第五章:文化祭

殺人的に忙しかった文化祭準備期間を乗り越えやっと迎えた文化祭が始まる。
この学校は前夜祭はない(生徒が文化祭に必死すぎてやる暇が無い)のだが
後夜祭はバッチリ用意されていた。
そして明日から文化祭、なのだが、カガリは肝心の喫茶店の話に全く顔を出していない事に気が付いた。
全体の運営を実行委員と話し合い、パンフレットの作成をし、各クラスの全体案に許可印を押す仕事を
実行委員顔負けにこなしていたからであった。
そのせいか、実行委員の人とはとても仲が良くなったし、学校も今年は盛大に出来そうであった。
しかし、それを快く思っていない輩がいた。
「まったく、女子の生徒会長は何をしている!!」
「あぁ・・カガリなら実行委員の方手伝ってて忙しいらしいよ」
キラは自分の双子をとても心配していた。
「あーあの子頑張ってそうだよねー、ま俺達より忙しいから仕方ないじゃん」
「喧しい!自分の仕事もしないで他人の事など・・・!!」
「それがカガリの良さでもあるんだから、そういう言い方しないでよ」
キラは少しムッとして言った。
「ですけど、あの人なら気合で本番乗り切れそうですよね」
喫茶店の打ち合わせで何度か会っていたが、彼女にはそう思わせるカリスマ性があるようだ。
「キラ、女子の生徒会長と仲いいんだ?」
アスランの質問に対しイザークがきれる。
「キラ!貴様!ラクスとも仲良くしているのに・・・!!他の女とも仲がいいだとぉ!?」
「ラクスは僕の恋人だからね」
威嚇するようにニッコリ笑うキラ。
「キサマァ!!!!!!!!!」
むなぐらを掴み怒り出すイザークを必死で停止させるディアッカ。
「女子の生徒会長とは・・・スッゴク仲のいい友達、かな?」
そして黒く笑う。
「けど、手だしたら承知しないけどね」
ここにいた誰もが「どんな関係なんだよ」と突っ込みを入れたくなった。

「いよいよ明日ね!文化祭!」
ミリィは嬉しいらしくすこしはしゃいで言った。
「全く長すぎなのよ、準備」
フレイはいつも全く働かないので真面目に働いて疲れたらしい。
「ですが、明日、明後日でそれも終わりですわ」
文化祭は土曜、日曜と二日間行われる。
「私クラスでお化け屋敷やるんで、是非来てください!」
ルナのクラスも相当力が入っているようだ。
「あ、そういえば喫茶店の衣装見たか?」
その質問、待ってましたと言わんばかりの目をされた。
「すごいわ、一人一人形は違うけど共通点があって・・・」
「ルナのは可愛いくて、フレイのはセクシーよね!」
「私のは落ち着いた感じ、ミリィのは活発な感じですわ」
「先輩のは凄く偉い!って言うかカッコイイ感じでした」
「でもどれも乙女は外してないのが凄いの!!」
フレイはとても嬉しそうだった。
皆がそこまで凄いと言う服なら、相当凄いのだろうと思った。
自分は時間を見て入るのが面倒なので、土曜一日中仕事をして 日曜はゆっくりするというプランを立てていた。
それに、土曜の午前はミリアリア、午後はラクスとキラが当番に入るらしいので安心していた。

