ユウナがアメリカから帰ってきた。
これが私からしてみれば戦いのコングだった。
目まぐるしいほどに始まる文化祭の準備。
まったく・・どのクラスもこの時期になると必死になるんだ・・。
だからもっと早くから準備しろと・・・
そう心の中で愚痴を言い、生徒会室に入る。
「アスランおかえり〜」
そう親友に言われあぁとため息を付いた。
「どうでしたか?各クラスの作業の進みは?」
そう、文化祭実行委員と共に文化祭の進行度を見守るのも立派な生徒会の役目だった。
「当日にはなんとか・・・って感じかな?」
シンはそうですか〜とため息を付いた。
「で・・俺達の喫茶店の事なのですが・・・」
レイは一枚の紙を手にとって
「どうやら、女子と合同と見なされたようです。教室が同じになってます。」
そう紙での上にある教室を指された。
「・・・・・・・・っ。誰だ設営・・・間違えて・・。」
つい悪態を付くがもうこの期間・・しかたない。女子と話をつけるか。
「俺はカガリの所に相談に言ってくるから・・・」
そう言うと
「先輩、疲れてるんでしょ?俺が行きますよ。」
シンはスッと立ち上がり部屋を後にした。
「・・・・・・・・・・って訳なんですよ、カガリさん」
ユウナが帰ってきたことは知っていた。父が教えてくれたから。
「じゃあ・・いいんじゃないか?合同で。」
カガリさんは相変わらず元気で、でもやっぱり心配だった。
「あの・・」
それに・・少し前に父から聞いた話で、セイラン家が麻薬売買をやっていると言う噂も聞いている。
それは、ウズミ社長から言われた事だと言っていたので、当然カガリさんも知っているだろう。
「・・・・・むちゃ・・しちゃ駄目ですよ。・・俺に・・相談してください。」
そうポツンと呟く。
好き・・なのか良く分からないが、小さい時から遊んでもらったり・・色々。
・・・・・・・カガリさんが・・泣いてるの見たくないだけかもしれないけど。
「・・ありがとう、でも大丈夫だ。」
そういつもの笑顔で返され、良かったと安心する。
先日、ユウナから一本の電話が入った。
ディナーでもどう?と
当然OKと答えた。
わざと・・嫌がるようなふりも入れて。
それが文化祭の一日目で、その日を待ちわびれば良いのか、犬猿すればいいのか解らなかった。
でも、奇妙な興奮が沸いていた。
男子とは喫茶店で、メイドとボーイに決まる。
男性客は「いらっしゃいませ、ご主人様。」女性客は「いらっしゃいませ、お嬢様。」に統一した。
そして文化祭が始まる。
黒のドレスに白のレース付きエプロン。
ルナは特別短く、メイリンは膝丈でフワリトしたものでミリィは膝丈のピッチリしたもの。
ラクスはルナほど短くないが短く、ふんわりしたスカートで、カガリだけ、ロングスカートだった。
カガリは今日も一日中此処にいて明日思いっきり楽しむつもりでいた。
午前中アスランとキラとラクスで入り、午後はシンとレイとラクスと入る。
今年も合同という事で、大繁盛していた最中・・当番で無い生徒会の奴が入ってくる。
ラクスと共に頭を下げた。
「「いらっしゃいませ、ご主人様。」」
プププっと片方に笑いを堪えられた。
「・・・・・っ!!馬鹿アスランッ!!笑いたいなら笑えよなっ!」
大人しく持っていたお盆を投げそうになりながら叫ぶ。
そんなに敬語が似合わないかっ?!
