「アスランッ」
ちょっとビクッとして声の主を見る。下駄の音をカラカラと鳴らしながら浴衣姿で小走りでこちらに来る。
「悪いっ・・少し遅れたか?」
ただ自分が十五分前に来ていただけで、ちょうど今時計は六時半を指していた。
「いや・・ぴったりだ。」
「良かった」
近くに来るまでカガリだと気が付かなかったのは、いつもと違い束ねて上にあがっている髪のせいかもしれない。
ピンとした髪がカガリの後ろで綺麗に広がっていた。
そして耳には自分があげたピアスが光っている。
「それ・・」
柔らかい耳たぶに触ると、カガリは微笑んで
「毎日つけてたぞ。」
そしてカガリはそっとアスランの左耳に手を伸ばした。
「お前も・・つけてる」
そっと触れる細い指先が心地良い。
「いくか」
そう言ってカガリの肩を抱き電車に乗る。
「・・・・?アスラン、あっちじゃないのか?」
カガリは人ごみの向かう先を指差した。
「ディアッカに穴場教えてもらった、それに・・あの人ごみじゃ・・人を見に来たようなもんだろ?」
アスランはVネックのシャツで鎖骨が見えるほど大きく開いてその綺麗な身体を見せているようだった。
普通・・女の子がそういう服を着てるの見て男の子が注意するんだろうが・・逆に注意したくなる。
隠れ筋肉質な腕に肩を抱かれ、アスランの隣を歩くと半割り以上の女の人は必ず振り向く事に気が付いた。
「アスラン・・綺麗だもんなぁ・・。」
「はぁ?」
だって綺麗なんだ。
そして丘に出た。
その丘にはすでにちらほら人がいたが、例えるなら終電の電車ほどの密度だった。
「芝の上・・座れるか?」
「余裕だ。」
そして芝の上に二人で座り、花火がはじまるのを待つ。
「・・・・・飲み物、買いに行ってくる・・何が良い?」
「じゃあ・・・午後ティーストレートでっ!」
「わかった。」
少し斜度のある芝生に生暖かい風が吹く。
その風に横紙を揺らし、排気ガスで少し曇った空を眺めていた。
こんな暗い中、正直一人で待たされるのは嫌だと思った。
ドンッドンッ
そう音がして、花火大会の開始を告げた。
大きく光の花が開き、それがサラサラと散ってゆく。
「アスラン・・遅いな・・・。」
ドンッ
それと同時にヒヤッとしたものが頬に当たる。
「ひゃぁっ!」
ビクンと肩を震わすと、アスランが笑いながら覗き込んできた。
「つ・・冷たいじゃないかっ!!脅かすなぁ!!」
そうホッペをさすりながら怒るが、傍に来てくれて安心したのかで顔は笑ってしまう。
「ほら、午後ティー」
「・・ありがと。」
そして二人で並んで花火を見だす。
「キレイ・・」
「そうだな・・・」
アスランの肩に横顔をピッタリとくっつけ、アスランはカガリの頭に頬をピタリとくっつけた。
「カガリ」
ドンッ
花火の音共に名前を呼ばれ、アスランのほうを向く。
彼の顔が近づいてきたので自然と目を閉じた。
ドンッドンッ
その音すら気にならないような口付け。
そしてそのまま芝生に倒れこんだ。
唇は離さないまま。
芝生の少し湿った感じと、握られているアスランの手のひらに安心する。
唇を離し、お互いの顔を覗き込んだ。
「--------アスラン」
少し太い首に腕を巻きつけ、顔を上げた。
触れるだけの甘いキス。
そしてどうだと瞳を覗き込む。
「・・・・・可愛いなぁ・・カガリは」
「はぁ?」
そして元の形に戻った。
「お前の方が・・私より綺麗だ。」
「は?」
お互い少し相手を不信そうに見て、お互い笑った。
最後まで花火を見届ける。
「・・・・終わっちゃった。」
「・・・・終わったな。」
空には、花火の跡の煙が沢山上がっていた。
「あれ・・中々消えないんだよな。」
「でも、気が付くと消えてる。」
「まぁな。」
世の中のものなんて、皆そうなのかもしれない。
そんな寂しい事がふと頭に浮かんだ。
「なあ・・アスラン。」
「なんだ?」
夜の道を二人で手を繋いで帰っていた。
「・・・・ううん。なんでもない。」
カガリは急に寂しそうな顔をして俺の手を強く握る。
「・・・・離さないから、安心しろ。」
ギュッと握り返し、カガリのほうを見て微笑んだ。
変な・・感覚。
アスランが・・花火のように消えてなくなってしまわないか・・。
そんなこと有り得ない。分かってる。
けど・・何か、消えてしまいそうな気がする。
手をギュッと握っていないと、離れて消えてしまいそうで・・・
「じゃあな。」
「・・ごめんな、こんな夜遅くまで・・」
時計は十時を指していた。
「全然。」
俺は男だし・・そう付け加えて、手を離そうとする。
「-------カガリ?」
離れない。
「・・・・・あっ!!・・ゴメン・・じゃあな。」
スッと離されて、カガリは酷く俯いてそのまま部屋に入ってしまった。
・・・・・・・・、後ろから・・抱きしめてやれば良かった・・。
そう、その後姿を見て思った。
「好き・・・・・。」
その感情と、今の自分の感情は酷似しているようで、全く違うものだろうと感じていた。
さっき、もう全てを言ってしまいたい・・今なら許してもらえる。
そう思った自分がいた。
でも違う。
彼は優しく抱きしめて慰めて協力してくれるだろう。
それが・・違う。間違いなんだ。
優しさに・・甘えちゃいけない。甘えと愛情は似ているが別物だ。
私は怒られなくてはならない。
簡単に許してもらっちゃいけない。
アスランは優しくしてくれるだろう・・たが、それは酷く彼自身が傷ついている真っ最中・・・。
そんな事・・・出来る訳が無い。
彼は優しいから、怒りたくても・・私の立場を考えて怒らない。
我慢する。
哀しいのに・・・・・・・・
それが自惚れなのか、真実なのか・・分からないけど。
「遅かったな・・カガリ」
キサカにそう言われ、
「私はもう高校二年生だぞ?」
と答える。
「まさか・・カガリに好きな人が出来るなんて・・世の中面白いことになってるな」
そう兄のように笑い、頭に手をポンと置いてくれた。
「そうだっ・・キサカ・・あの噂・・・本当か?」
--------近頃、新しくお父様経由で入った噂があった。
「・・・あぁ・・セイラン家の・・麻薬売買の噂か?」
「あぁ・・、それが本当なら・・・・・・・」
証拠を私が掴んでやる。
そう瞳を見せると
「・・・・・・・危険なことはするなよ。」
キサカにペチッっとおでこを叩かれた。
もし・・暴力団と絡んでいるなら、警察だって動かざる終えないし・・豚箱に入れてやれる。
「・・・捕まえてやる。」
そう小言で呟き、自分の部屋に向かった。