話した。
アスランに・・今までの事を
事実だけ。
自分がどう感じたか一切省いた。
そうしないと・・・涙が流れそうだったから。
「・・・・・・・・そういう・・事があったんだ。」
-------汚い。
好きでない男の指が身体に入ったとか。
そういう事をされる事を半ば覚悟でそいつの家に上がったとか。
どれもこれも・・・汚い。
「・・・・・・・・嫌いになった・・・・よな・・。」
その言葉に「え?」と聞き返す。
嫌いになるはずが無い。寧ろ・・・・・・
今になってやっとボロボロとカガリは泣き出した。
「こんな・・・汚い・・自分・・・・・・・ッ」
汚い?・・・カガリが・・?
-------何処が?
こんなにも真っ直ぐで、今回の事だって・・父や俺の為に・・カガリが身体を張ったようなものなのに。
怒っているが・・その怒りだって、・・・・・カガリがこうやって真実を話せば・・・
どうってことない。----優しさに変わっていくのに・・・・・・・
「・・・ごめん・・・・ごめんなっ・・・」
カタカタと震える肩を抱きしめると、カガリはブンブンと首を横に振った。
「別れよう・・アスラン・・・。」
-----え?
「・・何言って・・!」
「・・・・・こんな汚い自分・・・・知られたくなかった・・・っ・・。」
スルリと・・カガリは俺の腕から抜けていった。
「カガリ・・!?」
雨の中、ピチャピチャと走る音がした。
・・・・・抱きしめてもらっちゃ・・いけない。
-------嫌われておかしくない事をした。
それでも・・優しいアスランは抱きしめてくれる。
違う。
そんな優しさは・・アスランを苦しめるだけだ。
・・・・私が傷つけた。
なのに・・アスランは私の傷を癒そうとしてくれる・・・・・・・・・。
優しさに涙が零れると同時に、それはただの迷惑でしかないと知る。
-----こんな私と一緒にいてはいけない。
・・・・・・・・腐った林檎のように、伝染してしまう。
----苦しみが。
泥水が足に当たり、汚く汚点を残すように。
汚点はただ・・広がっていくばかり。
「・・・・・・・・・・・・・・・カガリが・・?」
次の日、キラとラクスにその事を伝えた。
「でも・・私でも・・好きな人に知られたら、ショックですわ・・。」
ラクスはカガリの気持ちが分かると言う。
でも、別れようなんて・・・。
「・・・・・・・今の・・アスランの優しさは・・カガリを・・傷つけてしまいますわ・・。」
「え・・・?」
ラクスは悲しそうな顔でそう言った。
「・・・・カガリは・・恐らくですが、アスランに嫌われたと感じていますもの。」
---------嫌う?
俺がカガリを・・?
「有り得ない。」
「そりゃそうだけどさ。」
キラはため息を付いた。
「・・いま、カガリは・・・・自分の事が大嫌いになっていますわ。だから、アスランがどう言おうと・・"それは嘘だ"で終わってしまいます。」
・・・・なら・・どうすれば・・?
「・・・カガリは・・それでも、アスランの事が好きなのですから・・お辛いですわね。」
"好きな人がいるのに、自分自身が好きでないから・・相手もこんな自分を好きにはならない・・・そう・・感じてしまっていますわ。"
---------だとしても・・。
「俺は・・カガリが好きなんだ。」
「分かってるって。」
キラは苦笑するかのように笑った。
「------少しずつですわね。・・私たちもお手伝いいたしますから・・。」
ラクスにそう言われ、あぁと答える。
次の日からも普通に学校に行く。
だが、虚ろで・・憂鬱で・・・・・・・・たまらなく嫌だ。
・・・・色彩が無いようだ。
「・・・・カガリさん?」
女子生徒会室に行こうとした時シンはなしかけられた。
「・・・・・だい・・じょうぶ・・ですか?」
心配そうに覗き込まれ、あぁと答える。
-----大丈夫・・ではないが・・・・・。
「・・・アスラン先輩が・・」
その名前に背筋が震えた。
・・・・・・・・別れたから・・大丈夫・・。
傷つけた代償に・・自分から・・この道を選んだのだから・・大丈夫・・・・。
-----別れたんだから。
そして呼吸を整えた。
「・・・あぁ、うん。別れたから。アスランとは」
「そうなんですか・・・て・・えっ!?」
シンは一瞬焦って見せた。
「あ、アスラン先輩・・そんな事・・・・一言も・・。」
「・・そう・・・なのか?」
何も言っていない?
てっきり、嫌いになったとか・・・言われてたらどうしようかと思ったのだが・・・・。
「---------良かった・・。」
思わず本音が出てしまう・・。良かった・・・・・・・。
「・・・良かったって・・・・・カガリさんは・・好きなんじゃ・・・?」
シンは何でと質問してくるようだった。
「・・・ほら・・・色々あって・・・・傷つけたから・・・。」
優しい彼が別れを告げられないのなら、自分からと・・・・。
そう、思っているはずなのに。
「・・・・・な・・泣かないで下さい・・カガリさん。」
シンはバツが悪そうに俯き、自分より少し高い身長がバサッと身体にかかってきた。
「・・・アスラン先輩が・・いないなら、俺が・・・・・・・・・・。」
-------今は慰めてあげますから。
アスランと違うまだしっかりとしていない肩。
力の無い腕。
・・・・・でも、
「ありがとう、シン。」
そしてゆっくりと自分から離れる。
「・・・・ありがとう、・・でも・・・・甘えられないな。」
違うんだと
アスランではないと
そう実感させられる。
同じ・・守ってくれようとする存在でも
それが・・・・
-------哀しい。
「はい・・でも・・・・アスラン先輩は・・・」
「・・いいんだ・・アイツはもう・・・・・私に縛られる事は無い。」
-------見てしまった。
シンが・・カガリ先輩を抱きしめてる所。
「お姉ちゃんッ!ビッグニュース!!!!!!!!!」
「煩いわね・・何よ?」
ラクス先輩とミリアリア先輩もこちらを見ていた。
「カガリ先輩の事・・シンが抱きしめてたッ!!カガリ先輩・・少し泣いてるみたいで・・・・・!!」
その言葉を聞いた瞬間、ラクス先輩は
「何かの間違いですわね。だって、カガリはアスランと付き合っているのですから。」
そう、スッパリと言われ
「「えぇッ!!!?」」
お姉ちゃんと二人で声をあげる。
「えぇ・・あらあら、ご存知なりませんでしたか?」
「・・・・・じゃあ・・なんでカガリ先輩・・・・・。」
---------シンに抱きしめられているんだろう?
