守れなかった妹と同じくらいの歳の女の子との出会い。


第六輪+面影



「・・・・悪いな、ラクス。」

「いえいえ・・、カガリこそ、ステラに付いてあげていて下さいな。」

ステラが・・発熱をした。当然・・・・頼ってくるのはカガリで・・・毎日の日課のラクスとの買い物に行けなくなってしまったのだ。
「・・うん。気を付けろよ、ラクス・・・可愛いから、一人で歩かせるのは・・ちょっと心配だ。」
「大丈夫ですわよ、ちょと・・小間物屋にこの間の簪を買いに行くだけですから。」
そう言ってラクスが店を出るのを、カガリは手を振って見送ってから、ステラの元に行く。
ステラは・・熱を出すと、必ず直ぐに喘息も来るから・・早い内に看病して治してやらないと。
メイリンにお粥を頼み、カガリはステラの待つ部屋へと向かう。
すーすーと寝息を立てるステラに・・少し安心して、カガリはお水を井戸から組んできていた。









「・・・?あらあら?」

遊廓を出て・・すぐ、だった。
「おっ、可愛い女の子、登場?」
「ホント、色町の子?」
変な男達に・・・絡まれてしまった。

「確か空きやあるよな?そこでいいんじゃん?」

三人の・・ラクスより、四歳ほど年上に見える男達は、なにやらそう言いだして、ラクスの顔は蒼白に染まるのが分かる。
遊廓の女だって・・一応、人権は存在する、だが・・・この人達にその人権を侵さないほどのモラルがあるかが非常に疑問だった。

にげなくては・・・。

カガリのように・・足が速ければ良かったのでしょうけど・・。
今来た遊廓をチラッと見て、そちらに戻ろうと決める。店に・・戻ればいい、それだけ。
走り出そうとして、・・・・でもどうしたって着物で小股になるのを、ラクスだって知っている。

叫ぶ・・か?いや・・それとも・・。

「あれ?どうしたの・・。」
「?」

急に・・、何処からともなく表れた人に、ラクスは目を見張る。
この人達の・・お仲間でしょうか?
でもその人は妙に・・・優しい顔で、誰かに被るような気がする。
そう思ってみていると、その・・男達は少したじろぐのが分かった。

「クロト達・・久しぶりだね、まーさか、また女の子・・・虐めてたりしないよね?」

キンッと鋭く抜刀する振りをするその相手に・・・・その場にいた男達は固まり、黙ってしまう。
「僕達大天使の前で・・・・・そんなこと、してみなよ?・・・・前科含めて拷問は免れないからね。」
見回り中で無いとはいえ、僕は大天使の隊員だから♪と言う相手に、男達はついに後ずさりしだして、ラクスの前から消えていった。
改めて・・ラクスは、その相手を見る。瑠璃色・・いやそれより澄んだ紫水晶のような瞳だとラクスは思う。
光に当たり、茶色に輝く髪も・・・、微笑んだ容姿も格好いい。

なにより・・・。

「助けていただいて、ありがとうございますわ」

そう言って深々とお辞儀をすると、その相手は笑って

「僕は・・僕のしたいことをしただけ、それより・・---君結構周りから見られてるから・・気を付けた方が良いよ?」

そう言われて・・周りを見ると、確かに不穏な輩がラクスの方を見ていた。
そういえば・・カガリも、一人で此処を通るときは視線が恐いからと・・・・----走り抜けていたといっていたし・・。
少し不安げに顔を曇らせると相手の人は、少し考えてから・・思ったことを口に出すように言った。

「よければ・・僕、つきあうよ?-----・・買い物だよね?・・・・こんな危ない所、君みたいな子には危ないよ。」
「本当ですの?お願いいたしますわ」

この人なら・・・信用できる、そう思えたのは・・やはり、この人の雰囲気がどこかカガリに似ていたからだと思う。



小間物やに行き・・ラクスは自分が欲しがっていたその簪を手に取る。
そしてそれを買って直ぐに、その人に「つけようか?」と聞かれ「はい」と頷いていた。
その人は器用にラクスの前髪に触れて金色の簪を付けてくれる。

「うんっすっごく似合う!」

「ありがとうございますわ」

微笑んだ姿も・・・・・何となく、カガリ似ているとラクスは思い・・・その人に話を持ち出していた。




「用は・・これでおしまいなのですが、・・・お礼に、お茶菓子でもいかがでしょうか?」

「えっ!ほんと!僕甘いの大好き」

さっきの男達を追い払ったのとは酷く違う、まだ少年を思わせる笑顔を向けられて、ラクスは不覚にもときめいていた。
いや・・ときめく事が、悪いことではない。けれど・・ときめいて、好きになってしまったら・・恐い。
・・・・・・・けど・・この人なら、なんだか受け入れてくれそうな気がする。






