「え・・・・?」
「何驚いてんだよ?当然だろ?」
・・・・当然・・。そう、そうだけど・・。
生徒会高校二年生には早くも引退の時期が来ていた。
そんな事、知ってる。
それはようやくマフラーが外せるようになった三月の始め。
「・・・そう、そういえばあんたって先輩だったっけ?」
そう言うと酷いなとディアッカは悪態をつきながらもにこりと笑う。
「で、俺とイザークはお前らより一学年上で、受験もあるから引退!」
そう事実を突きつけられ、そうと引き下がる。
「なにへこんでんだよ。」
「へこんでないわ、勘違いしないでよ。」
付き合っていた・・・そういえばそうだ。でも前の彼のようにラブラブだった訳でもない。
「何だよ、少しぐらい悲しんでくれるかと期待してたのに。」
「思いあがりがすぎるわね。」
クスリと笑うが、実際は別に面白くも何とも無い。傍にいて欲しい?そういう訳でもない。ただ傍にいるのが当然だった。
「・・・は〜、でもま・・校舎が違うだけだし・・・。」
ディアッカはなおも平常を装ってくれている、実際二人が会うのなんて、生徒会の仕事の時のみだというのに。
「・・・で、何が言いたいの?」
言いたい事なんて分かってるような気がした。でも、聞きたかった。あいつの口から。
「落ち込むなよ。」
その言葉に爆笑する。
「おいおい、笑うところか〜ここは!!」
笑うのと同時に少し、悲しい気分になっていた。今年はいい。来年は?
校舎だって学校だって変わってしまうではないか?
「・・・悪かったわね、思いっきり落ち込ませてもらうわ。」
その言葉にディアッカは嬉しそうに頬を緩めた。
「・・・そういえば・・もうそんな時期か・・」
それは生徒会室の中。
「そういえば、イザークって先輩か!!」
カガリはパソコンで原稿を打ちながら言う。
「そういえば・・だよな。」
俺はカガリにココアを渡しながら言った。
「・・・お前ら、俺を何だと思ってたんだ!!!!」
「「イザーク」」
「・・・・・・・・・。」
その言葉に脱力するイザーク。
するとカガリはパソコンを切り、イザークと向き合う。
「一年間、色々世話になった。」
カガリは深々と頭を下げた。
「フン、こっちもだ。」
イザークも珍しく人に礼を言った。
「で、次の生徒会長だが、おそらくお前だ。アスラン。ちゃんと任をこなせよ。」
「分かってる、安心して受験勉強でもしてろ」
「フン。」
確かにイザークは怒りっぽいが悪い奴じゃない。
カガリもそれを良く理解していた。
そして、その人がいなくなるのを俺もカガリも少し寂しい気持ちで見送る。
「--------以上でSEED学園生徒会、任退式を終わります。」
一応、任退式はみなで行う。しかし、どうせ来年だってメンバーはそう変わらないだろうと思った。
高2になり、桜は満開を迎えた。
そんな中、俺達は桜の中を歩いていた。
数日前。
「旅行?」
「そ、どっか近場でいいから四人で」
「それは楽しそうですわね」
「だろ?私とキラで計画したんだ!!」
この期間はまだ新生徒会が立っていないので好き勝手できる良い機会だった。
「今の季節ですと・・・桜の綺麗な場所がよいですわね。」
「桜か〜いいな!!それ!」
カガリはいつも以上にニコニコ顔で言うので行っても良いかという気分になる。
どっちかと言えば休みぐらいゴロゴロして、趣味に没頭していたいが。
「な、いいだろ?アスラン!!」
そんな言われたら断れるハズも無い。
「いいじゃない?来年は勉強でそれど頃じゃないかもよ?」
まぁいいと思った。こうやって遊ぶのも悪くない。
近場で来たのは鎌倉だった。
「私的には食い巡りしたいんだけどな!」
「よいですわね、笹団子とかあるのかしら・・・?」
既にお団子を三種四種たべたカガリとラクスはまだ食べる予定らしい。
俺はそんな二人をキラと後ろから見守っていた。
「食いすぎだろ・・・明らかに」
「いいじゃない?食べてるの可愛いし。」
まぁそれは分かるが・・・。
「その分アレだけはしゃげば運動にもなるでしょ?」
大体、鎌倉って大仏とかがあったりする所じゃないのか?
桜の並木道を歩いていると、カガリの髪が桜に良く栄えていた。
キラがラクスの手をとり、前進するのを見て俺はカガリの手をとった。
「・・・今日は来れてよかった。」
カガリは聞こえるか聞こえないかぐらい小さな声でそう言い、こちらをみて微笑む。
「俺もだ」
そんなカガリを見れるだけで幸せだと思った。
結局初日食い巡りし、民宿に泊まる。
晩飯は刺身で美味しかった。
夜、大貧民で白熱のバトルを繰り広げ、そのあと一対一のスピードで盛り上がった。
「今のはズルイ!!」
「何言ってるんだ、キラが・・・!!」
その親友バトルを微笑ましく見つめるカガリとラクス。
「よーし!次は私だ!!」
「本気で来いよ」
「当然!!」
そんな感じで結局零時を回り寝る事にする。
民宿なので、風呂も男女別だが一つずつしか無いし、トイレだって各階に一つだった。
「では、私達お風呂に行ってまいりますわ。」
「じゃあ、俺達も入るか。」
「うん、ちょうど区切りいいしね」
そう言い皆で風呂に向かい入る。
「こじんまりとしてて良いな。」
「えぇ、そうですわね」
本当のところ、自分の家の風呂の方が広く綺麗なのだが、この風呂には自分の家に無いものがあるような気がした。
四つしかないシャワー台のを一人一つで使う。
「これ、お客さん増えたら大変かもな。今は私たち二人だから良いけど。」
本当にゆっくり出来るのはこれが最後のような気がしていた。
何故かは分からない。けど、なぜかそんな嫌な予感がした。
「じゃあ、アスラン。僕先に上がるね。」
そう、言い残して鍵を置いて去ったキラを不審に思わなかった俺がいけないのだろうか?
