「・・なんか・・悪化してませんか、あの人。」
「・・・なーんか、・・・仕事と稽古以外・・・ずっと寝籠もってるよな。」
そう・・シンとディアッカが、病気なんじゃないかと心配するほど、アスランは寝込んでいた。
病気な訳じゃない、ただ・・起きていると、カガリのことを考えすぎてしまうから。
琴を弾く姿、膝枕してくれるときの太股の感触。唇の感覚。
真っ赤な顔も、怒った顔も・・・・・浮かんでくる。
逢いたくなる。
「はぁ・・ッ・・。」
「「しかも起きてるし。」」
二人に同時に突っ込まれて・・アスランは悶々とした気分で居た。
こんなんじゃ・・・カガリに逢わせる顔がないじゃないか。・・・抱いてしまいそうになる。
欲望を振り払うように起きあがり急に腕立て伏せを始めて、・・・・遂に可笑しくなったと、二人に囁かれていた。
こうなったら・・いっそ、この町を一周してヘトヘトになって・・・・考えないようにする方が良いのかもしれない。
・・・それじゃなきゃ、一日中稽古だ。
そう思って・・一番真面目に練習をこなすイザークの元へ行く。イザークは・・どうやらアスランをライバル視しているらしいのですぐにOKしてくれた。
胴着も着ずに、腕や足を痣だらけにしながらほぼ半日・・・イザークとアスランは木刀を合わせる。
その様子に・・・アスランの隊の隊長、ムウと、イザークの隊長のラウは「やってる、やってる」と感心していた。
「・・・・かがり・・いくの?ステラ・・お留守番?」
病み上がりのステラに、ギュッと袖を引かれて・・カガリはなんだか後ろ髪を引かれる思いになる。
ステラは・・本当に、カガリのことばかりを・・・気に入ってくれているから。
「ステラも・・いくか?身体・・大丈夫か?」
「すてら・・カガリがいない・・そっちのほうが、嫌。カガリとステラ・・いつも、いっしょ。」
紅梅色の瞳を潤ませて言ってくる姿は、本当に可愛らしく・・・・ラクスに頼み、ステラも連れて行くことにする。
「メイリンは・・」
「あっ、私・・いいです。極力外に・・出たくないんで・・。」
困ったように・・笑う、その姿。きっと・・何か訳在りなのだろう。
三人で店を出て、野禽を出る。
「所で・・誰なんだ?・・・逢わせたい人って。」
「・・見ての・・お楽しみですわ。」
「・・楽しい?」
「えぇ、私も・・人目で、いい人だと思いましたし・・、ステラもすぐ好きになりますわっ」
ミリィのいる、お茶菓子屋、斧語呂へ入ると・・・もう人が座っている席にラクスは腰掛ける。
しかも、在ろう事に・・わざわざ隣りに。せめて向かい側だろう?
「おいっ、ラクス・・そこにもう・・人が・・。」
そう言った瞬間だった。
ガッと・・ラクスの隣の人が立ち上がり、こちらを見た。
・・・・・・・・・・。
え?
「・・やっぱり・・・・・カガリ・・ッ、生きて・・。」
もう・・泣きそうな・・・・。
「き・・ら・・。」
兄の顔があった。
泣き出したのは・・・・同時。
「・・かがり・・哀しい?すてら・・何、できる?」
泣き出したカガリに、ステラは袖を引いて、自分が何か出来ないかといじらしく聞いてきてくれる。
ラクスは・・泣き出した、自分より年上の人を・・落ち着かせるように背中を撫でていた。
変わらない、泣き虫な所も・・・・・・・。
ずずずっと互いに鼻をすする音を出してから・・・顔をのぞき込んで・・ぐっと抱きしめあう。
「ゴメン・・ごめんね、カガリ・・っ。僕・・君のこと・・あの日、助けてあげられなくて・・・」
あの日。
そう・・幼い日のはずなのに・・あまりにも鮮明に覚えているあの日。
「キラは・・悪くない。・・・・・逢えて・・よかった・・。」
隠れんぼをして・・・カガリは、いつものように・・押入に隠れた。そして・・寝てしまった。
気が付いたのは・・・・もう、部屋中火の海で、でも・・出なければならないと・・・・燃えている障子を突き破り・・外に出て、その時・・もう、キラの姿はなくて。
街の外に出たのかもしれない。そう思って・・出れば、・・・義母、も・・義父も・・いない。
・・・・そして・・・あの店に、拾われた。
