大きく・・でた、溜息に・・・・・親友のキラは少し怪訝な顔を向ける。
あれから・・・・・一ヶ月。もう、それは禁断症状に近いのかもしれない。
「このごろ・・アスラン、空気の抜けた風船だよね。」
「まったくだ・・だらしがないッ!!」
「まーまー・・・俺はコレを女と見たッ!」
「またですかぁ・・?---ディアッカさんはいつだって女絡みしか、頭が働かないんですよ。きっと。」
「シン・・駄目ですって、本当のこと言っちゃ。」
「だが・・本当に、あれは考え物だろう・・。刀の腕が鈍ってない以上何も言えないがな。」
キラ、イザーク・・ディアッカ、シン、ニコル、レイはそれをれその符抜けたアスランを観察し、言葉を漏らしていた。
夏頃・・急に、いつになく明るくなったかと思えば・・・・秋に入りだした頃急に暗くなる。
それに・・その時期はよく外に出ていたモノの、今は全くと言っていいほど・・・アスランは大天使で過ごしていた。
畳の部屋で・・ぼーっと、もう終わった季節の風鈴を眺めては、思いに耽るような顔をして・・直ぐにしかめてしまう。
「振られたんだろーな、ありゃ。」
「えー・・でも、アスラン顔いいし、それはないんじゃ・・。」
あーだこーだと話をするディアッカとシン。キラは・・・それでも親友だからと駆け寄り・・声を掛ける。
「アスラン・・、ホント君どうしたの?-----・・僕にも言えない?」
「・・・言えない。」
言ったら・・それこそ、ディアッカとシンの思うつぼ。こんなに淋しい気分で傷心に浸っているのにそこに塩まで塗られたくない。
カガリ・・・・・元気でやっているだろうか?そういえば・・住所も知らないから文も送れない。
だが実際何を書いて良いかも分からないし・・。第一・・・・・・カガリに逢いたいのだ、自分は。
縁側にごろりと寝転がり・・・ああ、カガリの膝が恋しいと溜息をつく。
稽古の時間となり・・アスランは自分に渇を入れるように頬を叩いた。
こういう場所・・仕事では手を引けない。・・・・カガリとの・・・生活のため、死ぬ気で幹事になってやる。
第一・・アスランと同期の人間は皆出世頭だった。イザークもディアッカも。
アスランだって・・負けては居ない。当然の事だ。
刀の腕は・・皆もう隊長格なのだが、やはり・・世の中実力だけではどうにもならないことだってある。
上司に気に入れられるのだって・・その手の一つ。
幸い・・アスランとキラの隊の隊長、ムウは・・ここの局長である、ウズミ・ナラ・アスハとも仲が良く、
アスランに限っては副長のパトリックの息子で・・・出世は早いと見込まれていた。
だが・・・・もう、十七になると言うのに・・まだ、副隊長にもなれない。
「・・・っ・・。」
くそ・・、
そう・・心で啖呵を切り目の前の相手の隙を見て木刀を叩き付けていた。
カガリを・・・・・・絶対に、二年以内に・・手に入れてやる。
それ以上経つと・・カガリの心が変わってしまうような気がしてならない。近くにいられない・・・だからこそ、離れる。
-----嫌だ。
カガリは・・俺の、たった一人の最愛の人なのだから。
「かがり・・じょうずッ!ステラも・・がんばるの!」
たった今・・アイシャの前で舞終えたカガリは、バトンをラクスにタッチして・・・ステラをあやしながら横目でラクスの舞を見る。
本当に・・巧い。・・カガリよりしなやかだし・・元からだが可憐だ。
「はい、二人とも・・上手ネ。でも・・カガリはもう少し、力を抜いた方がいいワヨ?剣舞じゃないんだから。」
いっそ・・剣舞の方が自分にはあっているような気がするとカガリは苦笑し・・再試験となってしまう。
再・・と、いっても、再々再々試験ぐらいで、実際・・たったの一度でクリアーしたのは琴だけだった。
お茶と・・囲碁、将棋は三度目。三味線、書道・・和歌、古典はまだまだ。