「・・・・コレ私が着るのか??」
そのドレスはとても綺麗だった。まず文句のつけようが無い。しかし、自分が着るとなれば話は別だった。
「安心しなさい、メイクならちゃんとやってあげるから。」
フレイは器用にコスメセットをカバンから取り出しメイクしだす。
ミリアリアは既に終わり、衣装を着ていた。
「ミリィ!凄く似合うな!お前!!」
それを聞き嬉しそうに笑う姿は女でも可愛いと思える程だった。
暫くすると化粧が終わり鏡を覗く。
髪の毛をアイロンで伸ばし、いつも跳ねている後ろ髪が大人しくなると、確かに別人のようだった。
そこにドレスにあう、緑色のリボン、ピンを通し何ともお嬢様らしいのだが やはり地が地だと思いため息をつく。
「カガリ、凄く綺麗じゃない!」
ミリアリアはそう言い、衣装を着せてくれた。
お父様のパーティーのお陰で接客には慣れていたし、こういう雰囲気での対応も分かる。
しかし何度着てもドレスとはフワフワして嫌な感触のモノとしか思えなかった。
喫茶店に入ると開園が9:00からなので、まだ人はいなかった。
喫茶店はまるで貴族の住むような家の中庭っぽくて、とてもリッチな感じがした。
「凄いな・・・この会場」
「でしょ?ディアッカ達と腕によりをかけて作ったのよ」
ミリィは嬉しそうに言う。
時間まで二十分もあるので、席に座り男子生徒会の当番を待つ。
ガラガラとドアが開きその方に目線をやる。
「!ミリアリア・・・化けたな」
ディアッカは少し頬を染めていった。
ディアッカ自身正装で黒いタキシード、緩んだネクタイ。いつもよりかっこよさが増したと思った。
「化けたって失礼ね!」
「いや、良い意味でだよ、すっげー似合う。」
その言葉に少々恥ずかしそうにはにかむのは可愛らしいと思った。
「おい、ディアッカ、邪魔だ!」
そういい後ろから出てきたオカッパ頭の青い目の人。
ディアッカと並んでいると身長は小さく見えるが175程度あるようだった。
その人もきちんと正装で白のタキシードだった。ネクタイは性格そのもののようにキチンとされていた。
「・・・お前が女子の生徒会会長か・・」
自分の方を見てボソッと呟く。その姿をみてディアッカが言う。
「あれ?文句言ってやるんじゃなかったのかよ?」
「五月蝿いわ!そこまで餓鬼じゃない!!」
相当短気なのかと思いミリィ一緒に近くにより最後の打ち合わせをする。
そして、お礼を言わなくてはと思い
「そうだ、イザーク、お前の母には世話になった。"ありがとうございます"と伝えて欲しい」
そういうと、
「ほぅ、先輩に対して呼び捨てか?」
と少し怒られたが、元々女性に対しては怒らないらしく軽く流してもらえた。
そして9:00を迎えたのだが・・・・・・。
いや、ホント人いすぎなんだよ。
十分前に外を見たら既に長蛇の列。
しかもフレイがカガリとミリィのドレスアップの写真をすでに掲示板に貼り付けているという手の込みよう。
そのせいか普段生徒会企画には女子生徒が入る事が多かったのに今年は違う。
「へー凄い人じゃん!これだけで今年は大成功だな」
「これから本番だ馬鹿者!!」
そして始まった喫茶店は言うまでも無く大繁盛だった。
そしてこの学校は理事達も回るので、その際は生徒よりも優先して入れた。
理事達が回ってきてカガリは思わず息を呑んだ。
「お、お父様!」
そういい近くによる。それを見て周りの生徒は驚きを隠せなくなる。
カガリ・ユラ・アスハ、それは世界を又にかける大富豪の娘。
ミリィも、ディアッカもあのイザークさえ頭を下げた。
「頑張っているようだな、カガリ」
お父様のことは昔から大好きだった。
「はい、お父様」
そう言ってちょっと嬉しくなって顔を染める。
「お父様が来てくれるなんて・・・おもいもしてなくて。」
大体お父様、この学校の理事じゃないしな。
立派になった我が子をみて安心したのか微笑んでみせる。
「すまないが、仕事があるんでな・・。今日は此処にこられて本当に良かったよ。」
そういってお父様は出て行ってしまった。
そして騒然となった喫茶店で誰もが口走る。
「今のが・・・アスハ」
「威厳が違うよな・・・」
確かにお父様の威厳は物凄いものがあった。
そんなこんなで、午前は大成功に終わった。そしていよいよ午後である。
ラクスが来て、ラクスの何とも言えない美しさに入った人はクラッときたに違いなかった。
「あれ?キラもう一人男子来る予定じゃ・・・」
「あぁ、今日アスランが入る予定だったんだけど・・・抜けられない用事が入ったらしいからニコルと交代だって」
あぁ、またキラの幼馴染と会う機会を逃したとため息が出た。
「ですが、今日の最後、私とニコルは歌を歌わなければなりませんの」
「だから、出来たらその時来るって言ってたなーアスラン。」
それと・・・とキラが申し訳なさそうに言う
