第十八章:憤り




--------っ!!

「・・・・・っあ・・はぁ・・はぁ・・・っ・・」
逃げ出してしまった。


アスランの目が恐くて・・でも、優しくて。
考えていた最悪の事態。
知られたくなかった

走るだけ走って、電灯の明かりの下で息を切らす。
「・・・・っアスラン・・。」
そう呼べば、いつだって優しく振り返ってくれる顔を想像した。
---------あの顔が・・見れない。
傷つけた・・自分が。
あわせる顔なんて・・・ない。

許してくれる・・・。
そのこと事態が許されない。
-----騙し続けたのは自分。





「・・・・・・・カガリ・・。」
もの凄い速さで駆けて行った双子を追いかけようとしたが既に見失ってしまった。
そして自分の親友、妹の恋人を振り返る。
「アスラン・・・。」
淡々とした目でアスランは佇んでいる。
怒るわけでもなく、責めるわけでもなく・・・・
恐いぐらい冷静な眼差し。
「・・大丈夫・・・?」
そんなはずはないと分かっているけど・・・。
フイッと彼は自分に背を向け、今乗ってきた車に乗る。
「アスラン先輩・・・どうしちゃったんですか・・・?」
シンも不思議そうにアスランを見ていた。
「・・・・・帰りましょう。」
ラクスは、アスランを思いやってかこの場から早く立ち去った方が良いと考えているように見えた。
「うん」


次の日、カガリは学校に来ていた。
「カガリ・・。」
そう声をかけると、虚ろな目を擦り
「おはよ・・キラ」
いつもの元気の半分以下で言われる。
でも、そこまで暗くなかった事に少し安心した。
そして文化祭二日目が始まる。


-----考える事からも逃げた自分がいた。
昨日、考えて、考えて
息が何度も詰まって・・・
そして止めた。
考えても仕方が無い、明日逢ってみなければ分からない。
-----そう・・自分のココロを守っただけかもしれない。


四人で文化祭を廻った。
輪投げをしたり、模擬店で焼きそばを食べたり・・・
本当に学生らしく楽しんでいた。
でも、アスランの隣に立つ事はなかった。
キラとラクスが気遣ってくれているお陰かもしれない。
それ以上にお互い、隣に行こうとしなかった。

文化祭の終わり、ラクスとニコルがステージで演奏するのを黙って聞いていた。
その美しい歌声で涙が出そうになる。
観客の中にはLOVEラクスという、うちわを持った人たちもいた。


「よーし、今年は最後の後夜祭だねっ」
キラはラクスの手を取り、ラクスはニッコリと笑う。
「そうですわね・・キラ」
二人が幸せそうに歩いていくのを見送った。

当然アスランは自分の隣にいる。
嫌な汗が流れているのが実感でき、目線を必要以上に下にさげているのも分かっている。
お互い、互いの目を見ずに一緒に歩いていた。
暫くすると、音楽が流れ出す。
黙って腕をとられ、ダンスの輪に入れられる。

「・・ちょ・・」

-----待って・・。
そしてぎこちなく二人のダンスが始まった。
お互い上手に踊れる技術は持ち合わせているはずなのに呼吸がまるで合わない。
相手の呼吸が分からない。
周りの人たちに少しぶつかりながら、それでも黙ったまま踊り続けていた。
黙り続けるのが逆に痛く、彼が此方を見る視線が痛い。
急に、ダンスを踊る足を止めた。
それに合わせアスランも止める。
周りの人に不審に思われているのを気にせず、その状態を続ける。
「・・・・・・・何も・・言わないのか?」

・・え?

アスランから投げかけられた言葉に上を向く。
怒っていない、だが恐ろしく冷静な目がそこには有った。
「俺は君の口からは何も聞いていない。」
ダンスの体制のまま止まっていたせいか、腕は離れておらず、その腕に力が込められた。
-----痛い。
答えることが出来ない・・でも、黙り続けている事だって・・もう叶わない。
「ご・・ごめん・・・・・」
精一杯の言葉だった。
俯き、涙で瞳をいっぱいにして・・それでやっと出た言葉
腕にいっそう強く力を入れられ、痛みが加速する。
「そんな言葉を聞きたいんじゃないっ!!」
眉目秀麗、冷静沈着。
その二言からは考えられないような声の大きさに周りのものは一瞬動くのを止めた。
-----泣くなんて・・勝手だ。
そう分かってはいるものの、涙は止まらずボロボロと流れ落ちていた。
「君から俺に一度だって・・!!!!!」
顔をグッと持ち上げられ、嫌でも視線がぶつかった。
そして目を見開く。
綺麗な彼の顔が酷く歪み、泣きそうになっている。
「!!」
公衆の面前にもかかわらず、キスをされたそれも今までした事の無いような激しいキスを
拒む事をせず、その流れに従った。
当然、周りは注目する。
しばらくして、口が離れアスランに腕を引かれ人目のつかない校舎の裏に廻った。

