もう・・じき・・・だ。カガリと・・ラクスの、振袖新造への試験。
おそらく・・・・人の、お酌のようなことも・・・・・するのだろう。
秋分の日が近付く毎に、カガリは焦っていた。送るって・・言ってくれていたけど。
・・・あんな場所・・・・・・アスランにはそぐわないから。
嫌いにならないと言ってくれた、なら----それに・・・縋りたい。
アスランが休みの日・・・・カガリは珍しく、自分で行きたい場所を指定した。
「アスランの家ッ!!琴聞かせたいんだ、それに・・のんびり、話もしたい。」
武士は・・十五で元服するという。元服とは・・大人と同じ扱いを受けると言うことだ。
ならば・・・・カガリ自身、子供としての・・・・・・心を少しは捨てる時期なのかもしれない。
アスランの・・相変わらず大きな家に着き、いつも通り人がいないことを確認する。
アスランの家には・・誰もいない、出会ったときも・・一緒に暮らしているときも、誰一人居なかったから。
安心して中に入れば茶と菓子を出され、カガリは頬張って食べていた。
それを見て・・アスランもいつの間にか頬がゆるむ。
食べ終われば・・アスランは琴を出してきて、カガリは爪をはめた。
「前より・・巧くなったんだぞ、聞いててくれよ。」
七七八、七七八・・七八九八・・・。
そう・・奏でる横で、アスランはその姿に目を細める。
小さい頃より・・しなやかに動く指先、腕。これからどんどん大人らしくなっていくだろう容姿。
曲が二週目にはいると、飾り符までついて・・曲の感じが豪華になる。
まるで・・昔のカガリと今のカガリの対比のようだと思っていた。
心の・・芯の部分は全く変わらず・・なのに、ずっと華やかになった・・・カガリそのものだ。
弾き終わると・・やはり、アスランはウトウトしていて・・カガリを招き寄せてその膝を借りる。
カガリも微笑んで、アスランの髪を梳いてくれる。
--------ああ・・なんて、幸せなのだろう。
アスランが意識を無くしても・・カガリは微笑んだままその顔を見ていた。
自信があったのかもしれない。
アスランは・・・---何も知らなければ・・きっと自分を選んでくれると。
どんなに時間が経っても・・・・アスランは、選んでくれる自信が・・・。
・・・・確かにある。
------何て、子供な考えなんだろう。
自分の都合の悪いところは全て隠し・・それでも、愛している人とは一緒にいたい。
でも・・この、子供の感情を、取れない私は・・やっぱり子供だ。
もし・・・・・・ばれたら・・・・・・?
未来の私は・・今、付いた嘘を愚かだと思うだろうけど。
でも・・・・・それでも。
「アスラン・・。」
愛してくれるか?・・・アスランは。
いや・・もっと、大人になれば・・・・アスランすら頼らなくても・・生きていけるようになるのだろうか?
・・・それは・・・哀しいし、淋しいな。
一時間経つころ・・・アスランは唸りながら目を覚まし、カガリの頬へと手を伸ばす。
その手を小さな自分の手で触り・・・そしてお返しにアスランの髪を撫でていた。
「・・私・・な、アスランに・・・言ってないことがあるんだ。」
「・・・?」
翡翠の目が光って、アスランは起きあがり・・・・カガリもアスランの瞳を真っ直ぐに見る。
きっと・・・・ばれない、嘘だなんて。
「実は・・・・引っ越すんだ。私。」
「え・・・?」
気まずそうに・・・顔を歪めることも忘れない。ここら辺のテクは・・全て、習い済みだ。
アスランは驚いたようで目を開きぱちぱちとさせている。
「でも・・隣町だから、二ヶ月に一度は必ず会いに来るから。----・・・だ・・駄目・・か・・?」
それでも恋人で居たい・・、そういうオーラを出すと、アスランもそれに同調してくれる。
その瞬間、酷く・・・・・・罪悪感にかられて、息が詰まっていた。
----------本当に・・・これで、いいのだろうか?
「・・いや・・・会えなくなるのは・・・・淋しい・・けど、----------カガリが・・離れても好きでいてくれるなら。」
「・・こっちのセリフだぞ・・・それ。---それに・・いつか、分からないが・・・戻ってくる予定もあるし・・・。」
「・・いつ頃?一二年か?」
「いや・・・・」
十年近く・・・なんて、言えるものか。
そう思って顔を伏せると・・アスランは決心したように口を開く。
「あと・・二年もすれば、俺は大天使で・・・幹事食に就ける。だから・・そしうしたら・・。」
"結婚しよう"
「あ・・・---・・、ああ。」
「・・いい・・のか?カガリ・・。」
「い・・嫌なわけないだろ?アスランとの・・結婚なんて・・・そんなっ・・。」
嬉しすぎて・・・・でも、心の中がずきんと痛む。
こんな・・嘘吐き、遊女。
-------------・・・・・・駄目だ。
「・・嬉しい・・っ・・あり・・がとう・・アスラン。」
それは・・・心から出た言葉で・・でも・・だからこそ。
「ごめんな・・----------・・。」
本音も・・出てしまう。
「謝る事なんて無い。俺はカガリが好きで・・ただ、一緒にいたい。・・・俺以外の人の所に・・行ってほしくない・・」
束縛だと・・彼は笑う、二年も経って・・・カガリの気が変わるのを、許さない・・ただ、我が儘なだけだと。
違う、アスラン。・・本当の・・・・・我が儘はそんなモノじゃない。
「私も・・だ、私も・・アスランに・・誰の所にも行ってほしくない・・。一緒にいて欲しい。」
こういうのを・・・・本当の、我が儘・・そして、自己中心的と言うのだ。
他の男の酒を注ぎ、おそらく・・二人で外に出かけることもあるだろう私が。
・・・・・アスランとの・・約束は、必ず破るのに・・・。こうやって、
自分から・・アスランへの、約束を破ることを許さないのだ。
「・・・・約束・・だぞ?カガリ・・・、俺だけ・・俺だけと、一緒にいて・・好きで、、愛してくれ。」
「うん・・・、アスラン・・も。」
ギュッと抱かれて・・・身体は本当に隙間がないほどくっついているのに。
心だけ・・・・・・・・・信じられないほど、遠くにいた。
夕方になり、カガリは・・アスランの家を出る。
秋分一日前・・・・
「・・じゃあ・・二ヶ月に一回、アスランの休みの曜日・・な?」
「・・・ああ、気を付けて。----------愛してる。」
玄関先で・・少しばかりある人目を気にせず、アスランは唇をカガリに落とす。
カガリも・・・その唇に合わせると、初めて・・・口の中に侵入された。
「ふ・・ぁ・・・ん--っ・・ぅん」
アスランから絡めてきた舌を受けて、カガリも動き・・口から溢れそうになった唾液を飲み干す。
離れれば、銀の橋が繋がって・・・ポトリと落ちた。
「・・・アスラン・・・・・・・愛してるぞ。」
お前だけ。
本当に・・・・・コレだけは、この・・・・・気持ちだけは・・・・・・。
-------------真実、だ。