「実は、僕もラクスの歌聞きたくてさ・・・その、ラスト三十分僕も抜けたいん・・だけど」
「そんなの・・・私だって」と言いたくなるが、恋人同士だもんなと身を引く。
「まぁいいや、明日もやるんだろ?そっち見させてもらうさ」
それにラクスの歌はとてつもなく人気で事務所からスカウトの話もきていた。
だから、その時間になればグラウンド以外の場所などもぬけの殻なのだ。
「ごめんね、カガリ」
そしてまた忙しく喫茶店をはじめる。
ニコルが来ると一部の女子からキャっという声が上がった。
昔ルナが言っていた「ショタコン」というやつなのか?
「ニコル、お前人気だなー」
「いえ、カガリ先輩には劣ります」
彼のタキシード姿は雄雄しいと言うよりも可愛いに近かった。
そして閉会まで一時間の時点でラクスとニコルが部屋をたつ。
「頑張れよ!二人とも!」
そういうと二人ともニッコリ笑ってくれた。
「まだアスランこないのかなー」
キラは時計を気にしだした。
しかし、既に客は少なく、別に来なくても一人でやっていける気がした。
そして三十分を切るとキラが謝って出て行き、客もいなくなった。
「ふー!やっと座れる」
独り言をいい席に着く。本当に良く出来ているセットだなと感心した。
そして自分の為に紅茶を入れる。ちゃんとお金は一般と同じで払う。
夕日を見ながら今日は我ながら頑張ったと思い一息ついた。
何か昔の貴族にでもなったように思え少しすまして背筋を伸ばし座る。
そして紅茶を注ぎ口に運ぼうとするとガラガラとドアの開く音がしたが、
少しぐらい良いだろうと思い紅茶を飲みカップを置いた。
そして今来た客に目をやる。
「・・・お前・・・タオルの人」
そう言うと相手も
「お前、女子生徒会だったんだ」
そう言い向かいの席に座る。
「いいのか、今ラクスが歌ってるぞ?」
彼はあぁと答えたが、実際聞いていないようでこちらを見ていた。
「・・・珍しい客だな、何か飲むか?お代はもらうけどな」
立ち上がると彼の目もこっちを追いかけてきた。
「な、なんだよ、どーせ似合わないって言いたいんだろ?」
彼は目線を窓にそらし
「綺麗・・・だな」
といい、その目線の先に沈みそうな太陽があるのを確認する。
「あぁ、夕焼け綺麗だよな」
さっき私も見惚れたんだと言う。
「紅茶、飲むのか?飲まないのか?」
頷くと彼は考え事を始めたように見えた。
心配になり顔を覗き込む。
「お前・・・大丈夫か?何か心配事でも・・・」
焦点がやっと合ったのか彼は驚いた顔をした。
そして今気が付いたのだが、彼の顔立ちは相当綺麗だった。
「お前、綺麗な顔してるっていわれるタイプだろ?」
彼は未だ固まっている。
「おい、お前に話しかけてるんだ、おーい」
彼はまた曖昧な返事で返す。
「あ、やっぱお代いいよ、払わなくて」
そいつの為に紅茶を注ぎながら言う。
「この前とか、ホラ色々迷惑かけただろう?そのお返し。」
そういってニカッと笑って見せた。
その姿を見て彼は手招きをする。
なんだ?と思い傍に寄る。
するといきなり腕を首に回され、顎が彼の肩につく。
「・・・な、ど、どうした!いきなり!!」
ビックリしすぎたのと顔が近すぎたので思わず真っ赤になる。
「ちょっと、ゴメン」
そう耳元で囁かれて、果たして誰が抵抗できるだろうか?
しばらくその体勢で固まっていた。
否、動く事が出来なかった。
少し荒々しく呼吸をする彼の息が耳にかかるたびゾクゾクしていた。
結構長い間そうやっていると、彼は腕を放し、また「ゴメン」と謝った。
何がゴメンなのか、なんであんな事をしたのか良く分からなかった。
ゴメンと言うのは今の事だろうか、しかし嫌ではなかったから謝らなくてもいいと思う。
「・・・いや、その別に嫌ではなかったし・・ちょっと驚いて・・・」
まだ赤いであろう顔をかきながら言う。
「ほ、ほら、紅茶冷めるぞ?せっかくいれたんだし・・・」
彼は俯きながら紅茶を飲んでいた。
折角綺麗なエメラルド色の目が見えないのは惜しいと思う。
「お前・・顔上げろよ、私結構お前の目見るの好きなのに・・・」
正直にそう告げても彼はいぜん下を向いたままだった。
「別にいーよ、どうせ私の顔はお前みたく綺麗じゃないし、目も澄んでないし。」
その言葉を聞き彼は顔を上げた、気のせいだろうか?ほんのり赤い気がした。
「・・・俺はお前の目の方が綺麗だと思うけどな・・」
彼は視線を逸らしてしまう。
「そういえば・・お前の名」
『本日の文化祭はこの時を持ちまして閉会といたします、繰り返します・・・』
その声に遮られるように言葉が止まった。
すると彼はサッと立ち上がり財布をだしお金を置いていった。
「ちょっと、私が払うって・・・!」
彼はその言葉が聞こえないらしく、部屋を出て行ってしまった。