「あれ?アスラン?キラは?」
風呂から出ると、カガリもたまたま今出た所だったらしい。
寝る時に着る・・浴衣?みたいなのを二人とも着ていた。
自分達の部屋のある階まで上がり、カガリが「え?」と声を上げた。
「・・・ラクス?いるのか?開けろよ?」
しかし部屋から応答は無い。
すると、自分とキラの部屋から自分の携帯の着信音が鳴り響く。
どうやらメールが来たらしい。
『ごめん。ちょっと今・・今夜?取り込み中だから。カガリよろしくね。でも手は出さないで欲しいな。』
その内容に驚きパッと画面を閉じた。
「誰からだ?」
部屋の外でカガリは疑問そうに覗き込んでいたので入ってくるよう促した。
「今夜、カガリこっちに泊めろって。」
「はぁ?!何だそれ!!」
カガリは思いっきり悪態をつくが、じきにラクスとキラの現状を理解したのかカガリの顔は赤くなった。
「うん・・・ま、・・・仕方・・・ない・・よな?」
次第に歯切れが悪くなっていくのがカガリらしい。
当然の事だが沈黙する。
「・・えっと、じゃあ私は寝る!お休み!!」
そう言いキラの布団に潜るカガリ。
「え!!ちょ・・ちょっと!!」
コレじゃ生殺しだとストップをかける。
「寝るって言ったら寝る!!!」
真っ赤な顔で勢い良く言われ引き下がるのだが・・・・・・・。
いや、でも!と思いなおす。ここで引いたら男が廃るっ・・・気がする。
「カガリ・・・。」
呼ぶと彼女は聞こえないと言わんばかりでその体制をかたくなに保つ。
見かねて、横に座っていた。
「・・・な、なんだよ。」
「・・別に・・・。」
別にじゃない!!別にじゃないだろ?!俺!!と心で葛藤する。
そんな事したら明日に響くし・・・それに・・・。
何より自分は女の子だ、そういう事は出来るだけ避けて通りたい。
-------・・それに。
アスランに抱いてもらえるほど、綺麗でもない身体。
肌の質などが問題ではない。
先に他の男に触られた身体、汚れてしまった身体を・・今更・・・。
抱かれる資格が無い。
そう思った。
「カガリ・・。」
それでも愛しい彼はこの身体を望んでくれる。
それは真実を知らないから。
急に、哀しくなった。
カガリの横に座って、どうするか考えていた。
カガリの賛成ナシにそういう事をするのはやはり嫌だ。
こういうのは、お互いの了承を得てするものだと思うから。
前の俺なら、何が何でもカガリにうんと言わせてたけど、今はそれほどガキでもない。
「--------カガリが・・嫌なら・・いいさ。」
そうポツンと言った。
ガバッと毛布が捲れる。
「嫌じゃないっ!!」
「は?」
いきなり出てきて、うれしい事を言われ顔が赤くなる。
「あ・・違う・・嫌じゃない・・けど・・・出来ない・・・・。」
申し訳なさそうに語尾がどんどん小さくなりながらカガリは言う。
申し訳ない。折角・・大好きな人と二人っきりだと言うのに。
私だって、アスランになら抱かれたいさ・・・恥ずかしいが。
でも今真実を隠して付き合っていて、これ以上辛い思いをするのは嫌だった。
-------しかし、吐き出して・・本当の事を告げて、嫌われるのは・・・。
「・・・・・・・・ごめん。」
今の自分には・・それしか言えない。
「・・・焦るな・・心の準備が出来てからで・・構わないから。」
そんな私をアスランは優しく撫でてくれた。
--------申し訳ないっ。
その優しさに対する嬉しさと、そんな彼に嘘をついている苦しさが同時にくる。
「か・・カガリ・・?」
ポロポロと涙が出てしまう。
ゴメン・・ごめん・・・・・・ごめんなさい。
「・・・・ごめんなさいっ・・・ありがとうっ・・・・・・・。」
泣きながら言った。
ありがとう。
それは優しさへの感謝の気持ち。
「---いいよ。カガリ・・」
優しく抱きしめてくれる彼は、一年前よりずっとずっと大人で大きかった。
ごめんなさい。
そんな優しさに甘えて・・ごめんなさい。
嫌ってほしくない。
だから・・嘘をつく私を・・許してくれる・・?
「アスラン・・・・」
「どうした?」
「好きだ・・。」
その言葉に、彼はきょとんとする。
「・・・・襲いたくなるから・・止めてくれ。」
そう真っ赤になって返されて思わず笑ってしまった。