「・・あの二人は腐れ縁・・ですのよ。きっと。」
ラクス先輩は冷静に言い、こっちを見据える。
"・・・アスランとカガリの邪魔をしないでくださいね。"
そう言われているのが分かる。
「カガリ・・アスランと喧嘩中らしいわよ?」
ミリアリア先輩はすぐにおさまるだろうと笑っていた。
----そんなぁ・・アスラン先輩の事、狙ってたのに・・・・・・・・・。
その後カガリ先輩に頼まれた資料を返しに資料室に向かう。
「あれ・・。アスラン先輩?」
入り口が開いてそこをみるとアスラン先輩がいた。
「メイリンか・・・。珍しいな。」
たしかに、いつも此処に来るのはカガリ先輩だった。
---------もしかして・・
「カガリ先輩の事・・まっていらしたんですか?」
「・・・・・・・・・え?」
その質問にアスラン先輩は驚くがいつもの綺麗な顔に戻る。
「・・・・・さっき・・」
別に意地悪をしようと思ったわけではない。
ただ、見たことを伝えるだけ。それだけ。
「シンが泣いているカガリ先輩の事、抱きしめていましたよ?」
「・・・そうか。」
アスラン先輩はすぐにそう言ってくる。
「付き合って・・いるんですよね?カガリ先輩と。」
「あぁ・・そうだが?」
詮索されるのは好きではないようで、顔をしかめられる。
「・・・・・・・・・・怒らないんですね。」
「・・・まあ。」
質問に答えたくないようで背を向けられた。
「・・・・・どうして・・?」
近づき見あげる。
「アスラン先輩は・・どう・・・思っているんですか?」
-----何となく、本人の口から聞かないとこっちだって納得いかない。
確かに両方とも尊敬する先輩ではあるが・・・・。
「・・・・・・・・・好きなんだ。」
真剣な翡翠の瞳にそう言われ、目が奪われた。
「---------・・。」
-----脈ナシだなぁ・・自分。
そして小さな机ににバンと資料を置く。
「・・・・好き・・なんですけどね、私も。」
「-------え?」
そのキョトンとした顔に少し噴出す。
「アスラン先輩も・・カガリ先輩も。」
そう意地悪そうに微笑むと、アスラン先輩は困ったように笑った。
「ですから、・・喧嘩なんてさっさと終わらせてくださいよ、カガリ先輩元気なくなってるんですから。」
アスラン先輩も・・・・いつもよりずっと世界に無関心そうな顔をしてるし。
「ありがとう・・。」
そして資料室から出た。
「アスラン先輩は・・どう・・・思っているんですか?」
「・・・・・・・・・好きなんだ。」
「---------・・。」
「・・・・好き・・なんですけどね、私も。」
・・・・・・・・・、うん。そういう事もあるよな。
---------メイリンに頼んだのに資料室に足を運んだのは、なんとなくアスランがいそうだったから。
そして聞いた。
・・・・・・・・そうだよ、メイリン可愛いし・・。気が聞くし・・・。
私なんかよりずっとお似合いじゃないか。うん。
それに、私はアスランと分かれた訳で・・・
もう・・無関係なわけで・・・・・
--------悲しむ権利だって・・ない訳で・・・・。
息が詰まりそうになって目の奥が熱くなった。
泣かない・・ないちゃだめだ。
「・・・・・・・・決めたんじゃないか。」
自分に言い聞かせた。
アスランは・・私からつけられた傷を癒してくれる相手が必要なのだ。
その相手に、自分と正反対の女の子を選ぶのだって納得がいくじゃないか。
--------良かったじゃないか。
頭ではそう整理する。なのに、息詰りは収まらない。
「・・・・・・・・・・・アスラン」
呼べばいつだって優しく振り返ってくれるのに・・。
その笑顔を他の女の子に向けられてしまう・・・・・。
-----馬鹿だ、私は。
まだ・・まだまだ、こんなに大好きなのに。
----------アスラン。
シンがカガリを抱きしめたらしい。
でも、シンなら大丈夫だと安心する自分がいた。
カガリはシンを弟としか見ていないし・・・・。
--------頭では分かっているのだが。
今の自分はカガリに安易に近づき慰めてやる事が出来ない。
・・・今だけでも・・シンがカガリを慰めるのは・・分かる。
でも-----------
「あれ?どうかしたんですか?」
生徒会室に戻り、ニコルに覗き込まれた。
「・・・・・・いや・・。」
「いや・・って顔してませんよ。----この頃沈んでますね。」
心配そうに二コルは微笑んだ。
--------駄目なんだ。
・・・・・近くで・・支えていたいんだ。
今まで出来なかった分・・俺が。
今からでも----------。
「カガリ・・。」
小さく彼女の名前を呼ぶ。
返ってこない声。
笑顔・・・・・・・・。