アスランside

自分がサボった喫茶店に行くべく急ぎ足でその教室に向かう。
そして教室の前に来て、自分が正装を着ていない事に気が付いた。
(まぁ、いいだろ・・・。)
そう思い、ガラガラとドアを開ける。
そこはまるで貴族の住んでいる家の中庭のような作りで驚いていると、
そのなかにまた貴族のような振る舞いで紅茶を飲んでいる凛とした女性に目を奪われる。
夕日に照らされてはいるものの、蜂蜜色の髪、琥珀色の目・・・・
「・・・お前・・・タオルの人」
間違いなかった、彼女だ。また会えた事に感動すると共に、一つ理解する。
「お前、女子生徒会だったんだ」
このまま立っているのもおかしいので席に着く。
そして彼女を正面から眺めていた。
「いいのか、今ラクスが歌ってるぞ?」
あぁと答えたが、ラクスの歌よりももっと良いものが目の前にあるのだからと思った。
「・・・珍しい客だな、何か飲むか?お代はもらうけどな」
そういい立ち上がった彼女は紅茶の葉を取りに行ったようだった。
いつもと違い跳ねていない髪、少しすました表情と化粧。全てが自分を魅了しているようだ。
「な、なんだよ、どーせ似合わないって言いたいんだろ?」
目線が釘付けになっていた事に気づき窓に目線をそらし
「綺麗・・・だな」
と、勇気を振り絞って言ってみる。
「あぁ、夕焼け綺麗だよな」
と何か勘違いされショックを受けた。
「紅茶、飲むのか?飲まないのか?」
ショックで押し潰れそうになる中、そう聞かれとっさで頷く。
だいたい、あの脈絡で夕日は無いだろうと考えていた。
「お前・・・大丈夫か?何か心配事でも・・・」
少し下を向いていると、彼女が近寄ってきて顔を覗き込む。
正直考え事をしていたのと、余りに顔が近かったので焦点が合わず、あった瞬間、 その目が、顔が、存在が近すぎて驚いてしまった。
そして彼女は顔をまじまじと覗いて言う。
「お前、綺麗な顔してるっていわれるタイプだろ?」
どう反応して良いか分からず、でもこの距離に安堵していた。
「おい、お前に話しかけてるんだ、おーい」
彼女は紅茶を入れに席に戻ってしまう。
「あ、やっぱお代いいよ、払わなくて」
彼女は紅茶を注ぎながら言う。
「この前とか、ホラ色々迷惑かけただろう?そのお返し。」
そういってニカッと笑って見せた。
格好とは余りに会わない無邪気な笑顔、思わず手招きをする。
首を傾げたがチョコチョコと傍に寄ってきてくれた。
耐え切れなくなったのかゆっくりと確実に腕を彼女の首に回し引き寄せる。
「・・・な、ど、どうした!いきなり!!」
そうとうビックリしたのか声が上ずりになっていた。
そして腕から伝わる彼女の体温が心地よかった。
「ちょっと、ゴメン」
そう囁くと彼女は大人しくなり少しの間身体を預けてくれた。
しばらくその体勢で固まっていた。
後々、凄く失礼な事をしたと思い心拍数が上がり呼吸が荒くなる。
落ち着いてから手を離し、また「ゴメン」と謝った。
彼女は頭の上に?を浮かべこちらを見つめる。
「・・・いや、その別に嫌ではなかったし・・ちょっと驚いて・・・」
顔が赤く、少しかいて笑って見せてくれた。
しかし、どう考えても、今のは失礼だと自負し俯いた
「ほ、ほら、紅茶冷めるぞ?せっかくいれたんだし・・・」
彼女は先ほどいれた紅茶を差し出す。
飲まないのは失礼なので飲んでしまう。
「お前・・顔上げろよ、私結構お前の目見るの好きなのに・・・」
嬉しいのだが、さっきのでまだ赤いであろう顔を見せたくなかった。
「別にいーよ、どうせ私の顔はお前みたく綺麗じゃないし、目も澄んでないし。」
そういわれ、断固違うと思い顔を上げてしまった。
「・・・俺はお前の目の方が綺麗だと思うけどな・・」
しかし、やはり恥ずかしく目を逸らす。
「そういえば・・お前の名」
『本日の文化祭はこの時を持ちまして閉会といたします、繰り返します・・・』
その声に遮られるように彼女の言葉が止まった。
恥ずかしいやら、気まずいやらで俺は急いでお金を払い出て行った。
「ちょっと、私が払うって・・・!」
彼女がそう言った気がしたが、俺は足を止めなかった。