「あらあら、駄目ですわよ。今はお客様ですから。」
「やっぱり戻ってきて良かった。二人とも可愛すぎて心配だもの。」
キラはちょっと他の男の目が心配と座ってラクスとカガリを見ている男達の目を一人一人睨んで見せた。
「あら・・嬉しいですわ。私はキラだけに見ていただければ、あとは何でもいいですわ。」
アスランとキラは席について少しして「オーダーお願いします」と手を上げてきた。
「オーダー聞きに来ましたぁ〜」
笑いながらそのテーブルに駆けていき、メモを取り出す。
「チョコパフェ一つと・・」
「抹茶アイス一つ。」
そしてアスランはパタンとメニューを閉じて
「あと、カガリ一つ。」
ふざけてニッコリ微笑むアスランに、公衆の面前でと赤くなってしまう。
スパンッ
その笑っているアスランにキラが横からメニューを投げた。
ちょうど背表紙が頭に当たり、アスランはそこを押さえる。
「・・・・きぃ・・らぁぁぁ・・・!!」
あからさまに不満げな顔。
「・・・・天から飛んできたんだよ。大丈夫アスラン?」
ニッコリと黒く笑うキラに思わず笑ってしまう。
そしてそれを取りに行く。
ガラッ
そう音がして、その音の先を辿る。
シンは一瞬固まり、カガリのほうをクッと見て気まずそうな顔をした。
-------ユウナだ。
キラもラクスも名前こそ知っているが顔は知らない。
しかも・・まさか学園祭に来るとは思ってなかった。
・・・・・・・・アスランが・・目の前にいるのに。
ラクスは何も知らず「いらっしゃいませ、ご主人様」と頭を下げた。
そしてあろう事に、奴はカガリを直ぐに探し当て、此方に歩いてこようとする。
急いで、アスランたちのテーブルに物を置きに行くが・・この距離じゃ・・・っ
「・・・お客様はあちらの席になります。」
シンはムスッとした態度でユウナを誘導しようとしてくれた。助かった・・・。
そしてそれらをキラとアスランの席に置く。
「・・・ちょっとっ」
そうシンの声が聞こえたと思った瞬間・・キツイ香水の香りがした。
「-------っ」
息を呑んだ自分がいた。
アスランとキラは不思議そうに後ろを覗き込んだ。
「会いたかったよ・・カガリ。」
そういわれて後ろ髪に手を通される。ビクッと体全体が震えた。
「---っな」
キラは声を上げるが直ぐにあのユウナだと気が付き声を止める。
ラクスも、大きく目を開きこちらを見ていた。
「・・・・・ですから、あんたはっ」
シンは無理にでもユウナを私から剥がそうとしてくれていたがユウナは聞かなかった。
「どちらで?」
アスランは疑問と言うより、少し攻撃的な言い方をしてそいつを睨む。
「・・・・・・・学校にまで・・・何のようだ?」
重くなった気分をそのまま引きずり、声を出した。
「酷いなぁ〜今夜のディナー・・エスコートするために来たにきまってるだろ?」
ディナーの言葉に、アスランは「は?」と顔に出した。
「--------逃げも隠れもしない。・・・だから此処に来るな。」
そう不機嫌そうに返すが、ユウナは以前ニコニコ顔だった。コイツ・・私が怒るので遊んでいる。
パッと振り切り仕事に戻ろうとするが、そいつは腕を掴んで離さない。
周囲はその行動にヒソヒソと話し出している。
「・・・・・・・・・っ」
唐突に、あの日腕を捕まれてされた行為が脳裏に蘇った。
「活発な君は好きだけど・・・やっぱり僕のところでくらい大人しくしなきゃ・・ね?この間みたいに。」
-----------っコイツ!!!!!!!!
「ちょっと、生徒にちょっかいだすのは止めてくださる?」
そう声がして、その声の先を見た。
「マリュー先生・・・」
助かった・・良かった。
パッと手を離され僕は別に何にもとケロッとした顔をされた。
「ただ・・・今夜の事・・離してただけですよ、先生。」
今夜・・?
その意味ありげな言葉に思わず顔が青ざめた。
そしてそいつは去っていく。
「じゃあね〜マイスイートハニー・・今日のディナー楽しみにしてるから」
そう振り返り大きな声で言われたのを、聞いて聞かぬふりをした。
「マリュー先生、ありがとう!」
そう心からお礼を言うと、先生はいいのよと笑ってくれた。
「カガリさんっ」
シンは近寄ってきて、ユウナに握られた場所と同じ場所を強く握りパッと離す。
「これで汚くないですよ。もう。」
そうわざと大声でたった今出て行ったユウナに聞こえるようにシンは言う。
「ありがとう。」
アスランは酷く落ち着かない顔をして、此方を見ている。
行かなくちゃ・・・そう思って、アスランたちのテーブルへ向かった。
「・・・・・・・・今のは?」
少し責めるような目で言われ、・・何処まで言えばと考えてしまった。
「カガリを狙う・・悪い虫・・だよね?」
キラは手をポキポキと鳴らせて、そいつが出て行った方角を睨んだ。
「・・・・・・・・聞いて無いぞ?」
アスランは少し怒ってこっちを見た。
シュンとして、カガリは俯く・・一言ぐらい相談してくれても良いものなのに。
キラは少し困った顔をしてカガリを見て、そしてキラまでシュンとしてしまう。
一体何が・・・・?