ラクスは・・この試験で舞はクリアーしたから・・・。あとは、琴と・・将棋と囲碁・・か。
苦手なモノが・・お互い残ったと思う、まぁ・・舞と・・書道はどうにかなるだろうが・・三味線はやっぱり苦手だし、和歌も・・古典も無理だ。
ラクスも・・琴は直ぐにでも出来るようになるだろうが・・・・きっと将棋と囲碁は足を引っ張るだろうな。
そうして・・お互い苦笑して、お茶を持ってきてくれたメイリンと・・休憩がてらお喋りをしていた。
「そういえばッ・・カガリさん彼氏さんとはどうなったんですか?」
悪びれず聞いてくるメイリンに・・カガリは少し顔を曇らせる。
色町の女とも伝えていない、伝える気も・・ないのだが。しかし・・・メイリンからしてみれば、カガリは夢のような存在で・・。
そう、此処にいても・・まともな恋愛が出来るという希望が・・・カガリを通じて見えるのだと思う。
「・・・まだ・・告げていない・・、でも---・・好きだって、・・私も・・・あいつの事・・好きだし・・。」
隠せたまま・・上手くいくのがお互い一番良い。
「でも---素敵ですわね、私も・・カガリとその人が上手くいくよう願ってますわ。」
茶菓子を食べながらラクスに言われ、カガリも少し・・嬉しそうに微笑んで見せた。
いつか、好きな人が迎えてくれる。そう思うだけで・・今をこんなにも頑張ろうと思える。
純粋に・・そう思った。
「かがり・・好き?誰・・?ステラ、好き?」
「大好きだぞっ、ステラ!」
話が分からず・・聞いてきたステラをカガリは抱きしめてやる。ステラは・・本当にカガリっこだから。
ステラは嬉しそうに頬を染めて、もう一つ言葉を漏らす。
「ステラ・・カガリと一緒?・・・カガリ・・どこか、いかない?」
その問いに・・チクンと胸が痛む。
ああ、何で・・・私は、アスランにも・・・・ステラにも、嘘を言うのだろう。
「ああ、一緒だッ」
そう言わないと・・・ステラはかんしゃくを起こし、時々泣きすぎて胸が咽せ返って、さらには持病の喘息まで出てしまうと・・カガリは知っている。
メイリンはそう言ったステラを見て、儚げに微笑み・・お茶をすすっていた。
「じゃ・・ラクスと、買い物行ってくるな!」
「行ってきますわね。」
そう・・店の裏口から出て、カガリとラクスは小間物屋とお茶菓子やに向かう。
お茶菓子屋の中で働く者に知り合いがいて、通常より少し安く買えるし・・・その子と話すのはとても面白い。
遊廓を出て先に、フレイから頼まれた簪を買いに小間物屋に入った。
「これ・・どうでしょうか?」
「うーん・・もっと派手なコレは?」
「・・・あッ、こっちも捨てがたいですわ!!」
そんなことを話していると、ラクスは一つの金色のあまり飾り気のない・・でも綺麗な形の簪を手に取る。
けど・・どうやら、結構高値ものだったようで・・すぐに手を置いた。
「高いのか?それ。」
「いえっ・・ですが、---今日の物を買ったら、これまでお金が回りませんから・・また今度、買いますわ。」
どうやら頭の後ろに飾るタイプではなくて、前の方につけるモノらしい。
「フレイのは・・これで良いか、紫だし。似合うだろ。」
「そうですわね、じゃあ・・・。」
袖からお金を出して、ラクスは二朱払い・・その店を出る。
次は・・と、友達の居る御茶屋に足を運ばせていた。
「あらっ!カガリ・・、ラクス!久しぶりねっ」
「よ!ミリィ!!」
「ご無沙汰ですわ、」
御茶屋にはいると・・すぐに、ミリィはこちらに駆け寄ってきて、饅頭やらお団子やら大量の茶菓子と、お茶を注文する。
そして・・これは、お得意さまだからと、餡蜜をごちそうになっていた。
「でも・・大変よね、二人とも・・・・・・」
ボソッと・・小さく言われて、カガリもラクスも顔を見合わせる。