文化祭二日目。
「キラ、今日の後夜祭、良ければ一緒におどりませんか?」
「もちろんだよラクス」
そのやり取りを見て少々羨ましくなる。
「カガリは、僕と踊る?」
とキラが気を利かせてくれるが少し惨めだった。
後夜祭のダンスパーティーに出席できるのは高校生から、というか
高校生がパートナーならいいのだが、自分にはそれと言って相手はいない。
ミリィはディアッカと踊るようだし、フレイは勿論サイだろう。
何か自分だけ置いてきぼりを喰らい少々暗い気分になった。

「ザラ先輩、一緒に踊りませんか?」
そう聞いてきたのは中学生の子・・見た事ある気がする。
「私です、ルナマリア・ホーク」
あぁ女子生徒会の子か、と納得がいった。
「・・・すまない」
そういうとルナマリアはため息をつき
「相手、いないんであれば誘ってくださいね!待ってますから!」
と付け加え去っていった。
今日は喫茶店の当番、昨日のあの子が同じ当番にこないかと楽しみにしていたのだが どうやらこない。
午前はラクスとルナマリア、午後はフレイとミリアリアだった。
「アスラン、凄い誘われようだな」
ディアッカが笑いながら言う。
そして午後イザークと当番していたら嫌に囲まれてしまった。
お互いフリーである事が世間は理解しているらしい。
イザークは元から知らない女性に対しては気を使うのでいつもの気迫がでていない。
俺も女の子は苦手だから苦笑いでかわしていた。
「イザーク、昨日の午後の当番の子しってるか?」
「俺の昨日の当番は午前だ!」
「そうか・・・」と思わずため息が出る。
「キラとラクスが午後当番だったが・・・」
じゃあキラに聞いてみようと思うが今日中に会える確立は大変低い。
ダンスするのであれば、あの女の子がいいと願う。
しかし、昨日あの場で出会えたのは大変有意義であったと思えた。
少なくとも彼女は女子生徒会の役員なのだ。
そう思い、頭を整理すると彼女が自分の頭を埋めはじめていることに少し驚く。
名前も知らない子。しかし既に何度も逢い惹かれている事実。
彼女を愛しいと感じるのは錯覚か何かなのだろうか?
そして又ため息をつくと「たるんでる!!」とイザークに一発かまされる。
いつもならヒュルリと避けるのにダイレクトに当たりすぎてイザークも少々焦る。
「お前熱でもあるのか?」
「いや?」
「ぼーっとしすぎだ馬鹿者!!」
そう言われそうかもしれないと自覚する。