そう思ったが、それより何より・・・。
「ディナーって・・それにマイスイートハニーなんて・・・・」
信じられない。このサバサバしているカガリを目の前にしてそんなセリフを吐くなんて。
アスランにとって見れば、確かにスイートだが・・付き合ってもない男からしてみればカガリは逆にボーイッシュに感じるだろうし・・・
「・・・今日、奴と一緒に・・・夕食を食べる予定が・・入ってるんだ・・。」
きまずそうに俯かれると逆に不安になる。
公衆の面前も気にならず、二人の世界に入ってしまいたい。
「ちょっと・・・良いかな?」
カガリの手を取ってベランダに出てしまう。
カガリは後ろ髪を引かれるようにキラのほうを見てそしてこちらに向き直った。
「・・あいつは?」
「・・お父様の会社の提供者の息子。」
それであんなに我慢した態度をしたのか・・じゃあ食事は社交辞令という所だろうか・・。
それでも・・迎えに来るなんてやっぱりおかしい。
「・・相手は・・カガリに気があるのか?」
気・・。結婚してくれと言われたなんて・・・言えない。
どうしよう・・・・。
「ある・・・と言っていた。」
精一杯の答えがそれで申し訳なく思う。
「あるって・・・」
アスランはハァと溜息を付く。そんな事・・なんで一言も・・。
「相談くらい・・のるぞ、俺は。」
カガリはそれでもバツが悪そうにして、手をしきりに握り合わせていた。
-----何か・・隠してるのだろうか?
「うん・・分かってる・・ありがとう。」
ギュッと握り、急に笑顔になるカガリ、いつも通り嬉しそうに笑っているように見える。
「・・・カガリ?」
肩を掴むと、依然笑顔でニコニコしているカガリがそこにはいた。
「・・・・・ホント・・ありがとう・・。」
ポツリといって、肩の手を離された。
そして持ち場に戻ってしまう。
その背中を少し遠いめで追いかけていた。
「カガリッ」
持ち場に戻ると直ぐにラクスが心配して声をかけてくれた。
「-------ユウナ・・ですの?」
「・・あぁ・・。」
「----今日の・・ディナー・・行かない方が・・身の為・・ですわよ?」
ラクスの言いたい事も良く分かる・・・だが・・・
「あいつの事・・豚箱に突っ込める良いチャンスかもしれないんだ。」
その言葉にシンは反応した。
「・・・・・あれ・・調べるつもりですかっ!一人で!?」
ラクスは話を読もうと耳を傾けていた。
「危ないですよっ・・・・止めてくださいよ!カガリさんっ」
シンは肩を掴み、強い目で見てきた。
「だって・・下手したら、アイツの家まで入らないと・・・っ」
そんな事・・・させられないと。
「ありがとう・・シン」
でも決めたんだ。
文化祭恒例ラクスの歌声とニコルのピアノ伴奏が高らかに学校に響き渡る中、一人・・ユウナとの食事に向け、校舎から足を出した。
アスランに先ほど「一応・・気をつけろよ」と念を押され、分かったと笑って答えておいた。
実際、鞄に忍ばせたスタンガンを握り締め手は震えているし、足が棒のようになって歩いている。
校舎の正門前には一台の黒い高級車が止められ、中にはアイツがすわっていた。
そして車に案内される。
シンは気が気でなかった。
ラクス先輩のきれいな歌声すら耳に入ってこない。
行かせてよかったのか、何かされるんじゃないか・・・?