腕を離され、つかまれていた場所が赤くなっていた。
ポタッ

雨が降り出す。


「・・・・・。」

彼は黙って、自分が話し出すのを待っていた。

----・・・喉が詰まる。

「・・えっと・・・・その・・。」
涙を流してはいけない。辛いのはアスランなんだから。

-----私は・・加害者なんだから。

無理に笑顔を作り、頭を下げた。
「・・・ゴメン・・アスラン・・・・・。何も・・話さなくて。」
話さないのではない、話したくないのだ。
「・・・・・そんな事は・・別にいい。今から話してくれれば。」
怒った口調で言われたが・・言えば彼は---------。

「・・・・・ごめん。」


汚い・・こんな自分。

アスランに言わなかったのは、自分為でもありアスランの為でもあると考えたからだったのに・・・

今・・こうやって怒っている彼に・・私は何の手も差し伸べる事は出来ない。
好きでもない男にそんな事をされて・・それでも・・・・アスランと一緒にいたいと願った。

そんな・・自分勝手で、汚い自分・・・・・・・知られたら・・?

--------嫌われてしまう・・。

嫌だ・・・!!

・・・・・嫌われるくらいなら、何も言わず・・別れたほうが良い。
-----友達になっても・・構わないから・・。


「・・・?・・・・・・・・カガリ・・?」

--------でも・・そんなのだって・・やっぱり勝手なんだ。

・・・・・あんな事して・・嫌われない訳・・ないだろ?
・・・・・・・・キライ・・。
「・・・、き・・嫌いになっちゃうよな・・こんな奴・・・」
--------キライなんて・・アスランの口から聞きたくない。
・・・だったら・・・・・。
「別れて・・・いいんだぞ?」







カガリのその言葉に、プツンと何か切れる音がした。

「-------え?」

何を言い出すんだ・・・?
----俺はまだ・・カガリから何も聞かされていない。
だから・・怒るのだって多少だが控えたつもりだ。
カガリは・・俺に何も言わない代わりに、沢山・・・辛い目にあったと思ったから・・・。


なのに・・・・・・・。


------どうしようもない憤りを感じた。

「・・・・・・・説明しろと・・言っているんだ。」

カガリはその言葉を聞いた瞬間、酷く怯えた顔をした。
そんな・・そんな言葉を聞きたい訳じゃない。
別れるなんて言葉・・・・聞きたくも無い。

「い・・言えない・・・ッ!!言いたくないッ!!!!!!!」

ザーッという雨の音よりもずっと強くそう言われた。


・・・・・・・・完全な拒絶。


「--------ッ・・そんなに・・俺は・・・ッ!!!」

カガリが辛い時に・・話してもらえなくらい・・相談してもらえないくらい・・。

--------君にとって頼りない存在なのか?





アスランの顔が酷く歪んだ。

-----いっぱい・・傷つけたのに、それでも・・また、私は彼を傷つけた。

「・・・・・・・ごめん・・。」
言いたくない。
そうハッキリと拒絶してしまった事を謝る・・・・でも・・言いたくないんだ。

-------・・・我が儘・・勝手・・・・自己中心的・・。
・・・・・・・・・・嫌われて・・当然だ。こんな女。

「・・え?」
ギュッと抱きしめられ驚く。だが、その腕はそうとう強い力が込められていた。
「・・・・・痛い・・・・・。」
血管が止まるのではないかと思えるほど痛かった。

「・・・・どうして・・・・・・・」
聞こえるか、聞こえないかぐらいの小さな声でそう言っているのが分かる。

「・・・俺にだけ・・何も話してくれないんだ?」

その言葉に目の前が逆転するような感覚に陥った。


------違う。

アスランが・・悲しんでいる理由は・・私が思っているのではない。
・・・・・・・・・・何も言わなかった事に・・悲しんで・・怒っているのだ。


そっと心で覚悟を決める。
・・・アスランが傷つかなければ良いじゃないか。
私の事を・・嫌いになっても良いじゃないか。
アスランが・・・傷つかず・・・怒らず・・悲しまずにすむのなら・・・・・・・・。

-----私なんて・・・・


腹をくくり、アスランの事を抱きしめる。

これが最後になってもいいように強く強く抱きしめた。

「・・・・・・・・たくさん・・傷つけたな・・・・・ゴメン・・。話すから・・全部話すから・・。」
















+++++
あとがき
すれ違いMAXですね。
ぶっちゃけこれ書き直したんですよ!!
あ〜あ、書き直さなきゃもう23話まで出来てたのに・・・
前はこの回で和解するつもりでした。
でも止めました・・・。
2006.03.15