「相手・・・か・・・」
文化祭が終わりに近づくと流石のカガリも焦りだしていた。
だって、相手・・・・。
皆この時の為にカップルになるくらいなのだ。
そんな特別な時くらい、自分にだって相手は欲しい。
「ラクスみたいに可愛かったらいいのにな〜」
ため息をつくとラクスはクスクス笑った。
「カガリがそんな弱気なんてめずらしいですのね」
そしていつものように優しく笑う。
「焦らずとも良い方は必ず現れますわ、だから安心してください。」
ラクスに言われると本当にそうな様なきがした。
そして結局相手も見つからないまま後夜祭に突入してしまった。

後夜祭は基本的に理事や先生がグラウンドにお店を出しそれを生徒が回る。
そして決まった時間になると、ダンスミュージックが流れ出す。らしい。
ラクスとキラには一緒に回ろうと言われたが後夜祭ぐらい二人っきりでと自分から離れた。
そうでもしないと、彼らは相手がいない自分に気を使う事は目に見えている。
いじけながら一人でお祭り気分を味わうのは身に痛かった。
「カガリさん!」
そう言われ振り向くとマリュー先生とフラガ先生がたこ焼きを焼いていた。
「先生!!わー美味しそう!!」
その顔を見てフラガ先生が
「よし!今日はおごってやるよ!お嬢ちゃん」
といい八つのたこ焼きをおごってくれた。
「え!いいのか!」
「おう!男に二言なし!!」
この先生はいい人だと思いニカッとわらいお礼を言って去った。
たこ焼きをほおばっているとミリアリアとディアッカに会った。
「お!姫じゃん」
そう言われ驚く。
「姫ぇ?」
「なんか喫茶店のカガリ見て"姫"ってあだ名ついたらしいよ」
ミリィはディアッカと俗に言う恋人握りをしていた。
「いいなーお前らもそういう関係かー」
そういうとミリィは少し怪訝そうな顔をする。
「だって、コイツがこんな時ぐらいいいだろーって!!」
するとディアッカが耳元で
「馬鹿!せっかく繋いでくれたんだぞ」と言う。
「ちょっと!何耳元で囁いてんのよ!」
ミリィ怒ったのかディアッカを軽く叩いた。
「あーもう・・・」
そう言うとディアッカは周りに人などいないかのようにミリィの耳元で囁いた。
ミリィは一瞬真っ赤になり、「馬鹿ね」と小声で言っていた。
これ以上邪魔しちゃ悪いと思い離れようとするとディアッカが
「あっちの校舎の脇、いってみろ、フリーのイザーク達がいたからなー」
とわざわざ知らせてくれた。
別にイザークと踊っても楽しくないと思ったが、アイツとはいい友達になれそうだと 昨日見て思った。
言われたとおり人気のすくない校舎の脇に行くとイザークが携帯を開いていた。
「お!イザーク、ディアッカの言ったとおり此処にいたんだな!」
そう言って近づくと
「・・・何しに来た?」と随分ぶっきら棒に返されムッとする。
「何だよ、折角女の子から話しかけてやってるのに!」
「誰もお前みたいな奴から話しかけられたくないわ!!」
その言葉に少々グサッときた。
無言でイザークの隣に座る。
「そーだよな、私もそう思う。」
そのセリフに驚きイザークは
「ば、馬鹿か?嘘に決まっている!」
とフォローを入れてくれた。
「あ、たこ焼き食う?無料でもらったんだ」
「いらん。」
とあっさり断られそうかと自分で残りを食べていた。
するとダンスが始まるのか音楽が流れ出す。
「始まったな」
「貴様、踊りに行かなくていいのか?」
「相手・・・いるわけないだろ?」
ため息をつくと流石に同情したのか黙って傍にいてくれた。
やっぱ、コイツとはいい友達になれると思った。
「大体、恋人なんていなくても・・・」
珍しく彼から口を開く
「大切な人が沢山いるだけで・・俺はいい。」
それもそうだ、と二人で笑った。
「お前、やっぱいい奴だ、友達にお前みたいな奴がいて良かった」
「俺はお前の友達にカウントされてたのか?」
と突っ込まれる。
「そうだよ、悪いか馬鹿」
軽く笑うと彼も笑う。やっぱこういう友情はいいと思う。
「イザーク混雑して遅・・・」
いきなり来た彼はその光景を目の前にして止まる。
「貴様、遅すぎだ!!」
と言うのを無視し、彼はこちらを眺めていた。
「あ!タオルの奴!!」
彼は二人の男女が人目の付かないところで笑い会っている光景を見て何か誤解したらしい。
「・・・邪魔した」
そうポツリと呟き、彼は背を向ける。
イザークの頭の上に?が飛ぶ。
「?何だ・・・ジャンケンで負けて焼きそばを取りに行っただよな?」
誤解されたと直感的に感じた。
「おい、あいつ追いかけるぞ!」
「はぁ?!」
「いいから、何かアイツ誤解した!!」