「・・今・・野禽で、暮らしてるんだってね。・・・大丈夫・・?」
抱擁が終わり四人で席に着くと・・・キラはそう訪ねてきて、カガリは笑い返す。
「キラが思っているよりずっと良いところだぞ?・・ラクスも、ステラもいるし・・な?」
そう言って・・ステラの頭を撫でてやると猫のようにカガリにすり寄って・・カガリも笑みをこぼす。
それを見て・・キラは「よかった」と言い、でも・・と考えてしまう。
やぱり・・兄としては、いかがわしいことを・・されないか、とても心配だった。
カガリはまだ十四、ラクスに聞いたが・・まだ見習いで・・・・・・ないとは言い切れないが、・・そう頻繁に在ることでもないと言う。
花魁に・・なったとしても、よっぽど・・お金を貢がれない限りは・・身体は大丈夫だと。
「ですが・・やはり、キラ様はカガリのお兄様ですもの、心配ですわよね。」
こちらの意志をくみ取るように、ラクスは言い・・ステラは声を上げる。
「カガリ、好きな人いる・・だから、その人以外、有り得ないって・・いつも、いってるの。だから、大丈夫なのっ」
餡蜜を食べて上機嫌のステラは、そう言い切ってからまた餡蜜を口に運んでいた。
好きな人・・そうか、カガリにも・・。
「へぇ〜・・あの、お転婆なカガリが?」
「なッ!!失礼な・・っ!!いいやつなんだぞ、私の相手はっ」
頬を染めて・・言う、その妹に、キラは嬉しくなって見つめていた。・・・色町でも・・強く生きる。それでこそカガリ。
でも・・なら、尚更・・・その相手と幸せになるためにも・・色町に・・いるなんて。
枷になってしまうのではないだろうか?
その・・表情を、またしてもラクスは読みとっていて・・・少し、儚げに溜息をついていた。
「きら、それ・・おいしい?」
「ん?これ、美味しいよステラちゃん。・・食べる?」
「うんっ、たべる!」
あーんと口を開けるステラに、キラは微笑んで自分のようかんの一切れを上げるとステラは喜んでキラを見て。
「カガリ・・キラ、兄弟、なら・・キラ、ステラのお兄ちゃんっ」
ステラは・・どうやら本当に、カガリを姉だと思っているようだとキラは思い、そうだねと頭を撫でてあげる。
カガリも・・そんなキラとステラを見て微笑んでいた。
帰りがけ、野禽の前まで・・キラが送ると、歩き出したステラとカガリをよそに、ラクスがこちらに駆けてくる。
「キラ様っ・・あの・・。」
「ん?」
「・・・今ならまだ・・カガリが、安く・・買えますの、今はまだ・・引込禿ですし・・振袖新造になれば、値段も・・やはり、上がって・・。」
だから。
「カガリを此処から、出したいのなら・・今しかありませんわ、来年の・・カガリの誕生日には、正式に・・振袖新造になってしまいますわ」
金額は・・調べておくからと、キラに伝えると・・キラはビックリして
「・・・何か・・君、僕の考えてること・・分かるみたいだね。」
「・・分かりますわ、お顔に・・そう、書いてらっしゃいますもの。」
そうして微笑むと・・キラは、凄く申し訳なさそうな・・顔をして・・・・・同情されていると分かる。
「大丈夫ですわ・・私なら・・・。カガリのように・・好きな人も、居ませんし・・・。」
「けど・・君も、なんだか・・・」
"助けてほしそうに・・見えるよ"
「・・・・--そう、なのかも、しれません。ですが・・やはり、カガリは大切なお友達で・・将来を約束されたかもいらっしゃいますから・・」
ですから・・・。
「・・・カガリを、出してあげて下さいな。」
「キラと・・何、話してたんだ?」
「いいえ、・・ただこの間のお礼を・・・ちゃんと仰ってなくて。」
「キラ・・やさしい、ステラのお兄ちゃん、カガリの・・・お兄ちゃんっ」
「だなッ・・やっぱ・・キラは変わらない、昔から・・・優しくて、暖かいままだ。」
心の中で・・羨ましいという単語が出てきたのを、ラクスは消し去ることにする。
・・・カガリは・・お友達、・・親友ですもの。私が・・誰よりも幸せを願ってあげなくては。
そう心に言って、ラクスは少し・・吹っ切れたような気分になっていた。