ミリィは・・・もとから、率直な意見を言って・・でも、確かにカガリ自身・・こうやって普通に働けていたらどんなに良いか。
「結構ね、抵抗があったんだ。昔、・・・でもカガリとかラクスとか・・本当に私と変わらない子達なんだって・・そう思うと・・なんか、ね?」
同情というわけではないけど・・・やっぱり、心配。
そう言ってくれるミリィが、カガリ達には有り難く感じていた。
大抵・・普通の女の子は、色町の女を馬鹿にしたり、罵ったりするのだ。
実際・・・・・・良いことをしている・・、なんて、あんまり思えない。
でもこれも職業の一巻であると思うし・・・悪いモノだとも思わないのだ。
--------昔は・・とても、そうは思えなかったけど。
「やっぱり、、私達はあそこに拾って貰わなければ・・・行き倒れでしたもの。・・幸せですわ、今こうやって・・皆様と生きられるだけで。」
遊廓に入る女子は・・決まって親兄弟を亡くした者達だった。
時たま・・・売られると言うこともあるようだが、少なくとも・・カガリとラクスは、家、親・・を・・カガリに至っては街も無くしている。
ラクスは・・元からその美しい容姿で、親自体が芸者として・・育てようとしていた方向もあり、この野禽の武芸をラクスに習わせていた。
だが・・お亡くなりになって、・・結局身よりのないラクスはあの店に引き取られたのだ。
「・・そう・・考えられる事って、大切よね。---良いことだと思う。」
儚げに笑うミリィに、カガリも笑顔を合わせる。
不幸だなんて・・・・思ったことはない、・・ただ・・・アスランとのことが心配・・、未来が・・将来が心配なだけで。
自分はいかに・・この道に、あの店に・・・信頼を持っていても・・・・アスランにどう映るかは分からないから。
--------男好き、とか・・・売女とか、思われるのが・・・嫌われていくのが、嫌。
「ですが、ね?カガリ。マリューさん、タリアさんやカガリのように・・・ちゃんと愛する人は作れますしっ・・」
「あっ!そうだ・・!カガリ、あの彼とは・・・?」
そう振られて・・カガリは少し悩ましげに口を開いた。今・・思っていたこと、そのまま。
「凄く・・優しくて、いいやつなんだ。けど・・真面目だから・・許せないと思う。・・・・・・・怒ると・・悲しませちゃうと・・思うんだ。」
「隠すのも・・優しさ、かぁ・・・難しいわね。・・・・・・彼が・・もしも知っちゃったら・・・、隠していたことを責められそうだし・・。」
そうなんだ。
でも・・・、それだって、自分のためでもあるんだ。
嫌われたくない・・・・、だったら・・・・隠しても、いいのだろうか?
「・・・・考えて居るんだ・・一応。一回・・別れて、十年後・・・気持ちが変わらなかったら・・結婚するとか・・。」
アスランの・・・為には、そっちの方がいいと思う。・・・・好きでいてくれている、それは信じてるし・・でも。
やっぱり・・十年も・・・縛るのは。
「私なら・・素直に、言ってしまいますわ。そして・・・・許してほしいと、思ってしまいます。」
素直に・・・。
「・・・・・・それは・・やっぱり、ラクスが我が儘じゃなくて・・優しくて、思いやりがあるからだよな。」
私と違って・・・・。
素直に言えないほど・・・・アスランに嫌われたくない、それほど・・・好きなのだ。
-------こんな好きは、少し・・間違っているのかもしれない。
相手の事を・・・考えられていない好き。
・・・・こんなんじゃ・・・ばれなくたって・・・・・・・・いつか嫌われてしまうかもしれない。
この頃・・アスランと離れてから・・・・・・・何となく、どこからか蓄積されている、感情があった。
実際・・よく分からないのだが・・・。
不安・・なんだ。
何か、恐い気がして・・・・。
でも、何だか分からない。