・・・イザークにジャンケンで負けムカつきながらも焼きそばを買いに行き
戻ってみれば、奴が一人で笑っていて、変だなって思ってよく見れば、隣に彼女がいて、
二人で楽しそうに笑っていた。
しかも、皆ダンスしているこの時に、あんな場所で二人でいれば誰の目にもつかない。
つまり・・・そういう事だ。
まさかアイツにまでそういう人・・・しかもあの人とは・・・さすがに衝撃が大きい。
今まで誰かに負けたと感じる事は少なかった。
自分は人よりずば抜けて出来る事ばかりだったからだ。
そしてそれは同じ学年じゃなくても通用した。だからイザークとだって対等だと思っていた。
誰にも負けたくないという相当な負けず嫌い。
しかし、アイツは俺が欲しいものを持っていた。いや、物なんかじゃい。
好き・・・だったかと聞かれれば曖昧で、でも惹かれてて・・・・。
よく分からないが非常に腹が立つ。
なんだか全てがどうでもいい気分だ。
気が付くと走っていて、学校の外だった。少し冷たくなりつつある空気が心地よい。
「・・・まさか、だよな」
この気持ちを凹むとか言うんだろうと思った。
学校のすぐ脇にある公園の自動販売機で飲み物を買う。
そういえば勢いで焼きそばを二つとも持ってきてしまった事に気が付いた。
焼きそばを一つ開け食べながら虚ろになって飲み物を飲む。
・・・冷たいのに飲んでいたら喉が熱い。
「・・・酒?」
果実酒を間違って買ったらしい。何処まで壊れてきたんだ自分と突っ込みを入れる。
その果実酒を飲み終え缶をゴミ箱に捨て暫くボーっとしていた。
気づくとベンチに座っていて焼きそばのもう一つを横においていた。
少し酔ったのか身体は温かい。
誰かの走る音が聞こえた。随分と早いな、と思い下を向き寝ようとした。

ガツン!!!!

「----つぅ・・・」
頭を殴られたらしい。痛い。相当痛い。しかも酔いもあり頭がガンガンする。
「変な去り方するな!!!」
フっと顔を上げると彼女が見えた。真正面に立っている。
「・・・いいのか、彼氏おいてきて」
そういうと彼女は深くため息をついた。
「あー、もう、やっぱ誤解してる・・・良かったよ探しに来て!」
そして彼女は俺の異変に気が付いた。
「お前・・・酒飲んだのか?」
「間違えて」
それを聞きため息をつく。
「全くなにやってるんだ、お前」
そんなの俺だって自分に聞きたいさ。
「私とイザークは付き合ってない。たまたま会った。それだけだ!」
ふーん、・・・え?
「・・・恋人じゃなかったのか?」
「だーかーらー!!誤解するな!アイツは友達!」
それを聞きホッとする・・・。そうだ、なんだ、違うのか。
無意識だった。目の前にいる彼女を抱きしめたのは。
でも俺は座って彼女が立っているのでちょうど胸の辺りに俺の頭がある。
「・・・・お前、抱きつき魔?」
彼女は抵抗しなかった。
「・・・・・ううん。それは有り得ない」
「お前・・危なっかしいな」
「生まれて初めて言われた・・。」
「しかたないな、酔いが醒めるまでここにいてやるよ」
彼女は俺の腕を解き隣に座った。何でこんなに愛らしいのだろうと思った。
横からまた抱きつく。
「・・・やっぱ抱きつき魔だ。お前」
彼女は頬を赤くしていた。
「酔いが醒めるまで・・・」
「・・・酔いが醒めるまでだからな。」
彼女は頭を撫でてくれた。

