているとと思い意を決して言わなければとおもった。
「・・・カガリ、よければ俺と・・」
そう言いかけて止まった。カガリの目からは大粒の涙が溢れ出していた。
正直、驚いたし、自分が泣かせたと思いバツが悪くなった。
どうしよう、どうしようと悩んでいると、
前カガリが不安な時人に抱きつきたくなると言ったのを思い出しやさしく抱きしめてみる。

カガリが泣き止み顔を上げるころには外は真っ暗だった。
しかしその暗がりでもわかるほど、カガリは目を赤くしていた。
もうしわけない事をしたと思い悲しくなる。すると彼女が口を開いた
「・・・ゴメン、ありがとな」
何が?
正直な感想である。
一体今、自分はカガリに礼を言われるような事をやっただろうか?
カガリは俺が不安そうに見つめるのに気が付いたのかいきなり抱きついてくる。
「か・・カガリ・・・」
どうしていいか分からず頬を染める。
するとその表情を見たカガリは
「よし、大丈夫だな!」
そういって腕を解く。
彼女のありがとうの意味は分からなかった、しかし何かいい気分になれた。





あとがき
強引ザラ発動中。おそらく継続の形です。
この回はかなりアスカガ傾向高いですね!