カガリさんに渡したあの写真。モザイクが掛かったあの写真を外そうとした事がある。
インターネットを少しいじって調べれば、そんなモザイクは幾らでも外せる世の中のだ。
カチッとマウスを押し、一度目のモザイクを外すとより正確に人が見えてくるがまだ背景と混ざってぼんやりとしか見えない。
もう一度・・もう一度・・・。
計三回、そこで手を止める。
「・・・・・・・・え?」
その写真はまだぼんやりしていて、良く見えないが流石に三度も外せば徐々にカタチは分かってくる。
「・・・・・・・・下・・着?」
それに・・・・・・・・・・・・・。
最初、この写真を見たとき、てっきりソファーで寝ているカガリさんをユウナが脅かそうとして、
ソファーの上でカガリさんの方に身を乗り出して覗き込んでいるのだと、そう思っていた。
でも・・・その寝ているカガリさんの頭にはユウナの手が乗っていて、それにカガリさんは腹ばいになってユウナのソコに押し付けられている。
その光景を正確に想像すればするほど、気持ち悪くそして有り得ないと思う自分が出てきた。
「嘘・・だろ?」
でも・・それ以上モザイクを外す気にはなれなかった。
それから、気まずくてカガリさんとは余り話していなかったけど・・・もし・・・
本当だったら・・・・・
----カガリさんが危ない。
きっと、ラクス先輩も・・キラ先輩も・・ましてやアスラン先輩なんて・・・この重大さを知るはずも無い。
ただ、財産目当てで言い寄ってきてるだけだとしか説明されてなければ、この方向に考えは及ばないはずだ・・・。
嫌な汗が流れてくる。
どうすればいい・・・伝えた方が良いのか?それとも・・・。
伝えたところで・・何か・・・何か変わるのだろうか?
・・・・・カガリさんが・・今まで誰にもこの事を言わなかった・・その気持ちを組む方が・・・?
色々浮かんでは消え、消えては浮かんだ。
-----自分ひとりでは・・助けられない・・
そう思った。
「彼が・・アスラン・ザラ君か・・・かっこいい人だね。」
「そうだな。」
ユウナは少し不機嫌に笑い私は目を背けた。
「ま、彼の事は・・今日来てくれたからよしとするよ。」
そしてイタリア料理の店の前で降ろされ、ユウナと降りた。
帰り、三人で帰ろうとするとシンが後ろから付いてきている事に気が付く
そして三人でいっせいに振り返るとシンは目を白黒させて俯いた。
「・・・・・・・カガリ・・の事・・ですわね?」
ラクスがそういったのを聞いてシンは思いっきり首を縦に振った。
「---なんで・・カガリの事とシンが?」
アスランはどうして?と言う顔をしている。
「・・・助けないと・・カガリさん」
シンは本当に言っても良いものかまだ迷っていた。でも一人で何も出来ない以上どうしようもないじゃないか、そう心に言う。
「俺の家・・来てください。見せたいものがあります。」
口では説明できないから・・・。
三人は黙ってマンションに来てくれた。
一応日課で郵便受けを覗くと何も入っていない。
アスランも自分と同じように郵便受けを見る。
「あれ?」
そこには一枚の正方形の封筒が入っていた。
アスランはそれを手にとって見ていると、何かのマークが入っている。
「・・・・・・・それ!!!!」
シンはそれを急いで取り上げた。
「なっ・・俺の郵便物だぞ?シンっ」
このマーク・・・。セイランカンパニーのだ・・・、しかも・・中身はCD-R・・DVD?
フッと嫌な事が頭を過ぎった。
これを・・出したのがユウナだとしよう。そして今、カガリさんはユウナの元にいて・・・。
少なからず、アスランさんはユウナの存在を知っていて・・・・
・・・・・・・・・この二人を良く思っていない・・ユウナのことを思えば・・・・?
そう、これはアスランさんが不安がっている所に出す最後の詰め。
だったら・・中身の内容も・・何となく・・・・理解できる。
シンの所にあの写真が来たのも、カガリさんと仲の良いシンに「カガリは自分のものだ」と思わせたかったのだろう。
なら・・恋人のアスランさんになら・・もっと凄いのが送られてくるのだって・・分かりきっている事じゃないか。
「わ・・渡せませんっ・・・!!!!」
それを自分の後ろに隠す。
それでもアスランさんはふざけてないでと取り上げようとする。
「・・・カガリさんの為ですっ!!!!」
その言葉でラクスはフッと感付いた。
「・・・・・・・。ユウナ・・から・・・?ですのね」
シンは黙ってコクコクと頷いた。
そのピンクの妖精の異名を持つ彼女がツカツカと近寄ってくる。
「・・・詳しく・・知っているようですわね?・・・教えてください。」
そうきれいな顔に覗き込まれれば思わず「はい・・」と頷いてしまった。