ある程度たち、酔いが醒めるとまた大変な事をしたと思い真っ青になる。
「ど・・どうした?お前、顔青いぞ?」
背中をさすってくれる彼女。本当に土下座したい気分だった。
「・・・ご、ごめん。」
そう謝るが「こんな時ぐらい頼れ」と言ってくる。
頼るとか、そういう問題じゃなくて・・・・その・・・
「抱きついて・・ゴメン。」
恥ずかしそうにそういうと彼女はハハっと声に出して笑う。
「私も不安な時よく人に抱きつく癖あるんだよ、だからお前の気持ち良く分かる!」
いや、断じて俺にそんな癖はなかったはずだ、お前・・・だからこうなるんだと思う。
「酔い醒めたならイザークが心配してるから帰ろう?な?」
そう言って差し伸べられた手に俺は何の躊躇も無く握り返した。


二人で手を繋いで戻るとイザークに一発殴られそうになり避ける。
「いきなり殴るな!非常識だぞ!」
「うるさい!!お前のせいでどんだけ走ったと思っている?!」
イザークは肩から息をするほどゼイゼイしていた。
「貴様もみつけたなら早く戻って来い!!」
「悪いイザーク、こいつ酔っててさ、酔い醒ましてたら時間掛かって」
「ったく、結局全員で探したんだぞ!!」
そう言われ後ろを見ると、ディアッカ、ミリィ、キラ、ラクスの姿があった。
そして唯一人、イザーク以上に怒っている奴がいた。
「・・・何、手繋いでるの?」
改めて恥ずかしくなり、お互いに手を引っ込める。
「・・・・・・。近寄っちゃ駄目。」
そういい彼女の手を引っ張りキラはテクテク歩いていく。
「・・・どうかしたのか?キラ」
その俺の問いかけにキラは振り向く。
「・・・まさかとは思うけど、傷物にはしてないよね?」
傷物?傷物・・・?
「・・・一体何の話だ」
そのやり取りをクスクス笑うラクス。ミリアリアとディアッカは事情を知っており笑い出す。
彼女の頭の上にも激しく?が飛び交っていた。
「そうだ!私、まだアイツの名前・・・」
「・・・知らなくていいよ」
そういってニッコリ笑うキラを誰もが恐いと感じていた。
「キラ、そんなに怒らないでくださいな」
歌姫の言葉には説得力があった。
「でも、ラクス・・・」
「それに、どこぞの馬の骨に取られるよりよっぽど安心ではありませんの、彼なら」
「・・・でも、僕の・・・」
どうしてもそこで声を止める。
「ですが、人の幸せは人が決めるのです。」
それを聞き、納得いかないかのように顔をしかめる。
「こちらがアスラン、この方はカガリですわ」
カガリ・・・。
彼女の名を初めて聞き新鮮味が増した。
「アスラン・・!あ!キラの親友!!」
「・・・のはずなんだけどね」
とキラが暗い声になる。
「私はカガリ・ユラ・アスハ、よろしくな!!」
そう言って差し出された手
「俺はアスラン・ザラ・・・よろしくな」
手をのばすとそれを遮るようにキラが割って入る。
「・・ね?カガリ、アスランに何かされなかった?」
その質問に対しカガリは
「抱きつかれたくらいかなー?」
と答える。それと同時にその場にいるものが嫌な汗を流す。
まさか紳士なアスランが抱きついた・・・。
キラは烈火の如く怒る気持ちを抑え冷水の如く静かに言った。
「・・・ただじゃ、あげないからね、僕の可愛いカガリは」
生まれて初めてキラとの間に大きな亀裂が入ったと思った。





+++++
あとがき
シスコンキラ発動しました〜♪
第五話にしてやっとお互いの名前を知るって・・・?