「ラクスっ・・!あッ、隣は彼氏さん?」

お茶菓子屋に入ってすぐにミリィに声を掛けられ、その質問にやんわりと微笑んで返す。
そして・・二人でメニューを見て、何を食べるか考えていた。

「うーん・・餡蜜・・お団子、どっちも美味しいよね。」
「そうですわね・・。では、私は蓬団子を」
「えっと・・じゃあ、僕はみたらし団子で。」

注文をして、キラは・・すぐにラクスに話しかける。
「ラクス・・ちゃん、だよね。ごめんね、奢らせちゃって・・普通逆だよね。」
「いいんですのよ、守っていただいたお礼ですし・・それに、私は貴方と少し・・お話ししたいだけですの。」
「あ、自己紹介、まだだったね。僕・・・・キラ・ヒビキ。大天使で一応働かせて貰ってるんだ。」

そう言ったところでお団子が来て、・・・でも、ラクスは目をぱちぱちとさせていた。

ヒビキ?

「・・奇遇ですわ。私のお友達にも・・ヒビキと言う名の子がいらっしゃいますのよ。」
だが・・もう、あの店にはいるときには苗字を捨てなければならない。
けれど、何だかんだ・・皆自分の苗字は覚えているのだ。

「それに・・少し、キラ様と似ていられますわ。」



え・・・・。

一瞬、自分の顔が止まるのが分かる。・・・・ヒビキ?僕と似ている・・・・。
浮かんだのは・・もう、六年も前になる・・・・小さな妹の影だった。
小さな足で、キラを必死に追っていた・・・・・・・僕の、可愛いい妹の姿。

「カガリと仰って・・・仕事仲間・・というか、親友というか・・・幼い頃から一緒に育った・・幼なじみでもありますの!」

すっごく、可愛らしくて・・でも男言葉で。そのギャップがとても好きですわ、と・・・言う、その子の瞳に見入っていた。



カガリが・・生きて、るの?
「・・・金髪で・・琥珀色の目で・・・・・?」
「・・?お知り合いですか?」
「カガリは・・だって、カガリは・・。」



ずっと・・探してた。

でも---------見つからなかった。

焼けた街からも、消失した家からも。
何処にも・・・・。

「死んだ・・僕の、妹・・だもん。」



生きて・・いた?

その・・唖然とした顔の相手に、ラクスはビックリして・・・どうりで似ているわけだと納得する。


「生きて・・いらっしゃいますわ。・・・・野禽で。」


その・・言葉に、キラは言いようもない罪悪感と、そして何より・・生きていてくれたことに、涙が出そうだった。









六年前。

カガリと・・キラが、いつものように遊んでいて・・・隠れんぼをしていた。
決まって鬼はキラで・・、しかもカガリの隠れる場所は毎回決まっているのが面白い。
押入・・倉、屋根裏部屋の何処か。
でもすぐに見つけると・・怒るから、キラはまたいつものように十五分ぐらいしてからでいいやと思い・・縁側で昼寝を始めていた。

・・・・・---------・・それが・・いけなかた。

熱くて・・目が覚めて、もう・・・家に火がついた後だった。
飛び起きて・・義理の父と母を捜す。義理と言っても・・大好きな、キラの両親だ。
その時・・まだ、十になったばかりのキラは、大人に頼ることばかり考えていて・・・、でも、二階が完全に焼失しているのが分かる。
父と母は・・上に、居たはず・・・。
真っ青になって・・・でも急いでまだ残っている押入という押入を開ける。

カガリを・・助けないと。

屋根裏部屋はもう・・手遅れで、・・・・一階の一部も、もう・・駄目で。
倉に向かった。倉は・・少し離れたところに在るから・・・・。
倉に向かって、走っている最中。家の焼け崩れる音がして・・・・振り返り、瞳にその光景が焼き付く。
泣いていた、嗚咽も出ていた。けど・・倉まで走り抜いて・・倉の鍵は決まって、その入口の近くの木下に埋めてあると知っている。
木下に・・・・・鍵があって、もしも・・カガリが倉に隠れているとしたなら・・・・鍵は此処にないはずで。


「カガリ・・ッ・・。」


開けることが出来なかった。・・・希望を全て、捨ててしまうようで。恐かったのだ。

結局・・・大天使に転がり込んで、そして・・・三ヶ月ほどしてから、倉の鍵を開けた。



あったのは・・埃臭さ・・・だけ。
分かっていたような気がする。カガリが居ないと・・でも、
希望を・・自ら破棄するのと・・・・、それに・・縋るのと・・考えて。
考えた結果。
僕は縋った。

それだって・・・遅すぎたのに。









「・・お会いに・・なられますか?・・・・・・今日は、無理ですが・・。」
「・・・お願い・・出来る?」
「ええ、・・・これもお礼ですわ。」

そう言って・・微笑む、妹と変わらない年の相手に、キラは泣きそうになる。

許して・・くれるだろうか?いや・・覚えているだろうか・・カガリは、僕を・・・。





助けられなかった・・兄を、恨んで・・・いるのだろうか。































































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あとがき
キララク〜☆
2006/06/18